小説の孵化場

鏡川伊一郎の歴史と小説に関するエッセイ

幕末の「怪外人」平松武兵衛 8

2007-11-07 11:14:56 | 小説
 外交史料館所蔵の明治の「外務省記録」に当っていて、それとの関連で防衛省防衛研究所の陸軍省大日記からスネルを検索してみた。すると明治10年8月から11月にかけて、次の3件の公文書にスネルの名が出てきた。
 1、 8月「外務へ榎本公使書状通達方依頼」
 2、10月「硫酸規尼涅御買上相成度伺」
 3、11月「横浜税関より薬用烏片云々申進」
 注目すべきは、1であって、「和薬商社スネル」(画像参照)として、エドワルドの会社が登場することだ。いわゆる「死の商人」から脱して、どうやらエドワルド・スネルは薬品の輸入商に転じて、陸軍省と取引を始めたもののようである。
 明治10年にはコレラが流行っていた。そのコレラ対策に硫酸キニーネが必要だった。陸軍省(参謀近衛病院)では、硫酸キニーネの輸入を「在東京オランダ人スネルへ注文」したと書かれているのが2である。
 3は陸軍省病院で「烏片50キロ」の輸入を「オランダ商スネル」に依頼したから通関差し許しをよろしくといった内容の文書である。「烏片」というのは漢方の強壮薬「首烏片」のことで、おそらく「首」の文字が脱落したものと思われる。
 このようにエドワルドは、武器商人から薬品輸入商にあざやかに転身しているのだが、ここで気になるのが兄ヘンリーのことである。
 実は明治7年のある史料に登場する「スネル」は、兄のヘンリーつまり平松武兵衛のほうではないだろうかと、わたしは疑っている。 

追記:「注」硫酸キニーネはマラリアの薬としては知られており、コレラ用というのは奇異な感じもするが、幕末からこの頃にかけてはコレラにも使われたようである。


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