【旺盛な繁殖力、〝世界最強の雑草〟とも】
アジアやアフリカなど世界の暖帯に広く分布するイネ科チガヤ属の多年草。日当たりのいい野原や土手、道端などでごく普通に見られる。草丈は30~80cmで、5~6月ごろ茎の先に円柱状の花穂(長さは10~20cm)を立てる。初めは赤紫色を帯びるが、やがて白く光沢のある毛が密生した小穂が開き尾状になる。若い花穂を「茅花(つばな)」と呼び、群生し一面を覆う様子を「茅花野」という。草丈の低いチガヤで覆われた野原は「浅茅原(あさじはら)」。
チガヤは分類学的にはサトウキビに近く、若い穂にはほのかな甘味がある。最古の歌集万葉集にはチガヤを詠み込んだ歌が20首以上あるが、中には紀郎女が大伴家持に贈ったこんな歌も。「戯奴(わけ)がためわが手もすまに春の野に 抜ける茅花ぞ食(め)して肥えませ」(巻8-1460)。チガヤは古来その繁殖力の強さから呪力を持ち厄除け効果があると信じられてきた。今も続く風習の一つが夏越の祓(6月30日)での「茅の輪くぐり」。チガヤやススキで編んだ輪をくぐって半年間の罪穢れを除き今後の無病息災を願う。ササの葉で包む粽(ちまき)も元々はチガヤでくるんだ「茅巻き」に由来するという。根茎は生薬「茅根(ぼうこん)」として利尿薬や消炎薬などに使われてきた。若い花穂には止血作用も。家畜飼料や縄・草履などの材料としても用いられた。
一方で旺盛な繁殖力を持ち分布域を広げてきたチガヤは〝世界最強の雑草〟としても恐れられている。国際自然保護連合は「世界の侵略的外来種ワースト100」をリストアップしているが、チガヤは日本在来のクズやイタドリなどとともにそこに掲載されているのだ。このリストには意外にも海産物のワカメも含まれている。ワカメを食べる習慣があるのは日本と朝鮮半島に限られ、海外では海の生態系を壊すものとして警戒されている。チガヤには葉先が鮮やかな赤紫色で盆栽や山野草の寄せ植えなどに用いられる「ベニチガヤ(紅茅)」という園芸品種もある。「三日月のほのかに白し茅花の穂」(正岡子規)
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