安倍医療改悪 入院時の食事代も2倍 治療の一環なのになぜ
療養することが困難に
入院時の給食代2倍 やめて欲しい posted by (C)きんちゃん
消費税を増税しながら社会保障をばっさり削る安倍政権。医療の改悪計画が目白押しです。今国会で関連法案の審議が狙われています。入院時の食事代を1食260円から460円に2倍近く値上げする負担増もその一つです。
(海老名広信、内藤真己子)
埼玉県在住の山口杏子さん(52・仮名)は2003年に初期乳がんを手術しました。数年後に肺などへの転移が見つかって以来、入退院を繰り返しています。昨年は3カ月、2週間、1カ月と、3回入院しました。酸素吸入をしながら、かすれ声で話します。
入院の食事をとる山口さん=2014年12月、埼玉県内の病院
入院の食事
不安も倍増
「入院食事代の倍近い値上げは、不安も倍増させます。安倍政権は、収入のある現役世代なら値上げしても耐えられると勘違いしています。患者は肉体的にはもちろん、精神的にも経済的にも、すごくしんどいことを知らないのです」
入院給食の価格は現行、1食640円です。このうち自己負担が260円で、残りは健康保険から支払われます。政府は2016、18年度と2回に分けて自己負担を100円ずつ値上げする計画です。
もし200円値上げされたら、山口さんの場合、昨年の入院日数で計算すると8万400円も負担が増えます。
値上げの口実は「在宅との公平を図る」(社会保障制度改革国民会議報告書)。山口さんは納得できません。自宅での食費は1食300円に満たないからです。「病人は食が細く、量を食べられません。公平をいうなら入院時の食事代を下げてほしい」
政府は負担増によって、患者を病院から遠ざけ在宅に押しとどめようとしています。
山口さんは夫(55)と2人暮らしで、訪問による診療(月2回)や看護(毎日)を受けて在宅療養しています。「うーん、痛っ…」。うめき声をあげて日に何度か襲ってくる痛みに耐えます。医療用麻薬などの服薬時間がどうしても乱れるので、痛みを抑えるのは容易ではありません。入院していれば、きちっと服薬時間が守られ、痛みや症状が出ても迅速に対応してもらえます。
在宅療養は経済的な痛みも大きい。医療費の自己負担分は毎月22万円以上です。介護保険も利用し、訪問入浴や介護用ベッドなどの貸与で利用料は月約8千円。他に自費の衛生材料費や紙おむつ代などがかかります。
医療費のうち高額療養費の対象は限度額を超える分が戻ってくるものの、申請してから3カ月もかかります。
1カ月(暦月)31日間入院すると、高額療養費の限度額約5万円と食事代約2万4千円です。在宅のように何十万円も用意しなくてすみます。山口さんは差額ベッドのない民主医療機関に受診しているので「何とか入院できる」といいます。
食事代は1食200円値上げで、月4万2千円以上になり、高額療養費の限度額に迫る額です。食事代は高額療養費の対象外。純粋な負担増です。山口さんは「在宅の費用は高いし、いざ入院が必要になっても、その自己負担も高くなると、療養することが経済的に困難になります」と憤ります。
政府は負担増の口実に「65歳以上の療養病床での食事代が460円だから」といいます。山口さんはいいます。「親も少ない年金が減らされるなかで医療費を工面しています。世代間の公平をいうなら高齢者の負担こそ下げてほしい」
病棟での夕食配膳=横浜市・汐田総合病院
反対で署名
「治療食(栄養も病気の治療に欠かせない)なのに、高額になるため食べない人も出てくるかもしれません。おにぎりや麺類などで済ませようとする人が出てくれば治療になりません」
これは全国保険医団体連合会(保団連)が医療改悪に反対する「待合室キャンペーン」で配布した「クイズチラシ」に添えられたコメントです。
保団連は患者負担増に反対し、負担の大幅軽減を求める署名にとりくんでいます。その数、16万人分以上です。「一昨年同時期に取り組んだ署名の倍以上です。負担増に反発する世論の大きさの表れ」としています。
全日本民主医療機関連合会(全日本民医連)も、患者負担増に反対しています。
全日本民医連栄養委員会の宮尾貴幸委員長は「ぎりぎりの生活をしている患者さんが多いなか、これ以上の負担は増やさないでほしい」と力をこめます。
いま同栄養委員会は、中央社会保障推進協議会と全労連、全日本民医連による「安全・安心の医療・介護の実現を」求める署名に取り組んでいます。政府への請願項目のトップが「入院時の食事代など自己負担を増やす計画の中止」です。
宮尾さんはいいます。「栄養部門は他の医療職種と違い、患者さんと密に接することはありません。でも署名活動では、全国の事業所で積極的に患者さんとふれあい、地域にも入ってがんばりたい」
医療費押し上げにも
日本栄養士会会長小松龍史さん
入院給食は、医療の一環として病院で食事を提供するものです。
主治医の指示を受け、管理栄養士が中心になって患者さんの年齢や性別、体格、身体状況、栄養状態、病状に合わせた個別の栄養管理計画をつくり、個々人に合わせた食事が提供されます。病院の給食は家庭の食事と明らかに違い、治療の一環なのです。
たとえば、若くて大柄な患者さんには多くのエネルギーが必要になります。逆に、患者さんによっては、輸液から栄養がまかなわれ、食事量が少ない時期も存在します。これまでは自己負担が抑えられていたので問題になりませんでしたが、自己負担額が一食460円に引き上げられたら、逆に同額の負担で、患者さんにより食事量が大きく異なることに不満感が生まれる可能性もあります。
給食をとらず、個人的に食事を持ち込むような問題が起きかねません。そうなれば治療の効果は上がらず、入院が長引き、結果的に医療費を押し上げるかもしれないのです。
ところで、入院給食の自己負担は高額療養費の対象ではないので、引き上げは患者さんの負担増に直結します。病気を持っている人は社会的弱者です。働いていても病気で入院すれば収入が途絶える人も少なくないと思います。そこへ重い給食費負担は大変だと思います。
超高齢化社会で社会保障の支出が増えているのは分かりますが、慎重に扱っていただきたいと願っています。
在宅療養との「公平」をいうなら、在宅での栄養管理指導をもっと進めることが大切です。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2015年2月14日付掲載
元々、入院の給食費(食事代)は医療の一環ということで、高額医療費の対象にもなっていたと思いますが…。
今でも、病院によって食事内容の良しあしがあって格差を感じるのですが…。自己負担額がアップすると…。同じ病院内でも、術後で半粥とか流動食でも、普通の食事でも、同じ値段。不公平感を感じる人が増えるのでは。
医療の一環なのですから、せめて保険適用と同じ3割負担にとどめて欲しい。
療養することが困難に
入院時の給食代2倍 やめて欲しい posted by (C)きんちゃん
消費税を増税しながら社会保障をばっさり削る安倍政権。医療の改悪計画が目白押しです。今国会で関連法案の審議が狙われています。入院時の食事代を1食260円から460円に2倍近く値上げする負担増もその一つです。
(海老名広信、内藤真己子)
埼玉県在住の山口杏子さん(52・仮名)は2003年に初期乳がんを手術しました。数年後に肺などへの転移が見つかって以来、入退院を繰り返しています。昨年は3カ月、2週間、1カ月と、3回入院しました。酸素吸入をしながら、かすれ声で話します。
入院の食事をとる山口さん=2014年12月、埼玉県内の病院
入院の食事
不安も倍増
「入院食事代の倍近い値上げは、不安も倍増させます。安倍政権は、収入のある現役世代なら値上げしても耐えられると勘違いしています。患者は肉体的にはもちろん、精神的にも経済的にも、すごくしんどいことを知らないのです」
入院給食の価格は現行、1食640円です。このうち自己負担が260円で、残りは健康保険から支払われます。政府は2016、18年度と2回に分けて自己負担を100円ずつ値上げする計画です。
もし200円値上げされたら、山口さんの場合、昨年の入院日数で計算すると8万400円も負担が増えます。
値上げの口実は「在宅との公平を図る」(社会保障制度改革国民会議報告書)。山口さんは納得できません。自宅での食費は1食300円に満たないからです。「病人は食が細く、量を食べられません。公平をいうなら入院時の食事代を下げてほしい」
政府は負担増によって、患者を病院から遠ざけ在宅に押しとどめようとしています。
山口さんは夫(55)と2人暮らしで、訪問による診療(月2回)や看護(毎日)を受けて在宅療養しています。「うーん、痛っ…」。うめき声をあげて日に何度か襲ってくる痛みに耐えます。医療用麻薬などの服薬時間がどうしても乱れるので、痛みを抑えるのは容易ではありません。入院していれば、きちっと服薬時間が守られ、痛みや症状が出ても迅速に対応してもらえます。
在宅療養は経済的な痛みも大きい。医療費の自己負担分は毎月22万円以上です。介護保険も利用し、訪問入浴や介護用ベッドなどの貸与で利用料は月約8千円。他に自費の衛生材料費や紙おむつ代などがかかります。
医療費のうち高額療養費の対象は限度額を超える分が戻ってくるものの、申請してから3カ月もかかります。
1カ月(暦月)31日間入院すると、高額療養費の限度額約5万円と食事代約2万4千円です。在宅のように何十万円も用意しなくてすみます。山口さんは差額ベッドのない民主医療機関に受診しているので「何とか入院できる」といいます。
食事代は1食200円値上げで、月4万2千円以上になり、高額療養費の限度額に迫る額です。食事代は高額療養費の対象外。純粋な負担増です。山口さんは「在宅の費用は高いし、いざ入院が必要になっても、その自己負担も高くなると、療養することが経済的に困難になります」と憤ります。
政府は負担増の口実に「65歳以上の療養病床での食事代が460円だから」といいます。山口さんはいいます。「親も少ない年金が減らされるなかで医療費を工面しています。世代間の公平をいうなら高齢者の負担こそ下げてほしい」
病棟での夕食配膳=横浜市・汐田総合病院
反対で署名
「治療食(栄養も病気の治療に欠かせない)なのに、高額になるため食べない人も出てくるかもしれません。おにぎりや麺類などで済ませようとする人が出てくれば治療になりません」
これは全国保険医団体連合会(保団連)が医療改悪に反対する「待合室キャンペーン」で配布した「クイズチラシ」に添えられたコメントです。
保団連は患者負担増に反対し、負担の大幅軽減を求める署名にとりくんでいます。その数、16万人分以上です。「一昨年同時期に取り組んだ署名の倍以上です。負担増に反発する世論の大きさの表れ」としています。
全日本民主医療機関連合会(全日本民医連)も、患者負担増に反対しています。
全日本民医連栄養委員会の宮尾貴幸委員長は「ぎりぎりの生活をしている患者さんが多いなか、これ以上の負担は増やさないでほしい」と力をこめます。
いま同栄養委員会は、中央社会保障推進協議会と全労連、全日本民医連による「安全・安心の医療・介護の実現を」求める署名に取り組んでいます。政府への請願項目のトップが「入院時の食事代など自己負担を増やす計画の中止」です。
宮尾さんはいいます。「栄養部門は他の医療職種と違い、患者さんと密に接することはありません。でも署名活動では、全国の事業所で積極的に患者さんとふれあい、地域にも入ってがんばりたい」
医療費押し上げにも
日本栄養士会会長小松龍史さん
入院給食は、医療の一環として病院で食事を提供するものです。
主治医の指示を受け、管理栄養士が中心になって患者さんの年齢や性別、体格、身体状況、栄養状態、病状に合わせた個別の栄養管理計画をつくり、個々人に合わせた食事が提供されます。病院の給食は家庭の食事と明らかに違い、治療の一環なのです。
たとえば、若くて大柄な患者さんには多くのエネルギーが必要になります。逆に、患者さんによっては、輸液から栄養がまかなわれ、食事量が少ない時期も存在します。これまでは自己負担が抑えられていたので問題になりませんでしたが、自己負担額が一食460円に引き上げられたら、逆に同額の負担で、患者さんにより食事量が大きく異なることに不満感が生まれる可能性もあります。
給食をとらず、個人的に食事を持ち込むような問題が起きかねません。そうなれば治療の効果は上がらず、入院が長引き、結果的に医療費を押し上げるかもしれないのです。
ところで、入院給食の自己負担は高額療養費の対象ではないので、引き上げは患者さんの負担増に直結します。病気を持っている人は社会的弱者です。働いていても病気で入院すれば収入が途絶える人も少なくないと思います。そこへ重い給食費負担は大変だと思います。
超高齢化社会で社会保障の支出が増えているのは分かりますが、慎重に扱っていただきたいと願っています。
在宅療養との「公平」をいうなら、在宅での栄養管理指導をもっと進めることが大切です。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2015年2月14日付掲載
元々、入院の給食費(食事代)は医療の一環ということで、高額医療費の対象にもなっていたと思いますが…。
今でも、病院によって食事内容の良しあしがあって格差を感じるのですが…。自己負担額がアップすると…。同じ病院内でも、術後で半粥とか流動食でも、普通の食事でも、同じ値段。不公平感を感じる人が増えるのでは。
医療の一環なのですから、せめて保険適用と同じ3割負担にとどめて欲しい。