……ニューヨーク市警には、単語の頭文字を並べたこんな隠語がある。少なくとも昔はあった。新米警官が警察学校でまず教えられ、刑事部屋では何度も聞かされることばだ。ゴヤコッド(GOYAKOD)。ケツを上げてドアを叩く(Get Off Your Ass and Knock On Doors)。
そして、たいていの事件がそうした労を惜しまぬ地道な捜査で解決するのだ、と教えられる。が、それは嘘もはなはだしい。たいていの事件は自然に解決するのである。夫を撃った妻は警察に自ら通報し、コンビニエンス・ストアを襲ったホールドアップ強盗は、たまたま通りかかった警察官の腕に飛び込み、失恋した男は恋人の血糊がついたナイフをベッドの下に隠したままにして、そんなふうに事件は解決するのである。自然に解決してくれない事件も、その大半はタレ込み屋の情報によって解決するのだ。腕のいい職人でなければいい道具は使いこなせないと言うが、それはお巡りとタレ込み屋の関係にはあてはまらない。
しかし、自然な解決も望めず、悪玉の名を(それが善玉の名の場合もある。タレ込み屋も嘘をつく。それはほかのみんなと変わらない)喜んで密告してくれるタレ込み屋も現れない事件がたまに起こる。捜査というものが真に必要な事件がときたま起こる。そこで初めてゴヤコッドの出番となるのだ。
今、私がしているのがそれだった。
「死者との誓い」をほぼ10年ぶりに再読する。初めて読んだとき、ページを閉じてちょっと呆然とした。今わたしが読み終わったこれは何だ?オレは今とんでもない作品を読んでしまったのではないか?と。
何度も「この1冊」で特集したように、わたしはローレンス・ブロックの大ファンだ。ウィットとユーモアに富み、文章の切れ味はするどく(上の文をまず読み込んでほしい)、ありがたいことにたいそう働き者なのでたくさんの著作がある。
「殺しのリスト」の号でも紹介したが、彼は三つのシリーズを並行して書き続けている。
1.寡黙な殺し屋ケラー
2.饒舌な泥棒バーニィ
そして、もっとも有名な
3.アル中私立探偵マット・スカダー
のシリーズだ。ああ長くなりそうだ。以下次号。
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