元裁判官,しかもかなりのエリート畑を歩いた瀬木比呂志氏の著作(講談社現代新書刊)ですが,このセンセーショナルな副題にはかなり引きました。
前作の「絶望の裁判所」もかなり手厳しく裁判所や裁判官を批判する内容でしたが,いささか感情的な部分も感じられ,実証性が乏しいのでは,と感じました。
近作も表題からして,同様なものかと読み出したのですが,自分の担当した裁判を冷静に分析し,最高裁などの判決例を,その論理や証拠との矛盾を指摘する部分は,なかなか鋭く実証的な印象を受けました。
恵庭OL殺人事件に対する再審棄却決定に対する疑問の部分は約20頁に及び迫力があり,著者の真面目な裁判官の側面が彷彿とさせています。
名誉毀損の慰謝料額があるときを境として突然上がったことへの疑問や,原発訴訟についての最高裁主催の協議会の内容が偏っていたことがもたらす危険性などを指摘していますが,私も同感でした。
本書は,制度的改革などの部分の分析には私としては異論もありますが,判決例の批判を読者に分かりやすく説明しようとしている姿勢は評価できると思いますし,題名にかかわらず一読の価値があると思いました。
花改め「子鉄」