【京大公開講座で中西寛教授「日本は〝スマートな成長〟の支援を」】
「アジアにおけるインド・中国のパワー」を統一テーマにした京都大学公開講座(全3回)の最終回が15日開かれ、中西寛・法学研究科教授が「中国、インドの『復活』とその政治的影響―文明的大国と21世紀の国際政治」と題して講演した。その中で中西教授は「中国・インドは世界人口の4割を占める。両国が〝粗放な発展〟をすれば世界規模の環境悪化をもたらし、資源などの国際的な囲い込み政策は紛争の原因ともなる。だが〝スマートな成長〟を実現すれば世界が救われる」などと話した。
中国は2050年、米国を抜いて世界最大の経済大国になり、インドも米国に迫るとの予想がある。中西教授は「両国の経済成長は西側世界が作った開放的な自由貿易体制を利用して実現された。その根底には大戦争のない平和な国際環境があった」とし、今後の発展はこの国際システムの維持と、秩序の安定という国内的条件の2つにかかっていると指摘する。ただ、その前に〝中進国の罠(わな)〟の問題も立ち塞がる。
中国・インドは今後、世界秩序に対しどんな役割を果たしていくのか。中西教授は「リーダーか、サポーターか、それともスポイラー(邪魔者・非協力者)、またはチャレンジャー(既存秩序への挑戦者)になるのか。中国の場合、4つの選択肢のうちどれになるのか微妙な立場にある」という。例えば途上国援助。中国の方法は援助・貿易・投資・人の〝四位一体〟といわれ、「従来の西側の援助を混乱させる」との指摘も出始めた。
気候変動問題も大きな課題。中国は世界最大の二酸化炭素排出国。中国やインドを枠組みの中に取り込むことが不可欠だが、温室効果ガスの抑制基準を巡る議論は遅々として進んでいない。地球全体の食糧・水・資源・エネルギー問題の行方も懸念される。中西教授は「未耕作地の利用や淡水化、環境保全努力などに世界が適切に対処できれば破局を回避できるだろう。中国・インドの今後30~40年の動向が全体を左右する」とみる。
軍事的台頭も世界秩序に大きな波紋を投げかける。中国は今や米国に次ぐ世界第2位の軍事大国。「海洋強国」を目指し、「屈辱の近代史」に対するコンプレックスもあって急速な兵力近代化を進めてきた。一方、インドは自主独立・非同盟路線を取るが、世界最大の武器輸入国でもある(2位中国、3位パキスタン)。中印間にはカシミールやチベット問題も横たわる。
中西教授は偉大な民族の復興を標榜する中国について「現代版の中華思想になりかねず、今の対外政策はやや危険。世界の食糧や資源をコントロールし粗放に費やすことは中国にも世界にとっても大きなマイナス」と懸念する。国内では、中国は格差拡大や少数民族問題、国有企業の比重の増大と共産党腐敗問題など、インドもインフラ整備の遅れ、大衆教育の不足、宗教対立とテロ、男女差別、パキスタン関係など多くの問題を抱える。
中西教授は最後に「古く中国などから学んできた知恵を今度は日本がお返しする時が来た。日本はアジア太平洋秩序の要(かなめ)として、中国・インドの量から質へのスマートな経済成長を支援し、国際秩序のリーダー・サポーターとしての役割を共有していくことが大切」と話した。具体的な支援の例として、中国には環境保全技術や社会保障制度、インドにはインフラ整備や教育などを挙げた。