日本裁判官ネットワークブログ
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 ネットワークOBで現在ロースクールで教鞭を執っている立場から,ロースクールの最近の情勢をお伝えします。
 「理論と実務の架橋」を旗印に始まったロースクールですが,結局,従来の大学の司法 試験合格者ランキングとロースクールの司法試験合格者・合格率・人気はほぼ重なってきて落ち着いた感があり,一橋大学,千葉大学,神戸大学がかなり躍進したこと,早稲田が慶應に逆転されたことくらいがめぼしい変化でしょうか。
 多くの大学では,2009年度入学生から定員を削減しましたが,実際の入学者はその削減した定員さえも大きく割り込むところも少なくないようです。大学進学希望者数が入学定員を下回る「全入時代」が到来していますが,ロースクールも選ばなければどこかには入れる時代になっています。
 しかも,進学には学力だけではなく,経済力も必要なため,学力はあっても経済力の乏しい者は進学を断念せざるを得なくなってきています。そのため本来法曹になるにふさわしい資質のある学生がロースクールを敬遠する傾向も顕著で,数年先には法曹の質の低下が深刻になると危惧されます。
 もともと旧司法試験の受験生が予備校でのマニュアル的な勉強に依存しているという弊害が叫ばれて始まったのがロースクールです(私は勉強には方法論が必要で,それをエキスパートに指導してもらうこと自体悪いとは思っていませんが)。しかし,実際にはロースクールの学生は今まで以上に試験を意識した勉強に走っており,試験に必要かどうか,役に立つかどうかを非常に気にしています。かつての司法試験受験生のように自分から学ぼうという姿勢に乏しく,教員におんぶに抱っこで要求ばかりする者も増えているように思います。
 今,ある大学の歯学部でも教えていますが,歯学部も乱立のためレベル低下が著しいようで,授業中話を聞くという姿勢すらなく,学級崩壊状態です。国家試験の合格率が7割に達しない大学も多く,結局,資格が取れないまま,親のすねかじりになる者もいるようです。自嘲的に「高学歴フリーター養成所」と自分の大学を呼んでいる先生もおられるくらいです。薬学部も6年制になって,親の経済力が必要になり,かえって人気が落ちてレベ ル低下したようですし,民主党は教員まで6年制にすると言っています。
 しかもそこまで時間とお金をかけても,薬剤師も教師もそれほど待遇がいいわけではありませんし,弁護士でも就職難に苦しみ,歯科医師さえ倒産する時代です。家計に余裕がなければ人生をかけてまでチャレンジできるものではありません。
 日本は,金持ちでなければ資格をとるスタートラインに立つことさえできない社会になりつつあるようです。しかも,そのチャンスに恵まれた若者はそれを所与のものとして,そのチャンスがない者への理解も共感もなく,特権を浪費しています。なぜ,有り余る冨を持つ世帯にまで定額給付金や子ども手当を税金から配らなければならないのか,理解に苦しみます。
 文明論者によると,ギリシャ,スペインからアメリカに至る世界の歴史を見ると,その覇権のピークになると弁護士,医師,保険業者が増え,その後その社会は衰退していくそうです。果たして日本はどうなるでしょうか。
 個人的には,中卒,極道の妻からでも,一念発起して弁護士になった大平光代さんのような方にも開かれている旧司法試験の方が平等でよかったと思います。

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コメント
 
 
 
経済力の問題 (瑞祥)
2009-12-05 17:40:34
 深刻な状況ですね。経済力の問題は,心配されていたことですが,やはり影響大というところでしょうか。
 ただ,私も法曹倫理の関係で,いくつかのロースクールに教えに行ったのですが,経済的な負担を抱えながらの勉学であるためか(卒業時には数百万から1000万円の借金が残ると言っていた人に何人も会いました。),ロースクール生が皆真剣で,司法試験科目にはない法曹倫理についても,こちらが与えた課題をよくこなし,しっかりした答案を書いていたのでびっくりしました。また,ロースクールを出てからの新司法試験合格者や新修習の人たちも,旧世代には,とかく批判されがちなのですが,私が見た範囲では,旧世代が苦手な分野で能力があったり(プレゼンテーション能力など),今の時代に,よくこれだけ考え,また人のためにつくそうという若者が集まっているなと感じることがありました。紆余曲折はあるでしょうが,ロースクール制度や新修習制度をどう維持発展させるかも考えるべきだと感じています。返還不要の奨学金制度が少しでも作れるといいのですが,財源確保でかなりの苦労が必要ですね。
 現場で苦労されているくじらさんには,きれいごとに聞こえるかもしれませんね。申し訳ありません。ロースクールの現状については,関心が高いので,読者の方々のいろいろな立場からコメントをお願いします。
 
 
 
 
ロースクールの学生 (司法修習生)
2009-12-05 22:05:25
初めてコメントいたします。いつも楽しみに記事を拝読しております。ロースクールと新司法試験が、経済的に余裕のない者の受験機会を奪う結果になりつつあることに危惧するという点で、共感するものです。
ただ、「ロースクールの学生は今まで以上に試験を意識した勉強に走っており」とか、「そのチャンスに恵まれた若者はそれを所与のものとして,そのチャンスがない者への理解も共感もなく,特権を浪費してい」るという点には、強く反論したいと思います。
私は7年間の会社員生活を経てロースクール、新司法試験と進んだ者ですが、ロースクール時代には、周囲にはエクスターンシップやリーガルクリニック、市民にも参加を呼びかけた模擬裁判等、直接受験勉強とは関係ない活動に熱心に取り組む学生がたくさんおられました。ローレビューも創刊され、いまも充実した編集活動がなされています。
また、ご存知とは思いますが、公設事務所や法テラスのスタッフ弁護士として、既に多数のロースクール出身者が公的的な活動に熱心に取り組んでいます。
もちろんご指摘のような学生がいることは確かでしょうが、当然ながらそうでない学生もいます。単に「ロースクール生」や「新司法試験合格者」とする十把ひとからげの議論は科学的でないし、高い志で法曹を目指す学生の熱意に水をかけるだけになってしまうと思います。
 
 
 
裁判傍聴マニア忘年会・に出席いたしました (秦野真弓)
2009-12-08 22:29:35
先日!「♪裁判傍聴マニア・忘年会」に,私は末席の一員として,参加させていただきました。「♪東京地裁・傍聴マニアを中心」に、20名以上もの、方々が!各々の御立場で,出席され,大盛会となりました。
※アッ!「♭エントリーと,全く関係ないコメント」って!ダメなんですよね!!反省いたします(→※私は、民事傍聴を,させて頂いて!「♪若手の弁護士さん」ほど,「対・消費者金融さんへの、過払い系・不当利得返還系,訴訟」に対し、熱心に取り組まれる等,良い印象を抱いております。
※さて!さて!本題に戻りまーす。先日の「傍聴マニア忘年会」では、[誰が最も,印象の良い裁判官さんなのか?]が、議論となりました。
※私は勿論,A:私みたく低学歴の落伍者に対しても!落語を披露するであろう、東京高裁民事10部・♪♪「園尾隆司・部総括判事」さんや
B:裁判員制度を,「宣伝」という形で、広報する,後方部隊の一員の,♪♪「今崎幸彦・最高裁事務総局・広報課長さん」を推薦したかったのですが…たぶん?,参加者さん達は、誰も,知らない可能性が,強いので,ヤメに致しました。
やはり先日「傍聴マニア忘年会」に集った方々で一番!評価が高かったのは,A♪♪:合田悦三裁判長さん(→東京地裁・刑事6部・部総括判事さん)や、
B♪♪:波床昌則裁判長さん(→東京地裁・刑事3部・部総括判事さん)でした。
私は,a正月あけや、bお盆の期間中の、極端に、「民事・人証調べ」が少ない時期には,「刑事傍聴」をも致します。だから、「合田裁判長さんの,優れた人間性・波床裁判長さんの優れた人間性」に触れる事ができました。
やっぱり「裁判員制度」って,賛否両論・双方,激しく争われてますが,私は!なんとしても「裁判員制度は国民の皆様方に定着されてほしい」と思います。
裁判員さんは「♪裁判官さんの,優れた人間性」にも、接する機会があるからでーす。


 
 
 
生まれて初めて・裁判員裁判を傍聴 (秦野真弓)
2009-12-11 22:03:44
私は今日,偶然にも,自宅から近い,「横浜地裁・刑事6部(「→裁判体の構成:→A♪♪.人格者さんの,川口政明・部総括判事さん・B♪♪.右陪席の,林寛子判事さん・C♪♪.左陪席の,海瀬弘章・判事補さん,ご担当[平成21(わ)1248]=実親への傷害致死事件)を」,途中から、傍聴させて頂きました。
この「☆裁判員裁判」はなんと!!「傍聴整理券」の交付はなく、傍聴席には空席も目立ちました。私は「(語弊ありますが…)気軽に」傍聴させて頂きました。やはり「☆裁判員制度って」は、国民の皆様に定着しつつ!あるのではないでしょうか?
さて,その「横浜地裁・傷害致死事件」では、検察官さんによる、「懲役7年の求刑」に対し、弁護人さんは、なんと「★執行猶予判決」を求めておられました。
※でもさあ!「可哀相な事情がある」とはいえ、実の父親を,死に至らしめた以上,
検察官さんの御主張の通り、「実刑判決」は致し方ない….と私は考えます。
アッ!ふたりの弁護人さんは「懸命に頑張って」おられましたよ。
特に、本日の,「2人いる,弁護人さんのうち,おひとり」は、
民事裁判でも,よく見かける先生でした。
例A.外国人による「退去強制令書発布・取消訴訟」や、
例B.「コンビニ系・フランチャイズ訴訟」等、常に弱い方々に対する「☆代理人」を委任されておられる先生でした。本当に!苦労されている、弁護人さんだな…と私は思いました。
でも!残念ながら、私が,生まれてはじめて傍聴させて頂いた「実の親を,結果的に死去させてしまった,この裁判員裁判!」…とっても!残念だけれど「被告人さんを,執行猶予にする事」あってはならないと私は思いました。反動的意見???で,誠にゴメンナサーイ!

 
 
 
Unknown (ロースクール生)
2009-12-17 03:55:09
はじめまして。先生のご指摘に共感し、コメントを投稿させていただきます。
先生のおっしゃるように私のロースクールでも「試験を意識した勉強に走っており・・・。」ということが当てはまります。それはそうで、時間と多額のお金をかけたにも関わらず、いわゆる「三振」した場合、どうすればよいのか検討もつかず、路頭に迷いかねない恐怖を背負っているからです。路頭に迷っても「自己責任だ」と説教されるのがおちですから。さらに全国の法科大学院入学者の6割以上が三振か撤退という現状では。
「大平光代さんのような方にも開かれている旧司法試験の方が平等でよかった」とのことですが、私も賛成です。金銭的に余裕がない方だけでなく、社会人の方にも法科大学院は大きな足かせになっているのではないでしょうか。法科大学院を廃止すべきとはいいませんが、予備試験を拡大することで多様な人材が参入することを願ってやみません。
質の保証は新司法試験と研修所2回試験で行えばよい話で、依頼する弁護士が法科大学院卒業生か予備試験組かの選択は市場が判断すればよいだけであると思うのですが、いかがでしょうか。
 
 
 
Unknown (法学太郎)
2009-12-25 20:58:57
たまたま弁護士の親戚がいた大平光代のような人間を法曹にしてよろこぶ旧司法試験の方がよほど閉鎖的であり、誰もがなれないことをいばっている組織ほどのちのち腐敗していくものだと歴史が証明していると思います。またできた制度をよりよい方向へ改善する努力もせずただひたすら反対している法曹の人の話を聞いていると、自分たちの改革はできない政治家と何が違うだろうかと怒りを通り越しうんざりします。
 
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