【準絶滅危惧種、枕草子や源氏物語にも登場】
池や沼、水路などの浅い場所に生えるガマ科ミクリ属の抽水植物。日本だけでなくアジアなどに広く分布する。草丈は0.5~1.5m。5~8月頃、水中からまっすぐ立ち上がった茎から枝を伸ばし、上部に10個前後の雄花、下部に数個の雌花を付ける。雌性頭花は熟すと突起のある緑色の球状の集合果となる。直径は2cmほど。和名はその見た目をイガに包まれた栗に見立てた。
学名は「Sparganium erectum(スパルガニウム・エレクトゥム)」。属名は帯・バンドを意味するギリシャ語に由来し、種小名は「直立した」を意味する。根元から叢生する線形の葉の裏には角ばった稜(りょう)が発達しており、その断面は下部にいくほど三稜形(三角形)に近い形となる。ミクリの漢字に実栗のほか「三稜草」を当てているのもそのため。根茎は漢方の生薬名で「三稜(さんりょう)」と呼ばれ、腹痛や胸痛などの薬に配合される。
茎はかつて簾(すだれ)や莚(むしろ)などの材料として活用された。平安中期に清少納言が書いた「枕草子」にも「三稜草(みくり)の簾」が出てくる(99段)。また紫式部の「源氏物語」には光源氏から玉鬘へのこんな贈歌がある。「知らずとも尋ねて知らむ三島江に生ふる三稜(みくり)の筋は絶えじを」(第22帖玉鬘)。ミクリは環境省のレッドリストで準絶滅危惧種。湿地の開発や河川・水路の改修に伴うコンクリート化などで将来の絶滅が危ぶまれている。オオミクリ、ヒメミクリ、ナガエミクリなど変種や近縁種も絶滅危惧または準絶滅危惧種のものが多い。