内野聖陽が主演する舞台『THE BIG FELLAH ビッグ・フェラー』が5月20日、東京・世田谷パブリックシアターにて開幕した。IRA(アイルランド共和軍)のNY支部メンバーたちの30年間を綴る翻訳劇。森新太郎の緻密な演出のもと、実力のある俳優たちが濃厚なドラマを描き出している。
イギリスの人気劇作家、リチャード・ビーンによる戯曲がまず、見事だ。IRAというとっつきにくいテーマを扱いながらも、登場人物たちの軽妙なやりとりで一瞬も飽きさせない。主な登場人物はIRA・NY支部リーダーのコステロ(内野)、メンバーのマイケル(浦井健治)、ルエリ(成河)。本国アイルランドで戦う同胞のために資金集めをする彼らは、NYにあるマイケルのアパートの一室を隠れ家としている。物語はこの一室で展開。闘争の真っ只中にいるわけではない彼らの会話は日常と地続きにある。特に序盤は、訛り丸出しで自由奔放に振舞うルエリと、そんな彼に戸惑う生真面目なマイケルという対照的なふたりの青年とコステロの応酬がコントのようで、客席からも笑い声が上がる。だがやはり彼らは、暴力と背中合わせにいるのだ。つい今しがたは笑っていたはずなのに、いつのまにかリンチや粛清といった血なまぐさいシーンが目の前で繰り広げられる。ワンシチュエーションの中、状況も心理も、鮮やかに様相を変えていくストーリーに目が離せない。
キャストもいずれも適役。中でも内野は、貫禄あるその存在感でコステロのカリスマ性をみごとに体現。演説シーンでは観客を、あたかも目の前にいる聴衆に変えてしまうかのような求心力を見せる。日本人にはあまりなじまないブラックジョークも、この人が口にすると自然と笑えてしまうのがさすがだ。さらには繊細な内側の揺らぎも弱さも丁寧に見せ、コステロの人間的魅力を最大限に引き出している。また普通の感覚を持った青年が環境に影響され成長していくさまを真摯に演じる浦井、時間経過とともに訛り具合すらも変化させていく成河も魅力的。キャスト陣が戯曲に含まれた膨大な情報を咀嚼し、身体に馴染ませて自然に躍動しているからこそ、物語の面白さが伝わる。
物語は、1970年代から2001年の間の4つの時代を切り取る。時間経過とともに、最初は自分たちの正義を疑わなかった彼らにも変化が現れる。信念が揺らぐ者、おびえる者、変わらぬ者。FBIへの密通者探しといったスリリングな展開の中で、その“変化”も、三者三様の方向へ。そして様々な局面を経て、正義は立場を変えれば暴力になることがじわじわと浮かび上がる。彼らがイスラム過激派のテロ行為について議論を戦わせるシーンは象徴的であるとともに皮肉でもある。作品が放つ問いかけに、IRA問題など対岸の火事と思う我々日本人も、他人事ではいられなくなる。観客も舞台に乗せられたものを享受するだけではなく、自ら掴みとりに行く積極さで物語を味わった方がいい。そんな楽しみ方が相応しい、濃密な舞台だ。
(げきぴあより)
ぴあさん解ってるね~♪