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犯則と処遇(連載第35回)

2019-03-04 | 犯則と処遇

29 人身保護監について

 犯則捜査は、前回見た三つの鉄則を捜査機関が着実に履行したうえ、なおかつ外部の独立した統制者による事前の法的統制を受けることで、その適正な実施が担保される。
 その点、「犯罪→刑罰」体系下の捜査活動においては、各種捜査令状を発付する権限を持つ裁判官が捜査活動を統制することが標準モデルとなっている。これは近代法の一つの進歩の証であるが、裁判官は「中立」というドグマに縛られるあまりに、市民の権利の擁護という意識が背後に退きがちである。

 そうした欠陥を克服すべく、「犯則→処遇」体系下での捜査活動において、捜査活動を統制する中心的な役割を果たすのは人身保護監である。
 人身保護監は、文字どおり市民の人権擁護そのものを任務とする公的な司法職の一種であるが、裁判官ではなく、まさに人権擁護に専従する公職である。
 人身保護監は、すべて民間の法曹の中から任期をもって常勤専従職として任命され、官僚的な職階制や昇進制による人事管理を受けることなく、また任命された任地から転任することもなく、任期満了をもって退任するか、本人の希望により承認審査のうえ再任されるかするだけである

 人身保護監の任務の最も重要な柱は、捜査活動に対する法的統制、中でも市民の権利を制約する強制捜査活動の規律である。その方法として、捜査機関による捜索・差押や出頭命令、身柄拘束、通信傍受・監視撮影などを許可する各種令状の審査と発付である。
 それに付随する権限として、各種強制捜査に対する対象者からの異議申立てへの対応や、被疑者の身柄拘束場所となる留置施設の人権監査などの監督権限も保持する。

 さらに、後に詳論するように、人身保護監は捜査機関が捜査を終了した後、捜査機関が収集した全証拠の送致を受けたうえ、真実委員会を招集して正式に真相究明するかどうかの決定権も有する。
 この点では、「犯罪→刑罰」体系下における公訴官(検察官)の任務に類似するが、「犯則→処遇」体系においては、訴追というプロセスを踏まないので、人身保護監は公訴官とは似て非なるものである。
 なお、人身保護監は真実委員会の決定に不服のある当事者からの請求を受け、別の真実委員会を再招集する権限を持つが、これについても、後に再言する。

 こうした公的な犯則捜査にまつわる権限以外にも、人身保護監は私人によって不法に監禁され、または奴隷的な拘束状態に置かれている人を救出するために、人身保護令状を発付する権限を有する。同令状の発付を受けた者は、監禁・拘束場所に強制的に立ち入り、妨害を物理的に排除しつつ、被害者を保護することができる。

 さらに、長期行方不明者に対する正式の捜索保護命令や失踪宣告、原因不明の変死体に対する検視命令など、人身保護監はおよそ市民の人身に関わる広範な権限を持つ重要な司法職である。
 特に後者の検視命令に関しては、例えば医療過誤の疑いある死亡者の遺族からの請求に基づき、検視命令を発し、医療過誤の可能性について明らかにすることができる。ただし、医療過誤の審査そのものに人身保護監が関与することはない。

 人身保護監の発した令状もしくは命令によって義務付けられた行為をせず、または令状もしくは命令の執行を妨げる行為をした者は、司法妨害による制裁を受ける。
 司法妨害はそれ自体も犯則行為の一種であるが、一般的な犯則行為とは異なり、矯正処遇の対象とはならない。その代わり、人身保護監の命令に基づき、司法妨害を理由に30日未満の期限で拘留することができる。
 ただし、司法妨害による拘留中に、捜査員が本件での取り調べをすることは許されず、人身保護監は以後、司法妨害行為をしない誓約を条件に対象者を釈放することができる。


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