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世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版](連載第1回)

2023-10-29 | 世界共同体通覧―未来世界地図―[補訂版]

補訂版まえがき

 本連載は現在の世界の標準モデルである排他的な主権国家に基づかない人類のグローバルな結集機構となる世界共同体に包摂される政治単位について通覧する未来地政学的な試みであるが、これは単独で世界地図を書き換えようというある意味で不遜な試みでもあるので、流動的・可変的なものでなければならない。
 そのため、初版公開後の個人的な再考や、最近の地政学的情勢変化への考慮を踏まえ、補訂版を公開する次第である。全体的な内容に大きな変更はないが、未来の地政学的情勢の流動性を踏まえ、初版では書き記さなかった「別の可能性」についても付言することが最も大きな変更点である。

 

まえがき

 本連載は、筆者が年来提唱している「世界共同体」が創設された未来の世界情勢を仮想的に記述しようとする試みである。その意味では、完全にフィクショナルなものである。
 世界共同体についてはすでに『共産論』でも詳論しているが(拙稿参照)、ここで簡単に振り返れば、それは地球規模での共産主義革命が達成された後に現われる地球全域を統合する新たな政治システムであり、それを構成するのは、領域圏と呼ばれる政治的単位である。
 領域圏は、現行の主権国家にほぼ匹敵する領域で構成された政治単位であるが、主権は有さず、世界共同体の枠内で一定の内政自主権を留保された存在である。多くの領域圏が現行の主権国家を継承するが、世界共同体はその統合性を高めるため、構成単位となる領域圏の数が限定される。
 そのため、現時点で200か国近くが分立し、分離独立運動の結果次第ではさらなる増殖も見込まれる主権国家とは異なり、領域圏は逆に整理統合されていく傾向を持つ。他方で、巨大すぎる超大国は複数の領域圏に分割される。ただ、整理統合といっても、単純に合併されるわけではなく、分割の場合も完全な分裂とはならない柔軟性が領域圏の特色である。
 
 
 こうした領域圏にはいくつかの型がある。以下、列挙する。

統合領域圏
 これは、現行の非連邦国家に近い型の領域圏である。しかしその内部構制は中央集権的ではなく、高度の地方自治が保障され、領域圏と地方自治体の関係性は対等的である。

+都市領域圏
 これは、一つの都市で一個の領域圏を成すもので、分類上は統合領域圏の一種である。一都市のため統合性は高いが、内部の地区に一定の自治権を与えることができる。

+島嶼領域圏
 これは、大小複数の島々の集合体で一個の領域圏を成すもので、一体性を維持するため、その多くは統合領域圏であるが、一部の島に準領域圏の地位を与える場合は複合領域圏(後掲)となる。

連合領域圏
 これは、現行の連邦国家に近い型の領域圏であり、連邦国家の州に近い複数の準領域圏の連合体として構成される。準領域圏は、それが属する連合領域圏以外の連合領域圏に招聘準領域圏としてオブザーバー参加することができる。

複合領域圏
 これは、統合的部分と単数または複数の準領域圏の複合によって成り立つ領域圏である。上掲の統合領域圏と連合領域圏の両要素を併せたような型の領域圏である。

合同領域圏
 これは、複数の領域圏(統合型が連合型かは問わない)が合同して結成する領域圏である。連合領域圏のように憲章(憲法)を共有する強いまとまりではなく、緩やかな合同にとどまるが、合同経済計画を含む共通政策を策定する。世界共同体総会(世界民衆会議)へは合同する各領域圏が会期ごとに輪番で合同代議員を送る。―ただし、一つの合同を形成する領域圏数は最大で12までとし、8以上の領域圏で形成する大合同領域圏の場合は2名の代議員を送ることができる(試案)。

+招聘領域圏
 各領域圏は、単体でいずれかの合同領域圏に招聘参加することができる。これはオブザーバー参加にとどまるので、合同領域圏のメンバー領域圏とは異なり、招聘された合同領域圏においては代議員を世界共同体に送ることはできない。

 各領域圏は、それらを囲む周辺の大地域ごとに、汎西方アジア‐インド洋域圏汎東方アジア‐オセアニア域圏、汎アメリカ‐カリブ域圏、汎アフリカ‐南大西洋域汎圏、汎ヨーロッパ‐シベリア域圏の五つの汎域圏に包摂される。
 すべての領域圏がいずれか一つの汎域圏に包摂されるが、複数の汎域圏の境界上に存する領域圏は自身が包摂されていない他の汎域圏に境界領域圏としてオブザーバー参加することができる。
 また、歴史的に特定の主権国家による領有権が凍結されてきた南極大陸や大洋上の辺境的島嶼のいくつか、帰属が長く深刻に争われてきた一部の歴史的係争領域に関しては、世界共同体の直轄圏として、世界共同体が直接に管轄する。
 ちなみに、革命が未成立または不成功に終わり、世界共同体に包摂されず、世界共同体の外部で旧主権国家として残存する領域を革命化未成領域と呼ぶ。

 

 

 なお、本来、世界共同体の公用語は単一の世界共通語(暫定的にエスペラント語)が指定されるため、各領域圏や汎域圏の公式名称も当該共通語をもって表記されるところ、当連載では現時点でのわかりやすさを考慮し、各領域圏及び汎域圏の名称は、基本的に英語式で表記する。 

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安直な人道主義は非

2023-10-19 | 時評
ガザ地区を支配するイスラーム武装組織ハマースに対するイスラエルによる地上進攻作戦が準備される中、国内外のメディアでは、作戦の対象地域となるガザ北部からの退避を強いられる大量の避難民に関する情緒的な報道が目立ち始めている。それにつられて、イスラエルの作戦に対する批判も強まっているようである。
 
しかし、今回に限っては「イスラエルによるパレスティナいじめ」という従来の構図はあてはまらなくなっている。今回の事の起こりは、ハマースによるイスラエル民間人を狙った無差別軍事攻撃による大量殺戮(現時点での死者1400人超)と200人を超すと見られる一般市民の大量拉致にあるからである。言わば、パレスティナ側が虎の尾を激しく踏みつけ、虎を挑発したことが発端である。
 
このような事態はイスラエルの打倒とイスラーム国家の樹立を掲げるイスラーム武装勢力ながら一定の合理主義を保っていたハマースがここへ来て一挙に狂信主義的な顔をさらけ出したものであり、言わばハマースがパレスティナの地域自治勢力を脱して2010年代に中東を席巻したイスラーム国(IS)のような狂信的過激組織に飛躍したことを示している。
 
このような状況で安直な「弱い者いじめ」の構図によってイスラエルを非難することは今般のハマースの攻撃に快哉を叫ぶ反ユダヤ主義者と共振し、図らずも合流してしまう危険を内包しており、世界各国で反ユダヤ主義の蠢動を促進することになりかねないことが懸念される。
 
イスラエルの地上進攻作戦を止めるには、まずはハマース側に人質の解放を求めることが先決であろう。そのうえで、ハマースに自発的な投降と武装解除を促すことである。それらが順次実現されれば、ハマース殲滅を目的とするとされる地上進攻作戦の意味も失われるからである。
 
ただ、ハマース側もイスラエルの強力な反撃と進攻を見越して攻撃をしかけており、入念な準備の上、ユダヤ人捕囚と「自国」側のパレスティナ住民を盾に利用して迎え撃つ構えと見られるので、おそらく上掲いずれの要請にも応じないだろう。一方、イスラエル側が大局的見地に立って苦戦が予想される地上進攻作戦を自ら中止するならば結構であるが、対パレスティナ強硬派の現政権にそのような敗北主義的方針転換は期待できそうにない。
 
このような手詰まりの状況では、イスラエルに対して、地上進攻作戦に伴うガザ地区民間人の被害を極最小限度に抑制する技術的な工夫を要請できるのみである。関連して、地区南部に集中している大量避難民の保護は特定の周辺国ではなく、世界各国で分担して引き受けること以外に解決策はないだろう。
 
また、すでに今般の事変前から形骸化していた人種隔離的なパレスティナ自治区の存続を求めることも無益である。事変前、すでに人口が過密化し、人間的な生存に適しない狭隘な環境に陥っていた自治区を原状回復的に存続させても、本質的な問題解決にはならないからである。*ただし、今後想定され得るイスラエル軍によるガザ地区占領統治は恒久的なものでなく、作戦遂行のための技術的かつ作戦終了後の権力の空白の補完及び地区再建のための期間限定的なものにとどめることも要請される。
 
前回記事でも言及したとおり、これまでにないブレークスルーとなる全く新しい領域共有の構想が求められている。ただ、ここでも「思想氷河期」という思考の壁が立ちふさがるかもしれない。革新的な思想の創出が停滞し、古い教科書や先例を参照するだけの安直な思考法が世界にはびこっているからである。
 
 
[追記]
7日のハマースによる大規模軍事攻撃から半月余りを経た現在(24日)、イスラエルの空爆によるパレスティナ側死者はすでに6000人超となり、イスラエル側の確認済み死者1400人の倍返しをはるかに超えてきた。このあたりでいったんイスラエル側が攻撃を停止し、人質解放交渉を優先するという選択肢もあり得るように思われる。
 
[追記2]
イスラエルは、「戦争の第二段階」として、地上部隊の投入による限定的な地上戦を開始した。ハマース側が人間の盾として利用する人質の全面解放には応じる見込みがないことを踏まえて、作戦拡大を決断したものと見られる。これに先立ち、国連総会は27日、人道的な観点からの休戦を求める決議を採択したが、中途半端な休戦では現在の人道危機を解決できず、かえってハマース側に態勢立て直しの機会を与え、第二弾の攻撃を許す危険がある。これも安直な人道主義の戒である。
 
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パレスティナ自治の終焉と展望

2023-10-09 | 時評
パレスティナ・ガザ地区を支配するイスラーム武装勢力ハマースによる7日の大規模なイスラエル軍事攻撃は、パレスティナ自治の創始に至った1993年オスロ合意からちょうど30年の節目に自治を終わらせ、なし崩しの形ですでに形骸化していた同合意を事実上失効させる最終的な契機になると言えそうである。
 
今般攻撃によりイスラエル建国史上最多という民間死者を出したことで、イスラエル側が倍返しの報復的軍事行動に出ることは確実で、また元凶であるハマースを完全に解体するにはガザ地区の軍事占領も必要であろうことから、二つの自治区のうち少なくともガザ地区に関しては自治は終焉することになるだろう。
 
このような結果は、およそ抵抗運動・革命運動における強硬派がはまる逆説的な陥穽とも言える。相手に打撃を加える軍事攻撃のような強硬手段はかえって相手方の結束を促し、強烈な反撃の機会を与えるからである。その点では、アル‐カーイダによる9.11事件後、米国の報復作戦によりアル‐カーイダが事実上壊滅した状況と似ている。まさに墓穴を掘るとはこのことである。
 
実際、イスラエルではネタニヤフ首相の汚職疑惑や汚職裁判を議会が帳消しにすることをも可能にする司法改悪策を含む改憲策動に対して民衆の抗議活動が激化していたところ、今回の攻撃でこうした抗議活動は吹き飛び、かえってネタニヤフ政権への挙国一致の支持を強め、今般の軍事攻撃を抑止できなかったことへの批判は提起されたとしても、対ハマース壊滅作戦への国民的支持も確実である。
 
現ネタニヤフ政権はユダヤ教超保守派も参加する保守・極右連立政権であり、ガザ封鎖措置の継続やもう一つの自治区であるヨルダン河西岸地区へのユダヤ入植地拡大政策などにより、パレスティナ自治を形骸化させてきた元凶でもある。そのことが今回のハマースによる攻撃の背景でもあるが、ハマースの強硬策によりかえってこのような問題政権の支持基盤を強化することになる。
 
さしあたり穏健派ファタハが支配するヨルダン河西岸地区の自治は存続するが、こちらもユダヤ人入植地拡大政策による浸食によって風前の灯であるので、すでに形骸しているパレスティナ自治は両地区を通じてほぼ終焉に向かうと見てよい。その結果、イスラエルとハマース及びその周辺支援勢力との戦争が激化するかもしれない。
 
このような結果はイスラエル・パレスティナ双方での宗教反動勢力の台頭と激突によるものであるが、そもそもはイスラエル国内の狭い地区にパレスティナ人を囲い込むという隔離政策(アパルトヘイト)を内容とするオスロ合意に内包されていた無理が30年を経て明確に表出されたものであり、このような合意はノーベル平和賞に値するようなものではなかったのである。
 
今後の最も暗い展望は、今般軍事攻撃の背後にあってハマースを支援していたともされるイランに対してイスラエルが矛先を向けることで戦線が拡大し、1970年代以来の「第五次中東戦争」に発展することである。ただし、従前の中東戦争当時とは異なり、周辺アラブ諸国はイスラエルの存在を容認する方向にあることから、戦争の性格や規模は異なるものとなるだろう。
 
明るい展望は、双方に痛みをもたらす今般事変を機に、イスラエルとパレスティナの民衆同士の連携が進み、両民族が一つの領域を共有し合うような革新的な統治のアイデアが誕生することである。その点、筆者は以前、イスラエルとパレスティナの両民族が一つの領域を共有する体制(仮称:南部レバント合同領域圏)を未来的に予示したことがある(拙稿)。
 
砲弾が飛び交う現時点では空想として一笑に付されかねない私案であろうが、あらゆる戦争の最大契機となる排他的な主権国家という観念から自由になれば、こうした領域共有論も空想ではなくなるのである。さすれば、排他的主権国家内に隔離的自治区を設ける策のほうがよほど空論であったことが理解されるだろう。
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