職務上、私は老婆に質問しなければならなかった。最後の逃げ道を残して・・・
「お婆さん、ずっと橋の下で住んでいるの?」
(頷いてくれ、そうすれば、婆さんは、周りのゴミと一緒に、ここで住み続けられる・・・)
「近くのアパートに住んでいるの。今日は、天気が良いから、お日様のエネルギーをいただいているのよ。昔、私はスペインに住んでいてね。黄色いお日様からパワーをもらい続けていたからね。90歳近くになる今まで、病気一つしたことないのよ。」
ダリ、ピカソ、闘牛、映画「大脱走」のラストシーン、滔々と話される彼女のスペインに関する話題は、信じられないくらい知的であった。
もっと、色々な話を聞きたかった。
しかし、私は、彼女をトラップに陥れるために、職場のマニュアルどおりの質問を続けなければならない時間が来ていた。
「それじゃあ、婆さんの回りにあるガラクタは、婆さんの物じゃないの?」
「こんなゴミ、私の物のわけないじゃない。」
老婆を発見した瞬間から、清掃作業を中止していたが、マニュアルどおり、清掃再開の号令を掛けなければならなかった。
老婆を隠してくれていた、ゴミや家具が次々と剥ぎ取られていた。
一時間後、ムシロや女性物の傘など、一部の家財道具と思われるものを残して全て取り払われた。
清掃部隊がみんな撤去し、跡地には私と老婆だけが残された。
私はいたたまれなかった。
近くのコンビニに行き、弁当とお茶を購入した後、老婆に渡した。
老婆は泣いて喜び、恐らく何日ぶりかであろう弁当をガツガツと食べた。
私は、彼女に静かに話した。
「ごめんね、婆さん。酷いことしてしまって。僕が死んだら、無間地獄に落ちて、永遠に苦しみの海でおぼれ続けるから・・・」
「どうして、あなたのようなきれいな目をした人が地獄に落ちたりしましょうか。ちゃんと成仏できますよ。そうだ。私、時間が出来たら、あなたを主人公にした小説を書いて、文壇に発表します。」
私は、その場を離れた。
間違いなく、自分がいつか、地獄の奈落に転落することを確信しつつ・・・
「お婆さん、ずっと橋の下で住んでいるの?」
(頷いてくれ、そうすれば、婆さんは、周りのゴミと一緒に、ここで住み続けられる・・・)
「近くのアパートに住んでいるの。今日は、天気が良いから、お日様のエネルギーをいただいているのよ。昔、私はスペインに住んでいてね。黄色いお日様からパワーをもらい続けていたからね。90歳近くになる今まで、病気一つしたことないのよ。」
ダリ、ピカソ、闘牛、映画「大脱走」のラストシーン、滔々と話される彼女のスペインに関する話題は、信じられないくらい知的であった。
もっと、色々な話を聞きたかった。
しかし、私は、彼女をトラップに陥れるために、職場のマニュアルどおりの質問を続けなければならない時間が来ていた。
「それじゃあ、婆さんの回りにあるガラクタは、婆さんの物じゃないの?」
「こんなゴミ、私の物のわけないじゃない。」
老婆を発見した瞬間から、清掃作業を中止していたが、マニュアルどおり、清掃再開の号令を掛けなければならなかった。
老婆を隠してくれていた、ゴミや家具が次々と剥ぎ取られていた。
一時間後、ムシロや女性物の傘など、一部の家財道具と思われるものを残して全て取り払われた。
清掃部隊がみんな撤去し、跡地には私と老婆だけが残された。
私はいたたまれなかった。
近くのコンビニに行き、弁当とお茶を購入した後、老婆に渡した。
老婆は泣いて喜び、恐らく何日ぶりかであろう弁当をガツガツと食べた。
私は、彼女に静かに話した。
「ごめんね、婆さん。酷いことしてしまって。僕が死んだら、無間地獄に落ちて、永遠に苦しみの海でおぼれ続けるから・・・」
「どうして、あなたのようなきれいな目をした人が地獄に落ちたりしましょうか。ちゃんと成仏できますよ。そうだ。私、時間が出来たら、あなたを主人公にした小説を書いて、文壇に発表します。」
私は、その場を離れた。
間違いなく、自分がいつか、地獄の奈落に転落することを確信しつつ・・・