この2本の作品は、「希望の国」は常に問題提起をしようとする園子温監督の
作品であること、「伏 鉄砲娘の捕物帳」は、文芸春秋創立90周年記念作品と
して製作されたアニメですが、"文春"創始者の菊池寛は大映の初代社長でも
あり、心情的に文芸春秋を応援している経緯なので、少し変な動機ですが、ど
ちらの作品も私的に期待・応援していました。
まず「希望の国」は園子温監督が、大地震で離れ離れになりながらも、それぞ
れの愛を貫く3組の男女の姿をオリジナル脚本で描いたもので、あの東日本大
震災から数年後のある東北らしき地方が物語の舞台です。
酪農家の小野泰彦は、妻や息子夫婦と平和でつつましい日々を送っています。
一方、隣家の息子は家業を手伝わずに恋人と遊んでばかり。そんなある日、大
地震が発生、それに続く原発事故により、半径20k圏内の警戒区域は立ち入り
禁止となり隣家は範囲内になります。
道を挟んで避難区域外となった小野家でしたが、息子の嫁が妊娠していること
が判り、息子夫婦を避難させることにしますが・・・。
主人公・泰彦を夏八木勲が演じ、その妻役に大谷直子。息子夫婦を村上淳と神
楽坂恵、隣家の息子とその恋人を清水優、梶原ひかりが演じています。
俳優ではアルツハイマーを患う妻役の大谷直子が、久し振りの出演にもかかわ
らず出色の出来です。
園監督については、他の監督が取り上げないようなテーマへの挑戦はそれなり
に買っています。日本では製作資金を調達出来ず、イギリスと台湾の製作会社
が引き受けと聞いていますが、結果的にこの作品は脚本も演出も中途半端でテ
ーマが上滑りしているし、全体的に冗長と思うのです。
この監督はエロチックや暴力描写以外の作品は撮れないのでしょうか、これでは
東日本の被災者が見られても共感を覚えないでしょうし、残念ながら失敗作とし
か思えません。
(10/21 KBCシネマ 2日目 13:30の回 47人)
次の「伏 鉄砲娘の捕物帳」は直木賞作家・桜庭一樹が、滝沢馬琴の「南総里見
八犬伝」に新たな解釈を加えて発表した小説「伏 贋作・里見八犬伝」を、長編ア
ニメーション映画化した作品で、物語は架空の水上都市・江戸が舞台です。
猟師の祖父と二人で山奥に暮らしていた14歳の少女・浜路は、猟師としての腕前
は大人顔負けだし、そして狩られる獲物の心が読めるという不思議な能力を持って
います。
祖父が他界し、浜路は兄を頼って江戸にやってきますが、折りしも江戸の城下町
では、人と犬の血を引き、人に化けて暮らす「伏(ふせ)」と呼ばれる者たちによる凶
悪な事件が続発。そんな中、浜路は犬のお面をつけた白い髪の青年・信乃に出会
うのですが・・・。
監督は「千と千尋の神隠し」の監督助手を皮切りに、多くのアニメ作品に携わった
宮地昌幸です。中々才のある人だとは思いますし、浮世絵風の作画は成程と感心
する場面が随所にありますが、何としても脚本が不出来で、折角の原作が生かさ
れていません。
「南総里見八犬伝」というとてつもなく面白い作品を自滅自沈させた罪は大きいと
思いますし、これを創立周年記念作品と銘付けた同社は、恥ずかしいと思ってくだ
さい。
(10/22 TOHOシネマズ 3日目 12:20の回 8人)