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駅弁

 スーパーで駅弁が売られていた。と言っても、小さなスーパーなので、デパートのように「日本の津々浦々から集めてきた駅弁フェアー」などと大規模なものではなく、こじんまりとしたスペースにまとめられていた。よく見れば、名前を一度くらいは聞いたことがあるような駅弁も売られていたが、とありあえず、昼食用に父と妻の分だけ買っていくことになった。「釜飯」「すし」など定番ともいえるものではちょっと面白味に欠ける。かと言ってあまりに奇をてらったものでは味が心配だ。ちょっと慎重になって、父には帯広名物「ぶた八の豚どん」を、妻は自分で大阪水了軒の「穴子三本勝負」を選んだ。

 

 スーパーでは、「豚どん」「穴子」という具に惹かれて買ったのだが、家に帰ってよく見たら、二品とも「あったか」とか「ほっかほか」という文字が紙パッケージに踊っている。調べてみたら、ひもが付いていて、それを引っ張ると二重になった容器の下段にある発熱材(消石灰)から蒸気が出てきて、上段の弁当を温める仕組みになっているようだ。偶然とは言え、同じタイプのものを選ぶなんて不思議だ。寒い日だったから、無意識にパッケージの文字を見ていたのかもしれない。
 面白そうだと、思っていたら、妻が父の分の「豚どん」のひもを引いた。すぐに容器から、白い煙が出てきた。もくもくと結構勢いよく出てくる。細かな仕組みは分からないが、化学反応を利用したちょっとした発明品なのだろう。操作方法によれば、豚どんは7~8分で温まるようなので、頃合を見計らって、自室でTVを見ていた父を呼びに行った。
「珍しい物を買ってきたよ、駅弁。食べてみて」


「こんなにたくさんはちょっと食べ切れんなあ・・」
と父は言ったが、いつだってそんなことを言いながら、ぺろっと食べてしまう。長く職人として働いてきた父は、昔から昼食はたくさん食べる。その名残は今でもあって、昼食だけはお代わりするほどだ。案の定この豚どんも結局きれいに平らげてしまった。
「おいしかった?」と私が聞くと、
「まずくはないけどなあ・・」などと微妙な言い回しで答えた。
「あまり得手じゃなかったみたいだね」と言いながら、妻は自分の「穴子」を温めて食べ始めた。


 パッケージに「炙り穴子がどんと三本入って」とある通りに、穴子が三本並んでいるのもなかなかの壮観だ。
「おいしい?」と私がたずねても、ろくに返事もせずに食べていたから、かなり美味しかったのだろう。こんな時には白米を食べないことにしている己に不自由さを感じるが、それも自分で決めたことだから仕方がない。食べたい気持ちをぐっと抑えた。
 
 ここ数日、中国からの食品の安全性が問題となっているから、原材料の表示を思わず見てしまったが、成分となっているものは書かれているものの、原産地名までは表示されていない。中国産のものが全く入っていないとは言い切れないので、ちょっといやな気にもなるが、食の安全性という感覚が中国ではまだまだ発達していないのが一番の問題だと思う。私など、中国製という表示があると、思わず買うのをやめてしまうことが多くなった。ヒステリックになるのもどうかと思うが、食べ物の問題だけにそう悠長にも構えていられない。各方面のすばやい対応を望むばかりである。
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