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スウェーデン憲法読解(連載最終回)

2015-04-25 | 〆スウェーデン憲法読解

第一五章 戦争及び戦争危機(続き)

占領下の事態

第九条

1 議会又は政府は、被占領地域において決定を行ってはならない。また、当該地域においては、議員又は大臣としての資格において有する権限は行使してはならない。

2 各公的機関は、被占領地域において、防衛の努力及び抵抗運動並びに市民の保護及びその他スウェーデンの利益一般に資する最善の策を講じるように行動する。いかなる場合においても、公的機関は、国際法に反して、占領権力を援助するよう国民に対して義務を課す決定を行い、又は措置を講じてはならない。

3 議会又は自治体の議決権を有する議会のための選挙は、被占領地域で実施されてはならない。

 「武装中立」ということは、外国に依存せず、単独で防衛しなければならないということを意味するから、場合によっては自国軍だけでは防衛し切れず、外国軍に占領される事態もあり得るという厳しい現実に置かれる。そうした占領下を想定した規定が本条であり、スウェーデン憲法の現実主義の真骨頂とも言える。
 規定されているのは、ひとことで言えば「抵抗」であり、占領権力に対する一切の非協力が定められている。ただ、占領権力が圧倒的である場合、抵抗を続ければ「玉砕」することもあり得る。本条はそこまでの事態を示唆するものではなかろうが、いささか気になる点ではある。

国家元首

第一〇条

国が戦争状態にある場合には、国家元首は、政府に同行しなければならない。国家元首が被占領地域にいる場合又は政府とは別の場所にいる場合には、国家元首は、国家元首としての任務の遂行に対する支障があるとみなされる。

 戦時における国家元首(通常は王)の政府同行義務である。国家元首が政府から分断されることは国家の崩壊を意味するため、そうした事態を防止する趣旨である。ただし、国家元首がすでに政府から分断されているときは、元首に支障ありとみなされ、第五章第四条に基づいて臨時の摂政が置かれることになる。

議会の選挙

第一一条

1 国が戦争状態にある場合には、議会の選挙は、議会の議決の後にのみ実施される。国が戦争危機にある場合で、通常選挙が実施されるべき場合には、議会は、当該選挙を延期する議決を行うことができる。当該議決は、一年以内に再審議され、その後最長でも一年の間隔で再審議されなければならない。この項に規定する議決は、議員の四分の三以上が賛成票を投じる場合にのみ効力を有する。

2 国が一部占領されている場合で、選挙が実施されるべきときは、第三章の規定に必要な改変を議決する。ただし、第三章第一条、第四条、第五条、第七条から第九条まで及び第一二条の規定については、例外を設けてはならない。第三章第五条、第七条第二項及び第八条第二項の規定にいう国とは、選挙が実施されるべき国の部分と読み替えて適用されなければならない。議席の一〇分の一以上は調整議席でなければならない。

3 第一項の規定の結果として、定められた期間実施されない通常選挙は、戦争又は戦争危機が終了した後、可能な限り速やかに実施されなければならない。

4 この条の規定の結果、通常選挙が通常であれば実施されたであろう時期とは別の時期に実施された場合には、議会は、議会法の規定に従い実施しなければならないその通常選挙の後、四年目又は五年目の年の月に次の通常選挙の時期を設定しなければならない。

 戦時又は一部占領下における議会選挙の特例である。そうした場合でも、可能な限り議会選挙を実施しつつ、選挙の延期や必要な修正を柔軟に認める実際的な規定である。ただし、国が一部占領下にあっても、選挙の基本原則や比例代表選挙の方法などは維持される。

自治体の議決権

第一二条

国が戦争状態若しくは戦争危機にある場合又は国が置かれている戦争状態若しくは戦争危機により引き起こされる非常事態が存在する場合には、自治体における議決権は、法律の定める方法により行使される。

 戦時における地方議会の議決権の行使方法に関しては、あげて立法政策に委ねられている。

国の防衛

第一三条

1 政府は、国に対する武力による攻撃に対抗し、又は国の領域の侵害を回避するために、国際法に従い、国の防衛軍を配備することができる。

2 政府は、国防軍に対し、平時又は外国間の戦争時において国の領域の侵害を回避するために、国際法に従い、武力を行使することを指示することができる。

 国防軍の保持と武力行使に関する条項が本章後半に位置することは意味深長であり、要するに武力行使を最後の手段ととらえているためであろう。
 ちなみに、自国が当事国とならない外国間の戦争時でも武力行使を可能としているのは、大陸国家スウェーデンでは周辺国間の戦争の巻き添えになる危険が高いことを考慮してのことと考えられる。

戦争状態の宣言

第一四条

国に対する武力による攻撃の際を除き、国が戦争状態にあるとの宣言は、議会の承認なしに政府が行ってはならない。

 戦争宣言は原則として議会の承認の下に政府が行う。ただし、武力攻撃を受けて自衛戦争を発動する場合は、政府単独で宣言できるというように柔軟化されている。とはいえ、侵略戦争は認められないため、議会の承認を要する戦争宣言とは前条でいう外国間の戦争時くらいであろう。

休戦

第一五条

休戦に関する条約の遅延が国に対する危機をもたらす場合には、政府は、議会の承認を得ることなしに、かつ、外交評議会と協議することなしに、当該条約を締結することができる。

 条約の締結は原則として議会(代替的に外交評議会)の承認を要するが、休戦条約の迅速な締結が国益にかなう場合は、政府単独で締結できるという実際的な規定である。

軍隊の出動

第一六条

1 政府は、議会により承認された国際的義務を履行するために外国にスウェーデンの武装した軍隊を派遣し、又はその他の方法で当該軍隊を派遣することができる。

2 その他、スウェーデンの武装した軍隊を次の各号に定める場合に外国に派遣し、又は出動させることができる。

一 当該措置のための条件を定める法律により許可されている場合

二 議会が特に許可した場合

 「武装中立」を国是としつつも、国際社会の要請にも答え、自国軍隊を海外派遣する場合を定めた規定であり、ここにもスウェーデン式現実主義が見て取れる。
 ただし、第二項第二号は議会の許可という手続的条件のみで軍隊の海外派遣を可能とするもので、事実上の侵略行動に道を開かないか、懸念がある。スウェーデン憲法全条項中で最もイエローカードの規定と言えよう。

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スウェーデン憲法読解(連載第27回)

2015-04-24 | 〆スウェーデン憲法読解

第一五章 戦争及び戦争危機

 スウェーデン憲法最終章は、戦時法制に関する規定である。日本の改憲論者が垂涎し、護憲論者は昏倒しそうなきわどい内容の規定が並んでいる。しかし、誤解してならないのは、スウェーデンは「武装中立」が歴史的な国是であること、また戦時法制を法律に白紙委任するのではなく、憲法に詳細な規定を置くことで、戦時にも憲法統制を維持しようとしていることである。憲法によって国家権力を拘束するという立憲主義の原理は戦時にも貫徹されているのである。

議会の招集

第一条

国が戦争状態又は戦争危機に陥った場合には、政府又は議長は、集会するために議会を招集しなければならない。招集を行った者は、ストックホルム以外の場所で集会すべきことを決定することができる。

 本章後半の第一四条にあるように、戦争状態の宣言は原則として議会の承認に基づくため、戦争状態又は戦争危機の際には(以下、両者併せて「戦時」という場合がある)、まず議会が招集される。ただし、招集場所は首都以外でもよいとし、柔軟な移動議会制を採る。戦時法制の章の筆頭に、軍隊の規定ではなく、議会招集の規定が置かれていることは、スウェーデンの議会中心主義を象徴していると言える。

戦争委員会

第二条

1 国が戦争状態又は戦争危機にある場合で、状況により必要があるときは、議会内部から選出された戦争委員会が議会を代行しなければならない。

2 国が戦争状態にある場合、戦争委員会が議会を代行する旨の決定は、議会法の細則に基づき、外交評議会の委員により行われる。可能な場合には、当該決定が行われる前に、総理大臣との協議が行うべきものとする。戦争状態により評議会の委員が集会することに支障がある場合には、決定は政府により行われる。国が戦争危機にある場合には、第一文の決定は、総理大臣を加えた外交評議会の委員により行われる。当該決定には、総理大臣及び評議会の六名の委員が賛成票を投じることを要する。

3 戦争委員会及び政府は、合意して、又は個別に、議会がその権限を回復すべき旨を決定することができる。当該決定は、状況が許す限り、速やかに行われなければならない。

4 戦争委員会の構成に関する規定は、議会法で定める。

 戦争委員会は、戦時における議会代行機関である。戦時には、議会政治を一時的に停止するという非常事態制度である。ここにも、スウェーデンの現実主義が表れている。
 ただし、戦争委員会は国家安全保障会議のような議会外機関ではなく、議会の内部選出機関であり、その設置は原則として政府の一存で決定できず、議会の外交統制機関である外交評議会の権限とされる限りで、議会主義にも忠実である。

第三条

1 戦争委員会が議会を代行している期間は、委員会は、議会の権限を行使する。ただし、第一一条第一項第一文、第二項又は第四項の決定を行うことはできない。

2 戦争委員会は、その活動形態を独自に決定する。

 戦争委員会は議会の代行機関ではあるが、本章後半の第一一条に規定される戦時議会選挙に関する権限は制限される。

政府の権限

第五条

1 国が戦争状態にあり、その結果として、議会又は戦争委員会のいずれもその任務を遂行できない場合には、政府は、国を防衛し、戦争を終結させるために必要な範囲内で、当該任務を遂行することができる。

2 政府は、第一項の規定により、基本法、議会法又は議会選挙法を制定し、改正し、又は廃止してはならない。

 議会も戦争委員会も任務を果たせないほどに激戦となっている場合は、一時的に政府に権力を集中することを認める最高レベル緊急事態の規定である。しかし、言わば戦時のどさくさに紛れて政府が憲法やそれに準じる議会関係法を改廃することを許さないのが、第二項である。

第六条

1 国が戦争状態若しくは戦争危機にある場合又は戦争状態若しくは戦争危機により引き起こされた非常事態が存在する場合には、通常であれば基本法に基づき法律で定める一定の問題について、政府は法律の授権に基づき、命令により、法令を制定することができる。防衛の準備の観点から必要である場合には、政府は、他の場合においても、法律により定められた徴用、徴発又はその種の他の処分が適用を開始し、又は終了すべき旨を法律の授権に基づき、命令で定めることができる。

2 前項の授権を含む法律においては、いかなる条件の下で当該授権を利用することができるか厳密に定めなければならない。当該授権により、基本法、議会法又は議会選挙法を制定し、改正し、又は廃止する権限が付与されることはない。

 戦時の緊急命令に関する規定である。第一項第二文は戦時動員令に関する定めである。いずれも、厳格な法律の授権に基づく委任命令でなければならず、政府の独断による独立命令は認められない。また、ここでも前条と同様、憲法やそれに準じる法律の改廃は許されない。

自由及び権利の制限

第七条

国が戦争状態又は差し迫った戦争危機にある場合には、第二章第二二条第一項の規定は適用されない。戦争委員会が議会を代行している場合も同様とする。

 戦時における人権制限の規定である。とはいえ、ここで規定されているのは人権制限法案に対する議会審議の保留期間の適用除外であり、戦時に人権そのものを広く制約できるという規定ではないことに留意が必要である。

政府以外の機関のための権限

第八条

国が戦争状態又は差し迫った戦争危機にある場合には、政府は、基本法に従い政府により遂行されるべき任務を他の機関が代行して遂行すべきことを、議会の授権に基づき、決定することができる。当該授権は、ある一定の問題に関する法律の施行のみが問題となっているのでない場合には、第五条又は第六条の規定に基づく権限にまで及んではならない。

 戦時における政府権限の他機関への委譲に関する規定である。だたし、政府による議会・戦争委員会代行権限や緊急命令の権限を委譲することは、特定法律の施行問題の場合を除き、認められない。

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スウェーデン憲法読解(連載第26回)

2015-04-11 | 〆スウェーデン憲法読解

第一四章 自治体

 スウェーデンは連邦国家ではなく、統合国家の枠内で地方自治を保障するという点において、日本に近い体制である。現行制度は日本の市町村に相当する地方自治体と道府県に相当する地域自治体の二層構造を採る。

第一条

自治体における議決権は、選挙された議会により行使される

 地方議会に関する規定である。日本国憲法とは異なり、自治体首長については規定がない。現行制度は独任首長制ではなく、合議制執行機関である。

第二条

自治体は、一般的利益を有する地方及び地域の問題を地方自治の原則の下に管理する。これに関する詳細は、法律で定める。同様の原則の下に、自治体は法律に定める他の事務についても管理する。

第三条

地方自治は、目的に関して必要な限度を超えて制限してはならない。

 地方自治の具体的内実は法律に委ねられているが、必要な限度を超えた制限は禁じられる。地方自治の本旨を擁護する趣旨である。

第四条

自治体は、その事務の管理のために税を徴収することができる。

 充実した社会サービスの最前線を担う自治体にとって独自の徴税権は最重要の権能となる。なお、スウェーデンでは所得税が原則的に地方税化されている。

第五条

同等な財政的条件に達するために必要な場合には、自治体に対し、他の自治体の事務のための出費を援助することを法律で義務づけることができる。

 スウェーデン独自の自治体相互援助制度(地方財政調整)である。これにより、自治体間の財政格差が居住地域による不合理なサービス格差につながらないように配慮されている。この制度は財政の豊かな自治体が財政の弱い自治体のための援助資金を強制的に拠出させられる仕組みであるため、しばしば義賊ロビンフッドになぞらえて「ロビンフッド税」と揶揄されることもあるが、憲法的にも明確に規定された。

第六条

国の区域を自治体へ変更するための原則に関する規定については、法律で定める。

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スウェーデン憲法読解(連載第25回)

2015-04-10 | 〆スウェーデン憲法読解

第一三章 議会監督

 議会の監督権を独立の章として当てる本章は、スウェーデン憲法の「目玉」の一つである。最も有名なのはオンブズマンであるが、会計検査院も監督権を構成する。このような構成は立法・行政・司法・考試・監察の「五権分立制」を採る台湾の監察権に類似するが、台湾の監察院のように統一的な機関を成すものではなく、いずれも議会自身ないし議員の権限であったり、議会の委員会、議会所属機関等の集合である。従って、監督権は議会の権能の一つをくくり出したものとも考えられよう。

憲法委員会の審査

第一条

1 憲法委員会は、大臣の職務遂行及び政府の事務の処理を審査しなければならない。当該委員会は、当該審査のために、政府の事務に関する決定についての議事録、当該事務に属する文書及び当該委員会がその審査のために必要と判断した他の政府の文書を徴することができる。

2 他の委員会及び各議員は、憲法委員会に対し、書面により大臣の職務遂行及び政府の事務の処理について問題を提起することができる。

第二条

ただし、理由がある場合には、一年に一回以上、憲法委員会は、その審査の際に委員会が通知する価値があると判断した事項について、議会に報告しなければならない。議会は、その結果として政府に提案を行うことができる。

 監督権の筆頭は憲法委員会である。憲法委員会は、名称のごとく憲法問題を所管する議会の常任委員会であると同時に、大臣及び政府の仕事ぶりを審査する監察機関でもある。

大臣に対する訴追

第三条

大臣である者又は大臣であった者に対しては、大臣の職務の遂行の際の犯罪により、その者がその職務上の義務に著しく反した場合にのみ、当該犯罪について裁判を行うことができる。訴追は、憲法委員会により決定され、最高裁判所により審理される。

 憲法委員会は、現職又は元職大臣の職務犯罪に対する訴追機関として、検察権も一部担う。

不信任の表明

第四条

1 議会は、大臣が議会の信任を得ていないことを表明することができる。当該不信任表明に関する動議を審議に付するためには、当該動議は、議員の一〇分の一以上により提出されなければならない。不信任表明には、議員の過半数が賛成票を投じる必要がある。

2 不信任表明に関する動議は、通常選挙が実施されてから、又は特別選挙の決定が通知されてから選挙された議会が集会するまでの間に提出された場合には、審議に付せられない。第六章第一一条の規定に従い、その職を免ぜられた後もその職を保持している大臣に対する動議は、いかなる場合にも審議に付せられてはならない。

3 不信任表明に関する動議は、委員会において審査されてはならない。

 議会による大臣不信任表明も、監督権の一環に位置づけられている。不信任表明された大臣は議長により罷免されるが、政府は対抗上、特別選挙に打って出ることもできる(第六章第七条第一項)。

質疑及び質問

第五条

議員は、議会法に定める細則に従い、大臣の職務遂行に関する事項について、大臣に対して、質疑及び質問を提出することができる。

 議員の質問権も、監督権の一環として位置づけられている。質疑とは説明や見解を質す質問であるのに対し、質問とは事実関係の開示のみを求める質問である。

議会オンブズマン

第六条

1 議会は、議会の議決する指示に従い、公的活動における法律及び他の法令の適用に関する監察を行う一又は二以上のオンブズマン(法務オンブズマン)を選挙する。オンブズマンは、当該指示に規定する場合には、訴えを提起することができる。

2 裁判所及び行政機関並びに国家公務員又は自治体の公務員は、オンブズマンが要求する情報及び意見を提供しなければならない。オンブズマンの監察下にある他の者も当該義務を有する。オンブズマンは、裁判所及び行政機関の議事録及び文書にアクセスする権利を有する。検察官は、要請に基づき、オンブズマンを援助しなければならない。

3 オンブズマンに関する詳細は、議会法及び他の法律で定める。

 スウェーデンと言えばオンブズマンを連想するほど、有名な歴史ある制度であるが、意外にも、憲法上オンブズマンに関する規定はこの一か条だけである。
 とはいえ、この一か条にオンブズマンの基本的な任務と権限がコンパクトに明記されている。それは、基本的に裁判所も含む公的機関(議会をはじめ、除外対象もある)の法令順守を強力な調査権をもって監察する機関である。その意味で、人権救済等に当たる他のオンブズマンと区別して「法務オンブズマン」とも呼ばれる。

会計検査院

第七条

会計検査院は、国により実施される活動を検査する任務を有する議会所属機関である。会計検査院の検査が国の活動以外のものも対象とし得ることに関する規定は、法律で定める。

第八条

1 会計検査院は、議会が選挙する三名の会計検査官により運営される。議会は、会計検査官がもはやその任務に該当する要求を満たしていない場合又は重大な過失に責任を負った場合にのみ、その職を免じることができる。

2 会計検査官は、法律の規定に配慮し、検査すべき事項を独立して決定する。会計検査官は、検査方法及びその検査結果をそれぞれ独立して決定する。

第九条

会計検査院に関する付加的規定は、議会法及び他の法律で定める。

 会計検査院が議会所属機関とされることは、会計検査の究極的権限も議会に帰属することを意味する。第六条の議会オンブズマンとあわせ、議会が公的機関の法令・会計全般にわたる監察権を掌握していることになる。なお、スウェーデン会計検査官は合議制ではなく、三名それぞれが独立して活動することで、馴れ合いを防止している。

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スウェーデン憲法読解(連載第24回)

2015-04-09 | 〆スウェーデン憲法読解

第一二章 行政

 スウェーデン憲法の特色は、行政の章が司法の章の後に来ることである。前章に関連して述べたように、これはスウェーデン行政が司法の原理に準じた客観性・公平性に則って執行されることによる。

国家行政機関

第一条

大法官及び統治法又は他の法律の規定に基づき議会所属機関とされていない国家行政機関は、政府の下に帰属する。

 議会中心主義が徹底しているスウェーデンでは、行政的機能を持った多くの議会所属機関が存在するが、それ以外の行政機関は政府に帰属する。

行政の自律性

第二条

いかなる官庁も、議会又は自治体の議決機関も、特定の場合において、行政機関が個人又は自治体に対する官庁の権限行使又は法律の適用に関わる事案において、どのように決定すべきかを定めてはならない。

 司法の独立に準じて、行政独立の原則が定められている。ただし、これは、あくまでも司法の判決に相当するような行政執行面についての原則であり、施政方針は政府(内閣)が決定する。

第三条

行政の任務は、基本法又は議会法から導かれる範囲を超えて議会により行われてはならない。

 司法と同様の権力分立規定である。逆に読めば、議会は基本法又は議会法の範囲内で一定の行政機能も担うということで、議会は単なる立法機関を超えた広範な権限を持つことになる。

行政の任務の委任

第四条

1 行政の任務は、自治体に委任することができる。

2 行政の任務は、他の法人又は個人に委任することができる。当該任務が官庁の権限行使を含む場合には、委任は法律によってのみ行うことができる。

 政府の個別的な行政任務は自治体のほか、民間の法人や個人にも委任できる。分権と民活である。

国家公務員に関する特別規定

第五条

1 政府の下に所属する行政機関の被用者は、政府又は政府により定められる機関により雇用される。

2 国家公務員の雇用に関する決定に際しては、功績及び能力のような客観的理由のみを考慮しなければならない。

 第二項は、行政官の雇用についても、裁判官の任命基準に準じて、思想信条等の主観的理由の考慮を禁じている。「政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者」の任用を認めない日本の国家公務員法のような規定は、スウェーデン憲法の下では違憲となり得るだろう。

第六条

議会オンブズマン及び会計検査官は、スウェーデン市民でなければならない。大法官についても同様とする。その他、国家公務員職に就任する資格又は自治体において任務を遂行する資格のためのスウェーデン国籍の要求は、法律又は法律に定める条件に基づいてのみ、規定することができる。

 公務員の国籍条項の規定である。このうち、議会オンブズマンや会計検査官は次章の監督権に属する官職であるが、資格要件についてはここで先取りされている。

第七条

統治法に関わるものとは別の点に関する国家公務員の法的地位に関する基本的な規定は、法律で定める。

免除及び恩赦

第八条

法律又は予算に関する決定に別段の定めがない限り、政府は、命令の規定又は政府の決定に基づいて定められた規定の適用除外を認めることができる。

第九条

1 政府は、恩赦により、刑事制裁又は犯罪に対する他の法律効果を免除し、若しくは軽減すること及び個人又は財産を対象とした介入で、機関により決定された他の類似のものを免除し、若しくは軽減することができる。

2 特別な理由が存在する場合には、政府は、犯罪行為を捜査し、又は訴追する措置がそれ以上行われるべきでないことを決定することができる。

 本条第二項は、恩赦ではなく、犯罪捜査・訴追の中止という大胆な規定である。政府が捜査・訴追に介入し、中止させることは一般的には望ましいことではないが、あえて憲法上そうした権限を政府に付与することで、非公式な「圧力」で捜査・訴追が妨害されることを防止しようというスウェーデン流の実際主義的な規定である。

法律の審査

第一〇条

1 ある規定が基本法又は他の優越する法令に抵触すると公的機関が判断した場合には、当該規定は適用してはならない。法令の制定時に、重大な点において法により定められた手続が顧慮されなかった場合も同様とする。

2 法律に関する第一項の規定に基づく審査の際には、議会が国民の第一の代表機関であり、基本法は法律に優越することに特に留意しなければならない。

 前章で見たとおり、スウェーデンには憲法裁判所の制度はなく、違憲審査権は裁判所とともに、行政機関にも与えられている。裁判所と同様、法令制定時の瑕疵にまで遡った審査も可能である。これも行政執行が司法の原理に準じて行われることから可能になることである。

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スウェーデン憲法読解(連載第23回)

2015-03-28 | 〆スウェーデン憲法読解

第一一章 司法(続き)

正規の裁判官の任命

第六条

1 正規の裁判官は、政府が任命する。

2 任命に際しては、功績及び能力のような客観的理由のみを考慮しなければならない。

3 正規の裁判官の任命の際の手続の原則に関する規定は、法律で定める。

 裁判官の任命権が政府にあるのは、日本などと同様であるが、任命に当たっては客観的理由のみを考慮するという制約がついている。逆に言えば、主観的理由を考慮してはならないということである。従って、日本でしばしば問題視されてきた思想信条を理由とする「任官拒否」のようなやり方は、本条に違反することになる。

正規の裁判官の法的地位

第七条

1 正規の裁判官に任命された者は、次の各号に掲げる場合にのみその職を免ぜられる。

一 当該裁判官が犯罪又は職務上の重大な怠慢若しくは繰り返された怠慢により、その職を保持することが明らかに不適切となった場合

二 当該裁判官が該当する年金受給年齢に達した場合又は法律に従い職務遂行能力の永続的な喪失を理由として離職する義務がある場合

2 組織上の理由により必要とされる場合には、正規の裁判官に任命された者を他の同等の裁判官の職に転任させることができる。

 裁判官職の身分保障に関する規定である。第二項は裁判官の異動を認めるものの、同等職への異動に限定され、いわゆる左遷は許されないことになる。

第八条

1 最高裁判所又は最高行政裁判所の裁判官としての職務の遂行の際における犯罪に対する訴追は、最高裁判所により提起される。

2 最高行政裁判所は、最高裁判所の裁判官がその職を免ぜられるべきか否か若しくは停職されるべきか否か又は医学的診察を受ける義務を負うか否かを審査する。そのような訴えが最高行政裁判所の裁判官を対象としている場合には、最高裁判所が審査を行う。

3 第一項及び第二項の規定に基づく訴えは、議会オンブズマン又は大法官により提起される。

 最上級審の裁判官の処分は、議会オンブズマン又は大法官(政府の法律代官)の提訴に基づき、基本的に二種の最高裁判所自身で行なう。司法の頂点にある最上級審の裁判官の身分保障を万全なものにするためであるが、「身内」の審査となる嫌いはある。

第九条

正規の裁判官が裁判所以外の官庁の決定により職を免ぜられた場合には、当該裁判官は、当該決定が裁判所により審査されることを要求することができる。当該審査の際には、正規の裁判官が裁判所で審理する。正規の裁判官を停職とした決定、医学的診察を受けるよう命じた決定又は服務上の制裁を科した決定についても同様とする。

 日本国憲法では裁判所以外の官庁が裁判官に処分を下すことは認めないが、スウェーデンではこれを認めたうえ、裁判所による不服審査を保障する二段構えの規定である。

第一〇条

その他正規の裁判官の法的地位に関する基本的な規定は、法律で定める。

国籍要件

第一一条

正規の裁判官は、スウェーデン市民でなければならない。その他、司法の任務を遂行する権限のためのスウェーデン国籍の要求については、法律により、又は法律に定める条件に従ってのみ定められる。

 外国籍裁判官を排除することが憲法上の要求となっている。外国の司法支配を排除する趣旨であるが、欧州連合加盟との関連で見直しの可能性も秘めた規定である。

裁判所における他の職

第一二条

正規の裁判官以外の裁判所の職については、第一二章第五条から第七条までの規定が適用される。

 裁判官以外の裁判所事務職については、行政官に準じた扱いとなる。

再審及び失効期間の回復

第一三条

1 確定した事件の再審及び失効期間の回復は、最高行政裁判所により、又は法律が定める場合で、政府、行政裁判所若しくは行政機関が終審となっている事件に該当するときは、下級の行政裁判所により許可される。他の場合には、再審及び失効期間の回復は、最高裁判所により、又は法律に定める場合には、それ以外の裁判所により許可される。

2 再審及び失効期間の回復に関する詳細な規定は、法律で定める。

 確定事件の再審と失効期間の回復の審理機関に関する規定である。原則的には、二種の最高裁判所の権限である。

法律の審査

第一四条

1 ある規定が基本法又は他の優越する法令と抵触すると裁判所が判断した場合には、当該規定を適用してはならない。法令の制定時に、重大な点において法により定められた手続が顧慮されなかった場合も同様とする。

2 法律に関する第一項の規定に基づく審査の際には、議会が国民の第一の代表機関であり、基本法は法律に優越することに特に留意しなければならない。

 スウェーデンには憲法裁判所の制度はなく、違憲審査も一般の裁判所が行なう点で、アメリカや日本と同様である。ただし、第一項は違憲審査のほか、制定手続の瑕疵に遡った法令審査まで認めている。
 第二項は、裁判所が国民代表機関の制定した法令を尊重すると同時に、憲法を積極的に適用し、違憲判断を躊躇しないように促す趣旨であろう。

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スウェーデン憲法読解(連載第22回)

2015-03-27 | 〆スウェーデン憲法読解

第一一章 司法

 本章及び次章はそれぞれ司法及び行政に関わる章である。日本国憲法はじめ他国の憲法では行政→司法の順で定められるのが通例であるところ、司法→行政の順となるのは、スウェーデン憲法の特徴である。この順番は単なる偶然ではなく、スウェーデンでは基本法第一章第九条に「裁判所及び行政機関並びに他の行政上の任務を遂行する機関は、その活動において、すべての人の法の下の平等を考慮し、客観性及び公平性に配慮しなければならない。」とあったように、行政執行も司法的な原理に準じて行なわれることに由来するものと考えられる。

裁判所

第一条

1 最高裁判所、控訴裁判所及び地方裁判所は、通常の裁判所である。最高行政裁判所、行政控訴裁判所及び行政裁判所は、通常の行政裁判所である。最高裁判所、最高行政裁判所、高等裁判所及び高等行政裁判所により事件の審理を受ける権利は、法律により制限することができる。

2 他の裁判所は、法律により設置される。ある一定の場合における裁判所の禁止については、第二章第一一条第一項において定める。

3 最高裁判所又は最高行政裁判所の裁判官は、正規の裁判官として現に任命されているか、すでに任命された者のみが務めることができる。正規の裁判官は他の裁判所でも務める。ただし、特定の集団又は特定の事件群を審理するために設置された裁判所については、法律で例外を定めることができる。

 スウェーデン司法は通常裁判所系列と行政裁判所系列の二元制を採り、それぞれが三審制による。

第二条

裁判所による司法の任務、裁判所の組織の大綱及び裁判手続については、統治法が言及する観点とは別のものから、法律で定める。

 司法は専門技術性が高度な権力組織であるため、裁判所法のような特別法による別途規定が必要となる。

司法の自律性

第三条

いかなる官庁も、議会も、裁判所が個別の場合においてどのように判断し、又はその他の個別の場合においてどのように法の規定を適用するかを決定してはならない。また、いかなる他の機関も裁判の任務を個々の裁判官にどのように配分するかを決定してはならない。

 司法の独立を決定と権限配分の観点から明快に定めた規定である。

第四条

司法の任務は、基本法又は議会法から導かれる範囲を超えて議会により行われてはならない。

 司法権は原則として裁判所にあることを明確に確認している。ただし、選挙争訟(基本法第一二条)など例外的に議会が司法的任務を行なう場合も認められている。

第五条

私人間の法的紛争は、法律の規定によらずに、裁判所以外の官庁により、解決されてはならない。

 逆に読めば、裁判外の紛争解決は法律の規定が認める場合には許されるということである。紛争の司法的解決の原則を示している。

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スウェーデン憲法読解(連載第21回)

2015-03-13 | 〆スウェーデン憲法読解

第一〇章 国際関係

 本章は、条約を中心とした国際関係(外交権)に関する詳細規定をまとめた章である。スウェーデンに限ったことではないが、スウェーデンも1995年の欧州連合加盟以来、国際関係が複雑化しており、国家主権との関係上憲法的な整理の必要が生じ、国際関係に関する規定が増補されている。

条約を締結する政府の権限

第一条

他の国又は国際機関との間の条約は、政府により締結される。

第二条

政府は、議会又は外交評議会の協力を要求しない問題に関する条約を締結することを行政機関に委任することができる。

 条約の締結権を原則的に政府が持つのは、ごく標準的な規定である。なお、第二条にある外交評議会とは、第一二条で規定される国家元首を議長とする正式な外交審議機関である。

第三条

1 国を拘束する条約で、次の各号に掲げるものを政府が締結する前には、議会による批准が必要とされる。

一 法律が改正され、若しくは廃止されること又は新たな法律が制定されることを前提としている条約

二 その他議会が議決すべき問題に該当する条約

2 第一項第一号又は第二号に規定する議会の議決が特別の方法に従って行われるべき場合には、条約の批准に際しても同様の方法が採られなければならない。

3 その他の場合においても、国を拘束する条約が重大な意義を有する場合には、当該条約が締結される前に議会による批准が必要とされる。ただし、国益上必要とされる場合には、政府は、議会による批准を断念することができる。その際、政府は、代替措置として、条約を締結する前に、外交評議会と協議しなければならない。

第四条

第三条に規定する条約で、欧州連合における協力の枠組み内で締結されるものは、当該条約が最終段階のものでない場合であっても、議会がこれを批准することができる。

 条約の批准を全面的に政府の権限とせず、重要性の高い条約については議会の権限とするのは、議会を重視するスウェーデンの特質である。

他の国際的義務及び条約破棄

第五条

第一条から第四条までの規定は、国に対する条約以外の国際的義務及び条約又は国際的義務の破棄にも適用される。

欧州連合の協力の枠内の議決権の委譲

第六条

1 欧州連合における協力の枠組みの範囲内で、議会は、国家体制の根幹に関わらない議決権を委譲することができる。当該委譲は、それが関係する協力の分野における権利及び自由の保護が統治法並びに人権及び基本的自由の保護のための欧州条約による保護に対応していることを前提とする。

2 議会は、投票者の四分の三以上で、かつ、議員の過半数が賛成票を投じた場合に、当該委譲について議決することができる。この議会の議決は、基本法の制定に適用される方法により行うこともできる。委譲は、第三条の規定に基づく議会による条約の批准の後でなければ議決することができない。

 欧州連合加盟に伴って生じた議会の議決権委譲に関する規定である。議決権委譲は、国家主権の一部譲渡に等しいため、憲法上慎重な条件が課せられる。委譲できるのは国家体制の根幹に関わらない限度で、かつ厳正な手続的条件を要する。 

欧州連合の協力の枠外の議決権の委譲

第七条

1 第六条の規定とは別の場合に、この統治法に直接根拠を有し、法令の規定が定める議決権、国家資産の利用、司法若しくは行政の職務又は条約の締結若しくは破棄は、国が参加する、若しくは参加する予定の平和的協力のための国際機関又は国際的な裁判所に限定された範囲で委譲することができる。

2 基本法の制定、改正若しくは廃止、議会法若しくは議会選挙法に関する問題又は第二章に規定する自由及び権利の制限に関する問題についての議決権は、第一項の規定に基づき、委譲されてはならない。

3 議会は、第六条第二項に規定する方法により、委譲について議決する。

第八条

1 この統治法に直接根拠を有しない司法又は行政の職務は、第六条とは別の場合に、議会の議決により、他の国、国際機関又は外国の若しくは国際的組織若しくは団体に委譲することができる。議会が、法律により、政府又は他の機関に対し、特別な場合に当該委譲について決定する権限を付与することができる。

2 職務が機関の権限行使に関わる場合には、議会は、第六条第二項に規定する方法により、委譲又は権限付与について議決する。

 第七条と第八条は、国際連合など欧州連合以外の外国や国際機関等への議決権や司法、行政上の職務権限の委譲について定めている。ただし、基本法や議会法、基本権に関わる問題については委譲できない。

条約の将来の改正

第九条

条約がスウェーデン法として効力を有するべきであると規定される場合には、議会は、国を拘束する将来の条約の改正もスウェーデン法として効力を有するべきであると議決することができる。当該議決は、限定された範囲の将来の改正のみを予定することができる。当該議決は、第六条第二項に規定する方法によりなされる。

欧州連合の協力に関する情報及び協議に対する議会の権限

第一〇条

政府は、欧州連合における協力の枠組み内で生じていることについて、継続的に情報提供し、議会により選出された機関と協議しなければならない。情報提供及び協議の義務の詳細は、議会法で定める。

外交評議会

第一一条

政府は、国にとって重要性を有する可能性のある外交政策の状況について継続的に外交評議会に報告し、必要な頻度、当該政策について評議会と協議しなければならない。重要度の高い外交問題については、政府は、可能な場合には、決定前に当該評議会と協議する。

第一二条

1 外交評議会は、議会議長及び議会内部から選挙される他の九人の評議員により構成される。外交評議会の構成の詳細については、議会法で定める。

2 外交評議会は、政府の招集により集会する。政府は、五人以上の評議員からある一定の問題について協議するよう要求があった場合には、評議会を招集する義務を負う。評議会の集会の際の議長は、国家元首であり、国家元首に支障があるときは、総理大臣である。

3 外交評議会の評議員及び評議会と関係を有する他の者は、その者がその権限で知り得たことについて、第三者に報告する際に、注意しなければならない。議長は、無条件の守秘義務を決定することができる。

 外交問題の審議機関である外交評議会は、スウェーデン独自の制度である。議長は原則として国家元首(君主)が務める点で、歴史的に君主が有した外交権の名残でもあるが、他の評議員は国会議長をはじめとする議員である点において、議会による外交統制という民主的な意義をも有するユニークな制度である。

国家機関の報告義務

第一三条

外交問題を所掌する省庁の長は、他の国又は国際機関との関係にとって重要な問題が国家機関の下に生じた場合には、報告を受けなければならない。

国際刑事裁判所

第一四条

第二章第七条、第四章第一二条、第五章第八条、第一一章第八条及び第一三章第三条の規定は、国際刑事裁判所に関するローマ規程又は他の国際的な刑事裁判所との関係を理由とするスウェーデンの義務の履行を妨げない。

 人道犯罪を裁く国際的な刑事裁判所との関係では、君主の訴追免除特権をはじめ、憲法上の所定の制約は排除される。国際人道裁判に関する限り、部分的に国際法を憲法に優位させる先進的な規定である。

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スウェーデン憲法読解(連載第20回)

2015-03-12 | 〆スウェーデン憲法読解

第九章 財政権

 法令制定に関する詳細規定がまとめられていた前章に続き、本章では財政に関する詳細規定がまとめられている。租税を財源に高度な社会サービスを提供してきたスウェーデンでは財政権は立法権と並び、特に重要な議会の権限である。

国家歳入及び歳出に関する議決

第一条

議会は、国税及び国の公課並びに国家予算について議決する。

 財政民主主義の原則規定である。以下、第一一条までは、この原則に基づく見出し付きの極めて簡潔明快で実際的な規定が続くので、個別的な注解は割愛する。

予算案

第二条

政府は、予算案を議会に提出する。

予算に関する議決

第三条

1 議会は、来年度の予算又は特別な理由がある場合には他の予算期の予算について議決する。

2 議会は、予算期とは別の期間のために特別の歳出が行われるべきことを議決することができる。

3 議会は、歳出に関する議決とは別の方法により、国家歳入が特定の目的のために利用されることができることを決定することができる。

第四条

同一予算期において、議会は、新しい国家歳入の見積もり及び新しい歳出又は変更された歳出について議決することができる。

第五条

1 議会が予算期より前に当該予算について議決しなかった場合には、議会は、必要な範囲内で予算が議決されるまでの歳出について議決する。議会は、財務委員会の名の下に、当該議決を行うことを委任することができる。

2 議会が第一項に規定する議決を何らかの目的のため行わなかった場合には、歳出が議決されるまで、議会の別の議決による修正とともに、直近の予算が適用される。

指針の議決

第六条

議会は、次期の予算期以降に向けて、国家の活動に関する指針について議決することができる。

歳出及び歳入の利用

第七条

歳出及び歳入は、議会の決定とは別の方法で利用してはならない。

国家資産及び国家債務

第八条

1 議会所属機関が特に規定していない限りにおいて、又は法律により特定の行政のために留保されていなかった限りにおいて、政府は、国家資産を管理し、処分する。

2 政府は、議会が認めた場合を除き、債務を引き受け、又は他の国家の財政上の債務を負ってはならない。

第九条

議会は、国家資産の管理及び処分のための原則について議決する。さらに、議会は、何らかの種類の措置が議会の承認なしに講じられてはならないことを議決することができる。

国家年次報告

第一〇条

政府は、予算期の終了後に、議会に国家年次報告を提出する。

予算に関する付加的規定

第一一条

予算に関する議会及び政府の権限及び責任に関する付加的規定は、議会法及び特別法で定める。

為替政策

第一二条

政府は、全般的な為替政策の問題について責任を有する。為替政策に関する他の規定は、法律で定める。

国立銀行

第一三条

1 国立銀行は、国の中央銀行であり、議会所属機関である。国立銀行は、通貨政策に責任を有する。いかなる官庁も、国立銀行が通貨政策に関する問題についてどのように決定すべきかを定めてはならない。

2 国立銀行は、議会が選挙する一一人の委員により構成される。国立銀行は、委員により選出される理事会により指揮される。

3 議会は、委員及び理事会の構成員に責任がないことが認められるべきか否かを審査する。議会が委員に責任がないことを認めなかった場合には、当該委員は、それによりその職務を免ぜられなければならない。委員は、理事会の構成員が職務遂行可能な要求を満たすことがもはやできなくなった場合又は重大な過失責任がある場合にのみ、理事会からその構成員を免ずることができる。

4 委員の選挙並びに国立銀行の運営及び活動についての規定は、法律で定める。

第一四条

国立銀行のみが紙幣及び硬貨を発行する権利を有する。その他通貨制度及び支払制度に関する規定は、法律で定める。

 スウェーデン国立銀行(中央銀行)は議会所属機関という位置づけを持ち、議会の監督下に置かれる。財政にも影響する通貨政策に責任を持つ中央銀行に対しても議会の統制を及ぼす趣旨であり、拡大された財政民主主義とも言える。

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スウェーデン憲法読解(連載第19回)

2015-03-01 | 〆スウェーデン憲法読解

第八章 法律及びその他の法令(続き)

法律の改廃

第一八条

1 法律は、法律によらずに改正し、又は廃止してはならない。

2 基本法又は議会法の改正又は廃止については、第一四条から第一七条までの規定が適用される。第二条第一項第四号に規定する法律については、第一七条第一項の規定が適用される。

 法律、基本法、議会法、議会法に準じる宗教団体法の改廃についても、制定に準じた手続が要求される。

法令の公布及び公刊

第一九条

1 議決された法律は、可能な限り速やかに政府により公布されなければならない。ただし、議会又は議会所属機関に関する規定で基本法又は議会法に取り入れられるべきではないものを含む法律は、議会が公布することができる。

2 法律は、可能な限り速やかに公刊されなければならない。法律に別段の定めがない限り、命令についても同様とする。

 法令の公布に関する手続的な規定である。法令の公布はその公刊をもって完了するので、公布と公刊を分けて規定している。

法制審議会

第二〇条

法案についての意見を表明するために、法制審議会を設置しなければならず、法制審議会には、最高裁判所及び最高行政裁判所の裁判官又は必要な場合には元裁判官が構成員として参加する。法制審議会の構成及び職務に関する詳細は、法律で定める。

第二一条

1 法制審議会の意見は、政府により、又は議会法が詳細を定めるところに従い、議会の委員会により徴される。

2 議会は次の各号に掲げる法律を議決する前に、意見を徴さなければならない。

一 出版の自由に関する基本法又はラジオ、テレビ及び類似の伝達手段、データベースから行なわれる公演並びに技術的記録における同様の表現の自由に関する基本法

二 公文書にアクセスする権利の制限に関する法律

三 第二章第一四条から第一六条まで、第二〇条又は第二五条に規定する法律[評者注・おおむね人権制約立法]

四 個人情報について全部又は一部を自動的に取り扱うことに関する法律

五 コミューンの税に関する法律又はコミューンに対する義務を含む法律

六 第二条第一項第一号若しくは第二号に規定する法律又は第一一章[評者注・司法]若しくは第一二章[評者注・行政]に規定する法律

七 第一号から第六号までに掲げる法律を改正し、又は廃止する法律

3 法制審議会の審議が問題の性質上、意義を喪失する可能性がある場合又は深刻な損害が生じるほど法律制定を遅らせる可能性がある場合には、第二項の規定は適用しない。議会が第二項に規定する事項について法律を制定すべきであると政府が提案する場合で、かつ、それ以前に法制審議会の意見が徴されなかった場合には、政府は、同時にその理由を議会に対し、説明しなければならない。法案について法制審議会の意見が徴されなかったことにより、法律の適用は、妨げられない。

第二二条

法制審議会の審議は、次の各号に掲げる事項を対象とする。

一 法案が基本法及び法秩序とどのような関係にあるか

二 法案の規定が相互にどのような関係にあるか

三 法案が法秩序の要請とどのような関係にあるか

四 定められた目的を法律が満たすものと規定し得る程度に法案が作成されているか否か

五 適用に際してどのような問題が生じ得るか

 法制審議会とは、法案作成に際して設置されるチェック機関であり、日本では内閣法制局と衆参両院法制局に相当するものとみなし得るが、常設機関ではなく、法案ごとに個別に設置される非常置機関である点に違いがある。また最高裁判所裁判官の参加が義務づけられているのが特徴である。これにより、最高裁判所裁判官は部分的に立法にも関与することになる。

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スウェーデン憲法読解(連載第18回)

2015-02-28 | 〆スウェーデン憲法読解

第八章 法律及びその他の法令(続き)

基本法及び議会法の制定

第一四条

基本法は、二度の同文の議決により制定される。一回目の議決により、基本法案は未決の状態で承認される。二回目の議決は、一回目の議決の後に全国規模の議会選挙が実施され、新たに選挙された議会が集会した時よりも前に行われてはならない。さらに、憲法委員会が例外について議決しない限り、最初に議案が本会議に通知された時点と選挙との間には、九か月以上経過しなければならない。この例外の議決は、遅くとも議案の審査までに行わなければならず、構成員の六分の五が当該議決に賛成票を投じなければならない。

 本条から第十六条までは、基本法すなわち憲法の制定手続に関する特則である。ただし、初めに述べたように、スウェーデン基本法はこの統治法のほかに、王位継承法、出版の自由に関する法律、表現の自由に関する基本法を含む計四法典の集合体であるので、本条以下の規定は、これら四法典すべての制定に適用される。
 基本法は最高法規であるから、一般法律よりも厳重な手続によって制定され、本条は議会選挙をはさんで二度の議決を要求している。議会選挙を要求するのは、基本法の制定に関して、原則的に国民投票が要求されないことの代替としてであろう。

第一五条

議会は、最初に承認された基本法案を同時に否決する場合を除き、他の未決の状態にある基本法案に抵触する基本法案を未決の状態で承認してはならない。

 本条は、複数の基本法案を同時に審議する場合に、相互に矛盾した法案が議決されることのないよう配慮した規定である。憲法が複数の法典から成る国ならではの規定と言える。

第一六条

1 一〇分の一以上の議員の動議が提出され、かつ、三分の一以上の議員が当該動議に賛成票を投じた場合には、未決の状態にある基本法案についての国民投票が行われなければならない。当該動議は、議会が当該基本法案を未決の状態で承認した時から五日以内に提出されなければならない。当該動議は、委員会において審査してはならない。

2 当該国民投票は、第一四条に規定する議会の選挙と同時に実施される。当該国民投票に際しては、議会の選挙の投票権を有する者が未決の状態にある基本法案を承認するか否かを表明することができる。当該基本法案に反対した者が賛成した者よりも多く、かつ、反対票を投じた者の人数が議会選挙の際に投じられた有効投票の半数を超えている場合には、当該基本法案は否決される。他の場合には、議会は、最終審査のために当該基本法案を上程する。

 基本法制定に際して、原則的に国民投票は行なわれないが、議会の判断により、基本法制定過程での議会選挙に付随して国民投票が行なわれることがある選挙で信を問うだけでは済まされない場合に、有権者に直接賛否を問う趣旨である。

第一七条

1 議会法は、第一四条第一文から第三文まで及び第一五条に規定する方法により制定される。また、議会法は、投票者の四分の三以上かつ議員の過半数が議決に賛成票を投じた場合には、一回の議決のみにより制定することができる。

2 ただし、議会法における補足規定は、法律一般と同一の方法により制定される。

3 第一項の規定は、第二条第一項第四号に規定する法律の改正にも適用される。

 議会手続や議会の内部事項の詳細を定める議会法(国会法)は基本法を構成しないが、その重要性に鑑み、その制定は基本法に準じる。ただし、議会選挙は不要で、かつ所定の場合には一回の議決で決してよいものとされる。さらに、補足規定については通常の法律と同様の手続で制定できる。
 また、宗教的共同体に関する法律の制定も議会法の制定に準じる。歴史上王室主導での宗教改革を経験したスウェーデンにおける宗教問題の重要性を反映した規定である。

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スウェーデン憲法読解(連載第17回)

2015-02-27 | 〆スウェーデン憲法読解

第八章 法律及びその他の法令

 議会及び政府に関する章に続く本章では、議会及び政府が担う基本法(憲法)を含む諸法令の制定権限や制定・改廃手続きに関する詳細な規定がまとめられている。法治国家原則の具体化とも言える。

第一条

1 法令は、議会により法律を通じて、政府により命令を通じて制定される。法令は、議会又は政府の授権の後、政府以外の機関又は自治体により制定することもできる。

2 法令の制定に関する授権は、常に法律又は命令によらなければならない。

 議会の法律、政府の命令を軸とし、法令の委任も許容される体系は、日本ともほぼ同じである。ただし、自治体による法令制定は常に議会又は政府の授権によらなければならない点では、法律の範囲内で自治体独自の条例制定を認める日本国憲法よりも自治体の法令制定権が制約されている。

法律を通じて制定される法令

第二条

1 次の各号に掲げる事項は、法律により制定されなければならない。

一 個人の私的地位及びその相互間の私的及び経済的な関係

二 個人の義務に関連し、又は他の点において、個人の私的若しくは経済的状況を侵害するような個人と公的機関との関係

三 自治体の組織及び活動形式の原則、自治体税の原則並びに他の自治体の権限及びその責任

四 宗教的共同体及び宗教的共同体としてのスウェーデン教会のための原則

五 全国的規模の諮問的国民投票及び基本法問題に関する国民投票の際の手続

六 欧州議会選挙

2 この統治法及びその他の基本法の他の規定に基づき、ある内容の法令を法律を通じて制定すべきこともある。

 本条第一項は、全国的に統一された内容を原則として必ず議会の法律で定めておくべき六つの事項を列挙している。第二項は、その他個別に規定される法律事項に関する注意規定である。本条の規定により、議会の立法権に留保された権限内容が明確になる。

政府により制定される法令

第三条

1 議会は、第二条第一項第二号及び第三号に規定する法令の制定を政府に授権することができる。ただし、当該法令は、次の各号に掲げる事項を規定してはならない。

一 罰金以外の犯罪に対する法律効果

二 物品の輸入関税を除く税

三 破産又は強制執行

2 議会は、第一項に規定する授権を含む法律において、当該授権に基づき政府により制定される法令の違反について、罰金以外の犯罪に対する法律効果も制定することができる。

 本条から第六条までは法律による委任命令に関する規定である。ここでも委任できる事項が明確に規定されている。本条は最も基本的な授権規定であるが、政府の委任命令に罰金刑以外の刑罰を規定することは禁止されている。

第四条

議会は、義務の履行の際の猶予に関して、第二条第一号から第三号までに規定する法令の制定を政府に授権することができる。

第五条

議会は、次の各号に掲げる事項について規定する法令の制定を政府に授権することができる。

一 当該法律を施行すべき時期

二 当該法律の一部を施行すべき時期又は失効させるべき時期

三 他の国又は国際機関との関係における当該法律の適用

第六条

この統治法に基づく授権により、政府が制定した法令は、議会が決定した場合には、審議のために議会に提出される。

 委任命令であっても、議会の決定があれば、法律に準じて議会の審議にかける規定である。政府に丸投げせず、議会審議を重視する趣旨である。

第七条

1 政府は、第三条から第五条までの規定に加え、次の各号に掲げる法令を制定することができる。

一 法律の執行に関する命令

二 基本法に基づき、議会により制定すべきものとされていない法令

2 第一項に規定する法令は、議会又は議会所属機関について規定してはならない。政府は、第一項第二号の規定により自治体の税について規定する法令を制定してはならない。

 本条は政府が授権によらず独自に制定できる命令の範囲を定める規定である。この点、第一項第一号の執行命令はともかくとして、第二号で独立命令がかなり広範に認められているのは、スウェーデン憲法の実際的な特徴を示している。

第八条

政府がある一定の問題について法令を制定することができることは、議会が同一の問題について法令を制定することを妨げない

 政府の排他的立法権を否定する注意規定である。法令制定の中心があくまでも議会に存することを確認する趣旨である。

議会及び政府以外の機関により制定される法令

第九条

議会は、次の各号に掲げる事項について、第二条第一項第二号に規定する法令の制定を自治体に授権することができる。

一 公課

二 自治体内の交通状況の規制を目的とした税

 本条は自治体への授権法に関する規定である。第一条に関連して述べたように、スウェーデンでは自治体固有の条例制定権は認められていない。

第一〇条

議会は、この章の規定に基づき、ある一定の問題についての法令の制定を政府に授権した場合には、政府が行政機関又は自治体に当該問題についての法令の制定を授権することを併せて認めることができる。

 本条は、政府への委任命令が認められる場合における政府から行政機関又は自治体への再委任を認める規定である。

第一一条

政府は、政府の下の機関又は議会所属機関のうちのいずれかに第七条の規定に基づく法令の制定を授権することができる。ただし、議会所属機関への授権は、議会又は議会所属機関の内部事項を定めてはならない。

 政府の執行命令や独立命令の制定を政府機関や議会所属機関に委任する政府からの委任立法に関する規定である。ただし、議会やその所属機関の内部事項は議会の権限に留保される。

第一二条

第一〇条又は第一一条の規定に基づく授権により政府の下の機関により制定された法令については、政府が決定した場合には、審査のために政府に提出される。

 委任命令が議会の決定により議会審議に付されるのと同様に、再委任命令や政府委任命令についても、政府の決定により政府の審査に付される。

第一三条

1 議会は、法律により国立銀行に対し、第九章に規定する責任分野内で、かつ、安定的で効果的な支払制度を促進する義務に関する問題について、法令の制定を委任することができる。

2 議会は、議会又は議会所属機関の内部事項について定める法令の制定を議会所属機関に授権することができる

 本条第一項は、一定の範囲で国立銀行にも委任命令の制定を認める規定である。これにより、中央銀行の地位にあるスウェーデン国立銀行は限定的な立法権を有する。
 第二項は、第一一条但し書きで議会の権限に留保された議会や議会所属機関の内部事項について、議会所属機関への委任命令を認めるものである。

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スウェーデン憲法読解(連載第16回)

2015-02-14 | 〆スウェーデン憲法読解

第七章 政府の活動

 本章は、政府(内閣)の活動に関する細則を定めている。そこでは政府が透明性を確保しつつ、合理的に活動できるようにするための工夫が見られる。

政府官房及びその職務

第一条

政府の事務を準備するため、並びに政府並びに大臣を他の活動において補佐するため、政府官房を設置しなければならない。政府官房には、様々な活動部門に関する省庁が所属する。政府は、その事務を省庁ごとに分配する。総理大臣は、大臣の中から省庁の長を任命する。

 政府官房は、日本の内閣官房に相当する政府の中枢部署であるが、単なる調整機関ではなく、各省庁を包括することで、縦割りのセクショナリズムを防止しようとするものと考えられる。

事務の準備

第二条

政府の事務の準備に際しては、関係する機関から必要な情報及び意見が収集されなければならない。情報及び意見は、必要な範囲内で、自治体からも収集されなければならない。団体及び個人にも、必要な範囲内で、意見を述べる機会が与えられなければならない。

 政府の活動準備に当たり、自治体を含む関係機関からの情報・意見収集、さらにはパブリックコメントの機会の保障が義務づけられている。政府の活動が独善に陥らないための工夫である。

第三条

1 政府の事務については、政府により閣議の際に決定する。

2 ただし、国防軍内における法令又は特別な政府の決定の執行に該当する政府の事務は、法律に定める範囲内で、総理大臣の監督の下、当該事務が属する省庁の長により決定することができる。

第四条

総理大臣は、他の大臣を閣議に招集し、閣議を主宰する。閣議には、少なくとも五人の大臣が出席しなければならない。

第五条

閣議の際には、省庁の長が当該省庁に属する事務についての報告者となる。ただし、総理大臣は、当該省庁に属する一つの事務又は一連の事務が当該省庁の長とは別の大臣によって報告されるよう、指示することができる。

 政府の事務は原則として閣議の決定事項とされ、政府の活動中心が閣議にあることを明確にするとともに、閣議の出席要件や決定方法、報告方法は合理化され、全体して効率的な意思決定ができるように工夫されている。

議事録及び反対意見

第六条

閣議に際しては、議事録が作成されなければならない。反対意見は、当該議事録に記録されなければならない。

 反対意見を明記した閣議議事録の作成が、憲法上義務づけられている。このように閣議に全員一致を求めず、反対意見もあえて記録に残すことは、第一章第一条で宣言された意見の自由を基調とするスウェーデン民主主義の現れとも読める。

第七条

法令、議会への提案及び発すべき他の決定は、効力を有するためには、政府の名の下に総理大臣又は他の大臣による署名が行われなければならない。ただし、政府は、命令により、特別の場合に、発すべき決定に対して、公務員が署名することができるようにしなければならない旨の規定を定めることができる。

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スウェーデン憲法読解(連載第15回)

2015-02-13 | 〆スウェーデン憲法読解

第六章 政府

 国家元首の規定に続く本章及び次章は、政府とその活動に関する規定である。スウェーデンは、立憲君主制をベースとする議院内閣制を採るため、政府の基本的な仕組みは日本の内閣制度とも類似するが、より「濃厚」な議院内閣制である。

政府の構成

第一条

1 政府は、総理大臣及び他の大臣により構成される。

2 総理大臣は、第四条から第六条までの規定に従い選出される。総理大臣は、他の大臣を任命する。

第二条

1 大臣は、スウェーデン市民でなければならない。

2 大臣は、いかなる雇用もなされてはならない。大臣は、その信用を失墜する可能性のあるいかなる任務も引き受けてはならない。

 政府の構成は日本の内閣とほぼ同じであるが、第二条で大臣はスウェーデン市民であることに加え、厳格な職務専従義務が課せられている点が注目される。

選挙後の総理大臣の表決

第三条

1 新たに選挙された議会は、集会から二週間以内に、表決により、総理大臣が議会において十分な支持を得ているか否かに関する問題について審議しなければならない。議員の過半数が反対を表明した場合には、総理大臣は、辞任しなければならない。

2 総理大臣がすでに辞任している場合には、表決は、実施されない。

 総理大臣は、日本のように新規議会ごとに任命し直すのではなく、辞任しない限り、信任の審議と表決を受けるだけで足りる。これにより、総理大臣の在任期間が比較的長くなり、日本の議院内閣制においてありがちな短期間で頻繁に総理大臣が交代することがなくなる。

政府の形成

第四条

1 総理大臣を選出すべき場合には、議長は、議会内の各会派の代表者を協議のために招集する。議長は、副議長と協議し、その後、議会に提案を行う。

2 議会は、四日以内に、委員会における事前審査を経ずに、当該提案の審議を表決により行う。議員の過半数が当該提案に反対票を投じた場合には、当該提案は否決される。他の場合には、承認される。

第五条

議会が議長の提案を否決した場合には、第四条の規定に基づく手続が繰り返されなければならない。議会が四回議長の提案を否決した場合には、当該手続が中断され、議会の選挙が実施された後、再開されなければならない。通常選挙が三か月以内に実施されない場合には、同期間内に特別選挙を実施しなければならない。

第六条

1 議会が新しい総理大臣に関する提案を承認した場合には、総理大臣は、可能な限り速やかに他の大臣を議会に対し、通知しなければならない。その後、国家元首または国家元首に支障がある場合には、議長の臨席する特別の閣議の際に、政府の交代が行われる。議長は、常に当該閣議に招かれなければならない。

2 議長は、議会の名の下に総理大臣の任命文書を発行する。

 スウェーデン議会は小党にも配慮された比例代表制に基づく多党制であるため、総理大臣の選出に当たっても、会派協議が鍵となり、場合によっては総理大臣が選出されない可能性もあるため、第五条のような再選挙の規定が用意されている。
 一連の総理大臣選出手続を主宰するのは議長であり、最終的に議会を代表して総理大臣を任命するのも議長である。内閣総理大臣の形式的な任命を天皇がする日本とは異なり、スウェーデンの議院内閣制はまさに議院=内閣の制度であると言える。

総理大臣又は他の大臣の罷免

第七条

1 議会が総理大臣又は他の大臣が議会の信任を得ていないと宣言した場合には、議長は、当該大臣を罷免する。ただし、政府が議会に特別選挙を求めることができ、かつ、不信任の宣言から一週間以内に当該選挙を公示する場合には、罷免は行われない。

2 選挙後の総理大臣に関する表決を理由とする総理大臣の罷免については、第三条において定める。

第八条

大臣は、本人が希望する場合には、総理大臣については議長により、他の大臣については総理大臣により、職を免ぜられる。総理大臣は、他の場合においても大臣を罷免することができる。

第九条

総理大臣が辞任した場合又は死亡した場合には、議長が他の大臣を罷免しなければならない。

 第七条第一項は、内閣不信任による議会の解散に相当する規定である。議長はこうした総理大臣や他の大臣の罷免の手続においても、主宰者的な役割を果たす。

総理大臣代理

第一〇条

総理大臣は、他の大臣の中から、総理大臣代理の資格で、支障が発生した際に総理大臣のために総理大臣の職務を遂行する者を選出することができる。総理大臣代理が選出されなかった場合又は総理大臣代理に支障があった場合には、最も長い期間大臣を務めている現職の大臣がその者に代わって総理大臣の職務を遂行する。二人以上の大臣が同期間大臣を務めている場合には、年長の者が代行する。

 総理大臣代理は日本の副総理に相当する代理職である。副総理同様、任命は任意的であるが、任命されない場合の総理大臣代理代行者の順位まで憲法上周到に定めてあるのは、スウェーデン憲法の実際的な特色と言える。

暫定政府

第一一条

政府のすべての大臣が辞任した場合には、その職務は、新しい政府が引き継ぐまで継続する。総理大臣以外の大臣が自らの希望により辞任した場合で、総理大臣が職務の継続を望むときは、後任の者が引き継ぐまで当該大臣は、その職務を継続する。

議長の支障

第一二条

議長に支障が生じた場合には、副議長がこの章の規定に基づき議長が有する職務を代行する。

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スウェーデン憲法読解(連載第14回)

2015-02-12 | 〆スウェーデン憲法読解

第五章 国家元首

 スウェーデンは立憲君主制を維持しており、国王または女王が国家元首として憲法上明確に位置づけられている一方で、日本の天皇の国事行為のように元首の権限の内容が明確には定められていない。日本国憲法の場合は、天皇を国家元首として明記しない一方で、国の象徴としての形式的な権限を明確に定めている。この相違は、近世以降、王室が民主化に一役買ってきた歴史を持つがゆえに尊重されるスウェーデンと、皇室が民主主義の外で伝統的権威の所在として崇拝される日本の歴史的な相違を反映していると考えられる。

第一条

第一章第五条の規定により、王位継承法の規定に従い、スウェーデン王位を継承する者が国の元首となる。

第二条

スウェーデン市民で、かつ、一八歳に達している者のみが国家元首として職務を遂行することができる。国家元首は、同時に大臣であってはならず、議長又は議員としての職務を遂行してはならない。

 国家元首も議員と同じく、18歳を最低年齢としている。従って、18歳未満の国王又は女王は国家元首とはなれない。君主と国家元首の職務は区別されていることになる。さらに、国家元首は政府や議会のメンバーを兼職できず、政治的権能を持たない。

第三条

1 国家元首は、総理大臣により国の状況について報告を受けなければならない。必要な場合には、政府は、国家元首の主宰の下、閣議を開く。

2 国家元首が外国に旅行する前に、総理大臣と協議しなければならない。

 国家元首は政治的権能を持たないが、単なる象徴でもなく、国の状況報告を受け、必要な場合には閣議を主宰するなど、スウェーデン立憲君主制は日本の象徴天皇制ほどに政治的無権能化されていないことがわかる。

第四条

国家元首である国王又は女王がその職務を遂行するのに支障がある場合には、支障がない王室の構成員が有効な王位継承順位に従い、臨時の摂政として、国家元首の任務を遂行するためにその任に就く。

第五条

1 王室が断絶した場合には、議会は、当面の間国家元首の任務を遂行しなければならない摂政を選挙する。議会は、同時に副摂政を選挙する。

2 国家元首である国王又は女王が死亡した場合又は退位した場合で、王位継承者がまだ一八歳に達していないときも同様とする。

第六条

国家元首である国王又は女王が連続して六か月の間、その任務を遂行しなかった場合又は遂行できなかった場合には、政府は、議会に報告しなければならない。議会は、国王又は女王が退位したものとみなすべきか否かを議決する。

第七条

1 第四条又は第五条の規定に従えば、いかなる者も権限をもって職務を遂行することができない場合には、議会は、政府による指名の後、ある者を臨時の摂政として職務を遂行するよう、選挙することができる。

2 権限を有する他のいかなる者も職務を遂行することができない場合には、議長又は議長に支障があるときは副議長が、政府による指名の後、臨時の摂政として職務を遂行する。

 第四条から第七条までは、摂政に関する詳細な規定が続く。王室断絶の場合まで想定した周到な規定は、近世に至り現ベルナドッテ朝に定まるまで王朝交替が頻繁だった歴史を反映しているものと思われる。同時に、共和制の歴史がないため、立憲君主制維持を憲法的な既定路線としていることをも示唆している。

第八条

国家元首である国王又は女王を、その行為を理由として訴追することはできない。摂政を、その国家元首としての行為を理由として、訴追することはできない。

 国家元首及び摂政の訴追免責特権である。第一章第二条第一項が謳う公権力行使の平等性に対する例外である。ただし、摂政については国家元首としての行為以外の行為を理由としてなら、訴追できる。

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