【絵画・屏風・巻物・焼き物など約60点】
京都府立堂本印象美術館(京都市北区)で「大好き!印象の動物 鳥 昆虫」展が開かれている。堂本印象(1891~1975)は大正から昭和にかけて日本画のみならず陶芸、金工、木工、染織など多彩な分野で画才を発揮した。1966年に開館した独創的な同美術館の建物も自らデザインを手掛けた。今展には工芸品も含め動物・鳥・虫などの生き物が描かれた作品約60点が展示されている。11月23日まで。
印象は若い頃、帝展など美術展に積極的に出展した。『柘榴(ざくろ)』は京都市立絵画専門学校(現京都市立芸術大学)の3年在学中に第2回帝展に出品した作品。太い幹にちょこんと腰掛けた1匹のリスが実に可愛らしい。『乳の願い』『春』『實(みのり)』『蒐猟(しゅうりょう)』などの帝展出品作も並ぶ。『乳の願い』に描かれているのは白いコブ牛を前に祈りを捧げるインドの女性。『春』では麦畑で姉に髪を梳くってもらう妹の膝で子猫がすやすやと眠る。『蒐猟』には2人の人物が白馬と黒馬にまたがって駆ける光景が明るい色調で描かれている。
『兎春野に遊ぶ』は47歳のときの作品で、パトロンの一人だった三菱財閥の岩崎小彌太(1879~1945)の還暦祝いとして描かれた。岩崎は印象の一回り年上の卯年生まれ。画面の5羽のウサギは5×12(干支一回り)で60歳という年齢を表しているとのこと。岩崎家による皇室への献上画として印象が『松鶴佳色』という墨画を描いたのが縁となり交流が始まったという。
展示作品には屏風も2点。『雲収日昇』(六曲一双)は朝日が出て山々に垂れ込めた雲が晴れていく情景を描いた墨画淡彩で、左隻には点景として数羽のカモが描かれている。『寿梅図』(六曲一隻)は太宰府天満宮の梅がモデルといわれる。老木の白梅の枝にはスズメが3羽。巻子(巻物)も2点展示中。『西遊記』と『伊曽保数語(いそほすがたり)』で、いずれも長さが5m近くある。
この他の作品で印象に残ったのが戦中の1942年、51歳のときに描いた『霧』。霧の中、岩陰で一人の兵士と軍用犬のシェパードが左側の一点を凝視する構図。その方向に敵が潜んでいるのだろう、画面から緊張感が伝わってくる。印象は国民の士気高揚のため開かれた展覧会の審査員だったとき、この作品を描いて出品したという。
絵画以外では陶板『白い手袋と猫』や木彫人形『とのゐの犬』、漆器『印象案双鶴吸物椀』、陶器の『蜻蛉絵手鉢』、皿『海底の記號』、『鷺図染付花瓶』なども並ぶ。このうち『白い手袋と猫』は人面を表した白い手袋の後ろに黒猫を配した直径90㎝の前衛的な作品。1952年の渡欧でピカソの陶器などに触発された印象は帰国後、絵画の立体化を模索し粘土を使って焼き上げる“陶彫”の制作に挑戦した。その代表作がこの作品。
京都画壇の写生の伝統を受け継いだ印象の作品には様々な生き物をリアルに表現したものが多い。写生について印象はこう書き残している。「写生はまづ感激から出発しなければならない。写生は完成された絵画ではなく、あくまでも素材であります。写生は字の如く生を写す、あるいは神を写す―ということが本当の意味であります」(「写生1」=画室随想1971年)
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