今週1週間は、8月末日〆切の原稿を進める一方(まだ終わっていないよ、情けない)、富士見丘高校との高大連携企画「環境史フィールドワーク」の準備を進めていた。昨年から始めたこのプロジェクトだが、前にも書いたとおり、富士見丘が文科省よりSGH(スーパー・グローバル・ハイスクール)に採用されたため、今年度からはきちんと予算がつく。昨年はぼくが授業を行い、フィールドワーク(というかエクスカーション)も企画して高校生たちを案内したが、今年はこちらの学生と先方の生徒が主体となって、双方向的に学習を進めながら企画、実践を行ってゆく形にした。先方が女子校なので、コミュニケーションのとりやすさ、目標へのしやすさを考慮して、こちらも女子学生・院生を担い手に選び計画を練った。
初回となった昨日土曜日には、環境史とはいかなる学問か、その観点を利用したフィールドワークでどんなことが分かるのかを、まず学生側からプレゼン、紹介する。高校生はこれを参考に自分たちの計画を立てるので、彼女たちの指針となるしっかりした内容でなければならない。しかし、あまりに調べすぎて余白を埋めてしまっても、かえって彼女たちの興味を失わせるかもしれない。適切な刺激を与えてモチベーションを向上させるため、微妙な配慮が必要となる。先方の先生とも相談の結果、災害/開発をテーマに、具体的なフィールドとして上智にも近い神田を選び、学生たちに3つの報告を考えてもらった。8月を通じてアイディアを練ってもらい、月末に一度経過報告をしてもらって、こちらからも幾つかのアドバイスと、全体に一貫性を持たせるための指示を出した。今週初めには、実際にパワーポイントを用いた予行演習をしてもらい、そこでも種々意見交換をして、解散後もメールでやりとりを続け、完成型ができあがったのがなんと当日早朝。それから急いで登校し、プリントを印刷して会場を設営したので、準備の完了が10:00開始の本当にギリギリとなってしまった(ぼくの段取りが悪いからだな!)。
しかし結果としては、学生・院生諸君のがんばりによって、上々のスタートを切ることができた。
トップバッターは、3年生の是澤櫻子さん。環境史のものの見方から始めて、具体的題材としては、神田橋本町のスラム・クリアランス問題を扱った。江戸という近世都市から近代都市東京が起ち上がる際、喪失したものとは何だったのか。整備された景観と衛生性の向上とを引き替えに、我々が失ったものとは何だったのか。専門のマイノリティー史にも絡めながら、高校生の「当たり前」へ丁寧に問いかけた。環境史の概念や視角は本当に複雑で難解なのだが、オリジナルの図表を積極的に用いながら、本当に分かりやすく解説してくれた。説明の的確さ、聞きやすさ、視角・内容の確かさ、そして思わず引き込まれるパフォーマンスには、舌を巻くばかりだ。本当は「環境史の概説」はぼくが担うべきなのだが、全幅の信頼を置いているので、安心して任せることができた。任せて正解、ぼくより確実に巧いのだから。
休憩を挟んで、二番手は院生の西山裕加里さん。最悪の体調のなか、さすが大学院生と思わせるプレゼンをみせてくれた。題材は、神田川の水系の改変について。現在の東京の景観からは想像もつかないが、かつて江戸は縦横に水路の走る水郷都市だった。お濠や河川、水路は、人々の生活用水、そして流通の手段として重要な意味を持っていた。水の排除を通じ、東京は水害の抑止と衛生性を手に入れたが、水辺と密接した豊かな生活文化を手放すことになった。細かな説明が必要なために「だれやすい」内容を、地図や絵画資料などをまじえて分かりやすくまとめてくれた。学部時代からずっと彼女をみてきたが、精神的な弱さを抱えつつも常にものごとに誠実に向き合う美点があり、やはり格段に成長してきている。春学期の最初と比較しても、別人のように違う。感慨深い。
最後は、2年生の松本満里奈さん。未だ下級生だが、志願して服藤早苗さんのゼミにも参加させていただき、めきめきと力を付けている。題材は、神田お玉ヶ池の伝承。伝承に隠された自然環境との関わり、土地の来歴を読み解くことで、それが隠蔽され、忘却されてしまった現代都市の危険性を警告する内容だった。前日まで、服藤さんのゼミ旅行に参加させていただいていたにもかかわらず(実は、ちゃんと修正の時間をとれるか心配していた)、きっちりと報告をまとめてきて感心した。パワーポイントも美しい(いまの学生は、2年生でもこれだけのことができるんだなーと感動)。話し方はまだ舌足らずのところもあるが、かえって生徒たちは身近に感じたかもしれない。論旨も明確でメリハリが利いており、話の内容がしっかり生徒たちに届いているのが分かった。頼もしい。
プレゼン終了後は、学生と高校生とのミーティング。何も会話のない情況が続いたらどうしようかと心配したが、瞬く間に打ち解け、学問的な話から女子校あるある(!)まで、ずいぶん会話がはずんだようだった(教員が主体になっていたら、とてもこううまくはいかなかっただろう)。ここには去年から引き続き、上級生の中村航太郎君にも参加してもらったが、やはり「女子力」に圧倒されていた?
先方の先生にも大変に喜んでいただき、「やはり上智の学生は優秀ですね、こちらも興奮して大いに知的刺激を受けました」と絶賛のお言葉を頂戴した。ぼくは自分に甘く、他人に厳しい人間なので、学生をみていても粗ばかりが目に付き、大して誉めたりはしない。決して叱ったりはしないが、「こうしたらいいね」と不備の指摘を重ねてゆくばかりで、あまりいい指導者ではない(ゆえによく、「笑顔が怖い」「目が笑っていない」といわれる)。しかし、今回は手放しで誉めておくことにしたい。今後は、高校生と相談しながら計画を練り、富士見丘高校の方へも伺って種々アドバイスを行うことになる。こちらも、一歩も二歩も引いておいて、ここ!という点のみしっかりと支える技術、心構えを作っておかねば。
関係の皆さん、お疲れさまでした!
初回となった昨日土曜日には、環境史とはいかなる学問か、その観点を利用したフィールドワークでどんなことが分かるのかを、まず学生側からプレゼン、紹介する。高校生はこれを参考に自分たちの計画を立てるので、彼女たちの指針となるしっかりした内容でなければならない。しかし、あまりに調べすぎて余白を埋めてしまっても、かえって彼女たちの興味を失わせるかもしれない。適切な刺激を与えてモチベーションを向上させるため、微妙な配慮が必要となる。先方の先生とも相談の結果、災害/開発をテーマに、具体的なフィールドとして上智にも近い神田を選び、学生たちに3つの報告を考えてもらった。8月を通じてアイディアを練ってもらい、月末に一度経過報告をしてもらって、こちらからも幾つかのアドバイスと、全体に一貫性を持たせるための指示を出した。今週初めには、実際にパワーポイントを用いた予行演習をしてもらい、そこでも種々意見交換をして、解散後もメールでやりとりを続け、完成型ができあがったのがなんと当日早朝。それから急いで登校し、プリントを印刷して会場を設営したので、準備の完了が10:00開始の本当にギリギリとなってしまった(ぼくの段取りが悪いからだな!)。
しかし結果としては、学生・院生諸君のがんばりによって、上々のスタートを切ることができた。
トップバッターは、3年生の是澤櫻子さん。環境史のものの見方から始めて、具体的題材としては、神田橋本町のスラム・クリアランス問題を扱った。江戸という近世都市から近代都市東京が起ち上がる際、喪失したものとは何だったのか。整備された景観と衛生性の向上とを引き替えに、我々が失ったものとは何だったのか。専門のマイノリティー史にも絡めながら、高校生の「当たり前」へ丁寧に問いかけた。環境史の概念や視角は本当に複雑で難解なのだが、オリジナルの図表を積極的に用いながら、本当に分かりやすく解説してくれた。説明の的確さ、聞きやすさ、視角・内容の確かさ、そして思わず引き込まれるパフォーマンスには、舌を巻くばかりだ。本当は「環境史の概説」はぼくが担うべきなのだが、全幅の信頼を置いているので、安心して任せることができた。任せて正解、ぼくより確実に巧いのだから。
休憩を挟んで、二番手は院生の西山裕加里さん。最悪の体調のなか、さすが大学院生と思わせるプレゼンをみせてくれた。題材は、神田川の水系の改変について。現在の東京の景観からは想像もつかないが、かつて江戸は縦横に水路の走る水郷都市だった。お濠や河川、水路は、人々の生活用水、そして流通の手段として重要な意味を持っていた。水の排除を通じ、東京は水害の抑止と衛生性を手に入れたが、水辺と密接した豊かな生活文化を手放すことになった。細かな説明が必要なために「だれやすい」内容を、地図や絵画資料などをまじえて分かりやすくまとめてくれた。学部時代からずっと彼女をみてきたが、精神的な弱さを抱えつつも常にものごとに誠実に向き合う美点があり、やはり格段に成長してきている。春学期の最初と比較しても、別人のように違う。感慨深い。
最後は、2年生の松本満里奈さん。未だ下級生だが、志願して服藤早苗さんのゼミにも参加させていただき、めきめきと力を付けている。題材は、神田お玉ヶ池の伝承。伝承に隠された自然環境との関わり、土地の来歴を読み解くことで、それが隠蔽され、忘却されてしまった現代都市の危険性を警告する内容だった。前日まで、服藤さんのゼミ旅行に参加させていただいていたにもかかわらず(実は、ちゃんと修正の時間をとれるか心配していた)、きっちりと報告をまとめてきて感心した。パワーポイントも美しい(いまの学生は、2年生でもこれだけのことができるんだなーと感動)。話し方はまだ舌足らずのところもあるが、かえって生徒たちは身近に感じたかもしれない。論旨も明確でメリハリが利いており、話の内容がしっかり生徒たちに届いているのが分かった。頼もしい。
プレゼン終了後は、学生と高校生とのミーティング。何も会話のない情況が続いたらどうしようかと心配したが、瞬く間に打ち解け、学問的な話から女子校あるある(!)まで、ずいぶん会話がはずんだようだった(教員が主体になっていたら、とてもこううまくはいかなかっただろう)。ここには去年から引き続き、上級生の中村航太郎君にも参加してもらったが、やはり「女子力」に圧倒されていた?
先方の先生にも大変に喜んでいただき、「やはり上智の学生は優秀ですね、こちらも興奮して大いに知的刺激を受けました」と絶賛のお言葉を頂戴した。ぼくは自分に甘く、他人に厳しい人間なので、学生をみていても粗ばかりが目に付き、大して誉めたりはしない。決して叱ったりはしないが、「こうしたらいいね」と不備の指摘を重ねてゆくばかりで、あまりいい指導者ではない(ゆえによく、「笑顔が怖い」「目が笑っていない」といわれる)。しかし、今回は手放しで誉めておくことにしたい。今後は、高校生と相談しながら計画を練り、富士見丘高校の方へも伺って種々アドバイスを行うことになる。こちらも、一歩も二歩も引いておいて、ここ!という点のみしっかりと支える技術、心構えを作っておかねば。
関係の皆さん、お疲れさまでした!