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犯則と処遇(連載第50回)

2019-05-26 | 犯則と処遇

43 特別人権裁判について

 犯罪の処理に関わる法執行及び矯正の業務は、その性質上人権の侵害と隣り合わせである。実際、深刻な人権侵害の多くがこの分野に集中しているのは古今東西の歴史であり、また現状でもある。とりわけ、「犯罪→刑罰」体系によると、犯罪者を糾弾し、懲らしめるという目的が前面に出やすいため、犯罪者の扱いはとかく手荒なものとなりやすい。

 これに対して、刑罰という制度から解放される「犯則→処遇」体系の下では、犯罪者を糾弾するという発想をそもそもしないので、人権侵害の発生確率は極めて低いと想定されるが、実際のところ、対象者の身柄拘束等の強制的な措置は避けられないから、その過程で何らかの人権侵害が発生する可能性は否定できない。
 しかし、往々にして法執行や矯正分野での人権侵害は表面化しにくく、不問に付されやすい。そのように闇に葬られる形で人権侵害に関わった公務員(以下、準公務員を含む)が不当に免責されることのないよう、特別な裁判手続きが用意される。これが特別人権裁判である。  

 特別人権裁判はおよそ公務員による人権侵害を審理するための裁判制度であって、「犯則→処遇」体系上にあって、例外的に訴追→裁判というプロセスを辿る。ただし、審理を行なう特別人権法廷は事案ごとに設置される非常置の裁判所であり、設置を決めるのは人身保護監である。  
 およそ公務員によって人権を侵害されたと認識する者は、人身保護監に対し当該公務員を告発することができる。告発を受けた人身保護監は事案を予備的に調査したうえ、容疑が重大と認めるときは、特別人権法廷の設置を決定しなければならない。容疑がさほど重大でない場合は、当該公務員が所属する機関の内部監察部門へ送致する。

 特別人権法廷は訴追を担当する検事局と審理を担当する裁判部から成り、まずは検事局が捜査のうえ、起訴するかどうかを決定する。起訴されると、審理は三人の判事によって行なわれる。  
 審理の結果、有罪とされた場合、有罪判決に不服の被告人は控訴の申立てをすることができる。この場合、人身保護監は改めて特別人権裁判の控訴審を設置するが、控訴審判決が終局性を持つ。他方、無罪判決に対する検察側控訴は認められない。

 特別人権裁判による処罰の内容は公民権の無期限または期限付きでの停止、または公民権停止に加重された社会奉仕労働である。公民権を停止されている間は、再びおよそ公務員となることが許されない。
 社会奉仕労働は最も重い処分であり、これを言い渡された者は清掃、建設、工場などの指定された肉体労働部門で、一定期間労役に就くことが強制される。  

 なお、公務員が人権侵害の域を越えて、傷害や殺人、性暴力等の重大な犯則行為に及んでいる場合は、特別人権法廷は有罪判決を受けた被告人を改めて矯正保護委員会に送致し、同委員会での処遇審査に付さなければならない。その後のプロセスは既述のとおりである。


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