北海道新聞06/28 17:37 更新
1992年6月、ブラジル・リオデジャネイロで開かれた国連環境開発会議(地球サミット)で当時12歳だったカナダ人の環境活動家セヴァン・スズキさん(42)の演説が世界の注目を集めた。「どうやって直すのか分からないものを、壊し続けるのはもうやめてください」。同世代の彼女の演説を聴いて心を揺さぶられたという有坂美紀さん(43)は今、国連の持続可能な開発目標(SDGs)を道内で推進する団体の事務局長を務める。リオ地球サミットから30年、その後の世界をどう見ているか、私たちにできることは…。セヴァンさんと有坂さんにオンラインで対談してもらった。(和訳、構成・編集委員 関口裕士)
■リオサミット「12歳の演説」から30年
有坂美紀さん(以下M) リオの演説から30年たちました。30年間の変化をどう見ていますか。
セヴァン・スズキさん(以下S) リオの会議ではいくつもの重要な成果がありました。国連の生物多様性条約や気候変動枠組み条約もできた。その後の30年間で私は二つの大きな変化を感じています。一つは、国家を上回る影響力を持つ巨大な多国籍企業が民主主義よりも利潤を追求する姿勢を強めたこと。もう一つは気候変動の危機が誰の目にも明らかになったことです。気候危機は社会のあり方と深く関わっています。 M 多くの人が気候変動対策や生物多様性の保全など環境問題に関心を寄せています。しかし問題は解決されないままです。私自身、リオの演説を聴いて以来、世界を変えたいとずっと思ってきました。ただ、小さな変化(change)では不十分です。SDGsにも書かれているように世界を変革する(transform)必要があります。
S そう思います。世界を変革することは可能です。新型コロナウイルス禍の2年間で人々の生活様式はがらっと変わりました。コロナを乗り越えることができるなら、気候危機も乗り越えられるはずです。ただ、この30年間、国境をまたぐ利潤の追求によって人々は地域社会や文化、伝統と切り離されてきました。人々はグローバルな経済に絡め取られ、その経済システムが地球全体を覆い尽くした。人類は自ら作り出したシステムから脱却するのが難しくなっています。今ほど価値観の転換が求められている時代はありません。
M 社会が持続可能であるには文化や伝統がとても大事です。セヴァンさんは(カナダの先住民族)ハイダ族の地域社会で暮らしていると聞きました。北海道にも先住民族アイヌがいて私たちは彼らから多くを学ぼうとしています。
S 過去の遺産や伝統は私たちがよりよく生きるためにはどうすればいいか、答えを与えてくれます。「他者に敬意を払うこと」「多く取り過ぎないこと」の二つが持続可能な開発には必要です。
M セヴァンさんは「愛」という言葉もよく使います。でも愛っていったいどんなものですか。人は誰もが幸福や平和を求めているはずなのに今、私たちはロシアによるウクライナ侵攻を目の当たりにしています。戦争や環境破壊が起きるのは、愛とは何かが人によって違うからだと私は思います。
S もちろん人それぞれ違います。でも、子どもたちを愛する心、親を愛する心、故郷を愛する心、音楽や文化を愛する心など、いずれも人類に普遍的な愛です。これらは経済システムの中では利益の出ない、価値のないものとみなされます。でも、どれだけ富や権力を積み上げても戦争になれば失われてしまう。利益やお金、権力に価値を置くシステムから、親子の無償の愛といったお金に換算できないものに、より大きな価値を見いだす社会を目指すべきです。
M 日本には古来、自然や生きものを身近に感じ、愛し、共生する文化があります。でも、私たちはそのことを忘れがちです。お金を稼ぐことに必死で、他の存在に配慮できないことがあります。
S でも、お金ばかり追い求めていても幸せになりませんよね。
M リオの演説で「未来のために闘っている」と語っていました。未来のために、何と闘っていると考えればいいのでしょうか。
S 経済が成長しなければ幸せになれないという思い込みを多くの大人が持っています。そういう考え方が未来を破滅的な方向へと向かわせている。私はそんな流れにあらがいたいと今も闘っています。
M 日本の若い人たちにメッセージをもらえますか。
S 経済学も医学も芸術も根っこでは地球の環境問題とつながっています。どんな分野に関心を持つにしても同時に環境問題について学び、語り合ってほしい。気候変動を止め、人類が生き続けられる地球を守ってほしいです。
M 大人へのメッセージも。
S 私やあなたは子どものころから環境問題を気にしながら成長した世代です。その世代が今、社会のさまざまな決定に影響力を持つ世代になっている。気候変動を止められるのは政治だけではありません。持続可能な社会をつくるために、私たち一人一人にできることはたくさんあります。共に行動しましょう。
1992年6月11日、リオ地球サミットでセヴァン・スズキさんが行ったスピーチから抜粋=和訳

1992年6月11日、リオ地球サミットでセヴァン・スズキさんが行ったスピーチ(写真提供・ナマケモノ倶楽部)
私には夢があります。いつか野生の動物たちの群れや、たくさんの鳥やチョウが舞うジャングルを見ることです。でも、私の子どもたちの世代は、もうそんな 夢をもつこともできなくなるのではないでしょうか?あなたたち大人は、私ぐらいの年齢の時に、そんなことを心配したことがありますか。
オゾン層にあいた穴をどうやってふさぐのか、あなたたちは知らないでしょ う。死んだ川にどうやってサケを呼びもどすのか、知らないでしょう。絶滅した 動物をどうやって生きかえらせるのか、知らないでしょう。そして、今や砂漠と なってしまった場所にどうやって森をよみがえらせるのか、知らないでしょう。
どうやって直すのか分からないものを、壊し続けるのはもうやめてください。
もし戦争のために使われているお金を全部、貧しさと環境問題を解決するため に使えば、この地球はすばらしい星になるでしょう。私はまだ子どもだけどその ことを知っています。
学校で、いや、幼稚園でさえ、あなたたち大人は私たち子どもに、世の中でど うふるまうかを教えてくれます。 たとえば、 ・争いをしないこと ・話しあいで解決すること ・他人を尊重すること ・ちらかしたら自分でかたづけること ・他の生き物をむやみに傷つけないこと ・分かち合うこと ・そして欲ばらないこと
ならばなぜ、あなたたちは、私たちにするなということをしているんですか。
あなたたち大人がやっていることのせいで、私たちは泣いています。
あなたたちはいつも私たちを愛していると言います。もしその言葉が本当なら、どうか、本当だということを行動で示してください。 ■対策の出発点 人間環境宣言50年
国連が持続可能性を掲げた出発点は50年前の1972年、「かけがえのない地球」をテーマに開いた会議で採択した人間環境宣言だ。会議が開幕した6月5日は世界環境デーとされた。
同じ年、世界の科学者らでつくるローマクラブは「人口増加や環境汚染が続けば100年以内に地球上の成長は限界に達する」との報告書を出している。セヴァン・スズキさんが演説した地球サミットが開かれたのはその20年後だ。
そして今、2015年に採択されたSDGsは、30年の達成を目指し、もうすぐ折り返し点を迎える。
<略歴>セヴァン・スズキ(Severn Cullis-Suzuki) 1979年カナダ・バンクーバー生まれ。日系4世。両親と訪れた南米アマゾンへの旅をきっかけに9歳で環境学習団体を立ち上げた。米エール大卒。2007年には札幌でも講演した。リオ地球サミットでの演説全文の和訳を収録した著書「あなたが世界を変える日」(学陽書房)がある。
<略歴>ありさか・みき 1978年東京都生まれ。水産業界紙記者や環境NPO職員を経て北大大学院(自然史科学)修了。現在は複数の大学で非常勤講師をしながら、SDGsの普及を目指すRCE北海道道央圏協議会とフェアトレードタウンさっぽろ戦略会議の事務局長を務める。中南米を9カ月間一人旅したこともある。江別市在住。
<取材後記>
記者もセヴァン・スズキさんの演説に強く心を揺さぶられた一人だ。2008年の北海道洞爺湖サミットで政府の温暖化対策を取材し、10年には名古屋で国連の生物多様性会議を取材した。大人の責任を問いかける少女の言葉を自分の胸に突き刺さらせながら記事を書いた。とりわけ11年の東京電力福島第1原発事故後、福島の被災地を回りながら何度も30年前の演説の言葉を思い返している。
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/699036
1992年6月、ブラジル・リオデジャネイロで開かれた国連環境開発会議(地球サミット)で当時12歳だったカナダ人の環境活動家セヴァン・スズキさん(42)の演説が世界の注目を集めた。「どうやって直すのか分からないものを、壊し続けるのはもうやめてください」。同世代の彼女の演説を聴いて心を揺さぶられたという有坂美紀さん(43)は今、国連の持続可能な開発目標(SDGs)を道内で推進する団体の事務局長を務める。リオ地球サミットから30年、その後の世界をどう見ているか、私たちにできることは…。セヴァンさんと有坂さんにオンラインで対談してもらった。(和訳、構成・編集委員 関口裕士)
■リオサミット「12歳の演説」から30年
有坂美紀さん(以下M) リオの演説から30年たちました。30年間の変化をどう見ていますか。
セヴァン・スズキさん(以下S) リオの会議ではいくつもの重要な成果がありました。国連の生物多様性条約や気候変動枠組み条約もできた。その後の30年間で私は二つの大きな変化を感じています。一つは、国家を上回る影響力を持つ巨大な多国籍企業が民主主義よりも利潤を追求する姿勢を強めたこと。もう一つは気候変動の危機が誰の目にも明らかになったことです。気候危機は社会のあり方と深く関わっています。 M 多くの人が気候変動対策や生物多様性の保全など環境問題に関心を寄せています。しかし問題は解決されないままです。私自身、リオの演説を聴いて以来、世界を変えたいとずっと思ってきました。ただ、小さな変化(change)では不十分です。SDGsにも書かれているように世界を変革する(transform)必要があります。
S そう思います。世界を変革することは可能です。新型コロナウイルス禍の2年間で人々の生活様式はがらっと変わりました。コロナを乗り越えることができるなら、気候危機も乗り越えられるはずです。ただ、この30年間、国境をまたぐ利潤の追求によって人々は地域社会や文化、伝統と切り離されてきました。人々はグローバルな経済に絡め取られ、その経済システムが地球全体を覆い尽くした。人類は自ら作り出したシステムから脱却するのが難しくなっています。今ほど価値観の転換が求められている時代はありません。
M 社会が持続可能であるには文化や伝統がとても大事です。セヴァンさんは(カナダの先住民族)ハイダ族の地域社会で暮らしていると聞きました。北海道にも先住民族アイヌがいて私たちは彼らから多くを学ぼうとしています。
S 過去の遺産や伝統は私たちがよりよく生きるためにはどうすればいいか、答えを与えてくれます。「他者に敬意を払うこと」「多く取り過ぎないこと」の二つが持続可能な開発には必要です。
M セヴァンさんは「愛」という言葉もよく使います。でも愛っていったいどんなものですか。人は誰もが幸福や平和を求めているはずなのに今、私たちはロシアによるウクライナ侵攻を目の当たりにしています。戦争や環境破壊が起きるのは、愛とは何かが人によって違うからだと私は思います。
S もちろん人それぞれ違います。でも、子どもたちを愛する心、親を愛する心、故郷を愛する心、音楽や文化を愛する心など、いずれも人類に普遍的な愛です。これらは経済システムの中では利益の出ない、価値のないものとみなされます。でも、どれだけ富や権力を積み上げても戦争になれば失われてしまう。利益やお金、権力に価値を置くシステムから、親子の無償の愛といったお金に換算できないものに、より大きな価値を見いだす社会を目指すべきです。
M 日本には古来、自然や生きものを身近に感じ、愛し、共生する文化があります。でも、私たちはそのことを忘れがちです。お金を稼ぐことに必死で、他の存在に配慮できないことがあります。
S でも、お金ばかり追い求めていても幸せになりませんよね。
M リオの演説で「未来のために闘っている」と語っていました。未来のために、何と闘っていると考えればいいのでしょうか。
S 経済が成長しなければ幸せになれないという思い込みを多くの大人が持っています。そういう考え方が未来を破滅的な方向へと向かわせている。私はそんな流れにあらがいたいと今も闘っています。
M 日本の若い人たちにメッセージをもらえますか。
S 経済学も医学も芸術も根っこでは地球の環境問題とつながっています。どんな分野に関心を持つにしても同時に環境問題について学び、語り合ってほしい。気候変動を止め、人類が生き続けられる地球を守ってほしいです。
M 大人へのメッセージも。
S 私やあなたは子どものころから環境問題を気にしながら成長した世代です。その世代が今、社会のさまざまな決定に影響力を持つ世代になっている。気候変動を止められるのは政治だけではありません。持続可能な社会をつくるために、私たち一人一人にできることはたくさんあります。共に行動しましょう。
1992年6月11日、リオ地球サミットでセヴァン・スズキさんが行ったスピーチから抜粋=和訳

1992年6月11日、リオ地球サミットでセヴァン・スズキさんが行ったスピーチ(写真提供・ナマケモノ倶楽部)
私には夢があります。いつか野生の動物たちの群れや、たくさんの鳥やチョウが舞うジャングルを見ることです。でも、私の子どもたちの世代は、もうそんな 夢をもつこともできなくなるのではないでしょうか?あなたたち大人は、私ぐらいの年齢の時に、そんなことを心配したことがありますか。
オゾン層にあいた穴をどうやってふさぐのか、あなたたちは知らないでしょ う。死んだ川にどうやってサケを呼びもどすのか、知らないでしょう。絶滅した 動物をどうやって生きかえらせるのか、知らないでしょう。そして、今や砂漠と なってしまった場所にどうやって森をよみがえらせるのか、知らないでしょう。
どうやって直すのか分からないものを、壊し続けるのはもうやめてください。
もし戦争のために使われているお金を全部、貧しさと環境問題を解決するため に使えば、この地球はすばらしい星になるでしょう。私はまだ子どもだけどその ことを知っています。
学校で、いや、幼稚園でさえ、あなたたち大人は私たち子どもに、世の中でど うふるまうかを教えてくれます。 たとえば、 ・争いをしないこと ・話しあいで解決すること ・他人を尊重すること ・ちらかしたら自分でかたづけること ・他の生き物をむやみに傷つけないこと ・分かち合うこと ・そして欲ばらないこと
ならばなぜ、あなたたちは、私たちにするなということをしているんですか。
あなたたち大人がやっていることのせいで、私たちは泣いています。
あなたたちはいつも私たちを愛していると言います。もしその言葉が本当なら、どうか、本当だということを行動で示してください。 ■対策の出発点 人間環境宣言50年
国連が持続可能性を掲げた出発点は50年前の1972年、「かけがえのない地球」をテーマに開いた会議で採択した人間環境宣言だ。会議が開幕した6月5日は世界環境デーとされた。
同じ年、世界の科学者らでつくるローマクラブは「人口増加や環境汚染が続けば100年以内に地球上の成長は限界に達する」との報告書を出している。セヴァン・スズキさんが演説した地球サミットが開かれたのはその20年後だ。
そして今、2015年に採択されたSDGsは、30年の達成を目指し、もうすぐ折り返し点を迎える。
<略歴>セヴァン・スズキ(Severn Cullis-Suzuki) 1979年カナダ・バンクーバー生まれ。日系4世。両親と訪れた南米アマゾンへの旅をきっかけに9歳で環境学習団体を立ち上げた。米エール大卒。2007年には札幌でも講演した。リオ地球サミットでの演説全文の和訳を収録した著書「あなたが世界を変える日」(学陽書房)がある。
<略歴>ありさか・みき 1978年東京都生まれ。水産業界紙記者や環境NPO職員を経て北大大学院(自然史科学)修了。現在は複数の大学で非常勤講師をしながら、SDGsの普及を目指すRCE北海道道央圏協議会とフェアトレードタウンさっぽろ戦略会議の事務局長を務める。中南米を9カ月間一人旅したこともある。江別市在住。
<取材後記>
記者もセヴァン・スズキさんの演説に強く心を揺さぶられた一人だ。2008年の北海道洞爺湖サミットで政府の温暖化対策を取材し、10年には名古屋で国連の生物多様性会議を取材した。大人の責任を問いかける少女の言葉を自分の胸に突き刺さらせながら記事を書いた。とりわけ11年の東京電力福島第1原発事故後、福島の被災地を回りながら何度も30年前の演説の言葉を思い返している。
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/699036