【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

山口義行『聞かせる技術』河出書房新社、2008年

2008-11-14 21:12:42 | 読書/大学/教育

山口義行『聞かせる技術』河出書房新社、2008年

                             聞かせる技術<

 大学がレジャーランド化し、授業中は学生の私語が蔓延、彼らは単位をととることばかりにきゅうきゅうとしている、大学がそのように評されるようになってだいぶたちます。

 著者はそのようなマスプロ大学のマスプロ授業で、それも「金融論」という難解な授業で、「私語」のない授業を行っているということで、いつしか有名になってしまった先生です。(中小企業問題でよくTVに出演もしています)


 著者はまた、中小企業の経営者の前で話をする機会も多いようで、その経験もふまえて本書を書いたそうです。

 「あとがき」に本書執筆の動機が書かれています。それによると、同僚のK
氏が著者の「私語」のない授業(500-700人前後の学生を収容する大講堂での授業)を展開している様子に驚嘆したとの記事を書き、著者自身がその文章に接して、それが「そんなにすごいことだったのか」と我が身を省みて執筆を受諾したのだそうな(もちろん編集者の声かけがまずあったのですが)。

 話を「聞いてもらう」には、まず聞き手の心をつかまなければならず、そのためには聞き手が「半径1メートル」で生きている存在なのだからそのことを前提にした話から始めること、聞き手がどんなに多くとも「一対一」で語りかける姿勢をつらぬくこと、「損得にかかわること」「人生のドラマ」を挟み込むこと、キーワードで締めくくること、「足りない」ことを自覚させ知識欲をかきたてること、言葉の「由来」やわかりやすい「数字」を上手に使うこと、などがポイントだそうです。

 豊富な経験にもとづいたテクニック(というか実践で身につけたコミュニケーション哲学)を開陳しています。

 そうした方法は、もともとは女子短大の授業(話の「聞き手」は教室で化粧などして教師の話を聞こうともしない女子学生)で鍛えられたのだそうです(pp.27-28)。

 私語をしている学生の存在は教師の悩みの種ですが、怒っても、怒鳴ってもダメで、要は聞き手に対する真摯な姿勢であって、これは企業での経営者の社員に対する姿勢、営業マンの顧客に対する姿勢などコミュニーションの万端に通じるものだそうである。納得しました。

 本書は著者からの献本です。