ザ・コミュニスト

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旧ソ連憲法評注(連載第27回)

2014-11-28 | 〆ソヴィエト憲法評注

第百二十五条

1 連邦会議および民族会議は、ソ連最高会議の管轄に属する問題のあらかじめの審理および準備、ソ連の法律とソ連最高会議およびその幹部会のその他の決定の実施にたいする協力ならびに国家機関および国家的組織の活動の監督のために、代議員のなかから常任委員会を選出する。ソ連最高会議の両院は、対等の原則にもとづいて合同委員会を設置することができる。

2 ソ連最高会議は、必要とみとめたとき、任意の問題についての調査委員会、監査委員会およびその他の委員会を設置する。

3 すべての国家的および社会的な機関、団体ならびに公務員は、ソ連最高会議の委員長および両院の委員会の請求にこたえ、これらにたいし必要な資料および文書を提出する義務をおう。

4 委員会の勧告は、国家的および社会的な機関、施設および団体によって、かならず審理されなければならない。審理の結果または採択された措置は、定められた期間に委員会に通知されなければならない。

 ソ連最高会議も、ブルジョワ議会と同様に、政策分野ごとに常任委員会・特別委員会を設けることができたが、ブルジョワ議会の委員会よりも強力な権限を与えられていた。しかし、共産党支配体制下で実際にどの程度機能したかは疑問である。

第百二十六条

1 ソ連最高会議は、自分にたいして報告義務をもつすべての国家機関の活動にたいする監督を行なう。

2 ソ連最高会議は、人民的監督機関の体系を指揮するソ連人民監督委員会を組織する。

3 人民的監督機関の組織および活動手続きは、ソ連人民的監督法が定める。

 ソヴィエト機関は単なる立法機関ではなく、自身監督機関でもあり、また第二項のように監督機関を組織することもできた。これは北欧型の議会オンブズマンに類似するが、共産党支配体制下では独立性を欠き、党の方針を遵守させるための監督機関にすぎなかった。

第百二十七条

ソ連最高会議およびその諸機関の活動手続きは、ソ連憲法にもとづいて公布されるソ連最高会議規則およびソ連のその他の法律が定める。

 本条は最高会議の活動に関する法的根拠に関する規定である。議院規則や国会法に相当するものだが、規則は両院統一規則によっていた。

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旧ソ連憲法評注(連載第26回)

2014-11-27 | 〆ソヴィエト憲法評注

第百十九条

ソ連最高会議は、両院合同会議においてソ連最高会議幹部会を選挙する。ソ連最高会議幹部会はソ連最高会議の常時活動する機関であり、その全活動についてソ連最高会議にたいして報告義務をもち、その会期と会期のあいだ、憲法の定める範囲内で、ソ連の国家権力の最高機関の職務を行なう。

 ソ連は最高会議を頂点とする会議体共和制であるため、常時集会できない最高会議に常設機関としての幹部会が置かれ、常務を担った。大統領のような単独元首を置かない会議体共和制では、ソヴィエト幹部会が集団的な元首となる。幹部会員は例外なくソ連共産党幹部でもあったため、結果的に最高会議を共産党が掌握することになった。

第百二十条

ソ連最高会議幹部会は、代議員のなかから選出される次の者より構成される。最高会議幹部会議長、第一副議長、各連邦構成共和国から一名ずつの副議長十五名、幹部会書記およびソ連最高会議幹部会員二十一名。

 幹部会の構成に関する規定である。15の連邦構成共和国から1名ずつ副議長を出すという形で構成共和国に形式的な配慮が示されていたが、議長職はロシア人が多かった。

第百二十一条

ソ連最高会議幹部会は、

一 ソ連最高会議の選挙を公示する。
二 ソ連最高会議の会期を招集する。
三 ソ連最高会議両院の常任委員会の活動を調整する。
四 ソ連憲法の遵守にたいする監督を行ない、連邦構成共和国の憲法および法律への適合を保障する。
五 ソ連の法律の解釈をしめす。
六 ソ連の条約を批准し、破棄する。
七 ソ連大臣会議および連邦構成共和国大臣会議の決定または処分が法律に適合しないとき、これを取消す。
八 軍の階級、外交官の等級その他の専門称号を制定し、軍の上級階級、外交官の等級その他の専門称号を授与する。
九 ソ連の勲章、記章およびソ連の名誉称号を制定し、ソ連の勲章、記章およびソ連の名誉称号を授与する。
十 ソ連の国籍取得を認め、ソ連の国籍の喪失および剥奪の問題ならびに亡命受入れの問題を解決する。
十一 全連邦大赦令を公布し、特赦を行なう。
十二 外国駐在および国際組織に派遣のソ連の外交代表を任命し、召還する。
十三 ソ連最高会議幹部会あての外国の外交代表の信任状および召喚状を受理する。
十四 ソ連国防会議を設置し、その構成員を承認し、ソ連軍の最高統帥部を任命し、交代させる。
十五 ソ連の防衛のため、個々の地域または全土に戒厳を布告する。
十六 総動員または一部動員を布告する。
十七 ソ連最高会議の会期と会期のあいだに、ソ連にたいする軍事攻撃があったとき、または侵略にたいする相互防衛にかんする条約上の義務を履行する必要がおきたとき、宣戦を布告する。
十八 ソ連の憲法および法律の定めるその他の権限を行使する。

 本条は幹部会の権限を18項目にわたり列挙したものであるが、いずれも日本国憲法では天皇の国事行為に匹敵するものであり、幹部会は次条で定める会期間の活動以外は象徴的な役割を果たすにすぎなかった。

第百二十二条

ソ連最高会議幹部会は、ソ連最高会議の会期と会期のあいだに、次の会期に事後承認を求めるという条件で、

一 必要な場合、すでに施行されているソ連の法令に改正を加える。
二 連邦構成共和国のあいだの境界の変更を承認する。
三 ソ連大臣会議の提案にもとづき、ソ連の省およびソ連の国家委員会を設置し、廃止する。
四 ソ連大臣会議議長の提案にもとづき、ソ連大臣会議の構成員である個々の者を解任し、任命する。

 本条は第百十九条にあったとおり、会期間最高機関として活動する幹部会の権限を列挙している。

第百二十三条

ソ連最高会議幹部会は、幹部会令を公布し、決定を採択する。

 最高会議幹部会には、政令に相当する法規の制定権もあった。

第百二十四条

1 ソ連最高会議の任期が満了したとき、ソ連最高会議幹部会は、新たに選挙されたソ連最高会議が新しい幹部会を組織するまで、その権限をひきつづきもつ。

2 新たに選挙されたソ連最高会議の招集は、選挙の日から二か月以内に、従来のソ連最高会議幹部会が行なう。

 最高会議の任期満了後の経過規定である。

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リベラリストとの対話―「自由な共産主義」をめぐって―(9)

2014-11-23 | 〆リベラリストとの対話

7:貨幣経済廃止について③

コミュニスト:前回対談の最後に、私見が計画経済の適用範囲を環境負荷的産業に限定し、その余は自由生産‐物々交換に委ねるとしていることについて、それでは計画によって事前調整されず、なおかつ「財布」による事後調節もされない、まさにアナーキーな生産活動が立ち現れる恐れがあると指摘されました。

リベラリスト:はい。それでは結局のところ混合経済体制であって、混合された要素の欠陥が相乗効果的に現れるという諸国で繰り返されてきたパターンにはまるだけだと思うのです。

コミュニスト:ということは、それこそ靴の生産まで含めて計画経済を貫徹すべきだということでしょうか。

リベラリスト:貨幣なき計画経済体制の正当性を強調されるなら、すべてを計画生産することを恐れる必要はあるのでしょうか。

コミュニスト:しかし、私が「自由な共産主義」という一見自己矛盾的な理念を提出したのは、計画経済の適用範囲を限定しつつ、その余は自由な物々交換や贈与に委ねるという仕組みを想定しているからです。

リベラリスト:初めに概念ありきならば、それはまさにイデオロギーでしょう。物々交換というのは、実は貨幣交換の原型ですから、物々交換を広範に認めるなら、実質上は貨幣経済と同じことであり、貨幣経済を廃止したことにならないのではないでしょうか。イデオロギーとしても一貫性を欠いています。

コミュニスト:初めに概念ありきだとは思っておりません。物々交換はたしかに貨幣経済の歴史的な母体ではありますが、貨幣という定型的・定量的な交換専用手段がある貨幣経済と、そうした交換専用手段を欠く物々交換とはイコールで結べないと思います。物々交換は大量的・定型的取引には不向きですから、取引はより個人性の強いものとなっていくでしょう。

リベラリスト:なるほど。ただ、そうなると、計画経済が適用されない分野―あなたが挙げた靴を例にとりましょう―では、需給関係の調節や環境的持続性への配慮などはなされず、アナーキーになるでしょう。

コミュニスト:計画経済の適用外のものは、必ずしも生活必需的とは言えない小物の生産などが中心になりますので、若干アナーキーであってもよいでしょう。それに、そうした分野でも、環境的持続性については製品の質や生産方法まで含め、環境法の規制が現在よりずっと厳しくなります。需給調節についても、現在資本制企業で個別に行なわれている需給見通しなどは、共産主義でも継承できることでしょう。

リベラリスト:しかし、靴は生活必需品ではありませんかね。それとも、共産主義社会では皆裸足ですか。ともあれ、貨幣交換がアナーキーに見えて、事後調節的に需給調整の機能を持っているという事実は、否定できないでしょう。その点、貨幣経済を廃止した場合はまさに経済計画が経済の均衡を図るうえで必須となるわけで、「自由な共産主義」によって計画経済の適用範囲を限定することに伴う経済混乱の恐れについては、もっと熟慮が必要ではないかと思います。

コミュニスト:わかりました。ちなみに、共産主義社会でも靴は必需品ですが、日用の消耗靴などは、消費分野の経済計画である「消費計画」の中に含めてよいと思われます。それに対して、お洒落靴のような驕奢品は、計画経済の適用外でも問題ないでしょう。

リベラリスト:あなたの「自由な」共産主義体制では、そのようにどこまでが計画経済の範囲内なのかの振り分けで相当苦労するのではないでしょうか。そこを誤ると、やはり経済混乱が避けられないように思われます。

※本記事は、架空の対談によって構成されています。

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スウェーデン憲法読解(連載第2回)

2014-11-21 | 〆スウェーデン憲法読解

第一章 国家体制の原則(続き)

第四条

1 議会は国民の最高の代表機関である。

2 議会は、法律を制定し、国税について議決し、国の資金の利用方法について決定しなければならない。議会は国の統治及び行政を監督する。

 本条から先は、立法・行政・司法の役割分担を簡潔に総説する条項が続く。スウェーデンも基本的には三権分立制であるが、本条に明示されるように、議会を頂点とした議会中心主義の分立である。
 その議会は、単なる立法機関ではなく、税金とその使い道を決定するという役割が明確にされている。このことは、民主的な議会制では当然のことであるが、福祉国家としてあえて重税を課して社会サービスを充実させるスウェーデンではとりわけ税とその使途をめぐる議会の責任は重要である。そうした権限を担保するためにも、議会には統治全般、中でも行政への監督権が明示されている。

第五条

王位継承法に従い王位を継承する国王又は女王は、国の元首である。

 スウェーデンは立憲君主制を採用し、王は国家元首の位置づけを明確にされている。王位継承法上、王位継承順位一位は単純に王の第一子(女性を含む)とされ、男女平等が確保されている。

第六条

政府は、国を統治する。政府は、議会に対し責任を負う。

 この規定により、国家元首たる王は、君臨すれども統治しない存在となる。スウェーデンでは議院内閣制を採るため、統治権を持つ政府とは基本的に内閣である。

第七条

国に、地方レベル及び地域レベルの自治体を置く。

 スウェーデンは連邦制ではなく、地方と地域の二層の地方自治制を採る。この点は日本と同様であるが、スウェーデンでは二層自治が憲法上明示されている。

第八条

司法について、裁判所を置き、公行政について、国及び地方の行政機関を置く。

 司法と国及び地方の行政に関する権限分配規定である。

第九条

裁判所及び行政機関並びに他の行政上の任務を遂行する機関は、その活動において、すべての人の法の下の平等を考慮し、客観性及び公平性に配慮しなければならない。

 裁判所に限らず、行政機関にも裁判所に準じた客観性・公平性を要求する本条は、スウェーデン独特のものである。行政の任務・権限が大きくなり、行政機関が様々な行政的審査・決定もする状況下では、参考になる規定である。

第一〇条

スウェーデンは、欧州連合の加盟国である。スウェーデンは、国際連合及び欧州評議会の枠組並びに国際的な協力における他の関係に参加する。

 本条は国際協力に関する規定である。スウェーデンは欧州連合(EU)加盟国であることを憲法上宣言しつつ、国連その他の国際機関を通じた国際協力に積極的に参加することを表明している。

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スウェーデン憲法読解(連載第1回)

2014-11-20 | 〆スウェーデン憲法読解

 日本国憲法に始まり、旧ソ連、アメリカと、消滅したソ連を含む主要国の憲法を検証する憲法シリーズの第四弾は、スウェーデン憲法である。スウェーデン憲法はいわゆる社会民主主義の憲法として代表的なものであり、憲法典にありがちな美文調を排し、コンパクトで実際的な法文ながら現代的な水準を満たす先進憲法である。
 単純に図式化すれば、スウェーデン憲法は社会主義の旧ソ連憲法と自由主義のアメリカ憲法の中間に位置し、社会権条項を擁し部分的に社民主義的な要素を持つ日本国憲法と共有する面もある。その意味で、先進的な正しい方向での改憲を構想するうえでも、参照項となるものである。
 ただ、スウェーデン憲法は単一の法典ではなく、2010年に大改正された「統治法」を中心に、「王位継承法」「出版の自由に関する法律」「表現の自由に関する基本法」の四つの法典から成る複数憲法主義を採るが、ここでは最も中核的な「統治法」―他国の憲法典に相当するもの―を取り上げる(よって、以下、単にスウェーデン憲法と言った場合は統治法を指す)。なお、訳文は国会図書館調査資料に準拠するが、一部訳語を変更する。


第一章 国家体制の原則

 スウェーデン憲法は実際的なスウェーデンの特徴を反映してか、前文を持たず、直入に本文から始まる。冒頭の第一章には総則に当たる条項が簡潔に収められており、実質的には本章の冒頭三か条が前文に代わる働きをしていると言える。

第一条

1 スウェーデンにおけるすべての公権力は、国民に由来する。

2 スウェーデンの民主主義は、自由な意見形成並びに普通選挙権及び平等な選挙権を原則とする。スウェーデンの民主主義は、代議制及び議会制の国家体制並びに地方自治を通じて実現される。

3 公権力は、法律に基づき行使される。

 第一条は、国民主権及び議会制民主主義、さらに法治主義を宣言する総則中の総則である。いずれも極めて簡潔ながら、要点を突いた実際的で明快な法文である。特に、民主主義の基礎に自由な意見形成があることを明確にしている点は注目される。また地方自治を民主主義の重要な内容に含めている。

第二条

1 公権力は、すべての人の平等な価値並びに個人の自由及び尊厳を尊重して行使されなければならない。

2 個人の個人的、経済的及び文化的福祉は、公的な活動の基本的な目標とする。特に、公的機関は労働、住居及び教育に対する権利を保障し、社会扶助及び社会保障並びに健康に対する良好な条件のために努めなければならない。

3 公的機関は、現在及び将来の世代のために、良好な環境をもたらす持続可能な発展を促進しなければならない。

4 公的機関は、社会のすべての領域において、民主主義の理念が指導的たるべく努め、個人の私生活及び家庭生活を保護しなければならない。

5 公的機関は、すべての人が社会における参加及び平等を達成できるように、及び子どもの権利が保護されるように努めなければならない。公的機関は、性、皮膚の色、国籍若しくは民族的出自、言語的若しくは宗教的帰属、障碍、性的指向、年齢又は個人に関する事情を理由とする差別に対抗しなければならない。

6 サーミ族並びに民族的、言語的及び宗教的少数派が、自らの文化的及び共同体的生活を維持し、発展させる機会を促進しなければならない。

 第二条は、第六項を別として、すべて公権力ないし公的機関に向けられた個別的な原則規範である。第一項は個人の尊重規定であるが、個人の自由に優先して、すべての人の平等価値が置かれているのは、平等を優先価値とするスウェーデン国家の特質を示している。そうした平等性に根差した個人の尊重のうえに、第二項の福祉国家原則が置かれている。
 福祉国家原則の内容は、日本国憲法の社会権条項以上に努力義務規定にすぎないが、福祉が明確に公的な活動の基本目標として指示されている。特に注目されるのは、日本国憲法には欠けている住居に対する権利が明言されていることである。
 第三項は、環境的持続可能性の原則であるが、いわゆる環境権としてあいまいに権利的に規定するのではなく、公的機関の責務として明言されている。同様にプライバシーの保護を定める第四項も、プライバシー権と権利的に規定せず、公的機関の責務として指示されている。
 第五項はいわゆる反差別の原則である。その第二文は一見法の下の平等を言っているように読めるが、あらゆる差別に対して公的機関が「対抗」するという形で、具体的な反差別の行動を要請している点で踏み込んでいる。これは平等を法の下だけにとどめず、第一文にあるように、すべての人の社会的な平等を目指す積極的な規定である。性的指向による差別への対抗も明言する点で、先進的である。また国籍による差別にも言及されており、通常の国では等閑視されやすい外国人差別にも配慮されている。完全に平等な社会参加の権利を持ち得ない子どもについては、第一文で公的機関にその保護の責務を課している。
 第六項は、前項に関わり、特に最北のトナカイ遊牧民であるサーミ族に代表される少数民族ないし宗派がその文化と共同体を維持していけるよう配慮する規定を別立てしたものである。公的機関のみならず、社会全体に課せられた責務である。

第三条

統治法、王位継承法、出版の自由に関する法律、表現の自由に関する基本法は、国の基本法である。

 序説で述べたとおり、広義のスウェーデン憲法は、上記四法典から成ることが規定されている。そのうち二本を表現の自由に関する新旧の法典が占めているのは、第一条にもあったとおり、スウェーデンが民主主義の基礎としての表現の自由を確信的に追求している証しとなっている。

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解散無法状態

2014-11-19 | 時評

第二回安倍政権で最初の解散総選挙が行なわれる。「大義なき解散」との批判も多いが、解散総選挙に必要なのは「大義」ではなく、この時期に選挙を執行するに値する「争点」である。今般解散総選挙の争点は、正しく設定するならば、ある。

一つは、過去2年間続けてきた「アベノミクス」の継続の是非に加え、集団的自衛権の解禁や国家秘密保護法制の是非、原発再稼動の是非、さらには直前の沖縄県知事選で示された米軍普天間基地の辺野古移設見直しも加わった。

安倍政権は、このうち「アベノミクス」については消費再増税延期と絡めて形だけ争点化しようとしているが、その余の問題は争点から外そうとしている。そのため、自己都合での解散を疑われる。実際、この時期の解散総選挙で勝利しておくことには、利点がある。

自民党政権では党総裁=総理大臣(いわゆる総理総裁)の慣例があるから、2012年9月に任期3年(連続2期まで)の党総裁に就任した安倍氏は今般選挙で勝利すれば15年9月に再選され、18年9月まで総理総裁を続けることができ、12年12月の総理就任から6年近く政権を維持できる計算となる。日本では5年以上は十分に「長期政権」である。

このような政治的打算が働いて解散の判断となったとみなされても不思議はないほど、日本の衆議院解散権は唯一の例外を除いて、憲法にも法律にも規定のない「無法」状態となっている。

唯一の例外とは、憲法69条で定められた内閣不信任案の可決(または内閣信任案の否決)の場合に、総辞職と選択的に認められるものである。それ以外の解散は、「首相の専権」として慣例上行なわれてきたにすぎない。

もっとも、天皇の国事行為としての解散の宣言について定めた憲法7条を形式的な根拠にすることが慣例となっているが、この規定は先の内閣不信任の場合の解散にも当てはまるまさに形式的な規定であるから、「首相の専権」の根拠となるはずがない。政権の成否という政治の根幹に関わる解散について明文規定を欠いたままで、果たして法治国家と呼べるのか―。

元来、政府、それも政府の長が一方的に議会を解散するのは非民主的であり、ただ議会から内閣不信任を突きつけられた場合の刺し違え的な対抗措置として例外的に許される―その場合でも、総辞職をまず考えるべきであるが―のがせいぜいであり、政府に一切解散権を認めない国も少なくない。

厳密には違憲の疑いのある解散を慣例で行なうというなら、初めにも述べたとおり、本来の任期切れ前に一種の中間選挙を執行するに値する複数の争点―9年前の郵政民営化解散の時のように、単一争点では事実上の国民投票となり、「選挙」としては許されない―が存在していなければならない。

今般の解散は、先に公表されたGDP速報値がマイナスであったため、来年10月期予定の消費再増税を延期すると決定したことが理由とされているが、再増税の是非は来年の経済情勢によって判断されるべきことであり、この時期の解散の理由とはならない。

巷間取り沙汰されているように、予定どおり消費再増税を断行した場合に生じ得る政権支持率下落→解散、敗北という事態を回避し、早めの解散総選挙に打って出て、長期政権を確保しておこうという狙いの伏在を否定することは難しいだろう。

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晩期資本論(連載第13回)

2014-11-18 | 〆晩期資本論

三 搾取の構造(2)

労働力の生産は彼自身の再生産または維持である。自分を維持するためには、この生きている個人はいくらかの量の生活手段を必要とする。だから、労働力の生産に必要な労働時間は、この生活手段の生産に必要な労働時間に帰着する。言い換えれば、労働力の価値は、労働力の所持者の維持のために必要な生活手段の価値である。

 労働市場における労働力売買の対象となる労働力商品に関する一般規定である。ここでマルクスは労働力を他の商品一般とパラレルに説明しようとするあまりに、ここでも持論のベースとなる労働価値説を当てはめようとしているが、これは労働力という無形的商品の特殊性を踏まえない形式論理である。もっとも、最後の「労働力の価値=生活手段価値」という一般規定自体は、労働力商品の特殊性を踏まえた定義となっている。

・・・労働力の価値規定は、他の商品の場合と違って、ある歴史的・精神的な要素を含んでいる。とはいえ、一定の国については、また一定の時代には、必要生活手段の平均範囲は与えられている。

 逆に言えば、労働力の価値を決定する生活手段価値は、国と時代により異なるということになる。このことは国際的な経済格差が顕在化しているきている晩期資本主義にはいっそう明瞭になっている。そして、こうした労働力の国際格差を利用して、生活手段価値の高い先進資本主義国では生活手段価値の低い途上国からの外国人労働力の買い叩きが行なわれているわけである。

労働力の生産に必要な生活手段の総額は、補充人員すなわち労働者の子供の生活手段を含んでいるのであり、こうしてこの独特な商品所持者の種族が商品市場で永久化されるのである。

 「労働力の所有者は、死を免れない」。よって労働力が世代を超えて安定的に供給されるためには、「労働力の売り手は、・・・・・・生殖によって永久化されなければならない」。そのため、賃金は労働者の出産・育児に必要な生活手段の価値を含むべきはずであるが、近年拡大する非正規雇用への転換政策は、賃金にそうした生殖費を含む余裕もなくしている。結果として少子化を促進しており、先進資本主義諸国では生殖費を公的に補給するなど「少子化対策」に奔走するゆえんとなっている。

一般的な人間の天性を変化させて、一定の労働部門で技能と熟練とを体得して発達した独自な労働力になるようにするためには、一定の養成または教育が必要であり、これにはまた大なり小なりの額の商品等価物が費やされる。

 こうした広い意味での教育費も生活手段の価値に含まれる。マルクスは、「労働力がどの程度に媒介された性質のものであるかによって、その養成費も違ってくる。」と正当に指摘しているが、晩期資本主義社会においては労働の専門分業化が進み、「媒介された性質」の労働が増加しているため、教育費も高額化する傾向にあるにもかかわらず、賃金はこうした教育費を十分にカバーし切れず、ここでも公費補給の必要性が高まっている。しかし、そこには、先の生殖費補給の問題とともに、国家財政の限界が立ちふさがる。

労働力の最後の限界または最低限をなすものは、その毎日の供給なしには労働力の担い手である人間が自分の生活過程を更新することができないような商品量の価値、つまり、肉体的に欠くことのできないような生活手段の価値である。

 要するに最低限度の生活を維持するに必要な生活手段の額であり、これが最低賃金額を成す。「もし労働力の価値がこの最低額まで下がれば、それは労働力の価値よりも低く下がることになる。なぜならば、それでは労働力は萎縮した形でしか維持されることも発揮されることもできないからである」。
 すなわち、最低賃金とは資本家の通念とは異なり、労働力の最低評価ではなく、労働力を萎縮させる過小評価であるという指摘は重要である。

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晩期資本論(連載第12回)

2014-11-17 | 〆晩期資本論

三 搾取の構造(1)

われわれが労働力または労働能力と言うのは、人間の肉体すなわち生きている人格のうちに存在していて、彼がなんらかの種類の使用価値を生産するときにそのつど運動させるところの、肉体的および精神的諸能力の総体のことである。

 マルクスは資本主義経済の核心を成す剰余価値の源泉を労働力の売買に見るが、その際、まず労働力をこう定義づけている。今日、マルクス経済理論を一切顧慮しない経済理論にあっても、労働力の概念だけは継承している。しかし、労働力が単なる物理的な力能にとどまらず、精神的な能力も含めた人格権と結合していることは、しばしば忘れられている。

労働力の所有者と貨幣所持者とは市場で出会い、互いに対等な商品所持者として関係を結ぶのであり、彼らの違いは、ただ、一方は買い手であり、他方は売り手だということだけであって、両方とも法律上では平等な人格である。

 労働市場の観念を簡潔に説明した部分である。労働力売買というと比喩的に聞こえるが、実際のところ、日本の民法における売買契約の条文と雇用契約の条文を対照すれば、その法的な類似性が読み取れる。

民法555条
売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

民法623条
雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。

 ただし、マルクスは「この関係の持続は、労働力の所持者がつねに一定の時間を限ってのみ労働力を売ることを必要とする。なぜならば、もし彼が労働力をひとまとめにして一度に売ってしまうならば、彼は自分自身を売ることになり、彼は自由人から奴隷に、商品所持者から商品になってしまうからである。」とし、いわゆる奴隷と賃金労働者の相違に注意を喚起している。もっとも、現代でも残る極度の長時間労働はいかに時間決めであろうと、限りなく奴隷に近づくであろう。

貨幣所持者が労働力を市場で商品として見いだすための第二の本質的な条件は、労働力所持者が自分の労働の対象化されている商品を売ることができないで、ただ自分の生きている肉体のうちにだけ存在する自分の労働力そのものを商品として売りに出さなければならないということである。

 自営業者として自作商品を売り出す技能を持っている人以外は、労働市場で自己の労働力を売りに出し、労働者とならざるを得ない。このことは、晩期資本主義の時代にはほぼ法則となっている。
 マルクスはこのように労働者となる以外に生活手段を持たない人のことを「自由な労働者」と呼び、「自由というのは、二重の意味でそうなのであって、自由な人として自分の労働力を自分の商品として処分できるという意味と、他方では労働力のほかには商品として売るものをもっていなくて、自分の労働力の実現のために必要なすべての物から解き放たれており、すべての物から自由であるという意味で、自由なのである。」と規定する。
 従って、労働者となるには、奴隷や農奴等の隷属的身分から解放された自由人でなければならない。他方で、労働力以外に何も生活手段を持たざる人は、労働者となるほかはない。
 この後者を「自由」と呼ぶのは奇異な感じもするが、ここでは「自由な」という意味のほかに、「・・・を欠く」という意味で用いられるドイツ語のfreiや英語のfreeが想定されている。この点でアルバイトなどの非正規職を転々として回る人を指す「フリーター」(freeter?)なる和製英語は、まさにこの意味での究極の「自由な」(=持たざる)労働者像を言い表す正鵠を得た造語である。

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沖縄的保守―進歩的保守

2014-11-17 | 時評

沖縄県知事選で、本籍自民党ながら普天間基地の辺野古移設反対を掲げた翁長雄志氏が当選した。保守系候補が二手に分裂した選挙となり、メディア上では「従来の構図が一変」などと論評されていた。

しかし、決してそうではない。沖縄の保守は元来、本土の保守とは性格が異なり、言わば進歩的保守が基調であった。戦後の沖縄はまず米軍政、続いて返還後も残る米軍基地との闘争を通じて、全土的に左派色が強く、そうした土壌の中に保守が食い込むには保守も進歩的姿勢を示さなければならない。

そのため、本土の保守とは連携しつつも、基地問題では本土の言うなりにならない姿勢が沖縄保守にはある。ただ、敗北した前職の仲井眞氏は中央官僚出身で、歴代沖縄県知事の中では最も中央と直結する知事であったため、沖縄保守が本土保守に異常接近していたことはたしかであった。

その結果、中央政府及び米国政府主導での基地移転が強行されようとしたことへの県民の反発が、保守分裂選挙という形で表現されたのだが、当選した翁長氏のほうが本来の沖縄的保守に近いとさえ言えるのである。

とはいえ、今般選挙結果を受けて、日米両政府が基地移転合意を見直す可能性はまずない。しかし、基地問題をほぼ唯一の争点とした今般の県知事選挙は事実上の住民投票に近い性格を持つ。

日米両国は民主主義的価値観を共有するそうだが、民主的な選挙結果を無視する“民主主義”とは何なのかが鋭く問われるだろう。取り沙汰されている解散総選挙の重要な争点に加わるべきテーマである。

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旧ソ連憲法評注(連載第25回)

2014-11-15 | 〆ソヴィエト憲法評注

第百十七条

ソ連最高会議代議員は、ソ連大臣会議、大臣およびソ連最高会議の設置するその他の機関の指導者にたいして質問をおこなう権利をもつ。ソ連大臣会議または質問をうけた公務員は、三日以内にソ連最高会議の当該会期において、口頭または文書で回答をする義務をおう。

 本条及び次条は、最高会議代議員の権利・特権に関する規定である。ソヴィエト代議員全般の権利・特権に関しては、第十四章に総則規定が置かれているので、本条以下の二か条は、最高会議代議員に関する特則という位置づけとなる。
 本条は特に最高会議代議員の質問権とそれに対する迅速な回答義務に関する規定である。ただ、回答期限として三日以内という制約は厳格すぎ、回答が形式に流れる恐れがあったであろう。実際のところ、最高会議自体が形式的な共産党追認機関と化していた中で、こうした個々の代議員の質問権がどの程度実効的に行使されていたのかは疑問である。

第百十八条

ソ連最高会議の代議員は、ソ連最高会議の同意がなければ、刑事訴追をうけ、勾留され、または裁判手続きによる行政罰の処分をうけない。ソ連最高会議の会期と会期のあいだは、この同意はソ連最高会議幹部会があたえる。

 第百六条は人民代議員全般に不逮捕特権を与えていたが、本条は最高会議代議員について、最高会議(会期間は最高会議幹部会)の同意なき限り、刑事訴追や行政罰まで免除する特権を保障する特則である。憲法上はソ連の最高権力機関と位置づけられた最高会議代議員の任務の重要性を考慮し、刑事罰・行政罰からの特別な保護を与える趣旨と見られる。

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旧ソ連憲法評注(連載第24回)

2014-11-14 | 〆ソヴィエト憲法評注

第百十三条

1 ソ連最高会議にたいする法律案発議権は、次の者がもつ。連邦会議、民族会議、ソ連最高会議幹部会、ソ連大臣会議、自分の国家権力の最高機関により代表される各連邦構成共和国、ソ連最高会議の委員会、その各院常任委員会、ソ連最高会議代議員、ソ連最高裁判所およびソ連検事総長。

2 社会団体も、その全連邦的機関をとおして、法律案発議権をもつ。

 本条から先の四か条は、立法機関としてのソヴィエトにおける法律案をはじめとする議案の成立までのプロセスに関する規定である。本条は、法律案発議権者を列挙したもので、これによると、法律案発議権は最高裁判所や検事総長といった司法官のほか、社会団体など広範囲に与えられていることが特徴であった。これが有効に機能していれば、一般に発議権者が議員や政府に限定されるブルジョワ議会制よりも民主的であったが、ここでも事実上発議権は共産党に集中していた。

第百十四条

1 ソ連最高会議の審議に付された法律案およびその他の問題は、両院により、各院ごとの会議または合同会議で審議される。必要とされる場合、法律案または当該の問題は事前または補足の審議のため、一つまたは数個の委員会の審議に付することができる。

2 ソ連の法律は、ソ連最高会議の両院において、それぞれの院の代議員総数の過半数の賛成によって可決されたとき、採択されたものとみなされる。ソ連最高会議の決定およびその他の規則は、ソ連最高会議の代議員総数の過半数によって採択される。

3 法律案および国家生活のその他の特に重要な問題は、ソ連最高会議もしくはソ連最高会議幹部会の発議または連邦構成共和国の提案にもとづき、ソ連最高会議またはソ連最高会議幹部会の決定により、全人民的討議に付することができる

 本条は法律案等の審議と票決に関する準則である。両院での審議・採択が要求されるのは、二院制の定石どおりである。第三項で、法律案やその他の重要問題については例外的に全人民的討議に付する可能性が認められていたのは民主的であったが、実際上、活用されていなかった。

第百十五条

連邦会議と民族会議の意見が一致しないとき、問題は対等の原則にもとづいて両院によりつくられる協議会での解決に移され、その後で連邦会議と民族会議により両者の合同会議において、あらためて審議される。この場合においても合意がえられないとき、問題は、ソ連最高会議の次の会期の審議に付され、またはソ連最高会議により、全人民投票(レファレンダム)に付される。

 両院で異なる議決がなされた場合の処理は、原則として両院協議会での協議による点は日本国憲法と類似するが、ソ連の両院制は対等型であるため、協議不調の場合、いずれかの院の議決が優先するのではなく、次期会期に持ち越すか、人民投票に付するかされた。実際上最高会議はソ連共産党の決定事項を常に追認していたため、両院で議決が食い違う事態はまず生じなかったようである。

第百十六条

ソ連の法律およびソ連最高会議の決定その他の規則は、ソ連最高会議幹部会の議長と書記の署名により、各連邦構成共和国の言語で公布される

 法律等の公布に関する要件を定めた規定である。ソ連は会議体共和制で、末期の憲法改正によって創設されるまで大統領に相当する元首職が存在しなかったため、ソ連最高会議幹部会議長が元首相当職とされ、その署名が公布の条件であった。公布が各構成共和国の言語で対照公布されるのは、多民族連邦国家の特性に配慮したものである。

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旧ソ連憲法評注(連載第23回)

2014-11-13 | 〆ソヴィエト憲法評注

第五編 ソ連の国家権力および行政の最高諸機関

 ソヴィエト制度全般の概要を規定する前編を受け、本編はソ連邦レベルのソヴィエト及びその管轄下にある連邦行政について規定している。ソ連では古典的な三権分立によらず、人民権力機関であるソヴィエトを軸とした国家構制であったので、本編はブルジョワ憲法であれば立法と行政に当たる部分を一本にまとめて規定している。

第十五章 ソ連最高会議

 本章は、国会に相当するソ連最高会議の任務や構成について定めた章である。

第百八条

1 ソ連の国家権力の最高機関は、ソ連最高会議である。

2 ソ連最高会議は、この憲法によりソヴィエト連邦の管轄に属するすべての問題を解決する権限をもつ。

3 ソ連憲法の採択および改正、新共和国のソ連への加入、新しい自治共和国および自治州の設置の承認、ソ連の経済的、社会的発展国家計画、ソ連国家予算およびそれらの執行報告の承認ならびにソ連最高会議にたいし報告義務をもつソヴィエト連邦の機関の設置は、ソ連最高会議だけが行なう。

4 ソ連の法律は、ソ連最高会議によって、またはソ連最高会議の決定により実施される全人民投票(レファレンダム)によって、採択される。

 ソ連最高会議は、ソヴィエト体系のうち連邦レベルの国会に当たるソ連の最高権力機関であった。日本国憲法にも国会を最高機関と規定する類似の規定があるが、この規定は通説では政治的美称にすぎないとされるのに対し、ソ連最高会議は本来第二項にあるように、「ソヴィエト連邦の管轄に属するすべての問題を解決する権限をもつ」最高機関であったが、実際のところはソ連共産党中央委員会が実質的な最高機関であったため、結果として美称にとどまっていたとも言える。

第百九条

1 ソ連最高会議は、連邦会議および民族会議の両院により構成される。

2 ソ連最高会議の両院は平等の権利をもつ。

 ソ連最高会議は連邦型二院制を採用していたが、両院に上下の優劣関係はなく、対等型二院制であった。

第百十条

1 連邦会議および民族会議は、同数の代議員により構成される。

2 連邦会議は、同数の人口をもつ選挙区ごとに選挙される。

3 民族会議は、次の基準で選挙される。各連邦構成共和国からは三十二名ずつの代議員、各自治共和国からは十一名ずつの代議員、各自治州からは五名ずつの代議員および各自治管区からは一名ずつの代議員。

4 連邦会議および民族会議は、それぞれの選出する資格審査委員会の提案にもとづいて、代議員の資格を承認する決定を採択し、選挙にかんする法令の違反があるときは、個々の代議員の選挙の無効認定の決定を採択する。

 最高会議両院は定数も同数という完全対等型であったが、代議員の選挙方法は連邦会議がブルジョワ議会の下院のように選挙区制を採用し、民族会議は連邦構成共和国をはじめとする連邦構成主体ごとに選出される連邦参議院としての性格を持っていた。

第百十一条

1 ソ連最高会議の各院は、それぞれの院の議長および四名の副議長を選出する。

2 連邦会議および民族会議の議長は、それぞれの院の会議を指導し、院内の業務を処理する。

3 ソ連最高会議の両院合同会議の議長には、連邦会議議長と民族会議議長が交代で就任する。

 最高会議両院は各々議長人事権を持っていた。これは、前条第四項の資格争訟裁判権と並び、各院の自律権の表れである。

第百十二条

1 ソ連最高会議の会期は、一年に二回招集される。

2 臨時会期は、ソ連最高会議幹部会の発議、連邦構成共和国の提案または一つの院の代議員の三分の一以上の提案にもとづいて、ソ連最高会議幹部会により招集される。

3 ソ連最高会議の会期は、各院の会議、両院合同会議ならびにこれらの会議のあいだにひらかれる各院常任委員会およびソ連最高会議の委員会の会議からなる。会期の開会および閉会は、各院の会議または両院合同会議で行なわれる。

 最高会議の会期に関する規定である。常会は一年に二回、臨時会は第二項の条件の下に随時開催された。

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究極の壁―国境

2014-11-09 | 時評

「ベルリンの壁」崩壊から25周年となる9日を前に、東西冷戦中に「壁」を越えようとして旧東独当局に射殺されるなどして死亡した市民を追悼する十字架が壁跡地から無断で持ち去られるという「事件」があった。犯人はドイツに本拠を置き、「積極的人道主義」を掲げる人道団体「政治的美のためのセンター」。

同団体によると、「欧州連合(EU)国境には中東・アフリカからの難民を阻むより大きな壁があり、ベルリンより大勢の人が命を落としていることを考えてほしい」という動機から、9日当日にEU国境で十字架を掲げ、国境の鉄条網を壊すパフォーマンスを展開するために行なった一つの政治的直接行動という。

「ベルリンの壁」崩壊から四半世紀を経て、資本(カネ)にとっての観念的な国境は撤廃されつつある一方で、人間にとっての物理的な国境はかえって強化され、EUという統合の試みも、EU域内の移動の自由化という成果にとどまっている。

ただ、現存国際秩序の構成単位である主権国家は国境と国籍を基本要素とするため、国境という概念とは切り離せない。EU自体は主権国家ではないが、究極的には国家統合―ヨーロッパ合衆国―を目指す準主権団体であるから、国境の概念を否定するものではない。

国境という究極の壁をなくすには、国家という政治単位そのものをなくすほかない。鉄条網の政治的な醜さは、大地に境界を設けて囲い込むことの狭量さの象徴である。

EUは国民国家という狭い観念を超えた統合を目指す理想を秘めているが、所詮それも「ヨーロッパの統合」という限定された視野を出ないため、中東・アフリカからの移民に対しては拒否的となる。それは必ずしも排外主義的な意図だけではなく、ネイティブ国民が労働を奪われることへの不安のなせるわざでもある。

そもそも出身国で安全かつ安定的に暮らしていければ、難民は生じない。難民送出国の均衡ある発展を支援することが、難民防止の当面の合理的な策である。不法移民の厳格な取り締まりはそうした支援策と結合していなければ、有無を言わさず越境者を撃ち殺した「ベルリンの壁」と同然である。

しかし究極的には、富裕国と貧困国の経済格差が存在する限り、いかに不法移民を取り締まろうと、命がけでも「壁」を越えようとする人々は跡を絶たないだろう。不法移民は国際資本主義が生み出す必然的な人流現象である。

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アメリカ憲法瞥見(連載最終回)

2014-11-08 | 〆アメリカ憲法瞥見

修正第一六条】  

連邦議会は、各州に比例配分することなく、および人口調査または算定によることなく、いかなる源泉から生ずるものであっても、所得に対して税を賦課し徴収する権限を有する。

 本条を含む修正三か条は、財政に関わる規定である。本条は、連邦議会の直接税の課税権に関して、憲法第一条第二項第三号及び同条第九項第四号で人口調査に基づく州間比例配分によるという制約が付けられていたのに対し、まさに直接に個人の所得源泉に対して課税できる所得税の制度を可能とした修正である。
 元来、個人財産を偏重するアメリカのブルジョワ思想では、個人の財布に政府が手を突っ込むかのような直接税は忌避されており、直接税として許容できるのは、人頭税と財産税のみと考えられていたが、20世紀に入り、アメリカでも社会主義的な思潮が生まれ、富の一部集中への批判が強まると、収入を含む個人の所得源泉に課税すべしとする租税思想が高まったことを背景に、1913年に制定されたのが本修正条項であった。そうした意味では、本条はアメリカ憲法中、唯一社会(民主)主義的な傾斜を示す規定とも言える。

修正第一八条

1 この修正条項の承認から一年を経た後は、合衆国とその管轄に服するすべての領有地において、飲用の目的で酒類を製造し、販売しもしくは輸送し、またはこれらの地に輸入し、もしくはこれらの地から輸出することは、これを禁止する。

2 連邦議会および各州は、適切な立法により、この修正条項を実施する権限を競合的に有するも のとする。

3 この修正条項は、連邦議会がこれを各州に提議した日から七年以内に、この憲法の規定に従って各州の立法府により憲法修正として承認されない場合には、その効力を生じない。

修正第二一条

1 合衆国憲法修正第一八条は、本修正条項により廃止する。

2 合衆国のいかなる州、準州、または領有地であれ、その地の法に違反して、酒類を引渡または使用の目的でその地に輸送しまたは輸入することは、この修正条項により禁止される。

3 この修正条項は、連邦議会がこれを各州に提議した日から七年以内に、憲法の規定に従って各州の憲法会議によりこの憲法の修正として承認されない場合には、その効力を生じない。

 修正第一八条は、いわゆる禁酒条項である。憲法に禁酒が謳われたのは、植民地時代の伝統を引くピューリタン的な戒律ならではのことであったが、現実には、密造酒の横行と密売利権を握ったマフィアの跋扈などのマイナス面が大きく、わずか14年後の修正第二一条で禁酒条項は廃止となった。
 ただし、同条第二項では、州レベルで酒類の輸出入を規制することは認められており、実際、現在でも酒類の販売規制を敷いている州や禁酒条例を持つ郡などが存在している。

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アメリカ憲法瞥見(連載第14回)

2014-11-07 | 〆アメリカ憲法瞥見

修正第一二条

選挙人は、各々の州で集会して、無記名投票により、大統領および副大統領を選出するための投票を行う。そのうち少なくとも一名は、選挙人と同じ州の住民であってはならない。選挙人は、一の投票用紙に大統領として投票する者の氏名を記し、他の投票用紙に副大統領として投票する者の氏名を記す。選挙人は、大統領として得票したすべての者および各々の得票数、ならびに副大統領として得票したすべての者および各々の得票数を記した別個の一覧表を作成し、これらに署名し認証した上で、封印をほどこして元老院議長に宛てて、合衆国政府の所在地に送付する。元老院議長は、元老院議員および代議院議員の出席の下に、すべての認証書を開封したのち、投票を計算する。大統領として最多数の投票を得た者の票数が選挙人総数の過半数に達しているときは、その者が大統領となる。過半数に達した者がいないときは、代議院は直ちに無記名投票により、大統領としての得票者一覧表の中の三名を超えない上位得票者の中から、大統領を選出しなければならない。但し、この方法により大統領を選出する場合には、投票は州を単位として行い、各州の議員団は一票を投じるものとする。この目的のための定足数は、全州の三分の二の州から一名または二名以上の議員が出席することを要し、大統領は全州の過半数をもって選出されるものとする。代議院にかかる選出権が発生した場合に、つぎの三月四日になる前に大統領を選出しないときは、大統領に死亡その他憲法上執務不能の事情が生じた場合と同様に、副大統領が大統領の職務を行う。副大統領として最多数の投票を得た者の票数が選挙人総数の過半数に達しているときは、その者が副大統領となる。過半数に達した者がいないときは、元老院が、得票者一覧表の中の上位二名の中から、副大統領を選出しなければならない。この目的のための定足数は、元老院議員の総数の三分の二とし、選出には総議員の過半数を要するものとする。但し、憲法上大統領の職に就く資格がない者は、合衆国副大統領の職に就くことはできない。

 本条を含む修正三か条は、主として大統領の選出等に関する憲法本文の規定を補充するものである。いずれも通常の国では議会の立法裁量に委ねるような細目的な事柄であるが、高度な連邦制を採るアメリカでは、連邦全体の元首たる大統領の選出は重要な憲法問題であるため、細目も憲法で規定される。
 本条は、正副大統領の選出方法について、第二条第一項第三号の規定を修正したものである。具体的には、大統領二名連記・副大統領次点制が正副大統領個別投票制に改められたものであるが、それに伴い、過半数得票者が存在しなかった場合の議会による決選投票の方法にも改正が加えられている。なお、本条のうち、代議院が決選投票で大統領を選出する期限は、さらに次の修正第二〇条第一項で、一月二〇日に修正されている。

修正第二〇条

1 大統領および副大統領の任期は、この修正条項が承認されていなければその任期が終了していたはずの年の一月二〇日の正午に終了し、元老院議員および代議院議員の任期は、同じ年の一月三日の正午に終了する。後任者の任期はその時に始まる。

2 連邦議会は、毎年少なくとも一回集会するものとする。会期の開始時期は、法律で別の日が指定されない限り、一月三日の正午とする。

3 大統領に選出された者が、大統領の任期の始期として定められた時に死亡していた場合には、副大統領として選出された者が大統領となる。大統領の任期の始期として定められた時までに大統領が選出されていない場合、または大統領として選出された者がその資格を備えていない場合には、副大統領として選出された者が、大統領がその資格を備えるに至るまで、大統領の職務を行う。連邦議会は、法律により、大統領として選出された者も副大統領として選出された者もともにその資格を備えていない場合について定めを設け、誰が大統領の職務を行うかについて、またはその職務を行う者を選出する方法について、宣明することができる。この者は、大統領または副大統領がその資格を備えるに至るまで、大統領の職務を行う。

4 連邦議会は、法律により代議院に大統領の選出権が発生した場合に大統領として選出することのできる者の中に死亡者が出たとき、および元老院に副大統領の選出権が発生した場合に副大統領として選出することのできる者の中に死亡者が出たときについて、定めを設けることができる。

5 第一項および第二項は、この修正条項が承認された後の一〇月一五日に効力を生ずる。

6 この修正条項は、提議された日から七年以内に、四分の三の州の立法府によりこの憲法の修正として承認されない場合には、その効力を生じない。

 本条は正副大統領の任期や死亡時の処理を中心に、併せて連邦議会議員の任期等についても、規定している。基本的に、一月期を任期の終始の基準としている。また正副大統領が無資格であった場合の処理について連邦議会の立法裁量に委ねている。

修正第二五条

1 大統領が免職され、死亡しまたは辞任した場合には、副大統領が大統領となる。

2 副大統領が欠けたときは、大統領が副大統領を指名し、指名された者は、連邦議会の両院の過半数の承認を経て、副大統領の職に就く。

3 大統領が、元老院の臨時議長および代議院の議長に対し、その職務上の権限および義務を遂行することができない旨を書面で通告したときは、その後大統領が権限および義務を遂行することができる旨を書面で通告するまで、副大統領が臨時大統領としてかかる権限および義務を遂行する。

4① 副大統領、および行政各部の長または連邦議会が法律で定める他の機関の長のいずれかの過半数が、元老院の臨時議長および代議院議長に対し、大統領がその職務上の権限および義務を遂行できない旨を書面で通告したときは、副大統領は、直ちに臨時大統領として、大統領職の権限および義務を遂行するものとする。

4② その後、大統領が元老院の臨時議長および代議院議長に対し、職務遂行不能状態は存在しない旨を書面で通告したときは、大統領はその職務上の権限および義務を回復する。但し、副大統領および行政各部の長または連邦議会が法律で定める他の機関の長のいずれかの過半数が、四日以内に、元老院の臨時議長と代議院議長に対し、大統領がその職務上の権限および義務を遂行できない旨を書面で通告したときは、この限りでない。この場合には、連邦議会は、開会中でないときには四八時間以内にその目的のために集会し、問題を決定するものとする。連邦議会が、大統領が職務上の権限および義務を遂行することができない旨を通告する書面を受理してから二一日以内に、または、連邦議会が開会中でないときは、集会の要請があってから二一日以内に、両議院の三分の二の投票により、大統領はその職務上の権限および義務を遂行することができない旨を決議したときは、引き続き副大統領が臨時大統領としてかかる権限および義務を遂行する。かかる決議がなされなかった場合には、大統領はその職務上の権限と義務を回復するものとする。

 本条は、主として大統領が死亡等により不在または職務遂行不能となった非常時の処理規定である。大統領関連の修正条項では最も新しく、ケネディ大統領暗殺から四年後の1967年に制定された。基本的に副大統領がすみやかに大統領職を継承または代行し、権力の空白を生まないよう配慮している。
 ちなみに、第四項①は、副大統領以下行政府の高官の判断だけで大統領の職務を停止できる「合法的なクーデター」を認めるに等しい独異な規定である。

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