リアルサウンド 6/11(木) 8:03配信
漫画『ゴールデンカムイ』(集英社)では多数のアイヌ文化が登場する。本作をきっかけに、アイヌ民族への興味を持ち始めた読者も多いことだろう。思想や文化、言葉から風習まで、非常に新鮮で興味深いものがある。
作中では主にアシリパが、和人の杉元や我々読者に分かりやすく説明してくれるシーンが満載。しかしそれはほんの一部であって、まだまだ知らないことはたくさんあるはず。読んでいてふと、疑問に思うことさえあるのではないだろうか? そういった“痒い所に手が届く”、アイヌ民族の理解を深める入門書となるのが、『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』(集英社新書)という本なのだ。
■生物はそんなに食べない
『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』(集英社新書)
漫画だけを読んでいると、アシリパがしょっちゅう生の脳味噌や目玉を食べさせたがるので、アイヌ民族=何でも生で食べる人々、と思ってしまいがち。しかし本書の説明ではそうでないことをキッパリと否定しており、「むしろ馬刺しやエビの踊り食いなど、何でも生で食べたがるのは和人のほう」(『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』より)とさえ書いてある。実際のところ、アイヌは生で食べられるもの・食べられない物をきちんと区別しており、何でもかんでも火を通さず……なんて無謀なことはしないのだ。つい誤解してしまいがちな点も、本書に触れることでよりアイヌという民族への理解がより深まるものとなっている。
アシリパは和人の言葉とアイヌ語を完璧に使い分けているが、アイヌ語は日本語から派生した方言ではない。非常に特殊な言語であり、外国語とも日本語とも呼べない孤立したものなんだとか。彼らの言葉をいきなり全て理解するのは難しいが、単語程度なら覚えているものも多いだろう。たびたび登場する「オソマ」や、食事シーン時には欠かせない「ヒンナ」など、本作のファンなら必ず知っているはずの有名な言葉だ。
だが、本来の意味とすれば、オソマ=大便ではない。まずそもそも「オソマ」は名詞ではなく、厳密に言うと「大便をする」という動詞。ただ「大便」という意味でも使用されるため、アシリパが間違っているというわけではないのだが。そのため作中で「オソマ行ってくる」と杉元に報告していたものの、もともとの意味を考えればその一言だけでも十分に通じることとなる。ただ和人相手の会話なので、彼女も気を遣ったのかもしれない。
そして、つい使いたくなる「ヒンナ」も忘れてはならない単語の一つ。食事シーン=ヒンナという等式が見事に出来上がるほど、読者の脳内にはこの言葉がよくすりこまれているはず。だが、食事時に「ヒンナヒンナ」と登場人物が口走っていると、意味を「美味しい」とはき違えてしまいそうになることだろう。アシリパが杉元と出会ったばかりの頃、彼に言葉の説明をしていたことを思い出して頂きたい。ヒンナとは「ありがとう」「どうも、どうも」といった“感謝する言葉”のため、決して食事時だけに使う言葉ではないのだ。つまり杉元が「これはヒンナだぜ」と言っていたのは「これは神(=カムイ)や食材、(生物の)命に感謝だぜ」といった意味であることが推測される。
そして作中では語られないのがアシリパの「リ」が小さい理由。インカラマッもそうだが、小さなカタカナが時折登場するため、気になっている人も多いのでは?
アイヌ語というのは発音が少々特殊で、カタカナで言葉を表現する際に、独特の発音を表記するための工夫なのだ。ただし「リ」に関する発音は日本語とそう変わらず、慣れていない人が実際に聞き分けるのは難しいそう。アニメ版では本作の声優陣が忠実に発音してくれているので(それも非常に大変だったようだが)、気になる人はそちらをチェックしてみるとより面白い発見があるはず。
『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』を読み、さらに理解を深めることで見方も変化し、『ゴールデンカムイ』を二倍楽しめること間違いなし。ファンにはたまらないボリュームたっぷりの一冊を、ぜひ心行くまで堪能しよう。
https://news.yahoo.co.jp/articles/91ec707826595b8b889f3f38db9e7639550fe672
漫画『ゴールデンカムイ』(集英社)では多数のアイヌ文化が登場する。本作をきっかけに、アイヌ民族への興味を持ち始めた読者も多いことだろう。思想や文化、言葉から風習まで、非常に新鮮で興味深いものがある。
作中では主にアシリパが、和人の杉元や我々読者に分かりやすく説明してくれるシーンが満載。しかしそれはほんの一部であって、まだまだ知らないことはたくさんあるはず。読んでいてふと、疑問に思うことさえあるのではないだろうか? そういった“痒い所に手が届く”、アイヌ民族の理解を深める入門書となるのが、『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』(集英社新書)という本なのだ。
■生物はそんなに食べない
『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』(集英社新書)
漫画だけを読んでいると、アシリパがしょっちゅう生の脳味噌や目玉を食べさせたがるので、アイヌ民族=何でも生で食べる人々、と思ってしまいがち。しかし本書の説明ではそうでないことをキッパリと否定しており、「むしろ馬刺しやエビの踊り食いなど、何でも生で食べたがるのは和人のほう」(『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』より)とさえ書いてある。実際のところ、アイヌは生で食べられるもの・食べられない物をきちんと区別しており、何でもかんでも火を通さず……なんて無謀なことはしないのだ。つい誤解してしまいがちな点も、本書に触れることでよりアイヌという民族への理解がより深まるものとなっている。
アシリパは和人の言葉とアイヌ語を完璧に使い分けているが、アイヌ語は日本語から派生した方言ではない。非常に特殊な言語であり、外国語とも日本語とも呼べない孤立したものなんだとか。彼らの言葉をいきなり全て理解するのは難しいが、単語程度なら覚えているものも多いだろう。たびたび登場する「オソマ」や、食事シーン時には欠かせない「ヒンナ」など、本作のファンなら必ず知っているはずの有名な言葉だ。
だが、本来の意味とすれば、オソマ=大便ではない。まずそもそも「オソマ」は名詞ではなく、厳密に言うと「大便をする」という動詞。ただ「大便」という意味でも使用されるため、アシリパが間違っているというわけではないのだが。そのため作中で「オソマ行ってくる」と杉元に報告していたものの、もともとの意味を考えればその一言だけでも十分に通じることとなる。ただ和人相手の会話なので、彼女も気を遣ったのかもしれない。
そして、つい使いたくなる「ヒンナ」も忘れてはならない単語の一つ。食事シーン=ヒンナという等式が見事に出来上がるほど、読者の脳内にはこの言葉がよくすりこまれているはず。だが、食事時に「ヒンナヒンナ」と登場人物が口走っていると、意味を「美味しい」とはき違えてしまいそうになることだろう。アシリパが杉元と出会ったばかりの頃、彼に言葉の説明をしていたことを思い出して頂きたい。ヒンナとは「ありがとう」「どうも、どうも」といった“感謝する言葉”のため、決して食事時だけに使う言葉ではないのだ。つまり杉元が「これはヒンナだぜ」と言っていたのは「これは神(=カムイ)や食材、(生物の)命に感謝だぜ」といった意味であることが推測される。
そして作中では語られないのがアシリパの「リ」が小さい理由。インカラマッもそうだが、小さなカタカナが時折登場するため、気になっている人も多いのでは?
アイヌ語というのは発音が少々特殊で、カタカナで言葉を表現する際に、独特の発音を表記するための工夫なのだ。ただし「リ」に関する発音は日本語とそう変わらず、慣れていない人が実際に聞き分けるのは難しいそう。アニメ版では本作の声優陣が忠実に発音してくれているので(それも非常に大変だったようだが)、気になる人はそちらをチェックしてみるとより面白い発見があるはず。
『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』を読み、さらに理解を深めることで見方も変化し、『ゴールデンカムイ』を二倍楽しめること間違いなし。ファンにはたまらないボリュームたっぷりの一冊を、ぜひ心行くまで堪能しよう。
https://news.yahoo.co.jp/articles/91ec707826595b8b889f3f38db9e7639550fe672