仮 定 さ れ た 有 機 交 流 電 燈

歴史・文化・環境をめぐる学術的話題から、映画やゲームについての無節操な評論まで、心象スケッチを連ねてゆきます。

二項対立を超えてゆこうとする物語

2013-02-20 09:52:26 | テレビの龍韜
あっという間に年があらたまり、1ヶ月が過ぎ、2月も終わろうとしている。今日〆切の原稿が上がっていない。じゃあなぜそんなときにブログを更新しているのか(いつもほとんど更新しないのに…)と詰問されそうだが、まあ仕方ない。こちらでしかお会いしていない皆さま、新年明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

「まおゆう魔王勇者」TVアニメ公式サイトところで、上の原稿を急ピッチで仕上げているところなのだが(来週までかかりそう)、そのBGMとしてヘビーローテーションになっているのが、「向かい風」という楽曲。テレビ東京で金曜深夜に放映しているアニメ『まおゆう魔王勇者』の主題歌である。この作品については、ネットでの公開、紙媒体での出版という経緯をたどっている段階から、知人が話題にしていたので気になってはいた。しかしライトノベルはあまり読まないタチなので、食わず嫌い、まったく手を着けずにここまできてしまったのだ。よって、小説とアニメはどのように違うのか、根本的に異なる物語なのか、設定が多少違っているだけなのか、そのあたりのことはまったく分からない。しかしアニメの方については、「はまっている」とまではゆかないものの、毎週それなりに楽しみに観ている。何が気に入っているのかというと、それは、「二項対立を超えてゆこうとする物語」であるからにほかならない。正義vs悪という二項対立的構図の典型たるヨーロピアン・ファンタジーの枠組み、RPG的な剣と魔法の舞台設定を借りて、一方の代表である勇者と一方の代表である魔王が手を結び、戦争のもたらす種々の利益によって成立している世界を変えようと奮闘する。キャラクターは類型的だし、作画やアニメートに工夫があるわけではないし、個々のエピソードも成功しているかというとそうでもないのだが、やはり「二項対立を超えようとする」悲壮な努力に惹きつけられてしまう。

ぼくも、もう20年近く論文を書いてきたが、大学院の後半あたりからは、いかに世界を二項対立の枠組みから外してゆくかを意識して研究を進めてきた。方法論懇話会での仕事や『環境と心性の文化史』の総論などは、歴史学を基盤に据えながら、その試みを実践してゆく可能性を模索したものである。しかしこの20年で、いかに人間が二項対立的構造に安寧を覚えるか、容易にその魔力に囚われてしまうかも思い知った。9.11の教訓を突きつけられてもその傾向は変わらず、かえって勢いを増していることは、昨年からの日本の政治状勢をみても明らかであろう。このブログでも何度か同じことを書いているが、二項対立的構造は人間が「世界」という認識を構築してゆく基本であるため、強固なのは当たり前ともいえるかもしれない。しかしだからこそ、その解消へ向けて挑んでゆかねば、早晩人間の「文明」は立ちゆかなくなるに違いない。「向かい風」ではないが、ぼくだって「向こう側にあるものがみたい」のだ。

蛇足だが、『まおゆう』の対極を突っ走っているのが、『仮面ライダーウィザード』である。先週の回では、敵であるファントムと心を通わせようとした女性刑事が、逆にファントムに利用されてしまい、主人公に救出された果てに笑顔でこう語る。「今回のことで、ファントムの怖ろしさがよく分かった。私はもう迷わない。」敵は敵、心を通じさせる必要などない危険な存在なのだから、殺して排除してしまうしかない。こんな危険な話、子供にみせていいのかと唖然とした。主人公の決めゼリフは「おれが最後の希望だ」なのだが、まったく絶望的な番組というしかない。
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