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世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第5回)

2023-11-22 | 世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

一 汎西方アジア‐インド洋域圏

(7)イエメン合同

(ア)成立経緯
主権国家時代に一度は統一された南北イエメンが長期の内戦と南北分断を経て、東西に再び分割されたうえで合同し、成立する合同領域圏。南端のラヒジュ地方圏及びアデン地方圏は合同の直轄域とする。

(イ)構成領域圏
合同を構成する領域圏は、次の2圏である。

○西イエメン
統一前の旧イエメン・アラブ共和国(北イエメン)の領域で構成される領域圏。

○東イエメン
ラヒジュ地方圏及びアデン地方圏を除く統一前の旧イエメン人民民主共和国(南イエメン)の領域で構成される領域圏。

(ウ)社会経済状況
元来、アラビア半島でも湾岸諸国への出稼ぎ労働に支えられた最貧国であったうえに長期にわたる内戦のため社会経済は崩壊状態にあるが、貨幣経済が廃される持続可能的計画経済の導入によって経済は復興する。

(エ)政治制度
合同領域圏は各領域圏民衆会議から選出された同数の協議員から成る政策協議会を常設し、圏内の重要課題を討議し、共通政策を協調して遂行する。政策協議会は、合同直轄地方圏の都市ラヒジュに置かれる。

(オ)特記
南端のラヒジュと隣接するアデンの両地方圏は一種の緩衝地帯として合同直轄域に設定される。また、紛争の再発を防止するため、アデンに世界共同体平和維持巡視隊が駐留し、平和監視活動を行なう。

☆別の可能性
緩衝地帯の直轄域を設けずに旧南北イエメンの領域に沿って分割された領域圏の合同となる可能性もあるが、紛争再発が懸念される。また、より可能性は低いが、統合領域圏として再統一される可能性も排除されない。

 

(8)環インド洋合同

(ア)成立経緯
アフリカ大陸近海からインド亜大陸近海にかけてインド洋に広く分散する複数の島嶼領域圏が合同して成立する合同領域圏。なお、コモロ、マダガスカル、モーリシャス、セイシェルはアフリカ‐南大西洋域圏の招聘領域圏でもある。

(イ)構成領域圏
合同を構成する領域圏は、次の6圏である。

○コモロ諸島
三島の連邦主権国家コモロ連合に、旧フランス領マヨット島が分立・編入され、マヨットを含めた四島を準領域圏とする連合領域圏

○マダガスカル
主権国家マダガスカルを継承する統合領域圏

○レユニオン
フランス領から分立する統合領域圏

○モーリシャス
主権国家モーリシャスに、英国領から返還されたチャゴス諸島を編入して成立する。

○セーシェル
主権国家セーシェルを継承する統合領域圏

○モルディブ
主権国家モルディブを継承する統合領域圏。海面上昇対策として造成した人工島フルマーレを含む。

(ウ)社会経済状況
主権国家時代は最貧のマダガスカルから富裕なモーリシャスまで経済格差が著しかったが、貨幣経済の廃止により格差は解消され、海洋領域圏として水産を軸とした計画経済が推進される。また観光リゾート依存経済からも脱却する。サトウキビ農業、製糖業、繊維産業が盛んなモーリシャスが合同全体の経済的軸となる。

(エ)政治制度
合同領域圏は各領域圏民衆会議から選出された同数の協議員から成る政策協議会を常設し、圏内重要課題を討議し、共通政策を協調して遂行する。政策協議会は、輪番制により各構成領域圏内の都市で開催される。合同公用語はフランス語と英語、エスペラント語。

(オ)特記
インド洋を東西に広くまたぐ環インド洋合同領域圏は、世界共同体を象徴する広域合同と言える。元来は現存する地域経済協力組織であるインド洋委員会を母体とするが、インド亜大陸に近いモルディブは参加していなかったところ、モーリシャスとモルディブの間をつなぐチャゴス諸島が世界共同体の海外領土禁止原則により英国からモーリシャスに返還されることで、広域合同としてまとまる。

☆別の可能性
インド洋北端のスリランカが合同に参加する可能性もある。一方、現時点ではアフリカ連合に属するコモロ、マダガスカル、モーリシャス、セイシェルが汎アフリカ‐南大西洋域圏への包摂を希望するならば、モルディブは参加しない。

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世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第4回)

2023-11-15 | 世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

一 汎西方アジア‐インド洋域圏

(5)中央アラビア

(ア)成立経緯
君主国のサウジアラビアとクウェート、バーレーン、カタールが統合され結成される統合領域圏。いずれの君主制も廃止される。ただし、旧サウジ領内にあったイスラーム教聖地メッカは世界共同体との条約に基づき独立宗教自治市として分立したうえ、旧王家のサウード家が世襲の総督として統治することが認められる。

(イ)社会経済状況
統合される旧四か国は主権国家時代には中東の中心的な産油国として繁栄したが、石油資源の管理が世界共同体に移行し、産業構造の転換を強いられたことで、統合の機運が生じる。計画経済下で、特に工場栽培を含めた農業開発が進行しているほか、自動車生産などの新規分野にも注力する。革命後は人口の大きな部分を構成した外国人労働者が去るため、外国人依存の労働構造が消滅することも旧四か国統合の動因となる。

(ウ)政治制度
四か国の完全な統合によって成立するため、統一的な民衆会議制度が導入される。かつては厳しく制約された女性の参政権も完全に認められる。イスラーム伝統のシャリーア法による司法は否定されないが、民事分野の一部に限定される。クウェート、カタールの首長家、バーレーンの王家は儀礼的称号のみ残して一般公民化される。

(エ)特記
人口の相当数を占めていた在留外国人労働者は領域民として統合されるか、帰還するかの選択権を与えられる。

☆別の可能性
専制君主体制に対する国民の不満や怨嗟が蓄積しているとすれば、旧四君主国、中でもサウジアラビアでの革命は君主の処刑に象徴される流血の革命となる可能性もなしとしない。逆に、専制君主体制が強固な自己保存性を持つならば、革命は不発に終わり、革命化未成領域として残存する可能性もある。他方、旧主権国家のクウェート、バーレーン、カタールが高度な自治権を保持する準領域圏となる複合領域圏として統合される可能性もある。

 

(6)湾岸アラビア

(ア)成立経緯
アラビア半島の旧湾岸君主制諸国のうち、アラブ首長国連邦(UAE)とオマーンが統合して成立する連合領域圏。いずれにおいても君主制は廃止される。

(イ)社会経済状況
石油依存の経済体制を脱し、経済計画に基づく多角的な産業構造への転換を志向する点で、中央アラビアと共通する。中央アラビアとは経済協力協定を締結し、共通経済圏を構成する。ここでも革命後は人口の大きな部分を構成した外国人労働者が去るため、外国人依存の労働構造が消滅することもオマーンを含めた連合形成の動因となる。

(ウ)政治制度
連合民衆会議は、旧アラブ首長国連邦を構成した7つの構成主体にオマーンを加えた8個の準領域圏を代表する代議員で構成される。中央アラビア同様、女性参政権が完全に認められる。アブダビは、汎西方アジア‐インド洋域圏全体の政治代表都市ともなる。かつて各国に存在した首長家または王家はいずれも儀礼的な称号のみ残して一般公民化される。

(エ)特記
中央アラビアと同様、湾岸アラビアを特徴づける人口の相当数を占めていた在留外国人労働者は領域民として統合されるか、帰還するかの選択権を与えられる。

☆別の可能性
連合領域圏ではなく、中央アラビアと同様に統合領域圏を形成する可能性もある。または、統合領域圏となる旧UAEとオマーンとで合同領域圏を形成する可能性もある。一方で、旧君主国の一部または全部で革命が不発に終わり、革命化未成領域として残存する可能性もなしとしない。

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世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第3回)

2023-11-08 | 世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

一 汎西方アジア‐インド洋域圏

(3)多民族クルディスタン

(ア)成立経緯
主権国家のトルコ、イラン、イラク、シリアにまたがって散在していたクルド人集住地域が分立・統合されて結成される統合領域圏。「多民族」が形容的に冠されるのは、域内に多数の非クルドの少数民族も居住するためである。

(イ)社会経済状況
経済状況の異なる複数の国に分散していため、最も豊かなイラクのクルド自治区を筆頭に経済状況に大きな格差があったが、統合後は全域で環境持続的な計画経済が完備され、経済格差が解消される。経済的な中心は旧イラク領内クルド自治区の首都として油田開発を軸に資本主義的な発展を遂げていたアルビルを中心とした地域になるが、油田の管理は世界共同体の下に移される。領域圏全体を通じて農業は重要産業となる。

(ウ)政治制度
複数の国に散らばっていた地域の統合という異例の経緯で形成されるが、統合性を高めるため、連合領域圏ではなく、統合領域圏としてまとまる。政治代表都市はアルビル。かつて各国でクルド独立運動に関わった諸政党は、領域圏の創設に伴い、解散される。クルド語は方言差が大きいことや、多民族主義を徹底するため、エスペラント語を統一的な領域圏公用語としつつ、領内に居住するすべての民族の言語を各民族の教育言語に認定する。

(エ)特記
クルド人は「国家を持たない最大民族」と同情的に称されてきたが、国家を持たないことは、かえって非国家的な統合領域圏の創設に成功する要因となる。特に、旧シリア内戦下の北東部ロジャヴァで事実上の革命的解放区を形成し、革新的な協同経済と分権的な民主主義を実践していたシリア・クルド人勢力が領域圏の形成を主導する。

☆別の可能性
統合領域圏ではなく、四か国にまたがって散在していた各地域を準領域圏として構成される連合領域圏として成立する可能性もある。

 

(4)イラク

(ア)成立経緯
主権国家イラクを継承する統合領域圏。ただし、21世紀初頭のイラク戦争後、事実上の独立状態となっていたクルド自治区は上述のように、クルディスタンの一部として分立する。

(イ)社会経済状況
主権国家時代は石油産業が経済の圧倒的な中心であったが、油田管理が世界共同体に移管され、石油利権は失われる。しかし、自給的な工業力を活かして、計画経済が発展する。農業生産は元来、砂漠気候という地理的な条件と水不足により制約されがちであったが、工場栽培技術の発展により、自給率を高めていく。

(ウ)政治制度
主権国家時代はイスラーム教スンナ派とシーア派の二分的対立状況が激しく、国家の統合性を脅かしていたが、民衆会議制度の導入により、宗教別政治参加が禁じられたことで、宗派対立は止揚される。ただし、領域圏民衆会議は最大都市バクダッドと南部シーア派地域の中心都市バスラで一期おき交互に設置・開催することでバランスを取る。

(エ)特記
宗教紛争防止のため、キリスト教など少数宗派を含む各宗派の指導者で構成される宗教間評議会が常設される。

☆別の可能性
望ましい可能性とは言えないが、スンナ派優位の南部とシーア派優位の北部が独自の領域圏として分立し、南イラク及び北イラクの両領域圏で合同領域圏を形成する可能性、より望ましくない可能性として、合同もせず南北イラクが完全に別領域圏として分立する可能性もなしとしない。

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世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第2回)

2023-11-01 | 世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

一 汎西方アジア‐インド洋域圏

汎西方アジア‐インド洋域圏は現在時点の国際地理区分における「西アジア」より広汎で、中東及び中央アジアから南アジア、さらに現在時点の国際地理区分ではアフリカに包含されるマダガスカルなどインド洋上に広がる島嶼までを包摂する汎域圏である。現在の主権国家体制下では、中東や南アジアで多くの宗教対立、民族紛争、内戦やテロリズムが吹き荒れる地球上で最も不穏な「火薬庫」の圏域であるが、世界共同体の創設によって平和が確立される。汎域圏全体の政治代表都市は湾岸アラビア領域圏のアブダビに置かれる。なお、南部及び北部の両レバントは歴史的にも特に紛争集中地帯であったため、世界共同体平和理事会の下部機関たる中立的な常設仲裁機関として、レバント高等評議会が設置される。

包摂領域圏:
南部レバント合同、北部レバント、多民族クルディスタン、イラク中央アラビア、湾岸アラビアイエメン合同、環インド洋合同スリランカ、バングラデシュ環ヒマラヤ合同、パキンディアアフガニスタン、イラントルコ、アゼルバイジャン、中央アジア合同

 

(1)南部レバント合同

(ア)成立経緯
現在のイスラエル及びパレスティナ自治区に、多数のパレスティナ難民人口を擁するヨルダンを加えた領域が統合されたうえ、イスラエル民族自治体とパレスティナ・アラブ民族自治体が合同して成立する特殊な合同領域圏。エルサレム及びゴラン高原は世界共同体の直轄圏に移行したうえ、上掲レバント高等評議会の仲裁的管理下に置かれる。なお、レバントは東部地中海沿岸地方の歴史的な名称に由来する(後掲北部レバントも同様)。

(イ)構成主体
上述のような特殊な経緯のため、構成領域圏ではなく、二つの構成主体から成る。

○イスラエル民族自治体
イスラエル人によって構成される自治体。ユダヤ教徒が大半だが、ユダヤ教徒でなくとも、イスラエル人を自認する者は広く包摂される。

○パレスティナ・アラブ民族自治体
アラブ人を自認する者によって構成される自治体。旧パレスティナ自治区民と旧ヨルダンのアラブ系住民が包摂される。

(ウ)社会経済状況
主権国家時代のイスラエルの科学技術力は継承され、中東でも最も先端的な科学技術経済が存在する。

(エ)政治制度
二つの民族自治体はそれぞれ独自の民衆会議を通じて、固有の政策及び法体系を擁する。合同全体の共通政策については、両民衆会議から選出された同数の協議員から成る政策協議会が決する。協議会で調整できない場合は、前出レバント高等評議会に持ち込み、裁定される。領域圏内の地方自治体についても、二つの民族自治体ごとに別々の民衆会議が併設され、共通政策は両者の協議会で調整する。イスラエル人でもアラブ人でもない住民または両者の混血系住民は、いずれの民族自治体に登録するかを任意に選択できる。合同共通の政治代表都市はアンマンに置かれ、両民族自治体民衆会議も併設される。合同公用語はエスペラント語。

(オ)特記
世界共同体は君主制を容認しないため、旧ヨルダンの王制は廃され、王家であったハーシム家はイスラーム第二の聖地メディナの儀礼的な首長を世襲する特殊な公民となる。

☆別の可能性
確率は高いと言えないが、より高度な理想形態として、二つの民族自治体構成によらない完全な統合領域圏となる可能性もなくはない。また、ヨルダンは合同せず、独自の領域圏として分立する可能性もある。

 

(2)北部レバント

(ア)成立経緯
主権国家のレバノンとシリアが統合されて成立する統合領域圏。イスラエル占領下にあったゴラン高原も、占領終了に伴い、領域に編入される。一方、旧シリア北部のクルド人地域ロジャヴァは分立し、クルディスタン領域圏に移行・編入される。

(イ)社会経済状況
世界革命前は、レバノンとシリアいずれも内戦や宗教紛争により疲弊し、社会経済は崩壊状態にあったが、統合後は環境持続的な計画経済が全土的に導入され、中東では最も成功した計画経済モデルの一つとなる。

(ウ)政治制度
統合領域圏のため、一元的な民衆会議によって統治される。旧レバノン地域では依然として多宗教が混在するが、党派政治によらない民衆会議制度では、宗派別の政治参加はそもそもできない。政治代表都市はベイルート。

(エ)特記
主権国家時代にはレバノンがシリアの事実上の属国と化していた時期もあるが、元来は「歴史的シリア」に包摂される一体的な領域であることから、世界共同体のもとで完全に対等な統合が実現する。

☆別の可能性
より望ましくない可能性として、レバノンとシリアが完全に統合されず、レバノン領域圏とシリア領域圏から成る合同領域圏として成立する可能性もある。一方、確率は高くないが、そもそも南北両レバントが分立せず、全体としてレバント合同領域圏となる可能性もある。(その場合、エルサレムやゴラン高原の係争地は、合同領域圏の共同管轄とする余地がある。)

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