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裁判員制度が施行された。
ただし、制度設計に対して特にマスメディアからの批判がますます強まっている論点の一つは、評議・評決が全面的に秘密とされていることへの不満である。これではせっかく裁判員が参加したことによる成果が検証不能ではないか、という疑問は至極もっともであろう。

しかし、評議の秘密の解除はそれほど簡単な問題ではない。マスメディアも含めて、そもそも裁判の歴史の中で、評議が秘密とされてきた意義に対する洞察や理解が乏しいように思う。合議体として一つの判決をする以上、個々の意見の相違を昇華した一心同体の判断を示すことも重要なのであって、個々の構成員の意見などは明らかにされない方が一般的には好ましい。これを自由に公表してよいことにすれば、裁判の権威は少なからず失墜するだろうし、個々の裁判員が様々な圧迫や攻撃に晒されることを心配しなければならなくなるだろう。

もっとも、日本の裁判制度の中でも、最高裁だけは唯一の例外として、裁判官が判決に個別の意見を明示している。しかし、これは国民審査の必要性との兼ね合いで要請されているものである。また、最高裁の裁判官の間でも激論が闘わされ、なおかつ意見が分かれるほどの難事件だと天下に明らかにするわけだから、むしろ最高裁判決の権威や納得性を高めている側面もある。しかし、下級審判決について、これと同列には論じられない。

それに、評議の秘密を個々的に漏らすような人が、本当のことを正確かつ誠実に言うとは限らないのではないか。このことを(暗黙にしろ)前提としていない議論をする人たちは、あまりにも人が良すぎると思う。我が身可愛さからの我田引水で評議経過を喋りたくなるのも人情であって、他の人々は秘密を守ってくれるのならば、言った者勝ちのいい子になってしまう危険がある。禁を破って喋った人が本当のことを言っているかどうかは、それこそ検証不能であろう。

さはさりながら、せっかく裁判員が参加した裁判の評決結果が全く不明のブラックボックスというのは、やはり疑問である。法改正を要することになるが、裁判員制度を発展させるためにも、評議の秘密を一部解除する合理的な方法の発明・工夫ができないものか、みんなで知恵を絞りたいものだ。

以上の立場からのアイディアの必要条件は、個々の裁判員の意見は不明のままになるようにしておきながら、なおかつ総体としての裁判員の意見がどうであったのか、ある程度まで明示されるような正確かつ客観的な方法で、評議の秘密を一部解除することである。

全くの思い付きであるが、私の腹案は、次回の投稿で発表したい。
(チェックメイト)

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