【小池百合子・松原隆一郎著、PHP研究所発行】
だいぶ以前にテレビで見た光景だが、京都で外国人観光客が林立する電柱と蜘蛛の巣状の電線を物珍しげにカメラに納めていた。なぜ?の質問には「芸術的だから」と皮肉たっぷり。1カ月近く前の日本経済新聞の特集「FT(英国フィナンシャル・タイムズ)記者と歩くニッポン」。ここでもFT記者は「電線や電柱がむき出しじゃないか」と驚きを隠さなかったという。京都を訪れるのが夢だったが、その景観は期待を裏切り奇異に映ったようだ。
日本には3500万本を超える電柱があるという。桜の木も3500万本といわれるので、ほぼ同数の電柱が林立しているわけだ。しかもなお毎年7万本のペースで増えているという。無電柱化比率は最も高い東京23区内で7%、大阪市内でも5%にすぎない。観光客に人気の高い京都市内は僅か2%で、幹線道路から一歩脇道に入るとご覧の通り(写真は京都・5花街の1つの先斗町。昨年12月中旬、無電柱化に向けて関係者の調印式が行われた)。では海外はどうか。ロンドンやパリでは戦前から100%、ニューヨークでも83%に達する。アジアでもソウル46%、北京34%と着実に無電柱化が進む。世界の主要都市では電線の地中化は今や常識になっているわけだ。
電柱・電線は多くの日本人にとって見慣れた景色。だから不感症になって何にも思わない。だが、いったん気になると不快で仕方がないという人も多い。こんな日本の状況を、『失われた景観』などの著書がある社会経済学者、松原隆一郎氏は「伝染病」ならぬ「電線病」と名付けた。小池百合子氏は松原氏と同じ兵庫県出身の衆議院議員。阪神大震災で倒壊した電柱が救急車や消防車の行く手をさえぎる光景を目にした体験から、景観だけでなく防災・通行の安全という観点からも無電柱化を推進すべきだと立ち上がった。
小池氏には「ガス管は地中なのに、なぜ電線は空中なのか」という素朴な疑問もあった。松原氏も「機会の平等に反している」と指摘する。小池氏らの呼びかけで2009年「美しい国:電柱の林を並木道に!議員連盟」が発足。ところが政権交代もあってまもなく開店休業状態に。4年後の2013年秋「無電柱化議員連盟」として再スタートした。小池氏は勉強会などを通じて、複雑な「連立方程式」無電柱化の前が立ちはだかるのを痛感したという。電力・ガス・通信・水道の各業界、縦・横割りの関係省庁、国・県・市町村に分かれる道路管理などだ。
議員連盟は2014年「無電柱化の促進に関する決議」を採択し、さらに15年には議員立法として「無電柱化の推進に関する法律案」をまとめた。国の責務や推進計画の策定などに加え国民啓発の一環として「無電柱化の日(11月10日)」も盛り込んだ。「林立する111(電柱)を0(ゼロ)に」という意味合いが込められているそうだ。ただ安保関連法案が最大の審議案件だった先の国会での提出は見送られた。開会中の今国会に法案は提出されるのだろうか。
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