日本裁判官ネットワークブログ
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  従来より時期を短く区切り、個別に寸評を入れることにした。上記期間の観劇記録をまとめると、以下の通り。

   ◎は大満足、○満足、△まあ満足

  <>内の出演者はあえて一般的な知名度のある方に絞っています。あしからず

  11月

   ○ぴあ「秋のソナタ」(東京芸術劇場シアターイースト)<佐藤オリエ、満島ひかり>

    母子関係の愛憎物は、どうも私にはピンとこないテーマだが、テレビ・映画の仕事に恵まれた満島ひかりが、こういう舞台で佐藤オリエというベテラン女優の胸を借りようとする姿勢を高く評価したい。シンプルな舞台装置が、色んな物に置き換えられて展開していく舞台の魅力を味わえた。

   ◎愚安亭遊佐ひとり芝居「こころに海をもつ男」(旭川市まちなかぶんか小屋)

    この人の舞台「人生一発勝負」を旭川で初めて見たのは、もう20年前。もう一度見てみたいと思っていた願いがついにかなえられた。故郷下北半島の開発にまつわる歴史を描くシリーズのひとつで、むつ小川原開発の裏側で何があったのかを、その渦中に巻き込まれた男の半生記の形で印象的に語る舞台。2時間ひとり芝居を決して退屈させることなく演じきる熱量に敬服。1月18日放送予定の「日本人は何を目指してきたのか 第7回下北半島」にも注目されたい。

   ○青年団「もう風も吹かない」(吉祥寺シアター)<志賀廣太郎>

    平田オリザ作品の鑑賞は初めて。平田作品の特徴を想田和弘監督の著書「演劇VS映画」で予習してから鑑賞したが、特別な違和感はなかった(開演前から舞台で俳優が演技に入っているのは驚いたが)。平田氏が青年海外協力隊の制度改革についての諮問委員を務めた経験から生まれた作品で、2025年に貧しくなった日本からの最後の派遣となる青年海外協力隊候補生の群像劇。10年前の作品が今日ますますリアリティを増している。沖縄出身という設定の志賀廣太郎さんの台詞が胸に迫る。制度の谷間で翻弄され、存在意義に悩む青年たちの姿に、わが業界の様相がかぶり、芝居に入り込めない自分が居た。

   △テアトル・エコー「ハレクイネイド」(恵比寿エコー劇場)

    「ロミオとジュリエット」を演じる劇団の中で起こるドタバタ劇。少し前に「上岡龍太郎 話芸一代」の付録CDで「ロミオとジュリエット」のあらすじをおさらいしておいたのが、役に立った。笑。裁判離婚しかなく(協議離婚は許されない)重婚罪があるという制度を前提に成り立つイギリス喜劇。「演劇の社会的意義」と言いながら、実際は世間知らずの役者バカ、という自嘲的な毒を含んだ笑い。我が業界にも当てはまったりして。

   △「シダの群れ3 みなとの女歌手編」(シアターコクーン)<小泉今日子、小林薫、阿部サダヲ、吹越満、市川実和子>

    ドンパチのある任侠物は、ちょっと苦手だが、生バンドで小泉今日子が歌い、市川実和子が踊るだけで満足。テレビを見ない生活をしているヤクザもの(阿部サダヲ)に対して、別のヤクザが「テレビ見ないってとこは、何か考えているんだろう。俺なんか、40年間、考えないためにずっとテレビを見てきた」という台詞に「今」を感じて、笑ってしまった(本当は笑えないのだが)

12月

   △「マクベス」(シアターコクーン)<堤真一、常盤貴子、風間杜夫、白井晃>

    少し前に録画した野村萬斎版「マクベス」(随分と登場人物をカットしている)を見ておいたことが鑑賞の助けになった。登場人物の一部は現代のサラリーマン風の衣装で、ビニール傘の剣で闘うという斬新な「マクベス」。お客の2人に1人は舞台に参加できるという「趣向」だが、残念なのは「マクベス」を知っている人にはその「緑色のビニール傘」の意味がすぐに分かり、またそれほどの効果を上げているとも思えないことだ(むしろ、視界を遮ってその時のマクベスの表情が見にくい)。パンフレットは、翻訳者松岡和子さんの舞台裏話や岩波明さんのマクベス夫妻の精神分析、中野京子さんの「魔女話」など充実していた。

   ◎文学座「大空に虹がかかると私のこころは躍る」(紀伊國屋サザンシアター)

    2013年に入って、なかなかこれという舞台が無かったなあというフラストレーションを一気に晴らしてくれた。2013年の私のベストワン。大津市中学生いじめ事件に材を取った鄭義信作・松本祐子演出の渾身の作品。雑誌「悲劇喜劇」2014年1月号に脚本が掲載されているので、興味のある方は是非読んでいただきたい。近日廃業の地方都市の映画館が舞台。素晴らしい芝居は、無駄な登場人物がいないことが必須条件であるが、まさに7人の登場人物が活きている。うち2人は、道化的役割かと思わせて現れながら、徐々にその背景が物語の本質に絡んでくるので、感情が大きく揺さぶられるのだ。

    劇団銅鑼「はい、奥田製作所」(旭川市公会堂)<鈴木瑞穂>

    東京大田区の町工場を舞台にした群像劇だが、登場人物が多すぎる上に、その関係性の把握に苦労して、なかなか芝居に入り込めない。脚本に難があるのか。昨年鑑賞した同じ劇団の「からまる法則」が良かっただけに(同様に登場人物は多いが、松本祐子演出の良さもあってそうした苦労がない)、少し残念な感がある。大田の工場主たちが、この芝居を上演するときに、結末がご都合主義的なので変えて演じたというエピソードも宜なるかなと思う。弁護士としては、どうしても「倒産寸前の状態になるまでに相談に来て欲しいなあ」と思ってしまう。

   △シス・カンパニー「グッドバイ」(シアタートラム)<段田安則、蒼井優、高橋克実、山崎ハコ>

   北村想が、太宰の未完の遺作「グッドバイ」を下敷きに、太宰テイストで作劇した作品と言うことだが、これって果たして太宰風だろうかという違和感がまずある。蒼井優の河内弁は、健闘してはいるものの、やはり関西ネイティブの耳には違和感が否めず、どうしても劇に入り込みにくい(蒼井優が河内出身になりすましているという設定ではあるのだが)。流しの歌手役の山崎ハコの歌声を生で聞けたのは収穫。

   △直人と倉持の会「夜更かしの女たち」(下北沢本多劇場)<竹中直人、風吹ジュン、中越典子、マイコ、篠原ともえ、安藤玉恵>

    竹中直人が、多彩な女優とからむというだけでワクワク感はあるのだが、期待が大きすぎたか。同じ時間を第1幕と第2幕で背中合わせの別の場所から描くという設定は大変面白いのだが。美しい女優さんが目白押しだが、やはり下北沢で舞台経験を重ねた安藤玉恵が、役柄設定のはまりもあり、生の舞台では光る。

 このほか、劇団民藝「八月の鯨」(三越劇場)を観劇予定だったが、飛行機の欠航で見逃したのが残念。6月に旭川市民劇場で鑑賞できるのを楽しみにしている。

2014年も、多くの舞台と感動に出会えることを心の糧に、仕事に励みたい。

                                                                                    (くまちん)



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