小説の孵化場

鏡川伊一郎の歴史と小説に関するエッセイ

稗田阿礼とは何者か 2

2005-04-25 21:14:49 | 読書
 稗田阿礼は女性だったという驚くべき説がある。「あれ」という名が巫女的イメージを喚起するからというのである。女っぽい名だから女性だろうというのは乱暴な話である。現代でも、男とも女ともとれる名はある。たとえば、ひとみ。あるいは、しのぶ。ひとみだから女だろうと言われたら、いまは亡き山口瞳がうかばれない。
『古事記』序文の稗田阿礼の箇所を引用したかたちで紹介した『弘仁私記』(812年刊)に、稗田阿礼の注として「アメノウズメノミコトの後」とある。アメノウズメといえば、天の石屋戸でストリップをし、アマテラスを岩屋から誘い出すのに一役買った神話上の女性だ。氏族名「猿女君」の祖とされている。つまり稗田阿礼はアメノウズメの末裔で、猿女君の一族であろう、というわけだ。猿女君は代々女性が相続しているから、稗田阿礼女性論が成立する、というのが柳田国男などの説である。柳田国男が提唱しているから間違いあるまい、などと思うなかれ。こじつけもいいところである。「舎人」と明記されている事実を、なぜ無視するのか。舎人は男子の職掌である。稗田阿礼女性論を成立させるためには、女でも舎人になれたという証明が必要である。
 おそらく阿礼を、たんなる口誦者と思い込んだところから女性論なども派生してくるのである。違うのだ。阿礼は、おそろしく漢字に詳しかった、あくまでも舎人だったのである。
 さて、稗田阿礼などはもともといなかった。阿礼は架空の人物だという説もある。松本清張は阿礼は実在しなかっと言う説だった。(つづく) 

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