仮 定 さ れ た 有 機 交 流 電 燈

歴史・文化・環境をめぐる学術的話題から、映画やゲームについての無節操な評論まで、心象スケッチを連ねてゆきます。

第4回 環境思想シンポジウムへの参加

2014-04-05 10:07:16 | 議論の豹韜
これも遡り報告になるが、先月17~18日、小諸の安藤百福記念センターにて行われた「第4回環境思想シンポジウム」へ、講演者として参加してきた。かなり厳しいスケジュールのなか、開催1ヶ月前に無理矢理ねじ込んだ報告だったので、いつも苦労する準備もさらに難航、しかしなんとか本番前日の午前中には配布資料のpdfを事務局へ送信、パワーポイントの作成もギリギリ間に合った。とうぜん一睡もしないまま、まずは勤務校で会議を2時間、それから新幹線に飛び乗って小諸へ駆けつけた。シンポ自体は翌日だが、中心メンバーは前日夕方にセンターへ入り(自然体験教室なども開催しているので、きれいな宿泊施設も完備)、打ち合わせや意見交換を行う予定になっていたのだ。心身ともにクタクタであったが、野田研一さんや結城正美さん、山本洋平さん、堀郁夫さんら敬愛する知人・友人のほか、主催者側の岡島成行さん、加藤尚武さん、鬼頭秀一さん、ほかに福永真弓さんなど、かねてから学恩を蒙っている方々と実際に知り合うことができ、夜を徹してさまざまに議論することができた。しかし、そんなこんなで、この日もベッドに入ったのが朝4時頃。5時半には起き出して入浴、報告の準備も再開したので、まあよくテンションを保つことができたと思う。
朝食のあと、早速9時からシンポジウム開始。センター自体は駅からずいぶん離れたところにあるのだが、平日の早朝にもかかわらず、会場一杯の参加者が詰めかけてくださっていた。そのなかには、以前エコクリティシズムのシンポジウムでご一緒した中村優子さん、雲南の調査でご一緒した岩崎千夏さん、そして古くからの友人であり、4月から同僚にもなる中澤克昭さんの姿もあった。
まずは、沖縄からはるばるいらっしゃった環境文学研究の碩学のひとり、山里勝己さんによるゲーリー・スナイダーの文学、思想に関するご講演。恥ずかしながらほとんど関連の知識がなく、今回の依頼をいただいて急いで山里さんのご著作『場所を生きる』、『対訳亀の島』などを読んだ程度だったのだが、精神・身体と深く連結した場所の感覚・概念、アメリカの文化にみる移動性と場所の喪失/獲得の問題、そこから照射される沖縄や福島のディアスポラへの視線が、深く心に響いた。山里さんとは、その後もメールでやり取りをさせていただいたのだが、近年柄谷行人らによって柳田の遊動論が再評価されているように、定住による不幸、場所に束縛されるがゆえに発生する惨禍の問題もある。人間にとって場所とは何なのか、郷土とは、故郷とは何なのかを、ステレオタイプの日本=定住制社会論を相対化したところで捉えてゆかねばならない、との思いを強くした。
続いてぼくの講演は、「〈串刺し〉考」。動物の身体を串刺しにする行為が、本来は精霊を魂の原郷へ送り返す儀礼であったことを明らかにし、併せて我々のなかにある〈残酷さ〉の尺度が、仏教の殺生罪業思想の喧伝や狩猟漁労文化の抑圧=単一的価値付与などにより、歴史的に構築されてきたものであることを述べた。議論の発端は、カナダの人類学者ポール・ナダスディが、北方狩猟民の動物の主神話を文化的構築物ではなく存在論的現実とみるべきとした議論を、環境倫理においてどう扱うべきなのか問題提起することにあった。しかしこのあたり、理論的に急拵えのまま報告してしまったので、訳語や本論との連結などでさまざまな齟齬を生じており、ご参加の方々から多くのご指摘、アドバイスをいただいた。また、実際に農業における〈害獣〉駆除や実験動物殺害の問題に関わっている研究者の方にもご意見をいただき、大きく知見を広げることができた。けれども、徹夜続きの頭はうまい具合に働かず、しっかりした回答がお返しできたかどうかはかなり怪しい。今後の研究によって、何とかご恩返しできるようにしたい。
昼食を挟んで午後は、結城正美さん、福永真弓さんの近況報告を伺った。結城さんのご報告は、加藤幸子さん・石牟礼道子さん・田口ランディさんの文学に共通してみられる、「汚染されていると知っていながら、それを食べること」の意味について。個人的には、これまで批判的にしか扱ってこなかった諏訪神文その他の殺生功徳論、すなわち「賤しい畜生を成仏させてやるには、人間が食べて身体の一部とするのが最良」とする考えが、実は内的に理解することによって別の読み方を可能にするかもしれない、(ポアのようなきわどい領域ではあるが)という閃きを得たことがありがたかった。福永さんのご報告は、環境正義などをめぐる理論的整理に関するもの。最近環境思想に関する情報収集を怠っていたので、自分の議論、考え方をまとめなおすうえで大いに役立った。お2人に感謝申し上げる。
終了後は、山本さんの車に乗せていただき、堀さんや岩崎さんもご一緒して一路東京へ。途中渋滞に遭って2時間以上、山本さんにご迷惑をおかけしたが、プライベートなことを含めて全員でいろいろな話をすることができた。友情を深めてゆくためには、やはりこういう時間は大切。山本さんとは今後協働の仕事が多くなると思うので、非常にありがたかった。最初から最後まで疲労困憊のシンポジウムだったが、かけた労力以上のお土産をさまざまにいただくことができた。関係の皆さんに御礼申し上げる次第である。
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