日本裁判官ネットワークブログ
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1 今日,NHKのTVで日曜討論を見た。「司法改革」について討論がなされていた。面白かったが,いろいろと疑問もあった。最初に刑事事件の公訴時効の廃止等の改正について議論がなされた。「被害者の遺族からすると,証拠上も真犯人であることが明白な犯人が,公訴時効期間を逮捕されずに逃げ切れば罪に服することがなくなることは許せないという感情はよく理解できる。」という意見が出された。ただ余りにも拙速な改正ではないかという意見も出された。私も,もっと時間をかけた慎重な議論が必要ではなかったかと思っている。

2 最近,冤罪事件が多いことに関して,「真犯人を逃してはならない」ことよりも,「犯人でない者を誤って処罰してはならない」という原則の方が重視されるべきではないかという意見が出され,共感した。そして捜査の可視化の動向について議論された。前検事総長は,「全てを可視化するのは困難であり,ゼロではないが,100でもない,程よい結論があるのではないか」という意見を述べた。事件によっては,膨大な初動捜査が必要となり,その全ての可視化は技術的に不可能であるという例を挙げていた。もとより技術的に不可能である場合まで,可視化ができないことは当然のことであるが,「可能な限り」ということにならざるを得ないだろう。
 日弁連会長が,「少なくとも重大事件については,全面的な可視化が必要である」と述べたのに対して,江川紹子氏が,「日弁連が,全事件と言わずに,重大事件に限るような発言をされたのは不可解」と異論を述べて,面白かった。江川氏は,被告人の立場からは,全ての事件が一生に一度の重大事件ではないかというのである。また同氏は,「被害者の遺族としても,真犯人として処罰された者が,実は冤罪で,真犯人ではなかったということになると,その被害者の遺族の精神的苦痛は余りにも大きいのではないか」と述べ,なるほどと思った。

3 裁判員裁判が成功であったかについては,前検事総長は,「最大の心配点はクリアーしたと言ってよいのではないか。」という意見を述べていた。「国民の信頼は確保できたと言ってよいのではないか」という意見である。今なお反対意見も強く,裁判員として,事件に関わりたくないという国民も多いが,実際に裁判員として事件を担当した裁判員の90パーセント以上が,裁判員を経験したことを肯定的に評価しているという,最高裁の統計を根拠にしていた。

4 私は最近,当番弁護士や国選弁護人として,刑事事件を担当することが案外多いが,わが国の刑事裁判については,これでいいのかという,甚だ強い疑問を抱いている。刑事控訴審の在り方に限らず,一審裁判についても疑問が多い。その趣旨で書かれた,元裁判官の本を沢山買い込んで勉強しているので,いずれいろいろと書くことになりそうである。わが刑事司法は,「疑わしきは被告人の利益に」ではなく,「疑わしきは被告人の不利益に」という原則が機能しているのではないかと感じることが多いということである。(ムサシ)


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