北海道新聞06/10 23:47 更新
札幌市と日本オリンピック委員会(JOC)が2030年冬季五輪・パラリンピック招致の機運醸成に向けて設立したプロモーション委員会が10日、第2回会合を札幌市内で開いた。会合での主な発言は次の通り。
◇
■マセソン美季理事(IPC)
札幌大会の招致が支持されるためのキーワードは三つあります。一つ目は共生社会の実現です。共生社会は年齢や性別、人種、障害の有無に関わらず、全ての人の基本的人権が尊重され、だれでも公平、公正にさまざまなことを選択できる社会のこと。個人が自分の可能性を発揮する土台が整っている社会、誰も取り残されない社会のことです。
二つめのキーワードは情報公開と丁寧な対話。アクセシビリティ(利用しやすさなどの意味)の担保という点も必ず考慮するべきだということも強調したい。
三つめはまちづくりに期待したいこと。自然との共存、共生です。除雪、排雪といった困り事を減らし、冬の楽しみを実感できる取り組みを増やして、札幌市民や道民が、雪がある生活が快適で、冬が待ち遠しくなるまちづくりを実現すること。札幌に信頼と愛着が深まるまちづくりです。
■河合純一委員長(JPC)
東京パラリンピックは多様性と調和を具現化、実現するために、大きな役割がありました。
障害者のアスリートたちのパフォーマンスを見ることで、可能性を感じてもらうことが大きなポイント。見た方がインスパイア(刺激)を受け、障害への認識や考え方を変える一つのきっかけになったでしょう。共生社会の実現に向けた第1段階である「知る」という機会となったのです。
共生社会の「共生」は共に生かし合える意味と考えなくてはなりません。ハードのバリアーはソフトで補う必要があります。個性をすりつぶして混ざり合うミックスジュース型でなく、それぞれのよさを生かせるフルーツポンチ型を目指すことが、誰もが自分らしく生きられる共生社会につながっていくのではないでしょうか。この価値や意義を、子供たちにこそ伝えていきたいと思っています。
■秋辺日出男委員(アイヌ文化演出家)

秋辺日出男委員(アイヌ文化演出家) 私の肩書はアイヌ文化演出家となっていますが、文化の演出は別にステージやイベントだけでなく、民族としてどう生きてきたか、どういう考えをもっているかを世界にどう伝えるか―を考える仕事といえます。
普段から自分たちの生活や歴史を学び、表現しています。東京大会でも(マラソンが行われた)札幌に舞台をつくり、公式行事として演じました。行事にはアイヌ民族以外にも踊ってもらいました。バリアフリーを目指したためです。伝統舞踊に車いすの踊りはありません。年齢を重ね、つえがなくては立てない人のための踊りも考えました。
個人的に自然と共生して育て合うという視点をもう少し強く打ち出してほしいです。世界中が環境破壊や気候変動で困っています。札幌でパラリンピックがあったおかげで、地球や人類が救われたと言われる重要な契機になることを期待しています。日本文化にも自然と共生するすてきな文化があります。大会を機に、新たな発信をしていけたら、多民族、多文化、共生が実現する契機になります。
■井本直歩子委員(SDGsインスポーツ代表)
私は東京五輪・パラリンピック組織委員会のジェンダー平等推進チームのアドバイザーを務めていました。日本のジェンダー平等は世界から比べて遅れています。プロモーション委員会では四つを重点目標にしたいです。一つ目は大会開催においてのジェンダー平等。大会で何を達成するかです。二つ目はスポーツ界のジェンダー平等。三つ目は札幌、北海道のジェンダー平等。四つ目は日本社会のジェンダー平等です。これらが有機的に融合して、目標が達成できるかを考えていければいいと思います。
スポーツ界の目標では、例えば北海道の女性アスリートの数が増えるとか、男女のアスリートの数が同じになっていくだとか、どんどん見せることをしていかないといけない。ジェンダー平等はまだ、隅っこに追いやられていると感じています。なぜ、ジェンダー平等、多様性が必要なのか、それが実現できないと何が悪いのかを勉強して、理解していく必要があります。今後、勉強会の開催などを提案できればと思っています。
■狩野亮委員(パラリンピアン)
共生社会の実現とは、(障害者のことを)知ってもらって、それが当たり前になることだと思います。先日、親と歩いていた子どもが私を見て「車いすの人だ」と言いました。僕としては「そうなんだよ、交通事故で車いす生活なんだ」って話して仲良くなれればいいと思っています。でも、その子の親は「そういうことを言ったら失礼なんだよ」と言ったんです。親が障害者は守られるべき立場であるとか、かわいそうと思っているのか、そういう概念があるからこそ生まれるやりとりなんだと感じました。
障害者やけがを負って踏ん切りがつかずにいる人を、引っ張り出してあげて活躍する場をつくってあげる、または自分から活躍する場をつくりに行くような人がどんどん増えていけば、相乗効果で知る機会も増えるし、知ることで僕たちの感覚も変わります。札幌が五輪へ動きだす中で、そうしたことが実現できれば、よりよい社会になっていくのだと思います。
■永瀬充委員(パラリンピアン)
手足の筋力が低下する末梢(まっしょう)神経の難病を高校1年時に発症しました。スキー授業に行ってもロッジで待たされるだけでつらかった。現在は札幌市や旭川市で(下肢障害者らが座ったまま滑る)バイスキーを使った授業が行われてますが、体育の授業で見学や自宅待機を余儀なくされる子どもがいまだに多くいるのです。
バイスキーやスレッジ(そり)を使えば、スキー授業やスケート授業に参加できます。2030年冬までに希望すれば全員が体育の授業に参加できるようにするなど、具体的な目標を定めることが重要です。
日本ではこれまで、共生社会やバリアフリー政策を考える際、当事者の声を反映してこないことが多かった。障害者だけでなく、女性や性的少数者、アイヌ民族など、いろいろな方が準備段階から中心的に関わっていくことで、素晴らしい大会や社会ができると考えます。
■伊達美和子委員(経済同友会副代表幹事)
札幌で大会をする意義を広く知ってもらうことが必要だと思います。パラリンピックをやることでハード面の整備が必ず進む、バリアフリーの解消が進む、心のバリアフリー面でも効果があることが証明できるのではないかと思います。
一方で、東京大会が終わって間もないのに、また五輪の話かと感じる人もいます。むしろ、課題や反省点を聞き、記憶があるうちに2030年に向け、より現実的、合理的な方向で、みんなが使いやすいものをつくることができる意義があると感じました。
ジェンダー問題は大会を契機に、札幌市内が全国に先駆けて、インパクトのある取り組みを行う必要があります。日本はまだ、女性が働きやすい環境にはなっていないのが現状です。ジェンダーギャップ指数も先進国で最低と言われているが、その中で当然、大会を機に大きな変化や先進的で意欲的な取り組みにより、少なくとも全国では上位に行くきっかけにしてほしいですね。
■牧野准子委員(環工房代表取締役)
差別や偏見は「知らない」ことから生まれると感じています。例えば、今日の会合会場の(床に敷かれた)じゅうたんは、私のような車いす利用者にとっては(車輪が沈むため)移動がとても大変です。ベビーカーを利用するお父さんやお母さんも同じでしょう。
札幌市内にはバリアフリー基準を満たしたスロープがたくさん設置されていますが、傾斜がきつくて一人では上れない場所もあります。こういう実態を知ってもらうことで、周りにいる人が「お手伝いしますか」などと声を掛けてくれるようになればいい。「知る」ことが共生社会の実現につながります。
そのためには、学校の授業などで(健常者が)当事者と関わり、肌で感じることが重要です。札幌では車いす利用者や高齢者が雪で移動に支障を来すことが多い。大会招致を通じ、多様な人が安心して心地よく過ごせる社会になればいいと考えます。
■芦立訓委員(日本スポーツ振興センター理事長)
東京2020大会に向けて、パラアスリートにも使ってもらうため、(東京都内の)ナショナルトレーニングセンターに「イースト」を新設した。パラアスリートの意見を聞き、完全バリアフリーの施設ですが、いよいよ使用開始が近づいた時、アクセス面について確認していなかったことが分かりました。例えば狭い歩道だと、電柱があると車いすが通り抜けられない場所がありました。信号機は健常者が渡る前提で青信号を短く、赤信号を長くしていて、視覚障害者は短い時間では渡りきれない。最寄り駅でも、バス運転手は車いす利用者が大量に来ることに慣れておらず、見かけても先に発車してしまうことがありました。
歩道は板橋区と北区、信号は公安委員会、鉄道やバスなどは国土交通省と、相談先が複数あり、普段なら、開業に間に合わない。それでも、東京大会のための施設ということで間に合いました。今はスムーズに公共交通機関で来てもらえるようになったことも、ある意味、遺産(レガシー)の一つではないか。こうした経験を全国で共有するきっかけにしたいです。
◇
■札幌市が目指す共生社会とは
札幌市は昨年11月に公表した2030年冬季五輪・パラリンピックの大会概要案で、大会招致を通じて目指すまちの姿の一つとして「全ての人にやさしい共生社会の実現」を掲げている。大会によってもたらされるレガシー(遺産)の例として「インフラのバリアフリー化促進」「アイヌ文化をはじめとした多文化への理解促進」「障害者スポーツへの取り組み促進」「ジェンダー平等の推進」などを列挙。利用者が多い施設を結ぶ経路の30年度末までの100%バリアフリー化を目標例に明記した。
一方、日本パラリンピック委員会(JPC)は、国際パラリンピック委員会(IPC)が重視する四つの価値のうち「公平」について「多様性を認め、創意工夫をすれば、誰もが同じスタートラインに立てることを気づかせる力」と説明。パラリンピックには共生社会を具現化する重要なヒントが詰まっているとする。
◇
「北海道・札幌2030プロモーション委員会」の顧問、委員は次の通り。(敬称略)
▽最高顧問 麻生太郎(スポーツ議員連盟会長)▽特別顧問 遠藤利明(スポーツ議員連盟会長代行)、橋本聖子(北海道オール・オリンピアンズ代表)▽顧問 室伏広治(スポーツ庁長官)▽会長 岩田圭剛(北海道商工会議所連合会会頭)▽会長代行 秋元克広(札幌市長)、山下泰裕(日本オリンピック委員会=JOC=会長)▽副会長 鈴木直道(道知事)、森和之(日本パラリンピック委員会=JPC=会長)▽委員 秋辺日出男(アイヌ文化演出家)、芦立訓(日本スポーツ振興センター理事長)、荒井優(スポーツ議員連盟)、伊藤雅俊(日本スポーツ協会会長)、井本直歩子(SDGsインスポーツ代表)、太田渉子(パラリンピアン)、太田雄貴(国際オリンピック委員会=IOC=委員)、岡崎朋美(オリンピアン)、荻原健司(長野市長)、片山健也(ニセコ町長)、狩野亮(パラリンピアン)、河合純一(JPC委員長)、木村麻子(日本商工会議所青年部)、菅谷とも子(ANAあきんど社長)、高橋はるみ(スポーツ議員連盟)、竹中仁美(全国商工会連合会理事)、伊達美和子(経済同友会副代表幹事)、永瀬充(パラリンピアン)、原田雅彦(オリンピアン)、日比野暢子(桐蔭横浜大教授)、牧野准子(環工房代表取締役)、マセソン美季(国際パラリンピック委員会=IPC=理事)、三屋裕子(JOC副会長)、文字一志(倶知安町長)、本橋麻里(オリンピアン)、米沢則寿(帯広市長)、渡辺守成(IOC委員)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/692081
札幌市と日本オリンピック委員会(JOC)が2030年冬季五輪・パラリンピック招致の機運醸成に向けて設立したプロモーション委員会が10日、第2回会合を札幌市内で開いた。会合での主な発言は次の通り。
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■マセソン美季理事(IPC)
札幌大会の招致が支持されるためのキーワードは三つあります。一つ目は共生社会の実現です。共生社会は年齢や性別、人種、障害の有無に関わらず、全ての人の基本的人権が尊重され、だれでも公平、公正にさまざまなことを選択できる社会のこと。個人が自分の可能性を発揮する土台が整っている社会、誰も取り残されない社会のことです。
二つめのキーワードは情報公開と丁寧な対話。アクセシビリティ(利用しやすさなどの意味)の担保という点も必ず考慮するべきだということも強調したい。
三つめはまちづくりに期待したいこと。自然との共存、共生です。除雪、排雪といった困り事を減らし、冬の楽しみを実感できる取り組みを増やして、札幌市民や道民が、雪がある生活が快適で、冬が待ち遠しくなるまちづくりを実現すること。札幌に信頼と愛着が深まるまちづくりです。
■河合純一委員長(JPC)
東京パラリンピックは多様性と調和を具現化、実現するために、大きな役割がありました。
障害者のアスリートたちのパフォーマンスを見ることで、可能性を感じてもらうことが大きなポイント。見た方がインスパイア(刺激)を受け、障害への認識や考え方を変える一つのきっかけになったでしょう。共生社会の実現に向けた第1段階である「知る」という機会となったのです。
共生社会の「共生」は共に生かし合える意味と考えなくてはなりません。ハードのバリアーはソフトで補う必要があります。個性をすりつぶして混ざり合うミックスジュース型でなく、それぞれのよさを生かせるフルーツポンチ型を目指すことが、誰もが自分らしく生きられる共生社会につながっていくのではないでしょうか。この価値や意義を、子供たちにこそ伝えていきたいと思っています。
■秋辺日出男委員(アイヌ文化演出家)

秋辺日出男委員(アイヌ文化演出家) 私の肩書はアイヌ文化演出家となっていますが、文化の演出は別にステージやイベントだけでなく、民族としてどう生きてきたか、どういう考えをもっているかを世界にどう伝えるか―を考える仕事といえます。
普段から自分たちの生活や歴史を学び、表現しています。東京大会でも(マラソンが行われた)札幌に舞台をつくり、公式行事として演じました。行事にはアイヌ民族以外にも踊ってもらいました。バリアフリーを目指したためです。伝統舞踊に車いすの踊りはありません。年齢を重ね、つえがなくては立てない人のための踊りも考えました。
個人的に自然と共生して育て合うという視点をもう少し強く打ち出してほしいです。世界中が環境破壊や気候変動で困っています。札幌でパラリンピックがあったおかげで、地球や人類が救われたと言われる重要な契機になることを期待しています。日本文化にも自然と共生するすてきな文化があります。大会を機に、新たな発信をしていけたら、多民族、多文化、共生が実現する契機になります。
■井本直歩子委員(SDGsインスポーツ代表)
私は東京五輪・パラリンピック組織委員会のジェンダー平等推進チームのアドバイザーを務めていました。日本のジェンダー平等は世界から比べて遅れています。プロモーション委員会では四つを重点目標にしたいです。一つ目は大会開催においてのジェンダー平等。大会で何を達成するかです。二つ目はスポーツ界のジェンダー平等。三つ目は札幌、北海道のジェンダー平等。四つ目は日本社会のジェンダー平等です。これらが有機的に融合して、目標が達成できるかを考えていければいいと思います。
スポーツ界の目標では、例えば北海道の女性アスリートの数が増えるとか、男女のアスリートの数が同じになっていくだとか、どんどん見せることをしていかないといけない。ジェンダー平等はまだ、隅っこに追いやられていると感じています。なぜ、ジェンダー平等、多様性が必要なのか、それが実現できないと何が悪いのかを勉強して、理解していく必要があります。今後、勉強会の開催などを提案できればと思っています。
■狩野亮委員(パラリンピアン)
共生社会の実現とは、(障害者のことを)知ってもらって、それが当たり前になることだと思います。先日、親と歩いていた子どもが私を見て「車いすの人だ」と言いました。僕としては「そうなんだよ、交通事故で車いす生活なんだ」って話して仲良くなれればいいと思っています。でも、その子の親は「そういうことを言ったら失礼なんだよ」と言ったんです。親が障害者は守られるべき立場であるとか、かわいそうと思っているのか、そういう概念があるからこそ生まれるやりとりなんだと感じました。
障害者やけがを負って踏ん切りがつかずにいる人を、引っ張り出してあげて活躍する場をつくってあげる、または自分から活躍する場をつくりに行くような人がどんどん増えていけば、相乗効果で知る機会も増えるし、知ることで僕たちの感覚も変わります。札幌が五輪へ動きだす中で、そうしたことが実現できれば、よりよい社会になっていくのだと思います。
■永瀬充委員(パラリンピアン)
手足の筋力が低下する末梢(まっしょう)神経の難病を高校1年時に発症しました。スキー授業に行ってもロッジで待たされるだけでつらかった。現在は札幌市や旭川市で(下肢障害者らが座ったまま滑る)バイスキーを使った授業が行われてますが、体育の授業で見学や自宅待機を余儀なくされる子どもがいまだに多くいるのです。
バイスキーやスレッジ(そり)を使えば、スキー授業やスケート授業に参加できます。2030年冬までに希望すれば全員が体育の授業に参加できるようにするなど、具体的な目標を定めることが重要です。
日本ではこれまで、共生社会やバリアフリー政策を考える際、当事者の声を反映してこないことが多かった。障害者だけでなく、女性や性的少数者、アイヌ民族など、いろいろな方が準備段階から中心的に関わっていくことで、素晴らしい大会や社会ができると考えます。
■伊達美和子委員(経済同友会副代表幹事)
札幌で大会をする意義を広く知ってもらうことが必要だと思います。パラリンピックをやることでハード面の整備が必ず進む、バリアフリーの解消が進む、心のバリアフリー面でも効果があることが証明できるのではないかと思います。
一方で、東京大会が終わって間もないのに、また五輪の話かと感じる人もいます。むしろ、課題や反省点を聞き、記憶があるうちに2030年に向け、より現実的、合理的な方向で、みんなが使いやすいものをつくることができる意義があると感じました。
ジェンダー問題は大会を契機に、札幌市内が全国に先駆けて、インパクトのある取り組みを行う必要があります。日本はまだ、女性が働きやすい環境にはなっていないのが現状です。ジェンダーギャップ指数も先進国で最低と言われているが、その中で当然、大会を機に大きな変化や先進的で意欲的な取り組みにより、少なくとも全国では上位に行くきっかけにしてほしいですね。
■牧野准子委員(環工房代表取締役)
差別や偏見は「知らない」ことから生まれると感じています。例えば、今日の会合会場の(床に敷かれた)じゅうたんは、私のような車いす利用者にとっては(車輪が沈むため)移動がとても大変です。ベビーカーを利用するお父さんやお母さんも同じでしょう。
札幌市内にはバリアフリー基準を満たしたスロープがたくさん設置されていますが、傾斜がきつくて一人では上れない場所もあります。こういう実態を知ってもらうことで、周りにいる人が「お手伝いしますか」などと声を掛けてくれるようになればいい。「知る」ことが共生社会の実現につながります。
そのためには、学校の授業などで(健常者が)当事者と関わり、肌で感じることが重要です。札幌では車いす利用者や高齢者が雪で移動に支障を来すことが多い。大会招致を通じ、多様な人が安心して心地よく過ごせる社会になればいいと考えます。
■芦立訓委員(日本スポーツ振興センター理事長)
東京2020大会に向けて、パラアスリートにも使ってもらうため、(東京都内の)ナショナルトレーニングセンターに「イースト」を新設した。パラアスリートの意見を聞き、完全バリアフリーの施設ですが、いよいよ使用開始が近づいた時、アクセス面について確認していなかったことが分かりました。例えば狭い歩道だと、電柱があると車いすが通り抜けられない場所がありました。信号機は健常者が渡る前提で青信号を短く、赤信号を長くしていて、視覚障害者は短い時間では渡りきれない。最寄り駅でも、バス運転手は車いす利用者が大量に来ることに慣れておらず、見かけても先に発車してしまうことがありました。
歩道は板橋区と北区、信号は公安委員会、鉄道やバスなどは国土交通省と、相談先が複数あり、普段なら、開業に間に合わない。それでも、東京大会のための施設ということで間に合いました。今はスムーズに公共交通機関で来てもらえるようになったことも、ある意味、遺産(レガシー)の一つではないか。こうした経験を全国で共有するきっかけにしたいです。
◇
■札幌市が目指す共生社会とは
札幌市は昨年11月に公表した2030年冬季五輪・パラリンピックの大会概要案で、大会招致を通じて目指すまちの姿の一つとして「全ての人にやさしい共生社会の実現」を掲げている。大会によってもたらされるレガシー(遺産)の例として「インフラのバリアフリー化促進」「アイヌ文化をはじめとした多文化への理解促進」「障害者スポーツへの取り組み促進」「ジェンダー平等の推進」などを列挙。利用者が多い施設を結ぶ経路の30年度末までの100%バリアフリー化を目標例に明記した。
一方、日本パラリンピック委員会(JPC)は、国際パラリンピック委員会(IPC)が重視する四つの価値のうち「公平」について「多様性を認め、創意工夫をすれば、誰もが同じスタートラインに立てることを気づかせる力」と説明。パラリンピックには共生社会を具現化する重要なヒントが詰まっているとする。
◇
「北海道・札幌2030プロモーション委員会」の顧問、委員は次の通り。(敬称略)
▽最高顧問 麻生太郎(スポーツ議員連盟会長)▽特別顧問 遠藤利明(スポーツ議員連盟会長代行)、橋本聖子(北海道オール・オリンピアンズ代表)▽顧問 室伏広治(スポーツ庁長官)▽会長 岩田圭剛(北海道商工会議所連合会会頭)▽会長代行 秋元克広(札幌市長)、山下泰裕(日本オリンピック委員会=JOC=会長)▽副会長 鈴木直道(道知事)、森和之(日本パラリンピック委員会=JPC=会長)▽委員 秋辺日出男(アイヌ文化演出家)、芦立訓(日本スポーツ振興センター理事長)、荒井優(スポーツ議員連盟)、伊藤雅俊(日本スポーツ協会会長)、井本直歩子(SDGsインスポーツ代表)、太田渉子(パラリンピアン)、太田雄貴(国際オリンピック委員会=IOC=委員)、岡崎朋美(オリンピアン)、荻原健司(長野市長)、片山健也(ニセコ町長)、狩野亮(パラリンピアン)、河合純一(JPC委員長)、木村麻子(日本商工会議所青年部)、菅谷とも子(ANAあきんど社長)、高橋はるみ(スポーツ議員連盟)、竹中仁美(全国商工会連合会理事)、伊達美和子(経済同友会副代表幹事)、永瀬充(パラリンピアン)、原田雅彦(オリンピアン)、日比野暢子(桐蔭横浜大教授)、牧野准子(環工房代表取締役)、マセソン美季(国際パラリンピック委員会=IPC=理事)、三屋裕子(JOC副会長)、文字一志(倶知安町長)、本橋麻里(オリンピアン)、米沢則寿(帯広市長)、渡辺守成(IOC委員)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/692081