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“先住権”を学ぶ オーストラリアへ渡ったアイヌ

2024-06-28 | アイヌ民族関連

NHK 2024年6月27日

「先祖と同じように川でサケをとりたい。川でサケをとってアイヌとしての誇りを持って生きたい」。北海道に住むアイヌの男性が世界各地の先住民を前に訴えたことばです。
彼らは5月、オーストラリアで開かれた先住民の権利「先住権」がテーマのシンポジウムに参加し、私は同行取材することができました。その中で彼らが現地の先住民たちの活動にふれ、多くの気づきを得る姿をすぐそばで見ることができました。

(帯広放送局 記者 青木緑)

「先住権」求め世界の先住民が…

5月下旬、浦幌町のアイヌ民族の団体「ラポロアイヌネイション」のメンバーの2人は、オーストラリアにいました。世界各地の先住民が参加する国際シンポジウムに出席するためです。集まったのは、地元オーストラリアのほか、台湾や北米の先住民たちです。

浦幌町の団体は2020年、アイヌとして地元の川でサケをとる権利を求め、全国で初めて裁判を起こしました。札幌地方裁判所で原告の訴えを退ける判決が出てから1か月後に開かれたこのシンポジウムで、ラポロアイヌネイションの長根弘喜さんは「アイヌとしての誇りを持って川でサケをとりたい」という思いを、世界に訴えました。

漁業権を取り戻したアボリジニ

オーストラリアではほかにも多くの学びの機会がありました。浦幌のアイヌの人たちが訪れたのは、シドニー空港のすぐ近くに広がるボタニー湾。約250年前、オーストラリアに入植を始めた白人は、先住民アボリジニの人たちが伝統的に続けてきた漁の権利を奪いました。しかし、地元のアボリジニのグループは州政府などとの対話を重ね、2014年、自分たちで食べる分に限って漁をする権利を取り戻しました。

(写真)アボリジニの漁師 ロバート・クーリーさん
「自分たちの歴史を学び、魚がどれだけ重要か伝え続けることが大切です。魚は私たちにとってかけがえのない食料であり、漁は大切な文化です」

魚をとるだけではありません。アボリジニの人たちは魚のエサやすみかとなる海草の移植を続けるなど海の環境の改善にも取り組んでいます。こうした活動は州政府や住民にも高く評価され、地域の一体感につながっているといいます。また、この日はボラなどの魚が数多く網にかかりましたが、アボリジニの人たちは十分なサイズではない魚はどんどん海に返していきます。「自分たちに必要な分だけ持ち帰り、資源をとり過ぎない」。自然と共存を続けてきた先住民の伝統的な考え方だといいます。

(写真)ラポロアイヌネイション 門脇政史さん
「食べる分だけとってあとは逃がしている。地域貢献のための活動をしていることがわかりました。積極的に活動をしているという印象を受けました」

(写真)ラポロアイヌネイション 長根弘喜さん
「アボリジニの人たちはもともと行っていた漁が1回途絶えてできなくなったと話していました。まさに自分たちも一度途絶えた文化、それを自分たちで復活させようとしているところが同じだなと思いました」

“あとからやって来てルールを作るのはおかしい”

アボリジニの人たちがみずからガイドをつとめる観光ツアーにも参加しました。
オーストラリア南東部の町、ナルーマ。高級住宅街が広がるこの地域も、かつてはアボリジニの人たちが伝統的な暮らしを営んでいた場所です。豊かな海でアワビやロブスターをとっていましたが、ここでも自由に漁をする権利を白人に奪われました。

ここでは自分たちで食べる分の漁も厳しく規制されています。アワビやロブスターのような商品価値が高い海産物ほど当局による規制が厳しいといいます。

(写真)観光ツアーに同行した77歳のアボリジニの漁師、ケビン・メイソンさんは「伝統的にアボリジニが持っていた漁業権を、あとからやって来た白人が禁止し、ルールを作る側になるのはおかしい」と話していました。

ツアーでは波がおだやかな湾の中を観光船で進みながらアボリジニの人たちが伝統的な漁の道具を紹介し、自分たちにとって漁業がどれだけ大切か訴えました。自分や祖先が経験した差別についても語り、ツアーは3時間ほどでしたがあっという間に感じられました。

長根弘喜さん
「ツアーでアボリジニの歴史についていろいろ知ることができました。今すぐは無理かもしれないけれど、自分たちも将来こういうことができるかもしれないと思いました」

声を伝え続ける

そしてオーストラリアに滞在した最後の日。浦幌のアイヌの人たちは首都キャンベラの連邦議会を訪れました。日本の国会にあたります。アボリジニの人たちが議員に自分たちの権利回復を訴える場に同席したのです。国会議員が、先住民の声に真摯に耳を傾けていました。

オーストラリアでも先住民が権利を求めて闘い、声を伝える活動を続けている姿を目の当たりにした長根さん。このあと臨んだ現地メディア向けの記者会見で語ったのは「世界に仲間ができた」という思いでした。

(写真)長根弘喜さん
「私たちは孤独な闘いをしてきましたが、今回シンポジウムに来て、各地のグループが孤独に闘っていることがわかりました。今こそ皆で力を合わせて闘おうということになり、勇気をもらいました」

取材後記:先住民の存在を身近に

オーストラリアのあちらこちらで、ある旗が国旗とともに掲げられているのを見ることができます。アボリジニの旗と、同じ先住民のトレス海峡諸島民の旗です。先住民の伝統的なアートを模したデザインも日常にあふれ、日本よりも先住民の存在が身近にあるように感じます。アボリジニの人たちの活動を支援する白人のオーストラリア人にも数多く出会いました。

ただ、1970年代まで「白豪主義」と呼ばれる差別的な政策が続いたオーストラリアでは、いまも先住民の収入や教育水準の低さが課題となっています。
また、去年には先住民を「オーストラリアの最初の人々」と新たに明記することなどを盛り込んだ憲法の改正案が国民投票にはかられましたが、反対多数で否決されました。
広いオーストラリアでは、先住民とひと言で言っても、それぞれのグループごとに言葉や文化が異なります。先住民の間でも憲法改正案を支持した人たちもいれば、「政府に押しつけられた」と反対した人たちもいるといいます。
また、先住民の文化を“観光資源”にすることを良く思わない人たちもいます。

浦幌の2人はオーストラリアで現地の人たちと向き合って、世界の先住民は権利回復のためにどのように闘ってきたのか、日本と世界の先住民政策はどう違うのか、共通する課題は何なのか考えていました。

私も北海道でアイヌの人たちとともに暮らす人間の一人として彼らと向き合い、声をしっかり聞くことで、どのような社会を目指すべきか一緒に考えていきたい。今回、彼らの姿を間近で取材したことであらためて感じました。

https://www.nhk.or.jp/hokkaido/lreport/articles/300/103/06/

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