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旧ソ連憲法評注(連載最終回)

2015-01-22 | 〆旧ソ連憲法評注

第八編 ソ連の国章、国旗、国家および首都

本編は、表題どおり、ソ連の国の象徴や首都についてのまとめ規定である。

第百六十九条

ソヴィエト社会主義共和国連邦の国章は、太陽の光のなかにえがかれ、麦畑でかこまれた地球のうえの鎌とハンマーからなり、各連邦構成共和国の言語で、「万国のプロレタリアート団結せよ!」という文字が記される。国章の上の部分には、五尖の星がおかれる。

 国章中の鎌は農民、ハンマーは労働者を象徴しており、ソ連が労農プロレタリアートの国であるという標榜を表現していた。「万国のプロレタリアート団結せよ!」のメッセージは、マルクス‐エンゲルス『共産党宣言』のあまりにも有名な一句からの引用である。

第百七十条

ソヴィエト社会主義共和国連邦の国旗は、方形の赤い布であり、旗ざおに近い上の隅に金色の鎌とハンマーがえがかれ、その上に金色でふちどられた五尖の赤い星がえがかれる。旗の幅と長さの比は、一対二である。

 冷戦時代には、アメリカの星条旗と並び、ソヴィエトの赤星旗も覇権の象徴であった。ただし、アメリカ憲法には国旗の定めはない。

第百七十一条

ソヴィエト社会主義共和国連邦の国歌は、ソ連最高会議幹部会が承認する。

 国歌については、具体的な指定が憲法になかった。本憲法制定当時の国歌は1944年に制定された版であったが、本憲法制定と同年に歌詞だけ一部変更された。

第百七十二条

ソヴィエト社会主義共和国連邦の首都は、モスクワ市である。

 ロシア革命後首都として固定されたモスクワは革命の象徴でもあったため、憲法にも首都として明記されていた。

第九編 ソ連憲法の効力およびその改正手続き

 憲法最終編の本編は、憲法の最高法規性と改正手続きを定めている。

第百七十三条

ソ連憲法は最高の法的効力をもつ。すべての法律および国家機関のその他の法令は、ソ連憲法にもとづき、これにしたがって公布される。

 憲法の形式的な最高法規性を宣言している。ただ、日本国憲法第九十七条に相当するような実質的な最高法規性を謳う規定は見えない。

第百七十四条

ソ連憲法の改正は、両院それぞれの代議員総数の三分の二以上の多数決で可決されたソ連最高会議の決定によって、行なわれる。

 憲法改正は最高会議の決定のみで行なうことができ、日本の現行憲法のように国民投票は必要とされなかった。両院それぞれで代議員総数の三分の二というハードルは高いように思えるが、一党支配体制では事実上共産党が決定した改憲案に対して反対票が優位を占める可能性はほとんどなかった。

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旧ソ連憲法評注(連載第34回)

2015-01-10 | 〆旧ソ連憲法評注

第二十一章 検察庁

 本章は、司法と関連の深い行政組織である検察制度について定めている。

第百六十四条

すべての省、国家委員会、官庁、企業、施設、団体、地方人民代議員ソヴィエトの執行処分機関、コルホーズ、協同組合その他の社会団体、公務員および市民による法律の正確で一様な執行にたいする最高の監督は、ソ連検事総長およびそれに従属する検事が行なう。

 ソ連の検察官は単なる公訴官ではなく、このように裁判所を含むあらゆる公的機関、諸団体から市民に至るまでの法律の遵守状況をまさに「検察」する官職であった。

第百六十五条

ソ連検事総長は、ソ連最高会議により任命され、それにたいして責任をおい、報告義務をもち、ソ連最高会議の会期と会期のあいだは、ソ連最高会議幹部会にたいして責任をおい、報告義務をもつ。

 検察権も究極的には最高会議に属するため、検察トップの検事総長の任命権は最高会議にあり、検事総長は最高会議によって監督された。

第百六十六条

連邦構成共和国、自治共和国、地方、州および自治州の検事は、ソ連検事総長が任命する。自治管区検事、地区検事および市検事は、連邦構成共和国検事が任命し、ソ連検事総長の承認をうける。

 連邦構成共和国以下の検察官の任命人事のすべてにソ連検事総長が関わる中央集権的な検察制度であった。

第百六十七条

ソ連検事総長および下級のすべての検事の任期は、五年である。

 ソ連の検察官は強大な監督権を持つ一方で、裁判官と同様に任期制とすることで、一定のバランスを取ろうとしていた。

第百六十八条

1 検察庁の諸機関は、いかなる地方機関からも独立してその権限を行使し、ソ連検事総長のみに従属する。

2 検察庁の諸機関の組織および活動手続きは、ソ連検察庁法が定める。

 検察庁は、ソ連検事総長を頂点に、徹底した中央集権制が採られていた。これも、共産党の一党支配制を法制面で担保する装置となっていただろう。

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旧ソ連憲法評注(連載第33回)

2015-01-09 | 〆旧ソ連憲法評注

第百五十四条

すべての裁判所における民事事件および刑事事件の審理は合議で行なわれ、第一審裁判所には人民陪席判事が参加する。人民陪席判事は裁判を行なうにあたり、裁判官のすべての権限を行使する。

 建前上は集団討議を重視したソ連では、一人の判事による単独裁判は許されなかった。かつ第一審裁判には必ず素人の人民陪席判事が参加し、しかも職業裁判官と同等の権限を与えられるほど徹底した参審制であった。

第百五十五条

裁判官および人民陪席判事は独立であり、法律のみに従う。

 裁判官の独立に関する規定である。しかし、一党支配制の下では、共産党の方針に反する裁判は事実上あり得なかったので、この規定は空文に近い。

第百五十六条

ソ連における裁判は、法律と裁判所にたいする市民の同権の原理にもとづいて行なわれる。

 建前上は司法における法の下の平等の表れであるが、ここでも一党支配制の中で、司法をも超越する特権的な党幹部を頂点とするヒエラルキーが形成されており、本条も多分にして形骸化していただろう。

第百五十七条

すべての裁判所における事件の審理は公開で行なわれる。非公開の法廷における事件の審理は、法律の定める場合にかぎり許され、すべての訴訟規則を遵守して行なわれる。

 公開裁判の原則を定める規定であるが、第二文で例外的に非公開裁判が認められる場合や要件を法律に一任しているため、とりわけ政治犯に対する裁判は非公開の不公正な裁判となりやすいという問題があった。

第百五十八条

被疑者および被告人は、防御権を保障される。

 刑事事件の被疑者、被告人の防御権に関する規定であるが、具体性を欠く形式的な規定にすぎない。

第百五十九条

訴訟は、連邦構成共和国、自治共和国、自治州もしくは自治管区の言語またはその地域の住民の多数がつかう言語で行なわれる。訴訟の参加者で、使用される言語を知らない者は、事件の資料を十分に知る権利、すなわち通訳をとおしての訴訟への参加および裁判所で自国語をつかう権利を保障される。

 多民族・多言語国家ソ連ならではの多言語対応裁判に関する規定である。外国人でも通訳を通しての訴訟参加や法廷での自国語の使用が憲法上の権利として認められているのは、前条の防御権の保障の一環とも言え、先進的ではあった。

第百六十条

いかなる者も、裁判所の判決により、かつ法律にのっとらないかぎり、犯罪の実行について有罪とならず、刑罰を科せられない

 無罪推定原理を憲法上明確にした本条は先進的であったが、刑罰ではない保安上の強制措置については適用がない点で、脱法の余地が残されている。

第百六十一条

1 市民および団体にたいする法律的援助は、弁護士会が行なう。法令の定める場合、市民にたいする法律的援助は無料である。

2 弁護士の組織および活動手続きは、ソヴィエト連邦および連邦構成共和国の法令が定める。

 法律的援助に関する規定が憲法上に置かれているのも、先進的ではあった。しかし弁護士自治の原則はなく、弁護士も究極的には共産党の方針の範囲内で活動しなければならなかった。

第百六十二条

社会団体および労働集団の代表は、民事事件および刑事事件の訴訟に参加することができる。

 集団訴訟を可能とするため、社会団体や労働集団そのものに訴訟当事者の適格性を付与する先進的な規定であった。

第百六十三条

1 企業、施設および団体間の経済紛争は、国家仲裁機関がその権限の範囲内で解決する。

2 国家仲裁機関の組織および活動手続きは、ソ連国家仲裁機関法が定める。

 社会主義体制には私的自治原則がなかったため、経済紛争の司法外処理も、代理人弁護士を立てた交渉や法廷闘争によるのではなく、国家仲裁機関が介在して公的に解決された。

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旧ソ連憲法評注(連載第32回)

2015-01-08 | 〆旧ソ連憲法評注

第七編 裁判、仲裁および検察

 本編は、表題のとおり、広義の司法に関する規定が収められている。ソヴィエト制の下では、司法権も究極的には人民代議員ソヴィエトに属する。

第二十章 裁判所および仲裁機関

第百五一条

1 裁判所における裁判は、裁判所だけが行なう。

2 ソ連における裁判所は、ソ連最高裁判所、地方、州及び市の各裁判所、自治州裁判所、自治管区裁判所、地区(市)人民裁判所ならびに軍の軍法会議である。

 司法権の根源がソヴィエトにあるとはいえ、裁判の専門性や独立性からして、ソヴィエト自らが裁判機関となることはなく、裁判はブルジョワ憲法と同様、各級/種裁判所に委ねられた。

第百五十二条

1 ソ連におけるすべての裁判所は、裁判官および人民陪席判事の選挙の原則にもとづいて構成される。

2 地区(市)人民裁判所判事は、普通、平等、直接選挙権にもとづき、秘密投票により、地区(市)の市民によって、五年の任期で選挙される。地区(市)人民裁判所の人民陪席判事は、勤務場所または居住地ごとの市民の集会において、公開投票により、二年半の任期で選挙される。

3 上級裁判所は、対応する人民代議員ソヴィエトにより、五年の任期で選挙される。

4 軍法会議の裁判官は、ソ連最高会議幹部会により、五年の任期で選挙され、その人民陪席判事は、軍勤務員集会において、二年半の任期で選挙される。

5 裁判官および人民陪席判事は、選挙人または自分を選挙した機関にたいして責任をおい、報告義務をもち、法律の定める手続きにより、これらによってリコールされる。

 ソヴィエトの全裁判官は、選挙により選出され、かつリコールの対象にもなるという形で、ブルジョワ憲法よりも司法の民主化が徹底されていた。中でも、一般市民の中から選出される人民陪席判事の制度は、一種の参審制ではあるが、素人を正規の裁判官として扱うより民主的な制度であった。
 とはいえ、ここでも共産党支配が前提であるため、実際に選挙される裁判官は党員ないし党が公認する人物に限られており、「民主司法」も建前にすぎなかった。

第百五十三条

1 ソ連最高裁判所は、ソ連の最高裁判機関であり、ソ連の裁判所の裁判活動の監督を行ない、法律の定める範囲内において、連邦構成共和国の裁判所の裁判活動の監督を行なう。

2 ソ連最高裁判所は、ソ連最高会議により選挙される長官、副長官、所員および人民陪席判事により構成される。連邦構成共和国最高裁判所長官の職にある者は、ソ連最高裁判所の構成員となる。

3 ソ連最高裁判所の組織および活動手続きは、ソ連最高裁判所法が定める。

 本条は最高裁判所の任務・組織について定めている。人民陪席判事が最高裁にも参加するのが特色である。また構成共和国最高裁判所長官がソ連最高裁判事を兼職することで、ソ連最高裁の判決に構成共和国司法府の意向も反映されるように配慮されていた。
 しかしソ連最高裁は司法行政に限らず、全土の裁判所の裁判活動の監督権を掌握していたため、最高裁を介して共産党の方針が下級審裁判にも反映され、党が司法まで支配できる仕掛けとなっていた。

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旧ソ連憲法評注(連載第31回)

2014-12-27 | 〆旧ソ連憲法評注

第十九章 国家権力および行政の地方諸機関

 本章は、構成共和国・自治共和国より下位の地方主体の行政機構について定めている。

第百四十五条

地方、自治州、自治管区、地区、市、市内の地区、町および農村居住地における国家権力機関は、それぞれの人民代議員ソヴィエトである

 下位の地方主体にも、ソヴィエト機関が設置された。これら地方ソヴィエトは地方議会のような自治体機関ではなく、言わばソヴィエトの地方出先機関であった。以下、第百四十八条までは、地方ソヴィエトの権限に関する規定が続くが、個別の評注は割愛する。

第百四十六条

1 地方人民代議員ソヴィエトは、全国家的利益およびそのソヴィエトの地域に住む市民の利益にもとづき、地方的意義をもつすべての問題を解決し、上級の国家機関の決定を実施し、下級の人民代議員ソヴィエトの活動を指導し、共和国的および連邦的な意義をもつ問題の討議に参加し、それらについて提案をする。

2 地方人民代議員ソヴィエトは、その地域において国家建設、経済建設、社会的、文化的建設を指導し、経済的、社会的発展計画および地方予算を承認し、自分に属する国家機関、企業、施設および団体を指導し、法律の遵守ならびに国家的秩序、公共の秩序および市民の権利の保護を保障し、国の防衛力の強化を助ける。

第百四十七条

地方人民代議員ソヴィエトは、その権限の範囲内で、その地域の総合的な経済的および社会的発展を保障し、その地域にある上級所属の企業、施設および団体による法令の遵守を監督し、これらによる土地利用、自然保護、建設、労働力の利用、日用品の生産ならびに住民にたいする社会的、文化的および日常生活上その他のサービスの分野における活動を調整し、監督する。

第百四十八条

地方人民代議員ソヴィエトは、ソヴィエト連邦、連邦構成共和国および自治共和国の法令によりあたえられた権限の範囲内で、決定を採択する。地方ソヴィエトの地域にあるすべての企業、施設および団体ならびに公務員および市民は、地方ソヴィエトの決定を執行しなければならない。

第百四十九条

1 地方人民代議員ソヴィエトの執行処分機関は、ソヴィエトがその代議員のなかから選挙する執行委員会である。

2 執行委員会は、一年に一回以上、自分を選挙したソヴィエトにたいして、ならびに労働集団の集会および居住地ごとの市民集会において、報告を行なう。

 地方ソヴィエト執行委員会は連邦や共和国レベルの大臣会議に相当する機関である。知事や市町村長が存在しない代わりに、合議体としての執行委員会が地方行政を担っていた。執行委員会は、次条のように、地方ソヴィエトと上級の大臣会議の両方に属した。

第百五十条

地方人民代議員ソヴィエト執行委員会は、自分を選挙したソヴィエトおよび上級執行処分機関の両者にたいして、直接に報告義務をもつ。

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旧ソ連憲法評注(連載第30回)

2014-12-26 | 〆旧ソ連憲法評注

第六編 連邦構成共和国における国家権力および行政の諸機関の構成の諸原則

 長いタイトルの編であるが、前編が連邦の中央統治機構に関する編だったのに対し、本編はソ連を構成する共和国とそこに内包される自治共和国、さらに地方の統治機構に関する編である。

第十七章 連邦構成共和国の国家権力および行政の最高諸機関

 本章は、ソ連を構成する共和国の統治機構に関する規定である。言わば、ソ連邦レベルの統治機構の縮小版である。

第百三十七条

1 連邦構成共和国の国家権力の最高機関は、連邦構成共和国最高会議である。

2 連邦構成共和国最高会議は、ソ連憲法および連邦構成共和国憲法により連邦構成共和国の管轄に属するすべての問題を解決する権限をもつ。

3 連邦構成共和国憲法の採択および改正、連邦構成共和国の経済的、社会的発展国家計画、国家予算およびそれらの執行報告の承認ならびに自分にたいし報告義務をもつ機関の設置は、連邦構成共和国最高会議だけが行なう。

4 連邦構成共和国の法律は、連邦構成共和国最高会議により、または連邦構成共和国最高会議の決定により実施される人民投票(レファレンダム)により、採択される。

 構成共和国にあっても、全権統括機関としての最高会議が設置され、ソ連最高会議と同様、共和国の権限に属する事項全般を掌握していたが、実際は構成共和国レベルの共産党指導部に実権があった。

第百三十八条

連邦構成共和国最高会議は、連邦構成共和国最高会議の常時活動する機関であり、その全活動について連邦構成共和国最高会議にたいして報告義務をもつ最高会議幹部会を選挙する。連邦構成共和国最高会議幹部会の構成および機関は、連邦構成共和国憲法が定める。

 構成共和国最高会議にも常設機関としての幹部会が設置されたが、その組織構成は構成共和国憲法に委ねられていた。

第百三十九条

1 連邦構成共和国最高会議は、連邦構成共和国大臣会議、すなわち連邦構成共和国の国家権力の最高の執行処分機関である連邦構成共和国政府を組織する。

2 連邦構成共和国大臣会議は、連邦構成共和国最高会議にたいして責任をおい、報告義務をもち、最高会議の会期と会期のあいだは、連邦構成共和国最高会議幹部会にたいして責任をおい、報告義務をもつ。

 構成共和国にも内閣に相当する大臣会議が設置された。ソ連大臣会議の構成共和国版である。以下の条項もソ連大臣会議の規定にほぼ準じているため、個別の評注は割愛する。

第百四十条

連邦構成共和国大臣会議は、ソ連および連邦構成共和国の法令ならびにソ連大臣会議の決定および処分にもとづき、またはこれらを執行するために決定および処分を公布し、その執行を組織し、点検する。

第百四十一条

連邦構成共和国大臣会議は、自治共和国大臣会議の決定および処分の執行を停止し、地方、州、市(共和国直轄市)の人民代議員ソヴィエトおよび自治州人民代議員ソヴィエト執行委員会の決定および処分を取消し、州の区画をもたない連邦構成共和国においては、地区およびそれに相当する市の人民代議員ソヴィエト執行委員会の決定および処分を取消す権利をもつ。

第百四十二条

1 連邦構成共和国大臣会議は、連邦構成共和国の連邦的・共和国的および共和国的な省および国家委員会ならびに自分に管轄に属するその他の機関を統合し、指揮する。

2 連邦構成共和国の連邦的・共和国的な省および国家委員会は、自分にゆだねられた管理部門を指導し、または部門間の管理を行ない、連邦構成共和国大臣会議および該当する連邦的・共和国的なソ連の省またはソ連の国家委員会の両者に従属する。

3 共和国的な省および国家委員会は、自分にゆだねられた管理部門を指導し、または部門間の管理を行ない、連邦構成共和国大臣会議に従属する。

第十八章 自治共和国の国家権力および行政の最高諸機関

 本章は、構成共和国に内包される自治共和国の統治機構に関する章である。これも連邦及び構成共和国のそれに準じるため、個別の評注は割愛するが、もともと自治共和国の自治権は制約されていたため、規定は二か条にどとまる。

第百四十条

1 自治共和国の国家権力の最高機関は、自治共和国最高会議である。

2 自治共和国憲法の採択および改正、自治共和国の経済的、社会的発展国家計画および国家予算の承認ならびに自分にたいし報告義務をもつ機関の設置は、自治共和国最高会議だけが行なう。

3 自治共和国の法律は、自治共和国最高会議が採択する。

【第百四一条】

自治共和国最高会議は、自治共和国最高会議幹部会を選挙し、自治共和国大臣会議すなわち自治共和国政府を組織する。

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旧ソ連憲法評注(連載第29回)

2014-12-12 | 〆旧ソ連憲法評注

第百三十三条

ソ連大臣会議は、ソ連の法律ならびにソ連最高会議およびその幹部会のその他の決定にもとづき、またはこれらを執行するために決定および処分を公布し、その執行を点検する。ソ連大臣会議の決定および処分は、ソ連の全領土において執行されなければならない。

 ソ連大臣会議は、内閣の政令に相当する決定や処分を出す権限を与えられていた。

第百三十四条

ソ連大臣会議は、ソヴィエト連邦の管轄に属する問題について、連邦構成共和国大臣会議の決定および処分の執行を停止し、ならびにソ連の省、ソ連の国家委員会および自分に属する他の機関の法令を取消す権利をもつ。

 ソ連大臣会議は全行政組織の頂点にあったため、下位の機関の決定や法令等を取り消す権限をも与えられていた。

第百三十五条

1 ソ連大臣会議は、全連邦的および連邦的・共和国的なソ連の省、国家委員会および自分の管轄に属する他の機関の活動を統合し、指揮する。

2 全連邦的なソ連の省および国家委員会は、ソ連の全領土において、直接にまたはその設置する機関をとおして、自分にゆだねられた管理部門を指導し、または部門間の管理を行なう。

3 連邦的・共和国的なソ連の省および国家委員会は、原則として連邦構成共和国の対応する省、国家委員会およびその他の機関をとおして、自分にゆだねられた管理部門を指導し、または部門間の管理を行ない、連邦に属する個々の企業および企業統合体を直接に管理する。共和国または地方に属する企業または企業統合体の連邦への移管手続きは、ソ連最高会議幹部会が定める。

4 ソ連の省および国家委員会は、自分にゆだねられた管理の領域の状態と発展について責任をおい、その権限の範囲内で、ソ連の法律、ソ連最高会議およびその幹部会のその他の決定ならびにソ連大臣会議の決定および処分にもとづき、またはそれらの執行のために法令を公布し、その執行を組織し、点検する。

 ソ連大臣会議の下に設置される国家行政組織に関する規定である。部門別の省と国家委員会という構制は諸国の行政組織と大差はなく、縦割りのセクショナリズムの土壌となったであろう。そのうえ、共和国連邦という二重構制のため、全連邦的行政機関のほかに、連邦的・共和国的な行政機関も存在し、横割りのリージョナリズムの危険もあった。

第百三十六条

ソ連大臣会議およびその幹部会の権限、それらの活動手続き、大臣会議とその他の国家機関との関係ならびに全連邦的および連邦的・共和国的なソ連の省および国家委員会の名簿は、憲法にもとづき、ソ連大臣会議法が定める。

 ソ連大臣会議法は大臣会議の権限等やその下にある行政機関の組織に関して定める法律であり、日本の内閣法にほぼ相当するものと見てよいであろう。

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旧ソ連憲法評注(連載第28回)

2014-12-11 | 〆旧ソ連憲法評注

第十六章 ソ連大臣会議

 ソ連体制はソヴィエトが全権を統括する会議体制であり、三権分立制にはよっていなかったが、便宜上、行政執行機関として、内閣に相当する大臣会議が設けられていた。

第百二十八条

ソ連大臣会議すなわちソ連政府は、ソ連国家権力の最高の執行処分機関である

 大臣会議すなわち政府という規定どおり、ソヴィエトを全権機関としながらも、大臣会議という形で行政府が事実上分化していた。

第百二十九条

1 ソ連大臣会議は、ソ連最高会議により、連邦会議と民族会議の合同会議において組織され、次の者で構成される。ソ連大臣会議議長、ソ連大臣会議第一副議長(複数)、および副議長(複数)、ソ連大臣(複数)、ならびにソ連国家委員会議長(複数)。

2 連邦構成共和国大臣会議議長の職にある者は、ソ連大臣会議の構成員となる。

3 ソ連大臣会議議長の提案にもとづき、ソ連最高会議は、ソ連のその他の機関および団体の指導者をソ連政府の構成員に加えることができる。

4 ソ連大臣会議は、新たに選挙されたソ連最高会議にたいし、その第一会期において辞表を提出する。

 ソ連大臣会議は、最高会議によって組織され、任期は次の最高会議の第一会期までである。その議長は西側ではしばしば「首相」と紹介されていたが、正確には大臣会議の議長職にすぎなかった。大臣会議の制度は構成共和国のレベルにも存在し、その議長はソ連大臣会議のメンバーたる連邦閣僚を当然に兼務した。

第百三十条

1 ソ連大臣会議は、ソ連最高会議にたいして責任をおい、報告義務をもち、ソ連最高会議の会期と会期のあいだは、ソ連最高会議幹部会にたいして責任をおい、報告義務をもつ。

2 ソ連大臣会議は、その活動についてソ連最高会議にたいして定期的に報告する。

 大臣会議は最高会議から独立した存在ではあり得ず、最高会議もしくは同幹部会に対して責任と報告義務を負った。この点では、日本国憲法上の責任内閣制に近い面があるが、それ以上に大臣会議は最高会議に服属した。

第百三十一条

1 ソ連大臣会議は、ソヴィエト連邦の管轄に属する行政のすべての問題を解決する権限をもつ。ただし憲法により、ソ連最高会議およびソ連最高会議幹部会の権限に属するものをのぞく。

2 ソ連大臣会議は、その権限の範囲内において、

一 国民経済および社会的、文化的建設の指導を保障する。人民の福祉および文化の向上の保障のための措置、科学および技術の発展、天然資源の合理的利用および保護のための措置、貨幣および信用の制度の強化、価格、労働報酬、社会保障にかんする統一的政策、国家保険組織および統一的な会計と統計の制度の実施のための措置を作成し、実施する。連邦所属の工業、建設および農業の企業および企業統合体、運輸企業、通信企業、銀行ならびにその他の団体および施設の管理を組織する。
二 ソ連の経済的、社会的発展の短期および長期の国家計画ならびにソ連国家予算を作成し、ソ連最高会議に提出する。国家計画および国家予算の実施のための措置をとる。計画の遂行および予算の執行にかんする報告をソ連最高会議に提出する。
三 国家の利益の防衛、社会主義的財産および公共の秩序の保護ならびに市民の権利および自由の保障および防衛のための措置を実施する。
四 国家的安全を保障する措置をとる。
五 ソ連軍の建設の一般的な指導を行ない、現役の軍務に徴集される市民の各年の定数を定める。
六 外国との関係、貿易ならびにソ連と外国との経済協力、科学技術協力および文化協力の分野において、一般的な指導を行なう。ソ連の条約の履行を保障する措置をとる。政府間協定を承認し、破棄する。
七 必要な場合、経済建設、社会的、文化的建設および国防建設の事項にかんする委員会、総管理局およびその他の官庁を、ソ連大臣会議のもとに設置する。

 ソ連大臣会議の権限を列挙した規定である。ほぼ西側の内閣の権限に相当すると言ってよいが、特に経済指導、国家計画に関する権限が重視されているのは、行政指令経済のシステムを反映している。

第百三十二条

国民経済の指導の保障に関連する問題および行政の他の問題の解決のために、ソ連大臣会議の常任機関として、ソ連大臣会議議長、第一副議長および同副議長により構成されるソ連大臣会議幹部会が活動する。

 大臣会議のメンバーたる閣僚は極めて多数に上ったため、最高会議と同様に幹部会を設置しなければならなかった。行政運営としては非能率であったが、スターリン以後のソ連では合議制を重視するシステムとなっていた。

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旧ソ連憲法評注(連載第27回)

2014-11-28 | 〆旧ソ連憲法評注

第百二十五条

1 連邦会議および民族会議は、ソ連最高会議の管轄に属する問題のあらかじめの審理および準備、ソ連の法律とソ連最高会議およびその幹部会のその他の決定の実施にたいする協力ならびに国家機関および国家的組織の活動の監督のために、代議員のなかから常任委員会を選出する。ソ連最高会議の両院は、対等の原則にもとづいて合同委員会を設置することができる。

2 ソ連最高会議は、必要とみとめたとき、任意の問題についての調査委員会、監査委員会およびその他の委員会を設置する。

3 すべての国家的および社会的な機関、団体ならびに公務員は、ソ連最高会議の委員長および両院の委員会の請求にこたえ、これらにたいし必要な資料および文書を提出する義務をおう。

4 委員会の勧告は、国家的および社会的な機関、施設および団体によって、かならず審理されなければならない。審理の結果または採択された措置は、定められた期間に委員会に通知されなければならない。

 ソ連最高会議も、ブルジョワ議会と同様に、政策分野ごとに常任委員会・特別委員会を設けることができたが、ブルジョワ議会の委員会よりも強力な権限を与えられていた。しかし、共産党支配体制下で実際にどの程度機能したかは疑問である。

第百二十六条

1 ソ連最高会議は、自分にたいして報告義務をもつすべての国家機関の活動にたいする監督を行なう。

2 ソ連最高会議は、人民的監督機関の体系を指揮するソ連人民監督委員会を組織する。

3 人民的監督機関の組織および活動手続きは、ソ連人民的監督法が定める。

 ソヴィエト機関は単なる立法機関ではなく、自身監督機関でもあり、また第二項のように監督機関を組織することもできた。これは北欧型の議会オンブズマンに類似するが、共産党支配体制下では独立性を欠き、党の方針を遵守させるための監督機関にすぎなかった。

第百二十七条

ソ連最高会議およびその諸機関の活動手続きは、ソ連憲法にもとづいて公布されるソ連最高会議規則およびソ連のその他の法律が定める。

 本条は最高会議の活動に関する法的根拠に関する規定である。議院規則や国会法に相当するものだが、規則は両院統一規則によっていた。

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旧ソ連憲法評注(連載第26回)

2014-11-27 | 〆旧ソ連憲法評注

第百十九条

ソ連最高会議は、両院合同会議においてソ連最高会議幹部会を選挙する。ソ連最高会議幹部会はソ連最高会議の常時活動する機関であり、その全活動についてソ連最高会議にたいして報告義務をもち、その会期と会期のあいだ、憲法の定める範囲内で、ソ連の国家権力の最高機関の職務を行なう。

 ソ連は最高会議を頂点とする会議体共和制であるため、常時集会できない最高会議に常設機関としての幹部会が置かれ、常務を担った。大統領のような単独元首を置かない会議体共和制では、ソヴィエト幹部会が集団的な元首となる。幹部会員は例外なくソ連共産党幹部でもあったため、結果的に最高会議を共産党が掌握することになった。

第百二十条

ソ連最高会議幹部会は、代議員のなかから選出される次の者より構成される。最高会議幹部会議長、第一副議長、各連邦構成共和国から一名ずつの副議長十五名、幹部会書記およびソ連最高会議幹部会員二十一名。

 幹部会の構成に関する規定である。15の連邦構成共和国から1名ずつ副議長を出すという形で構成共和国に形式的な配慮が示されていたが、議長職はロシア人が多かった。

第百二十一条

ソ連最高会議幹部会は、

一 ソ連最高会議の選挙を公示する。
二 ソ連最高会議の会期を招集する。
三 ソ連最高会議両院の常任委員会の活動を調整する。
四 ソ連憲法の遵守にたいする監督を行ない、連邦構成共和国の憲法および法律への適合を保障する。
五 ソ連の法律の解釈をしめす。
六 ソ連の条約を批准し、破棄する。
七 ソ連大臣会議および連邦構成共和国大臣会議の決定または処分が法律に適合しないとき、これを取消す。
八 軍の階級、外交官の等級その他の専門称号を制定し、軍の上級階級、外交官の等級その他の専門称号を授与する。
九 ソ連の勲章、記章およびソ連の名誉称号を制定し、ソ連の勲章、記章およびソ連の名誉称号を授与する。
十 ソ連の国籍取得を認め、ソ連の国籍の喪失および剥奪の問題ならびに亡命受入れの問題を解決する。
十一 全連邦大赦令を公布し、特赦を行なう。
十二 外国駐在および国際組織に派遣のソ連の外交代表を任命し、召還する。
十三 ソ連最高会議幹部会あての外国の外交代表の信任状および召喚状を受理する。
十四 ソ連国防会議を設置し、その構成員を承認し、ソ連軍の最高統帥部を任命し、交代させる。
十五 ソ連の防衛のため、個々の地域または全土に戒厳を布告する。
十六 総動員または一部動員を布告する。
十七 ソ連最高会議の会期と会期のあいだに、ソ連にたいする軍事攻撃があったとき、または侵略にたいする相互防衛にかんする条約上の義務を履行する必要がおきたとき、宣戦を布告する。
十八 ソ連の憲法および法律の定めるその他の権限を行使する。

 本条は幹部会の権限を18項目にわたり列挙したものであるが、いずれも日本国憲法では天皇の国事行為に匹敵するものであり、幹部会は次条で定める会期間の活動以外は象徴的な役割を果たすにすぎなかった。

第百二十二条

ソ連最高会議幹部会は、ソ連最高会議の会期と会期のあいだに、次の会期に事後承認を求めるという条件で、

一 必要な場合、すでに施行されているソ連の法令に改正を加える。
二 連邦構成共和国のあいだの境界の変更を承認する。
三 ソ連大臣会議の提案にもとづき、ソ連の省およびソ連の国家委員会を設置し、廃止する。
四 ソ連大臣会議議長の提案にもとづき、ソ連大臣会議の構成員である個々の者を解任し、任命する。

 本条は第百十九条にあったとおり、会期間最高機関として活動する幹部会の権限を列挙している。

第百二十三条

ソ連最高会議幹部会は、幹部会令を公布し、決定を採択する。

 最高会議幹部会には、政令に相当する法規の制定権もあった。

第百二十四条

1 ソ連最高会議の任期が満了したとき、ソ連最高会議幹部会は、新たに選挙されたソ連最高会議が新しい幹部会を組織するまで、その権限をひきつづきもつ。

2 新たに選挙されたソ連最高会議の招集は、選挙の日から二か月以内に、従来のソ連最高会議幹部会が行なう。

 最高会議の任期満了後の経過規定である。

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旧ソ連憲法評注(連載第25回)

2014-11-15 | 〆旧ソ連憲法評注

第百十七条

ソ連最高会議代議員は、ソ連大臣会議、大臣およびソ連最高会議の設置するその他の機関の指導者にたいして質問をおこなう権利をもつ。ソ連大臣会議または質問をうけた公務員は、三日以内にソ連最高会議の当該会期において、口頭または文書で回答をする義務をおう。

 本条及び次条は、最高会議代議員の権利・特権に関する規定である。ソヴィエト代議員全般の権利・特権に関しては、第十四章に総則規定が置かれているので、本条以下の二か条は、最高会議代議員に関する特則という位置づけとなる。
 本条は特に最高会議代議員の質問権とそれに対する迅速な回答義務に関する規定である。ただ、回答期限として三日以内という制約は厳格すぎ、回答が形式に流れる恐れがあったであろう。実際のところ、最高会議自体が形式的な共産党追認機関と化していた中で、こうした個々の代議員の質問権がどの程度実効的に行使されていたのかは疑問である。

第百十八条

ソ連最高会議の代議員は、ソ連最高会議の同意がなければ、刑事訴追をうけ、勾留され、または裁判手続きによる行政罰の処分をうけない。ソ連最高会議の会期と会期のあいだは、この同意はソ連最高会議幹部会があたえる。

 第百六条は人民代議員全般に不逮捕特権を与えていたが、本条は最高会議代議員について、最高会議(会期間は最高会議幹部会)の同意なき限り、刑事訴追や行政罰まで免除する特権を保障する特則である。憲法上はソ連の最高権力機関と位置づけられた最高会議代議員の任務の重要性を考慮し、刑事罰・行政罰からの特別な保護を与える趣旨と見られる。

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旧ソ連憲法評注(連載第24回)

2014-11-14 | 〆旧ソ連憲法評注

第百十三条

1 ソ連最高会議にたいする法律案発議権は、次の者がもつ。連邦会議、民族会議、ソ連最高会議幹部会、ソ連大臣会議、自分の国家権力の最高機関により代表される各連邦構成共和国、ソ連最高会議の委員会、その各院常任委員会、ソ連最高会議代議員、ソ連最高裁判所およびソ連検事総長。

2 社会団体も、その全連邦的機関をとおして、法律案発議権をもつ。

 本条から先の四か条は、立法機関としてのソヴィエトにおける法律案をはじめとする議案の成立までのプロセスに関する規定である。本条は、法律案発議権者を列挙したもので、これによると、法律案発議権は最高裁判所や検事総長といった司法官のほか、社会団体など広範囲に与えられていることが特徴であった。これが有効に機能していれば、一般に発議権者が議員や政府に限定されるブルジョワ議会制よりも民主的であったが、ここでも事実上発議権は共産党に集中していた。

第百十四条

1 ソ連最高会議の審議に付された法律案およびその他の問題は、両院により、各院ごとの会議または合同会議で審議される。必要とされる場合、法律案または当該の問題は事前または補足の審議のため、一つまたは数個の委員会の審議に付することができる。

2 ソ連の法律は、ソ連最高会議の両院において、それぞれの院の代議員総数の過半数の賛成によって可決されたとき、採択されたものとみなされる。ソ連最高会議の決定およびその他の規則は、ソ連最高会議の代議員総数の過半数によって採択される。

3 法律案および国家生活のその他の特に重要な問題は、ソ連最高会議もしくはソ連最高会議幹部会の発議または連邦構成共和国の提案にもとづき、ソ連最高会議またはソ連最高会議幹部会の決定により、全人民的討議に付することができる

 本条は法律案等の審議と票決に関する準則である。両院での審議・採択が要求されるのは、二院制の定石どおりである。第三項で、法律案やその他の重要問題については例外的に全人民的討議に付する可能性が認められていたのは民主的であったが、実際上、活用されていなかった。

第百十五条

連邦会議と民族会議の意見が一致しないとき、問題は対等の原則にもとづいて両院によりつくられる協議会での解決に移され、その後で連邦会議と民族会議により両者の合同会議において、あらためて審議される。この場合においても合意がえられないとき、問題は、ソ連最高会議の次の会期の審議に付され、またはソ連最高会議により、全人民投票(レファレンダム)に付される。

 両院で異なる議決がなされた場合の処理は、原則として両院協議会での協議による点は日本国憲法と類似するが、ソ連の両院制は対等型であるため、協議不調の場合、いずれかの院の議決が優先するのではなく、次期会期に持ち越すか、人民投票に付するかされた。実際上最高会議はソ連共産党の決定事項を常に追認していたため、両院で議決が食い違う事態はまず生じなかったようである。

第百十六条

ソ連の法律およびソ連最高会議の決定その他の規則は、ソ連最高会議幹部会の議長と書記の署名により、各連邦構成共和国の言語で公布される

 法律等の公布に関する要件を定めた規定である。ソ連は会議体共和制で、末期の憲法改正によって創設されるまで大統領に相当する元首職が存在しなかったため、ソ連最高会議幹部会議長が元首相当職とされ、その署名が公布の条件であった。公布が各構成共和国の言語で対照公布されるのは、多民族連邦国家の特性に配慮したものである。

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旧ソ連憲法評注(連載第23回)

2014-11-13 | 〆旧ソ連憲法評注

第五編 ソ連の国家権力および行政の最高諸機関

 ソヴィエト制度全般の概要を規定する前編を受け、本編はソ連邦レベルのソヴィエト及びその管轄下にある連邦行政について規定している。ソ連では古典的な三権分立によらず、人民権力機関であるソヴィエトを軸とした国家構制であったので、本編はブルジョワ憲法であれば立法と行政に当たる部分を一本にまとめて規定している。

第十五章 ソ連最高会議

 本章は、国会に相当するソ連最高会議の任務や構成について定めた章である。

第百八条

1 ソ連の国家権力の最高機関は、ソ連最高会議である。

2 ソ連最高会議は、この憲法によりソヴィエト連邦の管轄に属するすべての問題を解決する権限をもつ。

3 ソ連憲法の採択および改正、新共和国のソ連への加入、新しい自治共和国および自治州の設置の承認、ソ連の経済的、社会的発展国家計画、ソ連国家予算およびそれらの執行報告の承認ならびにソ連最高会議にたいし報告義務をもつソヴィエト連邦の機関の設置は、ソ連最高会議だけが行なう。

4 ソ連の法律は、ソ連最高会議によって、またはソ連最高会議の決定により実施される全人民投票(レファレンダム)によって、採択される。

 ソ連最高会議は、ソヴィエト体系のうち連邦レベルの国会に当たるソ連の最高権力機関であった。日本国憲法にも国会を最高機関と規定する類似の規定があるが、この規定は通説では政治的美称にすぎないとされるのに対し、ソ連最高会議は本来第二項にあるように、「ソヴィエト連邦の管轄に属するすべての問題を解決する権限をもつ」最高機関であったが、実際のところはソ連共産党中央委員会が実質的な最高機関であったため、結果として美称にとどまっていたとも言える。

第百九条

1 ソ連最高会議は、連邦会議および民族会議の両院により構成される。

2 ソ連最高会議の両院は平等の権利をもつ。

 ソ連最高会議は連邦型二院制を採用していたが、両院に上下の優劣関係はなく、対等型二院制であった。

第百十条

1 連邦会議および民族会議は、同数の代議員により構成される。

2 連邦会議は、同数の人口をもつ選挙区ごとに選挙される。

3 民族会議は、次の基準で選挙される。各連邦構成共和国からは三十二名ずつの代議員、各自治共和国からは十一名ずつの代議員、各自治州からは五名ずつの代議員および各自治管区からは一名ずつの代議員。

4 連邦会議および民族会議は、それぞれの選出する資格審査委員会の提案にもとづいて、代議員の資格を承認する決定を採択し、選挙にかんする法令の違反があるときは、個々の代議員の選挙の無効認定の決定を採択する。

 最高会議両院は定数も同数という完全対等型であったが、代議員の選挙方法は連邦会議がブルジョワ議会の下院のように選挙区制を採用し、民族会議は連邦構成共和国をはじめとする連邦構成主体ごとに選出される連邦参議院としての性格を持っていた。

第百十一条

1 ソ連最高会議の各院は、それぞれの院の議長および四名の副議長を選出する。

2 連邦会議および民族会議の議長は、それぞれの院の会議を指導し、院内の業務を処理する。

3 ソ連最高会議の両院合同会議の議長には、連邦会議議長と民族会議議長が交代で就任する。

 最高会議両院は各々議長人事権を持っていた。これは、前条第四項の資格争訟裁判権と並び、各院の自律権の表れである。

第百十二条

1 ソ連最高会議の会期は、一年に二回招集される。

2 臨時会期は、ソ連最高会議幹部会の発議、連邦構成共和国の提案または一つの院の代議員の三分の一以上の提案にもとづいて、ソ連最高会議幹部会により招集される。

3 ソ連最高会議の会期は、各院の会議、両院合同会議ならびにこれらの会議のあいだにひらかれる各院常任委員会およびソ連最高会議の委員会の会議からなる。会期の開会および閉会は、各院の会議または両院合同会議で行なわれる。

 最高会議の会期に関する規定である。常会は一年に二回、臨時会は第二項の条件の下に随時開催された。

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旧ソ連憲法評注(連載第22回)

2014-11-01 | 〆旧ソ連憲法評注

第十四章 人民代議員

 本章では、ソヴィエトの構成員である代議員の任務や権限についての通則がまとめられている。

第百三条

1 代議員は、人民代議員ソヴィエトにおける人民の全権代表である。

2 代議員は、ソヴィエトの仕事に参加し、国家建設、経済建設および社会的、文化的建設の問題を解決し、ソヴィエトの決定の実施を組織し、国家的な機関、企業、施設および団体の仕事の監督を行なう。

3 代議員は、その活動にあたり、全国家的な利益にみちびかれ、選挙区の住民の要求を考慮し、選挙人の訓令の実施につとめる。

 ソヴィエト代議員は人民の代表であるが、命令委任制のため、単なる代表ではなく、訓令に従う義務があった。一種の職能代表制でありながら、選挙区制も採るため、第三項が定めるように選挙区代表として地元選挙民の要求も考慮する必要があるなど、その性格付けはやや曖昧である。

第百四条

1 代議員は、本来の勤務または職務をつづけながら、その権限を行使する。

2 代議員は、ソヴィエトの会期中および法律の定めるその他の場合に代議員としての権限の行使のため、勤務上または職務上の義務の履行を免除され、常時勤務の場所から、自分の平均賃金を支給される。

 ソヴィエト代議員は専従職業ではなく、一つの任務であった。これは、ブルジョワ議会の議員と大きく異なる点である。そのため、本職にとどまることは当然であり、会期中は休職が認められるとともに、給与も本来の職場から支給された。

第百五条

1 代議員は、該当する国家機関および公務員に質問する権利をもつ。質問をうけた国家機関および公務員は、ソヴィエトの会期において回答する義務をおう。

2 代議員は、すべての国家的および社会的な機関、企業、施設および団体にたいし、代議員活動から生ずる問題をしめし、その提起した問題の審理に参加する権利をもつ。当該の国家的または社会的な機関、企業、施設または団体の指導者は、遅滞なく代議員と会い、定められた期間にその提案を審理する義務をおう。

 本条は、代議員の質問、問題提起の権限を定めている。これは、ソヴィエトにオンブズマン的な監察機能が期待されていたことに相応する権限である。

第百六条

1 代議員は、支障なく、効果的にその権利を行使し、義務を履行するための条件を保障される。

2 代議員の不逮捕特権および代議員活動のその他の保障は、代議員の地位にかんする法律ならびにソヴィエト連邦、連邦構成共和国および自治共和国のその他の法令が定める。

 本条は、代議員活動の保障に関する規定である。不逮捕特権が認められる点はブルジョワ議会の議員と同様である。

第百七条

1 代議員は、自分の仕事およびソヴィエトの仕事について、選挙人ならびに自分を代議員候補者に指名した集団および社会団体に、報告する義務をおう。

2 選挙人の信頼にそむいた代議員は、任意のときに、法律の定める手続きにより、選挙人の過半数の決議によって、リコールされる

 非職業性と並び、ソヴィエト代議員の特色を示すのが、このリコール制度である。これは命令委任制の現れである。

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旧ソ連憲法評注(連載第21回)

2014-10-31 | 〆旧ソ連憲法評注

第十三章 選挙制度

 ソヴィエトは、選挙制によっていた。本章ではソヴィエト選挙に関する通則がまとめられている。

第九十五条

すべての人民代議員ソヴィエトの代議員の選挙は、普通、平等および直接選挙権にもとづき、秘密投票により行なわれる。

 民主的な選挙原則である普通・平等・直接・秘密の四原則が定められている。

第九十六条

1 代議員の選挙は普通選挙である。すなわち十八才以上のすべてのソ連市民は、選挙権および被選挙権をもつ。ただし法律の定め手続きにより精神病者と認められた者をのぞく。

2 ソ連最高会議代議員には、二十一歳以上のソ連市民が選挙される。

 普通選挙制の原則を具体化する規定であるが、第一項但し書きで、単に精神病者というだけで公民権を否定しているのは、大きな問題であった。これは精神病者に対する差別であると同時に、反体制者を「精神病者」と診断して、本条に基づき公民権を剥奪するという医療的な装いをまとった政治的抑圧が常態化していたからである。

第九十七条

代議員の選挙は平等選挙である。すなわちそれぞれの選挙人が一票をもち、すべての選挙人は平等な基礎で選挙に参加する。

 平等選挙原則の鉄則である一人一票制を定めている。これは、定数不均衡是正の根拠ともなる先進的な規定であった。

第九十八条

代議員の選挙は直接選挙である。すなわち代議員は、市民により直接に選挙される。

 直接選挙原則の具体化であるが、内容は乏しい。

第九十九条

代議員選挙の投票は秘密投票である。選挙人の意思表示にたいする支配は許されない。

 第二文は自由投票原則の具体化であるが、次条で共産党とその傘下団体が候補者指名権を掌握する仕組みであったため、ソヴィエト選挙の実態は所属団体ごとの動員選挙であり、本条は形骸化されていた。

第百条

1 代議員候補者を指名する権利は、ソヴィエト連邦共産党、労働組合および全連邦レーニン共産主義青年同盟の諸組織、協同組合その他の社会団体、労働集団ならびに部隊ごとの軍勤務員集会がもつ。

2 ソ連市民および社会団体は、代議員候補者の政治的、実務的および個人的素質の自由で全面的な討議ならびに集会、出版物、テレビジョンおよびラジオによる選挙運動の権利を保障される。

3 人民代議員ソヴィエトの選挙の実施にともなう費用は、国家が負担する。

 第三項で選挙公営制を採りつつ、第一項で代議員候補者の指名権を共産党及びその傘下団体に掌握させるのは、まさしく共産党支配体制の表れであった。このことにより、ソヴィエト選挙は出来レースとなり、候補者間の実質的な競争性は存在しなかった。第二項で保障される選挙運動の自由も、党主導の「やらせ」の域を出ないものであった。

第百一条

1 人民代議員ソヴィエトの代議員の選挙は、選挙区単位で行なわれる。

2 ソ連市民は、原則として三つ以上の人民代議員ソヴィエトに選挙されない。

3 人民代議員ソヴィエトの選挙の実施手続きは、ソヴィエト連邦、連邦構成共和国および自治共和国の法律が定める。

 前条で、代議員候補者指名は共産党とその傘下団体が行なうため、ソヴィエトは実態として一種の職能代表制でありながら、選挙自体はブルジョワ議会制と同様の選挙区制を採っていた。そのため、選挙過程の形骸化はいっそう助長されたであろう。
 第二項は、反対解釈すれば、二つ以内のソヴィエト代議員を兼務できるということを意味する。これは第八十九条で示されていたとおり、ソヴィエトは連邦から町村まで統一的な体系を成す制度であったため、ブルジョワ議会制のような国会・地方議会議員の兼職禁止の制約は原則としてなかったが、負担過多を避けるため、兼務を二つ以内に制限したものである。

第百二条

1 選挙人は、その代議員に訓令をあたえる。

2 当該人民代議員ソヴィエトは、選挙人の訓令を審理し、経済的、社会的発展計画の作成および予算の編成のとき、これらを考慮し、訓令の遂行を組織し、その実現にかんする情報を市民にあたえる。

 議員が選挙人に拘束されない自由委任制を採るブルジョワ議会制とは異なり、ソヴィエト制は命令委任制を採っていた。これは、先に見たように、ソヴィエト制が実態として職能代表制であったことに相応している。後に見るように、訓令違反の代議員はリコールすることもできた。

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