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犯則と処遇(連載第37回)

2019-03-16 | 犯則と処遇

31 監視的捜査について

 監視的捜査とは、通信傍受や監視撮影、GPS追跡のように、秘密裏に被疑者の私的領域に干渉しつつ、その動静を監視し、捜査上必要な情報を取得する捜査手法の総称である。このような隠密的捜査手法は、被疑者取調べでは否認や黙秘によって得られない深層情報を取得するためには有効な方法であるが、当然個人のプライバシーの侵害に及び、濫用の危険も高いため、相応の法的統制が要請されるところである。

 通信傍受は、被疑者の外部との通信・通話を直接に捕捉できることから、そこに犯行への関与を示す内容が含まれていれば自白に頼らなくとも犯行の立証が可能となるため、特に共犯・共謀関係が複雑な組織犯の捜査上有効性があることは否めない。

 通信傍受は、伝統的な電話の傍受のほか、近年は電子メールやチャット等のインターネットを経由する通信活動全般の傍受にまで拡大しているため、通信傍受の無制約な実施は通信の秘密に対する重大な脅威となることから、厳格な法的統制の下に置かれなければならない。    

 具体的には、犯行のために使用される蓋然性の高い通信・通話媒体を特定し、かつ傍受の期間も限定―更新は認められる―しなければならない。    
 こうした傍受の要件・方法等の事前判断は他の強制捜査手段とは異なり、単独ではなく、三人の人身保護監の合議により、令状をもって許可されるべきである。    
 さらに傍受終了後にあっても、不可避的に流入してくる犯行に関連しない私的な通信・通話の記録を消去するため、人身保護監の面前で、捜査責任者と傍受対象者またはその代理人の立会いの下での消去手続きを徹底する必要がある。

 監視撮影には、単純な写真撮影と監視カメラによる映像撮影の二種があるが、ある瞬間しか記録されることのない写真撮影に関しては、捜査機関の裁量で随時実施できるものとしてよいであろう。  
 それに対し、一定時間以上継続して対象者の動静が映像的に記録される監視カメラによる場合は考慮を要する。ここで監視カメラによる撮影とは、捜査機関が捜査のため監視カメラを特定の場所に仕掛ける方法による撮影であるが、このような撮影をするには、予め被疑事実と設置場所、設置目的について人身保護監による審査を受け、令状による許可を得なければならない。  

 ちなみに、捜査機関以外の個人または団体等が設置した監視カメラまたは防犯カメラで撮影することは、ここでいう監視撮影には当たらない。しかし、捜査機関がそうした私人の撮影した映像を証拠としてカメラ設置者から正式に取得するには、取得目的、取得する映像の性質や時間等について人身保護監の令状を要するものとすべきである。

 最後にGPSによる追跡は、対象者の現在位置を確認するにとどまり、その動静や通信内容を直接に捕捉するものではないから、監視的捜査の中では相対的にプライバシー侵害の危険が低いものである。
 とはいえ、対象者に知られずして追跡するためには、人身保護監の令状を要するとすべきである。なお、GPS追跡と通信傍受を組み合わせるような場合は、それぞれについて個別の令状を要する。


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