定年退職後の生き様

定年退職後、残された人生を如何に意味有るものに、しようかと悩んでいます。

私は老婆を見捨てた。①

2008年06月19日 21時15分38秒 | お仕事関係
庇の大きい、いわば橋の下のような社有地が有った。
当時、私はその土地の管理を任されていた。
用途の無いその土地は、いつしか不法投棄のゴミがあふれ、ホームレスの人達の居住の場所になっていた。
冬。
役所から電話が入った。
「ホームレスの人達は居なくなっていますよ。南の町にでも移動したんでしょう。」
社内協議の結果、かねてより近所の住民から苦情が出ていたその敷地を一斉清掃することになった。
下見に行った。
ソファー、ドラム缶、毛布、雑誌。ホームレスの生活の跡が残っていた。
人の気配は無かったが、トラロープに掛けられていた女性用の傘が真新しかったのが少し気になった。

清掃当日。
委託業者によるパッカー車が何台も敷地の前にならんだ。
20人近くの人夫さんたちにも集まっていただいた。
私が現場監督である。通勤する自家用車のエンジン音がやたら耳についた。
「清掃開始」
号令を掛けた。

各人、敷地に広がり、ゴミをどんどんパッカー車に投入していく。
椅子もタンスも自転車も、バリバリと音を立てながら青いパッカー車に吸い込まれていく。
その時、敷地の奥のボロキレが少し動いたように見えた。

私が駆け寄っていくと、小さな老婆がうずくまっていた。