小説の孵化場

鏡川伊一郎の歴史と小説に関するエッセイ

原口泉『坂本龍馬と北海道』を読む

2010-11-23 12:22:59 | 読書
 原口泉氏の近刊『坂本龍馬と北海道』(PHP新書)を読んだ。副題は「大政奉還後の知られざる国家構想」となっているが、龍馬イヤーの今年、たくさんの龍馬本が出たから、いささか食傷気味の読者がいるとしても、本書は新鮮な驚きで迎えられると思う。龍馬夫妻が北海道開拓を夢見ていたことは、これまで案外なおざりにされてきたからである。
 私は小説『月琴を弾く女』を書いたとき、龍馬とお龍の北海道開拓にかけるこころざしを主調低音のように響かせることができればいいな、と考えていた。だから本書の参考文献に私の小説があげられていることに、どこかでその低音を著者が聞き取ってくれたのだと嬉しくなった。光栄なことである。
 本書には貴重な史料の紹介がある。肝付兼武の『東北風談』や手島季隆の『探箱録』である。たぶん、はじめて知る読者が多いことだろう。これだけでも本書の価値はあるのだが、むろん主題は終章の次の言葉に尽きている。
「…日本の将来を見据えた龍馬の構想には、北海道が絶対に不可欠だった。薩長同盟、大政奉還での龍馬の働きをいくら高く評価しても、北海道を見ずして、龍馬の維新構想は完結しない」
 ただひとつだけ気になった記述がある。慶応3年3月6日付の印藤宛の手紙に出てくる「竹島」についてである。
「話に出ている竹島とは、昨今、帰属問題で韓国と懸案になっている、あの竹島である」とある。
 龍馬が北海道とともに開拓をめざしていた竹島は、いまの鬱陵島のことであり、現在韓国と問題になっている竹島とは違っている。江戸時代はいまの竹島は「松島」と呼ばれていたらしい。このことは小美濃清明『坂本龍馬と竹島開拓』(新人物往来社)に詳しい。つまり龍馬がめざしていたのは欝陵島開拓なのだが、その島はいま住民が1万人を超え、観光客で賑わっているという。
坂本龍馬と北海道 (PHP新書)
原口 泉
PHP研究所