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産経連載「君たちのために」第3回(07年4月18日大阪版夕刊)

           弁護士 井垣康弘

少年院へ行くか、行かないか

 毎年何十人もの中学2、3年生の身柄付き審判をする。少年鑑別所に入れて、心身の鑑別を受けさせ(報告は書面でもらう)、審判の席に、鑑別所の職員が(手錠を掛けて)連れてくるのを、身柄付き審判と言う。

 進んで、「少年院に行きたい」と言う中学生は1人もいない。全員が、「懲りた、家に帰りたい、学校に行きたい、勉強も一から頑張りたい」と半泣きの顔で言う。審判の席には、親の他、中学の先生方も見えている。校長・生徒指導・担任のセットが一番多い。   

 神戸家裁の実際では、審判の何日か前に、中学の先生が裁判官室を尋ねてきて、「あの子には手を焼いています。少年院に入れてください」とこっそり言う例が多かった。その種の陳情と分かっていて平気で取り次ぐ調査官には驚いた。私は、もちろん、「ご意見は審判の席上少年本人の前で述べてください」として全部お引取り願った。

 すると、審判まであまり日数がないが、学校側と少年側とで、真剣な話し合いが始まるのだ。先生たちが何回も鑑別所に通って少年と面接を繰り返し、親とも話を詰める。審判の前日は徹夜の交渉だったというケースもあった。

 ともあれ話がついて学校が引き取る決断をした場合、それを無視して少年院に送った例はない。

 校長が、その中学校始まって以来最悪の不良とされていた少年と鑑別所で直談判し、2人だけの秘密の約束をした。何と校長の趣味である毎週末のハイキングに卒業までの半年間少年が付き合うことになったのだそうだ。実践の結果はなかなかのものだったらしく、ビデオに撮ってある、卒業式での少年の「ボクと校長」という「謝辞」は、校長いわく、「教育にたずさわる人間として、自分をほめてやりたい宝物だ」そうである。

 話がまとまっていない場合は、審判の席で、「条件闘争」が始まる。まず、学校側が、その子のためどのように困っているのを具体的に語る。そして、学校に戻りたいのなら、「あれこれを親子とも全部守ってほしい」と多くの条件が示される。

 たいていは、「ともかく実践してみるので…」と約束し、半信半疑の学校側から「家裁の調査官による支えがほしい」との要望が出されて、試験観察になることが多い。

 しかし、親子とも、「全部実行できる自信がない」と正直に告白することもある。そして、「少年院ってどんなところですか?」と質問攻めに会う。親は、普通、「ひどいイジメに会い、悪いことを一杯教えられて箔が付いて帰ってくる」と恐れおののいている。詳しく説明すると、では「半年ほど少年院で頑張ってこようか」という流れになる。教師も「月2回面会に行きますから…」と助太刀する。裁判官も「一度は会いに行くよ」と励ます。そのようにして少年院に送った中学生の場合、少年院での成績がよく、その後の経過もすばらしい。



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