仮 定 さ れ た 有 機 交 流 電 燈

歴史・文化・環境をめぐる学術的話題から、映画やゲームについての無節操な評論まで、心象スケッチを連ねてゆきます。

早く、スピヴェット君に会う環境を整えよう

2010-03-04 11:37:34 | 書物の文韜
3月に入って、大学の仕事も新年度へ向けて舵をきった。幾つかの委員会の会議をこなし(来年度から教授会の書記も引き受けることになったので、学科長会議にも出席せねばならない)、シラバスの登録も終了(特講では前にも書いたとおり「異類婚姻譚・変身譚」を扱うことにし、全学共通日本史のかわりに担当することになった「原典講読」では、絵巻を素材にテクストと画像の関係を考えることにした)。また、某学会誌の依頼で特集の企画案を作成、承認されるか半信半疑で「種間倫理の再構築」を掲げてみたのだが、何とかなりそうな気配でさらに具体化してゆくことになった。皆さん、もし執筆の依頼が届きましたらご快諾ください。
私的には、確定申告など税金関係の処理、シンポジウムの準備に明け暮れているが、体調が万全でなく充分に集中できない状態である。時間ばかりが無駄に過ぎてゆくようで、精神的にもよろしくない。『古代文学』は校了、『上代文学』は初校を終了。倉田実さんの還暦論集も初校が出てきたが、〆切がシンポとかぶるので少々待ってくれるようお願いした。2月中に仕上げたい論文がもうひとつあったのだが、これもシンポのため2週間作業を休止。シンポの終了後は引っ越し作業を始めなければならないが、なんとか同時進行で脱稿したいものだ。その後も4月の御柱シンポ、4月末・5月末・7月末・8月末〆切の論文が1本ずつ控えている。4・5月は複数の研究を仕上げてゆかねばならないので、けっこうきつそうである。ふー。3月末には、引っ越しの打ち上げにモモと温泉にでもゆこうかと思っていたが、「一服する余裕」があるかなあ。

さて、昨日は出勤して幾つか書類を作成するとともに、出版社K社のH氏と打ち合わせ。1月の立教大学でのシンポの折、ぼくの単行本を出したいと仰った方である。学会やシンポの際にはそういうことを挨拶がわりにいう編集者も多いのだが、H氏はその後ちゃんと連絡をくださり、実際に書き下ろしの単行本を出すべく企画を練ってゆくことになった。勉誠出版の『環境と心性の文化史』の方向性を受け継ぎ、日本的自然観の構築過程を批判的に扱う内容になるだろう。未だ完成をみない秦氏の本も含め、計画的に執筆を進行させてゆかねばなるまい。「調子が悪い」などといっている場合ではない。

左の写真は、最近衝動買いした物語たち。五十嵐大介の『SARU』上巻は、伊坂幸太郎との同一テーマ競作になる書き下ろしの単行本である。五十嵐版『幻魔大戦』とでもいおうか。『西遊記』研究で有名な中野美代子氏が、美人研究者ナカノ・ミヨコとして登場するのも面白い。SARUの宿った少女と神父との対話は『エクソシスト』を髣髴とさせたし、最後のSARUの出現シーンは『エヴァンゲリオン』っぽかった。絵柄がアニメ的だとげんなりしてしまう内容だが、緻密だが乾いた画力が作品世界を支えている。
押井守『ケルベロス・鋼鉄の猟犬』は、『紅い眼鏡』に始まる氏の仮想戦記シリーズ・ケルベロスサーガの最新作。首都圏対凶悪犯罪特殊武装機動特捜班のモデルとなった、ドイツの第101装甲猟兵大隊の興廃を描いたもので、2006~2007年に文化放送で放送していたラジオドラマのノベライズ。『紅い眼鏡』は、まだ映画作家を志していた高校時代にキネカ大森の単館上映で観た。当初は不条理活劇の印象が強かったこのシリーズも、押井作品全体のトーンが変質するに伴ってシリアス一辺倒となっていった。それがちょっと残念だが、宮崎駿における南フランス・イタリア、押井守におけるドイツを考えるうえでは重要な作品でもある。
ライフ・ラーセン『T・S・スピヴェット君傑作集』は、今回いちばん読むのが楽しみな作品。amazonの紹介には以下のようにある。
モンタナに住む十二歳の天才地図製作者、T・S・スピヴェット君のもとに、スミソニアン博物館から一本の電話が入った。それは、科学振興に尽力した人物に与えられる由緒あるベアード賞受賞と授賞式への招待の知らせだった。過去にスミソニアンにイラストが採用された経緯はあるものの、少年はこの賞に応募した覚えはない。これは質の悪いいたずら?そもそもこの賞は大人に与えられるものでは?スピヴェット君は混乱し、一旦は受賞を辞退してしまう。だがやがて、彼は自分の研究に無関心な両親のもとを離れ、世界一の博物館で好きな研究に専念することを決意する。彼は放浪者のごとく貨物列車に飛び乗り、ひとり東部を目指す。それは、現実を超越した奇妙な旅のはじまりだった。アメリカ大陸横断の大冒険を通じて、自らの家族のルーツと向き合う天才少年の成長と葛藤を、イラスト、図表満載で描き上げる、期待の新鋭による傑作長篇。
内容のみならず、その装幀、ページ1枚1枚の凝ったレイアウトが本好きには溜まらない。文学としては少々値の張る本だが、買わずにはいられなかった。新居の書斎でゆっくり読みたい1冊である。
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