小説の孵化場

鏡川伊一郎の歴史と小説に関するエッセイ

清河八郎暗殺前後 完

2014-07-28 15:35:53 | 小説
間延びした書き方になった。この稿を閉じることをはばむような気分に領されて、なぜそうなるか私自身がわからなかった。
 歴史の濃霧に閉じこめられて、動きがとれなくなることはあるけれど、それとも違う。霧は晴れているのに、動きたくないという気分に近かった。
 いずれにせよこの稿も終らなければならない。
 石坂の八郎暗殺現場への到着が早すぎる、と私は書いた。石坂は八郎が暗殺されたという知らせを受けてから、駆けつけたのではない。八郎が刺客に襲われると予想して、現場に行ったのである。そうであれば、早すぎるということもないわけだ。
 さて石坂は刺客のことを誰から聞いたか。その日、下城した高橋泥舟からである。(このことを含めて、これから述べることに確たる証拠はない。あくまで状況から推論した蓋然性の論証である)泥舟は、幕閣に、八郎らの小栗の拉致計画のあることを伝えたのである。幕府としては、その計画を阻止するために、刺客を送り込むのは泥舟にはよくわかっていた。わかっていて、伝えたのである。
 八郎暗殺の契機をつくったのは、泥舟なのである。思えば、八郎の逃亡生活のきっかけを作ったのが、例の無礼討ち事件ではなく、ほんとうは山岡鉄舟の幕府への密告であった。
 こうしてみると泥舟ファミリーは、清河八郎に、贖罪の念を抱きながら、明治を生きなければならなかったはずである。
 琳瑞の泥舟の弟子による暗殺の謎も、もはや解ける。琳瑞は、八郎暗殺の日の泥舟の言動を知り、泥舟を詰問したのである。それを聞いていた弟子ふたりが、泥舟の名誉保全のために、琳瑞を殺したのである。


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1 コメント

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目の前が暗くなりました。 (山岡義金)
2014-07-28 20:37:27
泥舟への評価が急降下してしまいました。歴史上の人物の評価は難しいですね、坂本龍馬に続いての評価一転です。三舟全滅。尊敬する人物が幕末では一人だけになってしまいました。
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