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犯則と処遇(連載第41回)

2019-04-03 | 犯則と処遇

35 現行犯人の制圧について

 現行犯人の制圧は、被疑者の身柄拘束に関する原則の例外を成す。段階を踏み、令状を請求するいとまがないため、犯行現場で即時に身柄を確保する必要があるからである。現行犯の制圧は捜査員など法的な権限が認められた法執行者が行なうことが原則である。

 法執行者が到着する以前にその場に居合わせた一般人が現行犯人を取り押さえることも認められるが、これを法的及び技術的にも訓練を受けた正式の法執行者による現行犯逮捕と同列に扱うことはできず、あくまでも一般人による事実上の取り押さえ行為にすぎない。  
 そのように一般人が現行犯人を事実上制圧した場合は、直ちに緊急通報し、然るべき法執行者に犯人の身柄を引き渡さなければならない。もし通報せず、一般人が随意の場所で犯人の捕縛を継続するなら、不法拘束の犯則行為であり、拘束者が現行犯となる。

 一方、現行犯人が拘束を免れるため、現場から逃走することはがしばしば見られるが、そうした場合、捜査機関が事件発生を認知した時点から12時間以内であれば、逃亡中の犯人は現行犯とみなされてよいが、12時間を経過した場合は、非現行犯の扱いとなる。  
 このように現行性を脱した逃走中被疑者の場合、被疑事実を成す犯則行為が生命・身体を侵害する行為である場合は仮留置を省略し、人身保護監から即時勾留状を得て、身柄を確保することができる。この即時勾留は、仮留置なしに勾留できる例外となる。  
 しかし、逃走することなく制圧・拘束された現行犯人の身柄はまず仮留置される。その後の流れは前回見た被疑者の身柄拘束に関する原則に従う。

 ところで、現行犯人といえども、技術的に可能な限り、その生命を損なうことなく制圧すべきであるが、状況によっては、制圧者や被害者その他の第三者の生命・身体の安全を確保するため、犯人の生命を犠牲に供さざるを得ない場合がある。このような致死的実力行使は正当防衛の一般論に委ねることなく、法律をもって危険な現行犯人に対する最後の手段として明記しておく必要がある。  

 当然、そのような最後の手段の執行者は、法律に明記された権限ある者に限定され、状況的には、犯人が銃器その他殺傷力の強い武器で武装している場合または人質に危害を加える蓋然性が高い場合に限られる。それに加え、犯人に投降の意思がなく、制圧者や被害者その他の第三者の生命・身体の安全を確保しつつ、犯人を制圧することが困難な状況にあることを要する。また、その手段は、苦痛が長引かない即死可能な部位を狙う銃撃に限定される。

 致死的実力行使が実行された場合、人身保護監に直ちに報告されなければならない。報告を受けた人身保護監は必ず犯人の遺体の検視を命じたうえで、死因を明らかにし、致死的実力行使が法定の要件を満たしていたかどうかにつき、公開の審問を行なわなければならない。その結果、要件を満たしていないと判断した場合は、実力行使に関わった執行者や命じた上司は、訴追される。  
 なお、一般人が現行犯人を制圧する際に犯人を死に至らしめる可能性もあるが、そうした場合は致死的実力行使ではなく、正当防衛の一般論に従い、その要件の有無が捜査されることになる。


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