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犯則と処遇(連載第7回)

2018-11-29 | 犯則と処遇

6 矯正処遇について(上)

 「犯則→処遇」構想の下、矯正施設に拘束して行なわれる「矯正処遇」は外見上、今日の自由刑と類似しているが、類似性は外見上のみであり、実質上は決定的に異なる。とりわけ、その運用方法である。
 自由刑の場合、終身刑や無期刑は別として、通常は「懲役x年」というように予め刑期を定めて執行される。これには刑罰の恣意的な運用を防ぐ意味があると宣伝されてきた。
 しかし裏を返せば、それは応報の前提となる個人責任の度合いを数値的に算定するという無理を裁判官に強いていることにほかならない。民事責任の重さを示す損害賠償額が確立された数式に基づいて算出されるのとは異なり、刑事責任の重さを定量的に算出できる数式などは存在しないからである。
 また矯正という観点からしても、所定の刑期内に矯正が効果を上げるという保証はないにもかかわらず、満期に達すれば釈放せざるを得ないため、再犯の危険を排除することができない。

 これに対して、「矯正処遇」は「更新付きターム制」という方法により運用される。この方法の下で、対象者は予め法律で定められた矯正プログラムの一単位=ターム(1T)の期間内に矯正を終え、社会復帰することが原則となる。
 この1Tの年数は、改めて次章で見るように、「矯正処遇」の細分化された種別ごとに異なるが、最長でも5年とする。なぜなら、矯正が成果を上げるにはできるだけ短期集中的に効果的なプログラムを課する必要があるからである。

 ただし、1Tの期間内に所期の矯正効果が上がらなかった場合には、さらに所定の回数だけ更新することが許されることが、刑罰としての自由刑とは決定的に異なるもう一つの点である。
 この更新には予め更新年数が法律で定められ、かつ2回までしか更新できない「法定更新」と、法定更新が満了した後も、司法機関の裁量により所定の年限の範囲内で追加更新が可能となる「裁量更新」とがある。
 さらに、例外的に矯正効果がほとんど上がらない矯正困難者のために法定更新期間満了後に司法機関の決定で行われる「終身監置」も予定される。これは、要するに例外的な矯正困難者に対して、慎重な科学的判定のうえに与えられる最後の手段となる。

 ところで、「犯罪→刑罰」体系における自由刑では、執行猶予や仮釈放といった刑罰の仮放免の制度が設けられることが多い。これは刑罰が人の法益を報復的に剥奪する有害な処分であるからこそ、情状によっては事前または事後の仮放免を認めて刑罰の負担を軽減しようという法の「温情」であるが、「犯則→処遇」図式においては、こうした温情主義でバランスを取る必要はない。
 「矯正処遇」は拘束的処遇であるという点では対象者の法益を制限する側面も認められるが、総体としては、対象者の反社会性を矯正して更生につなげるという利益な処分であるから、仮放免制度でバランスを取る必要はないのである。ただし、上述のように、終身監置だけは終身拘束という重大な不利益を考慮して、「仮解除」の余地を認める必要がある。


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