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アメリカ憲法瞥見(連載最終回)

2014-11-08 | 〆アメリカ憲法瞥見

修正第一六条】  

連邦議会は、各州に比例配分することなく、および人口調査または算定によることなく、いかなる源泉から生ずるものであっても、所得に対して税を賦課し徴収する権限を有する。

 本条を含む修正三か条は、財政に関わる規定である。本条は、連邦議会の直接税の課税権に関して、憲法第一条第二項第三号及び同条第九項第四号で人口調査に基づく州間比例配分によるという制約が付けられていたのに対し、まさに直接に個人の所得源泉に対して課税できる所得税の制度を可能とした修正である。
 元来、個人財産を偏重するアメリカのブルジョワ思想では、個人の財布に政府が手を突っ込むかのような直接税は忌避されており、直接税として許容できるのは、人頭税と財産税のみと考えられていたが、20世紀に入り、アメリカでも社会主義的な思潮が生まれ、富の一部集中への批判が強まると、収入を含む個人の所得源泉に課税すべしとする租税思想が高まったことを背景に、1913年に制定されたのが本修正条項であった。そうした意味では、本条はアメリカ憲法中、唯一社会(民主)主義的な傾斜を示す規定とも言える。

修正第一八条

1 この修正条項の承認から一年を経た後は、合衆国とその管轄に服するすべての領有地において、飲用の目的で酒類を製造し、販売しもしくは輸送し、またはこれらの地に輸入し、もしくはこれらの地から輸出することは、これを禁止する。

2 連邦議会および各州は、適切な立法により、この修正条項を実施する権限を競合的に有するも のとする。

3 この修正条項は、連邦議会がこれを各州に提議した日から七年以内に、この憲法の規定に従って各州の立法府により憲法修正として承認されない場合には、その効力を生じない。

修正第二一条

1 合衆国憲法修正第一八条は、本修正条項により廃止する。

2 合衆国のいかなる州、準州、または領有地であれ、その地の法に違反して、酒類を引渡または使用の目的でその地に輸送しまたは輸入することは、この修正条項により禁止される。

3 この修正条項は、連邦議会がこれを各州に提議した日から七年以内に、憲法の規定に従って各州の憲法会議によりこの憲法の修正として承認されない場合には、その効力を生じない。

 修正第一八条は、いわゆる禁酒条項である。憲法に禁酒が謳われたのは、植民地時代の伝統を引くピューリタン的な戒律ならではのことであったが、現実には、密造酒の横行と密売利権を握ったマフィアの跋扈などのマイナス面が大きく、わずか14年後の修正第二一条で禁酒条項は廃止となった。
 ただし、同条第二項では、州レベルで酒類の輸出入を規制することは認められており、実際、現在でも酒類の販売規制を敷いている州や禁酒条例を持つ郡などが存在している。

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アメリカ憲法瞥見(連載第14回)

2014-11-07 | 〆アメリカ憲法瞥見

修正第一二条

選挙人は、各々の州で集会して、無記名投票により、大統領および副大統領を選出するための投票を行う。そのうち少なくとも一名は、選挙人と同じ州の住民であってはならない。選挙人は、一の投票用紙に大統領として投票する者の氏名を記し、他の投票用紙に副大統領として投票する者の氏名を記す。選挙人は、大統領として得票したすべての者および各々の得票数、ならびに副大統領として得票したすべての者および各々の得票数を記した別個の一覧表を作成し、これらに署名し認証した上で、封印をほどこして元老院議長に宛てて、合衆国政府の所在地に送付する。元老院議長は、元老院議員および代議院議員の出席の下に、すべての認証書を開封したのち、投票を計算する。大統領として最多数の投票を得た者の票数が選挙人総数の過半数に達しているときは、その者が大統領となる。過半数に達した者がいないときは、代議院は直ちに無記名投票により、大統領としての得票者一覧表の中の三名を超えない上位得票者の中から、大統領を選出しなければならない。但し、この方法により大統領を選出する場合には、投票は州を単位として行い、各州の議員団は一票を投じるものとする。この目的のための定足数は、全州の三分の二の州から一名または二名以上の議員が出席することを要し、大統領は全州の過半数をもって選出されるものとする。代議院にかかる選出権が発生した場合に、つぎの三月四日になる前に大統領を選出しないときは、大統領に死亡その他憲法上執務不能の事情が生じた場合と同様に、副大統領が大統領の職務を行う。副大統領として最多数の投票を得た者の票数が選挙人総数の過半数に達しているときは、その者が副大統領となる。過半数に達した者がいないときは、元老院が、得票者一覧表の中の上位二名の中から、副大統領を選出しなければならない。この目的のための定足数は、元老院議員の総数の三分の二とし、選出には総議員の過半数を要するものとする。但し、憲法上大統領の職に就く資格がない者は、合衆国副大統領の職に就くことはできない。

 本条を含む修正三か条は、主として大統領の選出等に関する憲法本文の規定を補充するものである。いずれも通常の国では議会の立法裁量に委ねるような細目的な事柄であるが、高度な連邦制を採るアメリカでは、連邦全体の元首たる大統領の選出は重要な憲法問題であるため、細目も憲法で規定される。
 本条は、正副大統領の選出方法について、第二条第一項第三号の規定を修正したものである。具体的には、大統領二名連記・副大統領次点制が正副大統領個別投票制に改められたものであるが、それに伴い、過半数得票者が存在しなかった場合の議会による決選投票の方法にも改正が加えられている。なお、本条のうち、代議院が決選投票で大統領を選出する期限は、さらに次の修正第二〇条第一項で、一月二〇日に修正されている。

修正第二〇条

1 大統領および副大統領の任期は、この修正条項が承認されていなければその任期が終了していたはずの年の一月二〇日の正午に終了し、元老院議員および代議院議員の任期は、同じ年の一月三日の正午に終了する。後任者の任期はその時に始まる。

2 連邦議会は、毎年少なくとも一回集会するものとする。会期の開始時期は、法律で別の日が指定されない限り、一月三日の正午とする。

3 大統領に選出された者が、大統領の任期の始期として定められた時に死亡していた場合には、副大統領として選出された者が大統領となる。大統領の任期の始期として定められた時までに大統領が選出されていない場合、または大統領として選出された者がその資格を備えていない場合には、副大統領として選出された者が、大統領がその資格を備えるに至るまで、大統領の職務を行う。連邦議会は、法律により、大統領として選出された者も副大統領として選出された者もともにその資格を備えていない場合について定めを設け、誰が大統領の職務を行うかについて、またはその職務を行う者を選出する方法について、宣明することができる。この者は、大統領または副大統領がその資格を備えるに至るまで、大統領の職務を行う。

4 連邦議会は、法律により代議院に大統領の選出権が発生した場合に大統領として選出することのできる者の中に死亡者が出たとき、および元老院に副大統領の選出権が発生した場合に副大統領として選出することのできる者の中に死亡者が出たときについて、定めを設けることができる。

5 第一項および第二項は、この修正条項が承認された後の一〇月一五日に効力を生ずる。

6 この修正条項は、提議された日から七年以内に、四分の三の州の立法府によりこの憲法の修正として承認されない場合には、その効力を生じない。

 本条は正副大統領の任期や死亡時の処理を中心に、併せて連邦議会議員の任期等についても、規定している。基本的に、一月期を任期の終始の基準としている。また正副大統領が無資格であった場合の処理について連邦議会の立法裁量に委ねている。

修正第二五条

1 大統領が免職され、死亡しまたは辞任した場合には、副大統領が大統領となる。

2 副大統領が欠けたときは、大統領が副大統領を指名し、指名された者は、連邦議会の両院の過半数の承認を経て、副大統領の職に就く。

3 大統領が、元老院の臨時議長および代議院の議長に対し、その職務上の権限および義務を遂行することができない旨を書面で通告したときは、その後大統領が権限および義務を遂行することができる旨を書面で通告するまで、副大統領が臨時大統領としてかかる権限および義務を遂行する。

4① 副大統領、および行政各部の長または連邦議会が法律で定める他の機関の長のいずれかの過半数が、元老院の臨時議長および代議院議長に対し、大統領がその職務上の権限および義務を遂行できない旨を書面で通告したときは、副大統領は、直ちに臨時大統領として、大統領職の権限および義務を遂行するものとする。

4② その後、大統領が元老院の臨時議長および代議院議長に対し、職務遂行不能状態は存在しない旨を書面で通告したときは、大統領はその職務上の権限および義務を回復する。但し、副大統領および行政各部の長または連邦議会が法律で定める他の機関の長のいずれかの過半数が、四日以内に、元老院の臨時議長と代議院議長に対し、大統領がその職務上の権限および義務を遂行できない旨を書面で通告したときは、この限りでない。この場合には、連邦議会は、開会中でないときには四八時間以内にその目的のために集会し、問題を決定するものとする。連邦議会が、大統領が職務上の権限および義務を遂行することができない旨を通告する書面を受理してから二一日以内に、または、連邦議会が開会中でないときは、集会の要請があってから二一日以内に、両議院の三分の二の投票により、大統領はその職務上の権限および義務を遂行することができない旨を決議したときは、引き続き副大統領が臨時大統領としてかかる権限および義務を遂行する。かかる決議がなされなかった場合には、大統領はその職務上の権限と義務を回復するものとする。

 本条は、主として大統領が死亡等により不在または職務遂行不能となった非常時の処理規定である。大統領関連の修正条項では最も新しく、ケネディ大統領暗殺から四年後の1967年に制定された。基本的に副大統領がすみやかに大統領職を継承または代行し、権力の空白を生まないよう配慮している。
 ちなみに、第四項①は、副大統領以下行政府の高官の判断だけで大統領の職務を停止できる「合法的なクーデター」を認めるに等しい独異な規定である。

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アメリカ憲法瞥見(連載第13回)

2014-11-06 | 〆アメリカ憲法瞥見

修正第一七条

1 合衆国の元老院は、各州から二名ずつ選出される元老院議員でこれを組織する。元老院議員は、各州の州民によって、六年を任期として選出されるものとする。元老院議員は、それぞれ一票の投票権を有する。各州の選挙権者は、州の立法府のうち議員数の多い院の選挙権者となるのに必要な資格を備えていなければならない。

2 州の選出元老院議員に欠員が生じたときは、その州の行政府は、欠員を補充するための選挙実施の命令を発しなければならない。但し、州の立法府は、立法府の定めるところに従って州民が選挙で欠員を補充するまでの間、行政府に対して臨時の任命をする権限を与えることができる。

3 この修正は、この憲法の一部として効力を発する前に選出された元老院議員の選挙または任期に、影響を及ぼすものと解されてはならない。

 連邦両議院のうち州代表院としての性格の強い元老院(上院)は20世紀に入るまで直接選挙制ではなく、州議会による複選制であったが、1913年制定の本修正条項により、直接選挙制に改められた。
 しかし、このことによって有権者層に直接的な基盤を獲得した元老院の発言力は強まり、上下両院で多数政党が異なるいわゆる「ねじれ」が生じると、党派対立の中で重要法案が議会で成立しない「決められない政治」を招来する要因ともなっている。

修正第二三条

1 合衆国政府の所在地を構成する地区は、連邦議会が定める方法により、つぎの者を選任する。この地区が州であるならば選出することができる連邦議会の元老院および代議院の議員の総数と等しい人数の大統領および副大統領の選挙人。但し、その数は、いかなる場合でも人口の最も少ない州から選任される選挙人の数を超えてはならない。これらの選挙人は、各州が選任した選挙人に加えられ、大統領および副大統領の選挙の目的のためには、州によって選任された選挙人とみなされる。これらの選挙人は、同地区で集会して、修正第一二条に規定される義務を遂行するものとする。

2 連邦議会は、適切な立法により、この修正条項を実施する権限を有する。

 合衆国政府の所在地を構成する地区、すなわち連邦首都ワシントン・コロンビア特別区(以下、特別区という)の住民は、長い間大統領の選挙権を与えられていなかった。しかし、かつては政治上の首都として人口も希薄だった特別区も20世紀半ばになると、小さな州レベルの人口規模に達したことから、1961年に至って人口最少州に準じた大統領選挙権が付与されることになった。
 ただ、特別区が州に準じて扱われるのは大統領選挙のみであり、連邦議会議員の選挙権が依然として与えられていないのは、未解決の公民権問題とも言える。

修正第二七条

元老院議員および代議院議員の職務に対する報酬を変更する法律は、つぎの代議院議員の選挙が行われるまで、その効力を生じない。

 本条が修正条項中最も新しく、1992年に成立したものであるが、提案されたのは合衆国独立間もない1789年のことで、実に200年ぶりの成立であった。改憲に四分の三の州の承認を要する極めて厳格な硬性憲法であるアメリカ憲法ならではの異例のことである。
 この修正条項が承認されないまま放置されていたのは、議員報酬の変更時期の制限という議員既得権の制約に関わる内容であったためであろう。ただし、本修正条項発効後も、連邦最高裁は年間生活費調整という名目で本条と無関係に議員報酬が実質増額されることを合憲と判断しており、本条は半ば骨抜きとなっている。

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アメリカ憲法瞥見(連載第12回)

2014-10-18 | 〆アメリカ憲法瞥見

修正第一三条

1 奴隷制および本人の意に反する苦役は、適正な手続を経て有罪とされた当事者に対する刑罰の場合を除き、合衆国内またはその管轄に服するいかなる地においても、存在してはならない。

2 連邦議会は、適切な立法により、この修正条項を実施する権限を有する。

 本条はリンカーン大統領による奴隷解放宣言を受けて1865年に制定された修正条項であり、まさに奴隷制の禁止を定めている。日本国憲法にも影響し、類似の規定が見える。
 なお、本条と以下で瞥見する諸条項はいずれも公民権に関わる規定群であり、最初の10か条の権利条項の追加条項とも言えるので、順不同となるが、ここでまとめて瞥見する。

修正第一四条

1 合衆国内で生まれまたは合衆国に帰化し、かつ、合衆国の管轄に服する者は、合衆国の市民であり、かつ、その居住する州の市民である。いかなる州も、合衆国市民の特権または免除を制約する法律を制定し、または実施してはならない。いかなる州も、法の適正な過程によらずに、何人からもその生命、自由または財産を奪ってはならない。いかなる州も、その管轄内にある者に対し法の平等な保護を否定してはならない。

2 代議院議員は、各々の州の人口に比例して各州の間に配分される。各々の州の人口は、納税義務のないインディアンを除き、すべての者を算入する。但し、合衆国大統領および副大統領の選挙人の選出に際して、または、連邦代議院議員、各州の行政府および司法府の官吏もしくは州の立法府の議員の選挙に際して、年齢二一歳に達し、かつ、合衆国市民である州の男子住民が、反乱またはその他の犯罪に参加したこと以外の理由で、投票の権利を奪われ、またはかかる権利をなんらかの形で制約されている場合には、その州の代議院議員の基礎数は、かかる男子市民の数がその州の年齢二一歳以上の男子市民の総数に占める割合に比例して、減じられるものとする。

3 連邦議会の議員、合衆国の公務員、州議会の議員、または州の行政府もしくは司法府の官職にある者として、合衆国憲法を支持する旨の宣誓をしながら、その後合衆国に対する暴動または反乱に加わり、または合衆国の敵に援助もしくは便宜を与えた者は、連邦議会の元老院および代議院の議員、大統領および副大統領の選挙人、文官、武官を問わず合衆国または各州の官職に就くことはできない。但し、連邦議会は、各々の院の三分の二の投票によって、かかる資格障害を除去することができる。

4 法律により授権された合衆国の公の債務の効力は、暴動または反乱の鎮圧のための軍務に対する恩給および賜金の支払いのために負担された債務を含めて、これを争うことはできない。但し、合衆国およびいかなる州も、合衆国に対する暴動もしくは反乱を援助するために負担された債務もしくは義務につき、または奴隷の喪失もしくは解放を理由とする請求につき、これを引き受けまたは支払いを行ってはならない。かかる債務、義務または請求は、すべて違法かつ無効とされなければならない。

5 連邦議会は、適切な立法により、この修正条項の規定を実施する権限を有する。

 本条は様々な内容を寄せ集めたアメリカ的な憲法規定であるが、全体を通じてやはり前条と同様に、奴隷解放を受けた修正条項である。特に、第一項は平等な市民権の保障とともに、改めて平等な適正手続保障を規定している。
 第二項は、納税義務のないインディアンを除くすべての州民を下院議員の比例配分の基礎となる人口に算入するよう、自由人以外の奴隷を五分の三の端数として算定していた憲法第一条第二項第三号を修正したものである。第四号でも、奴隷喪失や解放に伴う金銭的な債務の引き受け、支払いを合衆国及び州に禁じている。
 なお、第三号は内戦や対外戦争に際して合衆国に敵対した公務員の公務就任権の剥奪とその解除について定めている。

修正第一五条

1 合衆国またはいかなる州も、人種、肌の色、または前に隷属状態にあったことを理由として、 合衆国市民の投票権を奪い、または制限してはならない。

2 連邦議会は、適切な立法により、この修正条項を実施する権限を有する。

 本条までの三か条が奴隷制廃止に伴う修正条項であるが、人種を主な理由とした選挙権差別を禁ずる本条は、公民権法の憲法的基盤である。しかし、当時は南部を中心に人頭税の支払いなどを新たな条件とした公民権差別は続き、人種差別的な選挙人登録制度を禁ずる連邦での本格的な公民権法の制定は、本条制定(1870年)からおよそ一世紀後の1964年のことであった。

修正第一九条

1 合衆国またはいかなる州も、性を理由として合衆国市民の投票権を奪い、または制限してはならない。

2 連邦議会は、適切な立法により、この修正条項を実施する権限を有する。

 人種に続き、性を理由とする選挙権差別を禁ずる本条は、女性参政権の憲法的根拠である。1920年の制定であった。

修正第二四条

1 合衆国またはいかなる州も、大統領もしくは副大統領の予備選挙その他の選挙、大統領もしくは副大統領の選挙人の選挙、または連邦議会の元老院議員もしくは代議院議員の選挙において合衆国市民が投票する権利を、人頭税その他の税を支払っていないことを理由にして奪い、またはこれを制限してはならない。

2 連邦議会は、適切な立法により、この修正条項を実施する権限を有する。

 本条は納税による選挙権差別を禁ずるものであり、人頭税の支払いができない黒人貧困層や納税義務を負わないインディアン部族が選挙から排除されないように配慮したものである。これをもって、ようやく米国における普通選挙制が確立された。1964年公民権法制定の同年に成立した修正条項である。

修正第二六条

1 合衆国またはいかなる州も、年齢を理由として、年齢一八歳以上の合衆国市民の投票権を奪い、または制限してはならない。

2 連邦議会は、適切な立法により、この修正条項を実施する権限を有する。

 選挙年齢を18歳に引き下げた修正である。米国では成人年齢は州ごとに異なるが、本条はそうした成人年齢とは切り離して、選挙年齢を全米で統一して18歳に定めたものである。選挙年齢に下限を設定すること自体は合理性を持つが、年齢による制限を合理的な限度まで緩和したものと言える。1971年に制定された公民権関連では最新の修正条項である。

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アメリカ憲法瞥見(連載第11回)

2014-10-17 | 〆アメリカ憲法瞥見

修正条項

 米憲法は厳格な硬性憲法であり、改正は容易でなく、全面改正は事実上不可能であることから、必要に応じて原条項を追加または修正する条項を後から増補することで実質的な改憲を積み重ねるという便宜的な方法を採ってきた。そうした増補は1791年から始まり、最新は1992年まで計27の修正条項が積み重ねられている。
 本稿では、体系性を欠く27条項を順番に見ていくのではなく、権利条項、公民権条項、選挙/議会関係、大統領、財政の関連項目ごとに分けて、順不同に見ていくこととしたい。

修正第一条

連邦議会は、国教を定めまたは自由な宗教活動を禁止する法律、言論または出版の自由を制限する法律、ならびに国民が平穏に集会する権利および苦痛の救済を求めて政府に請願する権利を制限する法律は、これを制定してはならない。

 修正条項のうち、最も早い1791年に増補された最初の10か条は特に「権利条項」と呼ばれ、立法・行政・司法の統治機構の規定が中心となる憲法本文ではほぼ除外されていた基本的人権に関わる条項を増補したものである。言わば、アメリカ版人権宣言である。
 その筆頭になる本条は、信教の自由、表現の自由、集会の自由、請願権をまとめて保障する条項である。信教の自由は政教分離を含んでいる。請願権を自由権と結び付けてとらえている点に独自性がある。

修正第二条

規律ある民兵団は、自由な国家の安全にとって必要であるから、国民が武器を保有し携行する権利は、侵してはならない。

 権利条項にこうした武器所持の権利が規定されているのは、「自助/自救社会」アメリカならではのことである。ただ、本条は文字どおりにとれば、民兵組織の権利を規定しており、個人の武器所持の権利とは異なるようにも読めるが、連邦最高裁判所は本条をもって個人の武器所持の権利を保障するものと解釈しているため、銃器の厳格な規制を阻む要因となっている。

修正第三条

平時においては、所有者の承諾なしに、何人の家屋にも兵士を宿営させてはならない。戦時においても、法律の定める方法による場合を除き、同様とする。

 軍隊の民家強制宿営を禁止する本条は、軍隊の基地と兵舎の制度が整備されていなかった18世紀ならではの規定である。

修正第四条

国民が、不合理な捜索および押収または抑留から身体、家屋、書類および所持品の安全を保障される権利は、これを侵してはならない。いかなる令状も、宣誓または宣誓に代る確約にもとづいて、相当な理由が示され、かつ、捜索する場所および抑留する人または押収する物品が個別に明示されていない限り、これを発給してはならない。

 本条から修正第八条までは広い意味でのデュー・プロセスに関わる規定が続く。権利条項が最も力点を置いている箇所であり、米憲法の真髄ともなっている。日本国憲法にも影響を与え、類似の条項がある。
 筆頭の本条は、デュー・プロセスの中でも最も重要な捜索押収と身柄拘束を令状規制下に置くいわゆる令状主義の原則を定めている。 

修正第五条

何人も、大陪審による告発または正式起訴によるのでなければ、死刑を科しうる罪その他の破廉恥罪につき公訴を提起されることはない。但し、陸海軍内で発生した事件、または、戦争もしくは公共の危機に際し現に軍務に従事する民兵団の中で発生した事件については、この限りでない。何人も、同一の犯罪について、重ねて生命または身体の危険にさらされることはない。何人も、刑事事件において、自己に不利な証人となることを強制されない。何人も、法の適正な過程によらずに、生命、自由または財産を奪われることはない。何人も、正当な補償なしに、私有財産を公共の用のために収用されることはない。

 本条がデュー・プロセス条項の中核である。具体的な内容は、重大犯罪における大陪審による訴追、二重の危険の禁止、自己負罪拒否、適正手続保障、公共収用における補償である。

修正第六条

すべての刑事上の訴追において、被告人は、犯罪が行われた州の陪審であって、あらかじめ法律で定めた地区の公平な陪審による迅速かつ公開の裁判を受ける権利を有する。被告人は、訴追の性質と理由について告知を受け、自己に不利な証人との対質を求め、自己に有利な証人を得るために強制的手続きを利用し、かつ、自己の防禦のために弁護人の援助を受ける権利を有する。

 本条は、刑事裁判における被告人の権利を保障している。具体的な内容は、陪審裁判を受ける権利、迅速な公開裁判を受ける権利、訴追内容に関して告知を受ける権利、証人の対質・喚問権、弁護権である。

修正第七条

コモン・ロー上の訴訟において、訴額が二〇ドルを超えるときは、陪審による裁判を受ける権利は維持される。陪審が認定した事実は、コモン・ロー上の準則による場合を除き、合衆国のいかなる裁判所もこれを再び審議してはならない。

 本条は一定以上の訴額の民事訴訟についても、陪審裁判を受ける権利を保障し、陪審の認定に原則的な拘束力を与えている。

修正第八条

過大な額の保釈金を要求し、過大な罰金を科し、または残酷で異常な刑罰を科してはならない。

 過大な保釈金、罰金、残酷異常な刑罰を禁ずる本条は、要するに行き過ぎた正義を防止する条項で、これも広い意味でデュー・プロセスに関わる規定である。

修正第九条

この憲法の中に特定の権利を列挙したことをもって、国民の保有する他の権利を否定し、または軽視したものと解釈してはならない。

 本条は、増補された権利条項でも代表的な権利を簡単に列挙したのみであるので、憲法に規定のない権利は憲法上保障されないという狭い解釈を排除する注意条項である。

修正第一〇条

この憲法が合衆国に委任していない権限または州に対して禁止していない権限は、各々の州または国民に留保される。

 本条は州の権限留保についても併せて規定しているため、純粋の権利条項ではないが、合衆国が明確に持たない権限は州ないし国民に留保されるという広い意味での権利条項であり、「小さな政府」を基調とするアメリカ型連邦制のあり方を反映している。

修正第一一条

合衆国の司法権は、合衆国の一州に対して、他州の市民または外国の市民もしくは臣民が提起したコモン・ロー上またはエクイティ上のいかなる訴訟にも及ぶものと解釈されてはならない。

 本条は合衆国司法権の及ぶ対象から「合衆国の一州に対して、他州の市民または外国の市民もしくは臣民が提起したコモン・ロー上またはエクイティ上のいかなる訴訟」をも排除するものであり、直接には憲法第三条第二項を修正する規定である。
 通常本条は権利条項に含めないが、州の権限を尊重し、連邦の権限を限定する点では、前条の趣旨ともつながる規定である。なお、1795年に制定された本条までが18世紀中に成立した修正条項である。

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アメリカ憲法瞥見(連載第10回)

2014-10-03 | 〆アメリカ憲法瞥見

第五条(改正)

連邦議会は、両院の三分の二が必要と認めるときは、この憲法に対する修正を発議し、または、三分の二の州の立法府が請求するときは、修正を発議するための憲法会議を召集しなければならない。いずれの場合においても、修正は、四分の三の州の立法府または四分の三の州における憲法会議によって承認されたときは、あらゆる意味において、この憲法の一部として効力を有する。いずれの承認方法を採るかは、連邦議会が定める。但し、1808年より前に行われるいかなる修正も、第一条第九項第一号および第四号の規定に変更を加えてはならない。いかなる州も、その同意なしに、元老院における平等の投票権を奪われることはない。

 本条から最終第七条までは、憲法の最高法規性に関わる条項が並ぶ。特に本条は、憲法改正の条件を定める最重要の規定である。その規定によると、憲法改正は連邦両院の三分の二以上の発議(または三分の二の州の議会の請求)に基づき、なおかつ四分の三の州の議会(または憲法会議)の承認がなければ有効に成立しないとされる。これは、米国憲法が改憲に関して厳しい条件を課す硬性憲法であることを示している。特に州レベルでの承認を絶対多数で厳しく要求するのは、徹底した連邦制ならではの制約である。

第六条(最高法規)

1 この憲法成立前に契約されたすべての債務および締結されたすべての約定は、この憲法の下においても、連合規約の下におけると同様に、合衆国に対して有効である。

2 この憲法、およびこれに準拠して制定される合衆国の法律、ならびに合衆国の権限にもとづいて締結された、または将来締結されるすべての条約は、国の最高法規である。すべての州の裁判官は、 州の憲法または法律に反対の定めがある場合でも、これらのものに拘束される。

3 この憲法に定める元老院議員および代議院議員、州の立法府の議員、ならびに合衆国および各州のすべての行政官および司法官は、宣誓または宣誓に代る確約により、この憲法を擁護する義務を負う。但し、合衆国のいかなる官職または信任による職務に就く資格条件として、宗教上の審査を課してはならない。

 本条は形式的な意味での憲法の最高法規性を定めている。第二項にあるように、憲法そのものに限らず、憲法準拠法律・条約まで最高法規とされている。つまり、憲法を頂点とする連邦法規(条約を含む)は州法規に優先する。

第七条(批准手続)

1 この憲法は、九の州の憲法会議の承認があれば、承認した州の間で成立するものとする。

2 西暦1787年、アメリカ合衆国独立第12年、9月17日、憲法会議において列席各州全会一致の同意により、この憲法を定めた。これを証するため、われらはここに署名する。

      ジョージ・ワシントン
議長にしてバージニア州代表

 最終となる本条は、憲法の批准手続と憲法制定の宣言を含む締めくくりの条項である。九の州の承認によって批准・成立するものとした第一項は、合衆国憲法が州間条約の性質を持つことの歴史的な証しである。
 なお、第二項で西暦1787年を独立第12年と言い換えているのは、独立宣言を発した1776年を独立第1年として起算しているためである。

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アメリカ憲法瞥見(連載第9回)

2014-10-02 | 〆アメリカ憲法瞥見

第四条(連邦条項)

 第四条は、連邦と州及び州と州との間の関係性を定める規定が集められている。一見して無味乾燥な瑣末規定のようであるが、元は独立した「国」であった州が結合してできた連邦国家アメリカでは、このような関係性規定は連邦制を維持していくうえで必須のものである。

第一項

各々の州は、他のすべての州の一般法律、記録および司法手続に対して、十分な信頼と信用を与えなければならない。連邦議会は、一般的な法律により、これらの法律、記録および司法手続を証明する方法ならびにその効果につき、規定することができる。

 本条項は、州同士の相互尊重を定めた規定である。州間での無用の紛争を避けて、連邦の融和を図る趣旨である。元来は法律も異なる独立国が結合したアメリカならではの規定と言えよう。

第二項

1 各々の州の市民は、他州において、その州の市民が享有するすべての特権および免除を等しく享有する権利を有する。

2 いずれかの州において反逆罪、重罪その他の犯罪につき告発された者が、裁判を逃れて他州で発見された場合には、その逃亡した州の行政府の要求があれば、当該犯罪につき裁判権を有する州に移送するために、この者を引き渡さなければならない。

3 一州において、その州の法律によって役務または労務に服する義務のある者は、他州に逃亡しても、その州の法律または規則によってかかる役務または労務から解放されるものではなく、当該役務または労務を提供されるべき当事者からの請求があれば、引き渡されなければならない。

 本条項は、各州における市民の取扱いの平等性・統一性を定めた規定である。第二号は国家間の逃亡犯罪人引渡条約に相当するもので、ここにも本来は独立国の結合である合衆国の成り立ちが見て取れる。第三号は逃亡奴隷引渡条項であるが、この規定は後に奴隷制を禁じた修正第十三条により失効している。

第三項

1 連邦議会は、新しい州がこの連邦へ加入することを認めることができる。但し、連邦議会および関係する州の立法府の同意なしに、既存の州の領域内に新州を形成し、または二つ以上の州もしくはその一部を合併して一つの州を形成することはできない。

2 連邦議会は、合衆国に属する領有地その他の財産を処分し、これに関する必要ないっさいの準則および規則を定める権限を有する。この憲法中のいかなる規定も、合衆国または特定の州の請求権を損なうように解釈されてはならない。

 第一号は、新州創設に関する規定である。その際、既存州を分割したり、合併したりするには、連邦議会と関係州議会双方の同意を条件としている。これは、連邦主導での州の分割・合併を禁ずる趣旨である。実際のところ、新州の加入は、1959年のアラスカ、ハワイ両海外州の加入が最後である。第二号は、合衆国直轄地を含む連邦財産の処分に関する規定である。連邦と州は財産も分別管理される。

第四項

合衆国は、この連邦内のすべての州に対し共和政体を保障し、侵略に対し各州を防衛する。合衆国は、州の立法府または(立法府が集会できないときは)行政府の要請があれば、州内の暴動に対して各州を防護する。

 本条項は各州の政体を共和制で統一すると同時に、合衆国に各州防衛および州の要請に基づく暴動鎮圧の任務を課している。ここで、暴動鎮圧に際しても、州の同意なく連邦が独自に治安部隊を投入することが禁じられているのも、州の自治を尊重する趣旨である。

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アメリカ憲法瞥見(連載第8回)

2014-09-19 | 〆アメリカ憲法瞥見

第三条(司法府)

 本条は、三権のうち司法府に関する規定である。アメリカは連邦制のため、司法権も連邦と州で二元的に構成されるが、通常の民事・刑事裁判権は州にあり、連邦司法権は連邦法上の事件など、特定の事件の審理に限られている。そのため、司法権に関する規定はごく簡略である。

第一項

合衆国の司法権は、一つの最高裁判所、および連邦議会が随時制定し設立する下位裁判所に属する。最高裁判所および下位裁判所の裁判官はいずれも、非行なき限り、その職を保持することができる。これらの裁判官は、その職務に対して定期に報酬を受ける。その額は、在職中減額されない。

 本項は連邦司法権の所在及び連邦裁判官の身分保障に関する規定である。日本国憲法にも影響し、類似の規定がある。

第二項

1 合衆国の司法権はつぎの諸事件に及ぶ。この憲法、合衆国の法律および合衆国の権限にもとづき締結された、または将来締結される条約のもとで発生するコモン・ロー上およびエクイティ上のすべての事件。大使その他の外交使節および領事にかかわるすべての事件。海事法および海事裁判権に関するすべての事件。合衆国が当事者の一方である争訟。二以上の州の間の争訟。州と他州の市民との間の争訟。異なる州の市民間の争訟。同じ州の市民間の争訟であって、異なる州から付与された土地の権利を主張する争訟。一州またはその市民と外国またはその市民もしくは臣民との間の争訟。

2 大使その他の外交使節および領事にかかわるすべての事件、ならびに州が当事者であるすべての事件については、最高裁判所は、第一審管轄権を有する。前項に掲げたその他の事件については、最高裁判所は、連邦議会の定める例外の場合を除き、連邦議会の定める規則に従い、法律問題および事実問題の双方について上訴管轄権を有する。

3 弾劾事件を除き、すべての犯罪の裁判は、陪審によって行われなければならない。裁判は、当該犯罪がなされた州で行われなければならない。但し、犯罪がいかなる州においてもなされなかったときは、裁判は、連邦議会が法律で定める一または二以上の場所で行われるものとする。

 本項は、連邦司法権の及ぶ範囲を具体化する定である。ただし第一項で掲げられた事件類型のうち、合衆国の一州に対して他州の市民または外国の市民もしくは臣民が提起した民事訴訟については、修正第一一条で連邦司法権の対象から外された。州の主権免責を認めたものである。
 最も特徴的なのは、第三項第一文で弾劾事件を例外として、刑事陪審制度が全米において憲法上義務づけられていることである。これは独立戦争前夜、宗主国英国がしばしば植民地で陪審抜きの不公平な特別裁判を実施したことから、陪審制度の保持は独立の大義の一つだったことに由来していると言われる。従って、アメリカの陪審制度は単なる伝統的な法慣習にとどまらない革命的な意義を持っている。

第三項

1 合衆国に対する反逆罪は、合衆国に対して戦争を起こす場合、または合衆国の敵に援助と便宜を与えてこれに加担する場合にのみ、成立するものとする。何人も、同一の外的行為についての二人の証人の証言、または公開の法廷での自白によるのでなければ、反逆罪で有罪とされない。

2 連邦議会は、反逆罪の処罰を宣言する権限を有する。ただし、反逆罪を理由とした私権剥奪の効力は、血統汚損または私権を剥奪された者の生涯の間を除き、財産没収に及んではならない。

 本項は司法権そのものよりも、反逆罪という政治犯罪の定義及び処罰条件・処罰内容についての規定である。憲法にこのような刑罰法規を置いた意味は、反逆罪の規定を法律だけで改廃することを許さず、あいまいになりやすい反逆罪の構成要件を絞り込み、かつ定められた証拠によってのみ処罰しようとする趣旨である。

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アメリカ憲法瞥見(連載第7回)

2014-09-06 | 〆アメリカ憲法瞥見

第二条(行政府)

第二項

1 大統領は、合衆国の陸軍および海軍ならびに現に合衆国の軍務に就くため召集された各州の民兵団の最高司令官である。大統領は、行政各部門の長官に対し、それぞれの職務に関するいかなる事項についても、文書によって意見を述べることを要求することができる。大統領は、弾劾の場合を除き、合衆国に対する犯罪について、刑の執行停止または恩赦をする権限を有する。

2 大統領は、元老院の助言と承認を得て、条約を締結する権限を有する。但し、この場合には 元老院の出席議員の三分の二の賛成を要する。大統領は、大使その他の外交使節および領事、最高裁判所の裁判官、ならびに、この憲法にその任命に関して特段の規定のない官吏であって、法律によって設置される他のすべての合衆国官吏を指名し、元老院の助言と承認を得て、これを任命する。但し、連邦議会は、適当と認める場合には、法律によって下級官吏の任命権を大統領のみに付与し、または、司法裁判所もしくは各部門の長官に付与することができる。

3 大統領は、元老院の閉会中に生じるいっさいの欠員を補充する権限を有する。但し、その任命は、つぎの会期の終りに効力を失う。

 本項は、合衆国大統領の権限に関する規定である。これによると、大統領の主要な権限は軍事と外交―筆頭は軍事―であることがわかる。一見強大に見える大統領であるが、間接選挙で選ばれる大統領の権限は意外なほど限られており、米国の国政は議会中心主義に基づき、連邦議会が主導している。

第三項

大統領は、随時、連邦議会に対し、連邦の状況に関する情報を提供し、自ら必要かつ適切と考える施策について審議するよう勧告するものとする。大統領は、非常の場合には、両議院またはいずれかの一院を召集することができる。大統領は、閉会の時期に関し両議院の間で意見が一致しないときは、自ら適当と考える時期まで休会させることができる。大統領は、大使その他の外交使節を接受する。大統領は、法律が忠実に執行されることに留意し、かつ、合衆国のすべての官吏を任命する。

 本項は、大統領と連邦議会の関係性に関する規定である。ここでも、大統領は自らの施策について審議するよう議会に勧告できるにとどまり、直接に法案を提出することはできない。また議会の召集・解散権もなく、ただ非常時の召集権と閉会時期について両議院の合意がない場合の休会の権限しか持たない。結局、合衆国大統領とは最高行政官にすぎず、国政全般を統括する「大統領」ではない。日本語における「President=大統領」という定訳は、実態と合致していない。

第四項

大統領、副大統領および合衆国のすべての文官は、反逆罪、収賄罪またはその他の大罪及び非違行為につき 弾劾の訴追を受け、有罪の判決を受けたときは、その職を解かれる。

 正副大統領をはじめとする合衆国文官に対する連邦議会の弾劾裁判権に関する規定である。これも議会中心主義の現れであり、特に大統領に対しては、議会の持つ究極的な牽制権である。実際に本項に基づいて弾劾・解職された大統領は現時点では存在しない。

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アメリカ憲法瞥見(連載第6回)

2014-09-05 | 〆アメリカ憲法瞥見

第二条(行政府)

 立法府に関する第一条に続く第二条は、行政府に関する規定である。大統領制の米国では行政府は大統領が単独で指揮する。大統領の下に閣僚及び閣僚級行政官をメンバーとするcabinetは存在するが、これは英国や日本のような議院内閣制の内閣とは全く異なり、大統領を補佐する助言機関にすぎないもので、憲法上にも規定が存在しない。

第一項

1 行政権は、アメリカ合衆国大統領に属する。大統領の任期は四年とし、同一の任期で選任される副大統領とともに、つぎの方法で選出される。

2 各々の州は、その立法府が定める方法により、その州から連邦議会に選出することのできる元老院議員および代議院議員の総数と同数の選挙人を任命する。但し、元老院議員、代議院議員および合衆国から報酬または信任を受けて官職にあるいかなる者も、選挙人に選任されることはできない。

3 選挙人は、各々の州で集会して、無記名投票により二名に投票する。そのうち少なくとも一名は、選挙人と同じ州の住民であってはならない。選挙人は、得票者と各々の得票数を記した一覧表を作成し、これに署名し認証した上で、封印をほどこして元老院議長に宛てて、合衆国政府の所在地に送付する。 元老院議長は、元老院議員および代議院議員の出席の下に、すべての認証書を開封したのち、投票を計算する。 最多数の投票を得た者の票数が選挙人総数の過半数に達しているときは、その者が大統領となる。選挙人総数の過半数に達した者が二名以上あり、かつ、得票数が同数の場合は、代議院は直ちに無記名投票により、 その中の一名を大統領に選出しなければならない。過半数に達した者がいないときは、得票者一覧表の中の上位得票者五名の中から、同一の方法で代議院が大統領を選出する。但し、この方法により大統領を選出する場合には、投票は州を単位として行い、各州の議員団は一票を投じるものとする。この目的のための定足数は、全州の三分の二の州から一名または二名以上の議員が出席することを要し、大統領は全州の過半数をもって選出されるものとする。いずれの場合にも、大統領を選出した後に、選挙人の投票の最多数を得た者が、副大統領となる。但し、その場合に同数の得票者が二名以上あるときは、上院は無記名投票でその中から副大統領を選出しなければならない。

4 連邦議会は、選挙人を選任する時および選挙人が投票を行う日を定めることができる。投票日は合衆国全土を通じて同一の日でなければならない。

5 出生により合衆国市民である者、または、この憲法の成立時に合衆国市民である者でなければ、大統領の職に就くことはできない。年齢満三五歳に達していない者、および合衆国内に住所を得て一四年を経過していない者は、大統領の職に就くことはできない。

6 大統領が罷免され、死亡し、辞職し、またはその職権および義務を遂行する能力を失ったときは、副大統領が、大統領の職務を行う。連邦議会は、大統領と副大統領がともに罷免され、死亡し、辞職し、または執務不能に陥った場合について、法律により、いかなる官吏に大統領の職務を行わせるかを定めることができる。この官吏は、執務不能の状態が解消される時または大統領が選出される時まで、大統領の職務を行う。

7 大統領は、その職務に対して定期に報酬を受ける。報酬額は、その任期中増額または減額されない。大統領は、その任期中、合衆国または州から他のいかなる報酬も受けてはならない。

8 大統領は、その職務遂行に先立ち、つぎのような宣誓または宣誓に代る確約をしなければならない。「私は、合衆国大統領の職務を忠実に執行し、全力を尽して合衆国憲法を維持し、保護し、擁護する ことを厳粛に誓います(確約します)。」

 本条項は正副大統領の選出法を中心に、大統領の地位について規定している。米国大統領は建国時から州ごとに任命された選挙人を通じた間接選挙制によることでは今日まで不変であるが、第三号に定める具体的な選挙方法については修正第一二条及び二〇条をもって全面改正されている。改正の中核は、大統領二名連記・副大統領次点制を正副大統領個別投票制に改めたことである(詳細は修正条項の稿で後述する)。

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アメリカ憲法瞥見(連載第5回)

2014-08-23 | 〆アメリカ憲法瞥見

第一条(立法府)

第九項

1 連邦議会は 1808年より前においては、現に存する州のいずれかがその州に受け入れることを適当と認める人びとの移住または輸入を禁止することはできない。但し、その輸入に対して、一人につき一〇ドルを超えない租税または関税を課すことができる。

2 人身保護令状の特権は、反乱または侵略に際し公共の安全上必要とされる場合を除いて、停止されてはならない。

3 私権剥奪法または事後法を制定してはならない。

4 人頭税その他の直接税は、この憲法に規定した人口調査または算定にもとづく割合によらなければ、これを賦課してはならない。

5 各州から輸出される物品に対して、租税または関税を賦課してはならない。

6 通商または徴税に関するいかなる規制によっても、一州の港湾に対して他州の港湾よりも有利な地位を与えてはならない。一州に入港またはこれより出港する船舶に対して、他州に入港すること、または他州において出入港手続きをすることもしくは関税の支払いをすることを強制してはならない。

7 国庫からの支出は、法律で定める歳出予算によってのみ、これを行わなければならない。いっさいの公金の収支に関する正式の決算は、随時公表しなければならない。

8 合衆国は、貴族の称号を授与してはならない。合衆国から報酬または信任を受けて官職にある者は、連邦議会の同意なしに、国王、公侯または他の国から、いかなる種類の贈与、俸給、官職または称号をも受けてはならない。

 本項は、連邦議会の権限を列挙した前項に対し、連邦議会の権限に関する制限事項を列挙している。このうち、第二号及び第三号は実質上人権保障に関する規定であるが、人権に関しては修正条項によって増補されている。
 本項各号のうち、第一号で人間の「輸入」に言及しているのは明らかに、モノとして扱われた黒人奴隷の「輸入」を念頭に置いた規定であるが、この部分は奴隷制を禁じた修正第一三条により実質上削除されている。また第四号も、人口基準によらない連邦所得税を規定した修正第一六条により、実質上削除されている。
 第五号及び第六号は、州の権益を保護するため連邦の課税権を制限するもので、州を基盤とした連邦制の特質を示すものである。国庫支出が歳出予算法律によってのみなされるべきことを規定する第七号は、連邦議会の権限に対する制限という形を取りながら、実質上は行政府(大統領)に対する議会の優越性を示す規定と言える。
 第八号第一文は貴族制度を認めない徹底した共和体制の表現であり、第二文は付随的に合衆国公務員の原則的な合衆国専属義務を定めたものである。

第一〇項

1 州は、条約を締結し、同盟もしくは連合を形成し、船舶捕獲免許状を付与し、貨幣を鋳造し、 信用証券を発行し、金貨および銀貨以外のものを債務弁済の法定手段とし、私権剥奪法、事後法もしくは 契約上の債権債務関係を害する法律を制定し、または貴族の称号を授与してはならない。

2 州は、その検査法を執行するために絶対に必要な場合を除き、連邦議会の同意なしに、輸入品または輸出品に対し輸入税または関税を賦課してはならない。州によって輸入品または輸出品に賦課された関税または輸入税の純収入は、合衆国国庫の用に供される。かかる法律はすべて、連邦議会の修正または規制に服する。

3 州は、連邦議会の同意なしに、トン税を課し、平時に軍隊または軍艦を保持し、他州もしくは外国と協定もしくは契約を締結し、または、現に侵略を受けもしくは一刻の猶予も許さないほど危険が切迫しているときを除き、戦争行為をしてはならない。

 憲法上連邦議会の権限として規定のない権限は原則として州(議会)に属するが、本項では州の権限に関する例外的な制限事項を規定している。全体として、州は独自に外交・国防に関与しないこと、通貨・関税高権を持たないことが規定されている。これらは合衆国としての統合性を維持するうえで最低限度の制限である。

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アメリカ憲法瞥見(連載第4回)

2014-08-22 | 〆アメリカ憲法瞥見

第一条(立法府)

第八項

1 連邦議会は、つぎの権限を有する。合衆国の債務を弁済し、共同の防衛および一般の福祉に備えるために、租税、関税、輸入税および消費税を賦課し、徴収する権限。但し、すべての関税、輸入税および消費税は、合衆国全土で均一でなければならない。

2 合衆国の信用において金銭を借り入れる権限。

3 諸外国との通商、各州間の通商およびインディアン部族との通商を規制する権限。

4 統一的な帰化に関する規則、および合衆国全土に適用される統一的な破産に関する法律を制定する権限。

5 貨幣を鋳造し、その価格および外国貨幣の価格を規制する権限、ならびに度量衝の基準を定める権限。

6 合衆国の証券および通貨の偽造に対する罰則を定める権限。

7 郵便局を設置し、郵便道路を建設する権限。

8 著作者および発明者に対し、一定期間その著作および発明に関する独占的権利を保障することにより、学術および有益な技芸の進歩を促進する権限。

9 最高裁判所の下に下位裁判所を組織する権限。

10 公海上で犯された海賊行為および重罪行為ならびに国際法に違反する犯罪を定義し、これを処罰する権限。

11 戦争を宣言し、船舶捕獲免許状を授与し、陸上および海上における捕獲に関する規則を設ける権限。

12 陸軍を編成し、これを維持する権限。但し、この目的のためにする歳出の承認は、二年を超える期間にわたってはならない。

13 海軍を創設し、これを維持する権限。

14 陸海軍の統帥および規律に関する規則を定める権限。

15 連邦の法律を執行し、反乱を鎮圧し、侵略を撃退するために、民兵団を召集する規定を設ける権限。

16 民兵団の編制、武装および規律に関する定めを設ける権限、ならびに合衆国の軍務に服する民兵団の統帥に関する定めを設ける権限。但し、民兵団の将校の任命および連邦議会の定める軍律に従って民兵団を訓練する権限は、各州に留保される。

17 特定の州から割譲され、かつ、連邦議会が受領することにより合衆国政府の所在地となる地区(但し、一〇マイル平方を超えてはならない)に対して、いかなる事項についても専属的な立法権を行使する権限、および要塞、武器庫、造兵廠、造船所その他必要な建造物を建設するために、それが所在する州の立法府の同意を得て購入した土地のすべてに対し、同様の権利を行使する権限。

18 上記の権限およびこの憲法により合衆国政府またはその部門もしくは官吏に付与された他のすべての権限を行使するために、必要かつ適切なすべての法律を制定する権限。

 本項から先の三か条は、連邦と州の権限関係に関する規定であるが、いずれも連邦と州それぞれの行政府でなく、立法府(議会)の権限という形で規定されているのは、議会中心主義の現れである。
 連邦議会の権限について列挙した本項は一見無味乾燥な羅列であるが、アメリカのような連邦国家にあっては、連邦と州の権限を明確に線引きしなければ、ある事柄が連邦と州のどちらの権限なのかをめぐって紛争・混乱が生じるため、本項のようにまず連邦議会の権限をリスト化し、ここに定めのない権限は原則として州に属するという趣旨で(修正第一〇条参照)、予め明示しておく必要がある。
 本項で定められた連邦議会の主要な権限を大別すれば、財政・経済に関する権限(第一号乃至第八号)、司法・警察に関する権限(第九号及び第一〇号)、国防に関する権限(第一一号乃至第一六号)となる。連邦には国全体にわたる根幹的な権限だけ留保し、残余は州の権限とする分権性の強い連邦制のあり方が示されている。
 ちなみに、第八号は著作権・特許権という個人の権利保障規定を兼ねているが、国の憲法に知的財産権の明文が置かれるのは当時としては斬新であった。また、こうした個人の知的財産権の保障を通じて「学術および有益な技芸の進歩を促進する」という政策も、国家が主導して学芸の振興を図る社会主義的な構想とは対照的なアメリカ流個人主義に立脚した学芸政策の宣言と読める。
 なお、国防に関する第一一号で、合衆国が民間船舶に海賊行為の権限を付与する船舶捕獲免許状という古典的制度は私掠船の廃止をうたった1856年パリ宣言(国際条約)をもって放棄されている。

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アメリカ憲法瞥見(連載第3回)

2014-08-08 | 〆アメリカ憲法瞥見

第一条(立法府)

第五項

1 両議院は、各々その議員の選挙、選挙の結果および資格に関して判定を行うものとする。各々の院は、その議員の過半数をもって議事を行うに必要な定足数とする。定足数に満たない場合においても、 翌日に延会とし、各々の院の定める方法および制裁によって、欠席議員の出席を強制することができる。

2 両議院は、各々その議事規則を定め、秩序を乱した議員を懲罰し、三分の二の同意によって議員を除名することができる。

3 両議院は、各々その議事録を作成し、その院が秘密を要すると判断する部分を除いて、随時これを公表しなければならない。各院の議員の表決は、いかなる議題についても、出席議員の五分の一の請求があれば、これを議事録に記載しなければならない。

4 連邦議会の会期中、いずれの院も、他の院の同意がなければ、三日間を越えて休会し、またはその議場を両院の開会中の場所から他へ移すことはできない。

 本項から第七項までは、議事手続や議院の内部統制、議員の特権等に関する細目的な規定が続く。内容的には、日本国憲法の規定にも影響を及ぼしており、類似の条項が見える。
 本項は、議院の資格争訟裁判や懲罰権のような各議院の自立的な内部統制権、定足数、議事録作成・公開義務、休会などの諸規定の雑多な集まりである。二院制とはいえ、各院はこれらの手続きをそれぞれ別個に独立して遂行するが、三日を越える長期の休会と議場移転に関しては他院の同意を要することとして、二院の協調性を保持しようとしている。

第六項

1 元老院議員および代議院議員は、その職務に対し、法律の定めるところにより、合衆国の国庫から支出される報酬を受ける。両院の議員は、叛逆罪、重罪および社会の平穏を害す罪を犯した場合を除いて いかなる場合にも、会期中の議院に出席中または出退席の途上で、逮捕されない特権を有する。議員は、議院で行った演説または討論について、院外で責任を問われない。

2 元老院議員および代議院議員は、その任期中に新設または増俸された合衆国の文官職に任命されることはできない。合衆国のいかなる官職にある者も、その在職中に、いずれの議院の議員たることはできない。

 本項第一号は、連邦議会議員の歳費請求権、不逮捕特権、免責特権という三つの古典的特権に関する規定である。日本国憲法にも類似の規定が見られるが、不逮捕特権に関して、米憲法では叛逆罪などでの例外がかなり広く認められているうえ、議院に出席中または出退席の途上の不逮捕に限られ、議員の地位が不安定な点はより古典的である。 

第七項

1 歳入の徴収を伴うすべての法律案は、さきに代議院に提出しなければならない。但し、元老院は、他の法律案の場合と同じく、これに対し修正案を発議し、または修正を付して同意することができる。

2 代議院および元老院を通過したすべての法律案は、法律となるに先立ち、合衆国大統領に送付されなければならない。大統領は、承認する場合はこれに署名し、承認しない場合は、拒否理由を付してこれを発議した院に返付する。その院は、拒否理由すべてを議事録に記載し、法律案を再び審議する。再議の結果、その院が三分の二の多数でその法律案を可決したときは、法律案は大統領の拒否理由とともに他の院に送付される。他の院でも同様に再び審議し、三分の二の多数で可決したときは、法律案は法律となる。この場合にはすべて、両議院における投票は点呼表決によるものとし、法律案に対する賛成者および反対者の氏名は、各々の院の議事録に記載されるものとする。大統領が法律案の送付をうけて十日以内(日曜日を除く)に返付しないときは、その法律案は、大統領が署名した場合と同様に法律となる。但し、連邦議会が休会に入り、法律案を返付することができない場合は、この限りでない。

3 両議院の同意を要するすべての命令、決議または表決(休会にかかわる事項を除く。)は、これを合衆国大統領に送付するものとし、大統領の承認を得てその効力を生ずる。大統領が承認しないときは、法律案の場合について定める規則と制限に従い、元老院および代議院の三分の二の多数をもって、再び可決されなければならない。

 歳入の徴収を伴うすべての法律案について代議院の先議権を規定する本項第一号は、代議院優先主義の最も明瞭な現れである。とはいえ、法律案の修正権を握る元老院は、第三項の弾劾裁判権と合わせ、チェック機関として相当の重みを持っており、単なる名誉機関ではない。
 第二号及び第三号は法律案その他の重要議案に対する大統領の事前承認/拒否権に関する規定である。議会中心主義ゆえ、合衆国大統領は議案の提出権を持たない反面、事前承認/拒否権を通じて自己の政策を立法府に反映させることができる。しかし、大統領が拒否権を行使しても、議会は特別多数決で再可決することで立法府の意思を貫徹することができる。このようにして、立法府と行政府の相互牽制を効かせる仕組みであるが、それは時として両府間の衝突と政治閉塞を招くことにもなる。

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アメリカ憲法瞥見(連載第2回)

2014-08-07 | 〆アメリカ憲法瞥見

第一条(立法府)

 米憲法前半の三つの条文は順に立法・行政・司法に充てられており、米憲法が古典的な三権分立イデオロギーに立脚していることを物語っている。わけても筆頭の第一条は立法府に関する詳細な規定であり、そこに含まれる条項数も10個と最多である。単刀直入に議会条項から始まる構成の憲法は珍しいが、ここには米憲法が議会中心の議会制民主主義を採用していることが示されている。

第一項

この憲法によって付与されるすべての立法権は、元老院と代議院で構成される合衆国連邦議会に属する。

 簡単な一文の中で、代議制民主主義及び二院制という二つの原則を提示している。元老院・代議院は通常上院・下院と訳されるが、憲法原文では上・下の語は使われていないので、あえてこのように古典的な逐語訳を充てる。

第二項

1 代議院は、各州の州民が二年ごとに選出する議員でこれを組織する。各州の選挙権者は、州の立法府のうち議員数の多い院の選挙権者となるのに必要な資格を備えていなければならない。

2 年齢二十五歳に達していない者、合衆国市民となって七年に満たない者、および選挙された時にその選出された州の住民でない者は、代議院議員たることはできない。

3 代議院議員と直接税は、連邦に加わる各州の人口に比例して各州間に配分される。各州の人口は、年期を定めて労務に服する者を含み、かつ、納税義務のないインディアンを除いた自由人の総数に、自由人以外のすべての者の数の五分の三を加えたものとする。実際の人口の算定は、合衆国連邦議会の最初の集会から三年以内に、それ以後は十年ごとに、議会が法律で定める方法に従って行うものとする。代議院議員の定数は、人口三万人に対し一人の割合を超えてはならない。但し、各々の州は少なくとも一人の代議院議員を選出するものとする。・・・後略 

4 州の選出代議院議員に欠員が生じたときは、その州の行政府は、欠員を補充するための選挙実施の命令を発しなければならない。

5 代議院は、議長その他の役員を選任する。弾劾の訴追権限は代議院に専属する。

 本条項は、代議院の選挙方法と構成、さらに弾劾裁判の訴追権について定めた規定である。代議院条項が元老院条項に先行するのは、下院に相当する代議院を優先することの現れである。また代議院の選挙権・被選挙権が州のそれと連動しているのは、州を基盤とした連邦制ゆえの規定である。
 第三号はいわゆる議員定数均衡の原則であり、これが憲法に明定されているのも、各州間の代表不均衡を生じさせないようにする配慮からであり、一般的・抽象的な投票価値の平等からのものではない。この点で、連邦制を採らない日本にこのアメリカ的な定数均衡原則を直接に持ち込むことは適切と言い難い面がある。
 なお、同号が自由人以外の奴隷を五分の三の端数として算定する差別的な規定は合衆国が人種差別的な白人国家として出発したことを示しているが、今日では平等な市民権を保障する修正第一四条によって修正されている。ちなみに、同号が定める連邦直接税の人口比例原則も、修正第一六条により個人単位の平等な課税原則に修正されている。

第三項

1 合衆国元老院は、各州から二名ずつ選出される元老院議員でこれを組織する。元老院議員は、各州の立法府によって、六年を任期として選出されるものとする。元老院議員は、それぞれ一票の投票権を有する。

2 第一回選挙の結果にもとづいて元老院議員が集会したときは、直ちにこれをできるだけ等しい人数の三組に分ける。議員の三分の一が二年ごとに改選されるために、第一組の議員の任期は二年目の終わりに、第二組の議員の任期は四年目の終わりに、第三組の議員の任期は六年目の終わりに終了するものとする。州の立法府が閉会中に、辞職その他の理由で元老院議員に欠員が生じたときは、州の行政府は、州の立法府がつぎの開会時に欠員を補充するまでの間、臨時の任命を行うことができる。

3 年齢三十歳に達していない者、合衆国市民となって九年に満たない者、および選挙された時にその選出された州の住民でない者は、元老院議員たることはできない。

4 合衆国の副大統領は、元老院の議長となる。但し、可否同数のときを除き、表決には加わらない。

5 元老院は、議長を除く他の役員を選任する。副大統領が欠けた場合、または副大統領が合衆国大統領の職務を行う場合には、臨時議長を選任する。

6 すべての弾劾を裁判する権限は、元老院に専属する。この目的のために集会するときには、議員は、宣誓または宣誓に代る確約をしなければならない。合衆国大統領が弾劾裁判を受ける場合には、最高裁判所長官が裁判長となる。何人も、出席議員の三分の二の同意がなければ、有罪の判決を受けることはない。

7 弾劾事件の判決は、職務からの罷免、および名誉、信任または報酬を伴う合衆国の官職に就任し在職する資格の剥奪以上に及んではならない。但し、弾劾につき有罪判決を受けた者が、法にもとづいて、起訴、公判、判決、または処罰の対象となることを妨げない。

 本項は元老院の選挙方法と構成、弾劾裁判における審理・判決について定めた条文である。元老院は各州から平等に二名ずつ選出される州代表院でもあり、ここにも州を基盤とする連邦制の特質が示されている。ただし、選挙方法に関しては、第二号で定める州議会による複選制が修正第一七条により直接選挙制に改正されており、その限りで州代表院としての性格は希釈されている。
 貴族制度が禁止されるアメリカで、元老院議員が元老たるゆえんは、州代表であること、及び第二号にあるように年齢と市民としての居住年数の長さだけである。
 行政府ナンバー2の副大統領が当然に元老院議長を兼務し、可否同数の際の決裁権を持つ構制は、その限りで行政府と立法府を結合させ、議院内閣制に接近するが、副大統領が元老院議員自体を兼務することは認められない。

第四項

1 元老院議員および代議院議員の選挙を行う日時、場所、方法は、各々の州においてその立法府が定める。但し、連邦議会は何時でも、元老院議員を選出する場所に関する事項を除き、法律によりかかる規則を制定し、または変更することができる。

2 連邦議会は、毎年少なくとも一回集会するものとする。会期の開始時期は、法律で別の日が指定されない限り、十二月の第一月曜日とする。

 連邦議会の選挙及び選挙後の集会について定めた統一規定である。連邦議会選挙の日時、場所、方法の決定権が第一次的に州議会に与えられているのも、州を基盤とする連邦制の現れである。なお、第二号の連邦議会会期の開始日は、修正第二〇条により、一月三日正午に改正されている。

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アメリカ憲法瞥見(連載第1回)

2014-07-25 | 〆アメリカ憲法瞥見

 アメリカ合衆国憲法(以下、米憲法と略す)は、1787年に制定された世界でも最も古い現存憲法である。言わば、クラシックカーをいまだに乗り回しているようなものである。 
 アメリカ合衆国は元来別々に形成された植民地が連合して宗主国の英国から分離独立する過程で設立されただけに、憲法条文は植民地間で合意できた限りでの最小限にとどめられ、簡素な本文に後から修正条項を追加して必要な内容を補充するという継ぎ足し的便法が採られた。実のところ、アメリカにおける実質的な憲法は合衆国を構成する各州の憲法であり、合衆国憲法とは文字どおりの憲法というよりは、条約に近いものと言える。
 古典的な米憲法は、現代憲法のように表題付きで体系的な章立てがなされておらず、大雑把に七つの条文から成り、各条文中に一つまたは複数の条項を含み、その内部がさらに細目的な規定に分かれるという煩雑な重層的構成を採っている。そのうえ、上述した継ぎ足し法のゆえに一覧性に欠けるわかりにくさがある。
 ただ、内容的には18世紀当時まだ珍しかった共和制憲法の先駆けであった。哲学上は自由主義と議会中心主義に立ち、立法府を国政の中心に置き、中央政府の役割を極力限定する意図が明白である。その点では、旧ソ連憲法のような国家社会主義憲法とは対極にあり、アナーキズムとは言わないまでも、国家なき社会運営を構想するうえでヒントとなり得る点も認められる。
 本連載は、先に連載中の『旧ソ連憲法評注』の対照軸的な位置にある連載となる。実際、両国憲法を対照することで、冷戦期にはイデオロギー的な面で鋭く対立し合った二つの連邦制超大国は、憲法原理からして大きく隔たっていたことがわかる。
 しかしその一方で、相互に足りない面があることも明らかであり、両者が止揚的な関係に立っていれば、世界はより違ったものになっていたに相違ない。その点では、両超大国の対立は、一方が消滅した今日まで尾を引く禍根である。
 なお、本連載の訳文は米国大使館の関連機関であるアメリカンセンター公式ウェブサイトに掲載されている仮訳に従う(ただし、一部訳語を変更する)。


前文

われら合衆国の国民は、より完全な連邦を形成し、正義を樹立し、国内の平穏を保障し、共同の防衛に備え、一般の福祉を増進し、われらとわれらの子孫のために自由の恵沢を確保する目的をもって、ここにアメリカ合衆国のためにこの憲法を制定し、確定する。

 前文もわずか一行の短文である。これを参照して記述された日本国憲法の前文よりもいっそう短い。しかし、短い中にも、自由主義の基本哲学に基づき、連邦国家の役割を正義の樹立(司法)、平穏の保障(警察)、共同の防衛(国防)、一般福祉の増進(民生)に限定しつつ、順位付けしている。
 ただ、実質的には、憲法前文の前文とも言える「独立宣言」の中に、建国・憲法制定の趣旨が詳細に盛り込まれている。特に、宣言第二段にある「すべての人間は生まれながらにして平等であり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられているということ。こうした権利を確保するために、人々の間に政府が樹立され、政府は統治される者の合意に基づいて正当な権力を得る。」が、中心的なテーゼである。
 すなわち、天賦人権を確保するために政府が樹立される。言い換えれば、政府とは人権確保のための手段にすぎないということになる。従ってまた、「権力の乱用と権利の侵害が、常に同じ目標に向けて長期にわたって続き、人民を絶対的な専制の下に置こうとする意図が明らかであるときには、そのような政府を捨て去り、自らの将来の安全のために新たな保障の組織を作ることが、人民の権利であり義務である。」ということから、人民には革命の権利が留保されるのである。
 米憲法は本文では革命の権利に触れていないが、独立宣言と併せ読めば、革命権を明記する世界でも稀なる憲法である。従って、米国民は今後も、憲法文書に基づいて革命権を発動できる状況にあるわけである。

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