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 今週はハラハラドキドキの1週間だった。米国で証券業界4位のリーマン・ブラザーズが経営破綻し,連邦破産法第11条(日本の会社更生法)の適用を申請したと発表し,同業界3位のメリルリンチは,米国銀行界2位のバンク・オブ・アメリカに身売りすることとなった。その後,米国保険業界最大手のAIGも経営危機となり,連邦制度準備理事会(FRB)が最大9兆円を緊急融資すると発表した。

 こうした事態に対して,当然のことながら,市場で株価が暴落したり,合併など金融界の再編の動きが伝えられている。米国政府も,金融不安の深刻化を食い止めるため,金融機関における不良資産の買取り(数千億ドル(数十兆円))を進めるようである。背景には,サブプライムローン問題という不動産バブルに期待したローンの問題があるようである。これは,不動産バブルへの期待があって,返済資力が十分でない債務者へ融資がなされた住宅ローンの問題である。この住宅ローンが,昨年夏あたりから大量に不良債権化し,証券化等を通じて資金提供していた金融機関が経営不安となり,株価が下がって資金調達ができず,悪循環の末経営破綻しているのである。

 日本の報道でも伝えられているが,米国の今の事態は,平成8年ころからの日本の金融危機ととても似通っている。日本でも根本には,平成2,3年ごろのバブル崩壊があり,不動産の値上がりを期待して融資を拡大した金融機関ほど打撃は大きく,かなりの数の金融機関が倒れることになった。銀行の再編が行われたのもそのせいである。

 今後,米国の金融不安がどうなっていくのか,日本ほかにどの程度波及するのかについて,目が離せないところであるが,過去には,日本も苦しみながら,いくつもの対策を取ってきたのであり,米国には是非参考にして欲しいと思う。日本も,金融危機の前に米国で行われたS&L(貯蓄貸付組合)の破綻処理を参考にした歴史があり,今回はブーメラン効果のように,日本からの米国が学んで欲しいと思うのである。大きな金融機関の破綻処理は,日本の方が先輩ともいえるからである。

 ところで,日本の金融危機の際には,法律家がかなりの役割を果たしたのであるが,そのことは,今では忘れられているかのようである。改めて記憶喚起をしておきたい。日本では,銀行や信金・信組が破綻すると,営業譲渡や不良債権の買取りが行われたが,営業譲渡の中で生じる様々な法律問題には,裁判官や検察官が預金保険機構(http://www.dic.go.jp/)に出向して取り組んだ。不良債権の回収や,破綻金融機関の幹部に対する民事的な責任追及は,整理回収機構(RCC)に弁護士が多数協力して行った。刑事的な責任追及は,預金保険機構に出向した検察官(警察官も多数協力した。)が主に担った。このように,個別の事件を超えて,国家的な課題に法律家がまとまって取り組んだことは,日本の法律家の歴史において,画期的なことのように思われるし,日本の法律家もこのことにもっと自信をもっていいのではなかろうか。私も,平成11年から同13年にかけて,預金保険機構に出向して,法律家による取組みの末席を汚させていただいたが,一法律家としてはとてもやりがいのある仕事であった。いつか,そんな話もできればと思っている。

 金融危機の後では,社会保険庁の年金記録不備問題で,領収書など証拠がないケースの年金支給の是非を審査するため設置された第三者委員会の委員に,弁護士が全国で動員されている(昨年のブログ7月17日欄)。これは昨年の司法10大ニュースにもいれておいた(12月29日欄)。金融危機や年金問題に限らず,前例のない事態が各分野でおきる時代である。そうした前例のない事態の中には,公正,透明な解決のために,法律家の出番があるものが少なくないはずである。前例のない事態の再発防止や予防策のためにも同様であろう。法曹人口が増える中で,法律家の登用をもっともっと考えてもよいのではなかろうか。(瑞祥)


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