【昭和の名車厚紙で再現、「えっ、これが紙製?」】
愛知県大府市桃山町の「大府市歴史民俗資料館」を初めて訪れた。お目当てはいま開催中の企画展「紙のぺてん師あいばまさやすペーパーアート展」。内外の名車がまるでブリキ製のように厚紙で精巧に再現されているという。制作者の“紙のぺてん師”という言葉にも引かれた。実際に作品を目の前にすると、それらはまさに芸術品といえる見事な出来栄えだった。
あいばさんは1953年大府市生まれ。大府は自動車産業が盛んで、あいばさんも地元に本社を置く自動車部品製造・販売の愛三工業に長く勤め、2013年に定年退職。その後、同資料館の非常勤職員として展示業務などに携わっている。その傍ら絵本を自費出版したり、創作紙芝居の制作に取り組んだりしてきた。これまでに作った紙芝居は100話に上るという。
企画展の会場には約90台の車やバイクなどがずらりと並んでいた。これらを約3年という短い期間に制作したというから驚きだ。その中には富士産業のラピット、ホンダのスーパーカブ、トヨタのトヨエースなど戦後まもない頃の車も。ある車の前で高齢の男性が孫とみられる男の子に「これに乗ってたんだよ」などと懐かしそうに説明していた。ポルシェ、ルノー、フィアット、シトロエンなど外車も多く展示されていた。
あいばさんが厚紙で車づくりを始めたのは3年ほど前から。最初に手掛けたのは「M1ウォーカーブルドッグ」という陸上自衛隊軽戦車。「ダンボールの波板を見ていて戦車のキャタピラーに使えそうと思ったのがきっかけ」という。新型コロナ禍で在宅時間が長くなると制作スピードも一段とアップし、3日間で1台の割合で作っていたそうだ。
目を凝らして一台一台見て回ったが、いずれもまるでブリキ製のような輝きだった。「本当に紙製?」。多くの来館者がこう話すというのも納得。あいばさんが作品を手に取り裏返して見せてくれた。すると、裏側は素地の厚紙のままで、そこには制作年月日が書かれていた。一番お気に入りの作品は?と伺うと、まっすぐ赤い車の前に向かった。「ミニクーパー ラリー仕様」だった。「きれいに仕上がっているので」。ご自身でも納得のいく会心作だったようだ。
展示会場の一角に「ペーパーアート制作過程および基本材料」というコーナーがあった。そこに並ぶのは厚紙のほかに木工用ボンド、網戸の押さえゴム、ストロー、100均のくるみボタンキット、割り箸など身近なものばかり。網戸のゴムは丸めてハンドルに、くるみボタンはライトに、ストローはバイクのマフラーに使うそうだ。中には焼きそばが入っていたプラスチック容器も。こうした食品トレーは車の窓ガラスとして活用する。廃棄物を再利用しているわけだ。
あいばさんは資料館の常設展示や企画展示用として、ジオラマや食品サンプルなどの制作にも取り組んできた。会場にも「大府飛行場」「日本家禽研究所」などのジオラマや、スイカ・ミカン・ごはんなどのサンプルが並ぶ。中でも目を引いたのがおせち料理。重箱に詰められたエビや黒豆、かまぼこなどの一つひとつが本物と見紛うほど。車やバイクはもちろん、その他もまさに職人技といえる作品の数々だった。8月14日まで(月曜休館、入場無料)。