事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「だめだこりゃ」いかりや長介著 新潮文庫

2008-01-03 | 本と雑誌

Chosuke  虚心に言って、テレビでもっとも成功した芸能人といえばこの人だろう。視聴率50%をコンスタントにたたき出すことがどれだけの偉業か。そして、どれだけの苦行だったか。

……芸談、とよばれるジャンルがわたしは大好き。経営者の苦労話についてまわる臭みが、芸人の場合にはみごとに無いこともその一因。最高傑作は結城昌治の「志ん生一代」や小林信彦の「日本の喜劇人」だろう。森繁久弥の自伝も、古川ロッパの日記も見事だった。「最初はグー、いかりや長介アタマはパー、正義は勝つ、ジャンケンポン!」とか子どもにひどい言われようのいかりやの著作「だめだこりゃ」もまた、全然だめじゃない。クレイジーキャッツとは違い、音楽的な才能もギャグの才もなかった集団が、なにゆえにテレビで勝ち残れたかの秘密までは読みとれないが、不仲説が絶えず、スキャンダルも多かったドリフターズが、それでも現役感が健在であることの不思議は、“権力者”いかりやと“被虐待者”のメンバーたちという図式のおかげであることがこの本で理解できる。実際、暴君でもあったのだろう。

 それでもいかりやが真にリスペクトされ始めたのが「踊る大捜査線」の和久さん役まで待たなければならなかったのは、日本ではサイト(視覚)・ギャグの地位がまだまだ低く、そして冷たい言い方になるが、ドリフの芸がやはり子供だましに近いものだったこともある。実際、ドリフで笑ったことってめったになかったし。でも、毎週一時間の公開生放送を16年間も続ける上では、練り上げられた芸など邪魔でしかなかったのだろうとも思う。

 この本の白眉は、ビートルズの武道館公演の前座を終え、ステージを駆け下りてビートルズとすれ違うシーン。

「お互い、目も合わさない、会釈もしない、向こうはこっちが誰かなんて知ってもいないだろう。右側を歩いていたビートルズの誰かの楽器と私の楽器がぶつかった。『ゴーン』と大きな音がしたが、先方はそのまま振り向きもせずに行ってしまった。背後からまた大歓声がきこえた。」

Zenninnshugo  そしてもうひとつ。フジテレビの廊下でビートたけしとすれ違う場面。裏番組「オレたちひょうきん族」が「8時だヨ!全員集合」の視聴率を抜いた頃。

「彼は照れ臭そうにうつむきかげんのまま、『手ェ抜いて適当にやってますから』と言った。私に気をつかっての言葉だったのかどうか。私が返事をする前に、彼の姿は消えていた。」

見事な、王者交代の一瞬。これだから芸談はやめられないのだ。

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日本の警察 番外編 お巡りさん早く!

2008-01-03 | まち歩き

 交渉がおわって県庁を出たのが11月27日午後8時。気温が低くなっていたので月山越えは断念して新庄経由で帰ることにする。尾花沢~新庄道路(将来は東北中央道に昇格する予定。現在は無料供用中)を突っ走り、47号線と合流したのは9時ちょっと前のこと。

ドンガラガンドラドォーン!

「?」

MDを大音量で鳴らして走るわたしですら驚くほどの音が。
前方にトラックが見え、缶詰めなどの荷物が道路に散乱している。後続の乗用車3台(わたしのゴルフ含む)がハザードを出して急停車。横転でもしたのかと思ったら、安全地帯で駐車していた大型トラックの側面に、荷物を満載したトラックが追突したのだった。

Jiko2  双方の運転手ともに怪我はない様子。それどころか追突した方の運転手(30才ぐらいの男)はすでに携帯で電話をかけまくっている。われわれ目撃者の男三名は、このままでは車両が通行できないと路上に散乱した缶詰めを足で蹴り続けた。

「なんかね」
直後に走っていた目撃者(20代ヤンキー兄ちゃん)は蹴りながら語る。
「おかしいと思ったんですよ。47号に入るにしてはほとんど直前まで曲がらないし、さっきの高速でだってどうも不安定だったんです。で、前にトラックがいるのに回避しないなあと思ったらドーン!ですから」
「へー、そうなんだ」
「それにね……どうもこういうの初めてじゃないらしいんですよ」
「え?」
そのとおり。おそらくは会社に電話している加害者の運転手は、小声で
「すいません。またやっちゃいました」と。おいおい。

 被害者の方は新潟の小千谷から陸送の途中。われわれ三名に、
「あんたたち、寒くないかね。オレはたまらんからクルマにいるよ」ほとんどふて寝。
 コートを着ていないわたしも寒くてかなわない。早く警察来ないかな……。
 
「あ、来ましたよ」
やってきたのは警察ではなくて救急車。
双方の運転手に「ふらついたりはしませんか?」などと質問している。無事を確認すると「じゃあ、救急隊は帰りますから」とあっさり。

われわれ目撃者たちはすることもないので、寒いなか缶詰めを蹴り続ける。帰りたくもあるけれど、市民としては目撃情報を警察に伝える義務があるだろうし、なによりわたしの場合は「日本の警察」シリーズのいいネタになる(笑)とこの時点で既に考えていた。

「でも、もめないよねこの事故は」とわたしたちは話し合う。
「片方は駐まってたわけだし。」
「いや、そうでもないはずですよ」と2台目の目撃者(30代ロン毛のお兄ちゃん)が。
「そうなの?」
ハザードをつけてても、こういうところに駐めておくのはまずいんですよ」
そうなのか。新潟の運転手もいい災難である。「荷物が濡れたら売り物にならないんだよなあ」と嘆いていたし。

 20分ほどして、ようやくパトカー到着。警官三名。
「えーっと、目撃者の人は……ああ、あんたたちね。ところで、何キロぐらい出してた?」と1台目の目撃者に。たのむぞ青年。言っちゃいけないことはわかってるな。
「合流してすぐですから……40キロか50キロぐらいですかね」ナイスだ青年(^o^)。
「ちょっと免許証貸してもらえますか?」
パトカーのなかにコピー機があるのだろう。免許証がコピーされた感熱紙にそれぞれの電話番号を記入し、意外にあっさりとわたしたちは解放される。こんなに寒いなか、あんたたちを待ってたんだからもっと何かないのかよ。いいぞ取調室まで行っても。取材を兼ねて(笑)。

「じゃあ、失礼します」
加害者に声をかける。被害者の方は聴取されていたので。
「あ、どうもありがとうございました」
これから色々たいへんだろう。車体には酒田の会社名がペイントしてあったので他人ごとのような気がしない。
「じゃ、ご苦労様でした」
「どうもー」
目撃者組はお互いにあいさつをかわしてクルマにもどる。ふう。長い夜になった。けが人も出なかったので、翌日の新聞にもこの事故が載ることはなかった。そんな“無名”の事故現場では、常にわたしのような無名の目撃者や当事者が、警察を待ち続けている……。

※画像がわかりにくくてすみません。寒くて震えながら携帯で撮ったんで。ていうか、じっくり撮るのってなんか失礼なような気がして(はっきりと失礼)。

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日本の警察 その18 「警官の血」

2008-01-03 | 日本の警察

Keikannnochi

その17「校長の告発」はこちら

今回とりあげるのはおそらく日本の警察小説の最高峰に位置するであろう佐々木譲の「警官の血」(新潮社刊)。北海道警告発シリーズにおける「制服捜査」(大好き)に味わいは近い。

 親子三代にわたる警察官の血の継承に、日本の警察がはらむ問題点がすべてぶちこんである。戦後史と警察の変容をうまくリンクさせてあり、ミステリとして、そして読み物として抜群だ。ストーリーは以下のとおり。

 安城清二は、戦後の混沌からまだ日本が立ち直っていない昭和23年、警察官が大量に採用されるという話をきき、“給料が安いことを知りながらも”応募する。民主警察に生まれ変わったはずの日本の警察は、しかし戦前の国家警察の色彩をまだ色濃く残していた。

 ある事件で清二は死亡し、長男である民雄は“家計を助けるために”大学進学をあきらめ、警察学校に入学する。しかし密かに潜入捜査官となることを要請され、学園闘争のさなかに北海道大学に入学し、過激派の摘発に貢献する。しかしその過程で精神を病み、ようやく当初の願いであった『父親のような巡査』になる。

 住民から父の死について新情報を得た民雄は、その瞬間になぜか動揺し、人質立てこもり事件の現場に突入して殉職する。

 祖父と父が追っていた二つの事件の真犯人を、警察官として三代目となる和也は推理する。しかしその真相とは……

 地域住民につくしたいという純なる動機で警察官となっても、三人の男たちは組織の論理によってそれぞれ人生がねじ曲げられていく(同時に、安城家の警官の血が、彼らを共通してある行動に走らせる。泣ける)。警察官が守るものとは何か。警察官にとって喜びとは、哀しみとは何なのかをこの作品は力強く伝えている。

 警察のかかえる最大の問題が、その閉鎖性であることはまちがいない。このシリーズのために数十冊のテキストを読んだ今となっても、あの組織のことはよく分からないでいる。彼らの身内意識や、あるいはわたしたち市民が『(警察を)なんとなく敬遠している』状態が背景にあるだろう。確かに警察のお世話になりたくはない。

 しかしわたしたちが目をそらしてばかりいては、警察という組織が果てしなく凶暴になるということだけはおぼえておこう。そしてその傾向は、警察だけのものではないということも。

次回は貫井徳郎「修羅の終わり」を。
                                          

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日本の警察 その17 校長の告発

2008-01-03 | 日本の警察

その16「巡査長の事件」はこちらYokomaki

埼玉県警察学校の元校長、前任者ら3人を業務上横領で告発

 埼玉県警察学校の元校長、田中三郎さん(60)が6日、同校の教職員らの任意団体「校友会」の約125万円を着服したとして、2004年当時の校長(退職)ら3人を、業務上横領容疑でさいたま地検に告発した。

 校友会は、校内の売店業者から売上金の3%を「助成金」名目で“上納”させていたが、告発状によると、田中さんの前任だった04年当時の校長は、庶務担当事務吏員に「助成金は(当時の)副校長に直接渡すように」と指示。04年4~12月、計約125万円を校友会の出納帳に記載せず、当時の校長や副校長ら3人で着服したとしている。

 田中さんは05年に校長に就任、助成金の受け取りは辞退したという。田中さんは今年9月に県警を退職したが、「県警による十分な調査がなされていない」と告発に踏み切った。県警監察官室は「告発内容を把握しておらず、コメントは差し控えたい」としている。
(2007年12月7日1時10分  読売新聞)

 この『校友会』がどのような性格のものなのかは今ひとつ判然としない。でも、背景に裏金問題が存在するであろうことは容易に想像できる。04年の4月から12月の9ヶ月間の売り上げの(利益の、じゃないよ)3%を上納させるという露骨で乱暴な手口が許される素地があったということ。すごいな。あらゆる手口を使って公金を裏金に転化してきた組織だから、おそらくは天下り先である任意団体の財布に手を突っこむぐらいは平気の平左(死語)だったのだろう。

 日本の警察の大きな特徴として、とりまく任意団体の多さがある。代表的なのが交通安全協会や防犯協会。全国の学校では、児童生徒の登下校を見守る地域のボランティア団体が組織化されつつあるけれど、警察がその背後にいてイニシアティブをとろうとしていると感じるのはわたしだけ?

 この、あふれる団体が何のためにあるのかといえば、それはもちろん退職警官の受け皿だ。中央省庁の天下りと同じように、いやそれ以上に彼らは退職後のケアに熱心。そのため、パチンコをはじめとした“業界”との取り引きは日常茶飯事。駐車違反摘発の民営化も、明らかに同じ根っこをもっている。つまり、“警察ファミリー”の形成に彼らは躍起になっているわけ。

 誤解のないように言っておくと、これは悪いことばかりではない。殉職警官の家族を守るために、遺族への就職斡旋などは優先して行われるらしいし。しかし、このファミリー意識が、警察を排他的な業界にしている要因であることもまた確かなのだ。

その18「警官の血」につづく。

※画像は、およそ警視庁警備部がドラマになったのって初めてじゃないだろうか「SP」。あの「パッチギ!」のはすっぱ娘がこんなに人気が出るなんて!よかったなぁ真木よう子。

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日本の警察 その16 巡査長の事件

2008-01-03 | 日本の警察

200708232

その15「また交通警察」はこちら

 警察の体質を如実にあらわしたのが、立川署の警官がストーキングの果てに女性を射殺した事件だ。ふりかえってみよう。

2007年8月21日、立川警察署地域課所属の40歳巡査長が国分寺市在住の32歳知人女性宅を勤務中に訪れ、配備された拳銃を3発発砲し射殺した後に同じ拳銃で自殺する無理心中事件が発生した。

この事件では、2006年11月に巡査長がプライベートで飲食店に訪れた際に女性に一目ぼれし、一方的に好意を寄せ職務中に無断に女性宅に訪れるなどといったストーカー行為をし、事件前に巡査長が無断に女性宅に侵入するといった事件も発生している。また、職務中に私用の携帯電話を使ってメールを送っていたことも明らかとなった。ちなみに、事件後に警察庁では基本的に職務中に私用の携帯電話を利用することを禁じた。

事件後、巡査長は退職金として1,200万円支払われることになっており、苦情の電話や石原慎太郎東京都知事から非難された。退職金は結局、受取人である遺族が受取辞退を申し出たために支払われなかった。また、立川警察署署員らが女性の遺族に100万円の見舞金を送った。事件を受け、同年9月20日の国家公安委員会は矢代隆義警視総監を戒告、立川警察署署長を減給10分の1、3ヶ月、警視庁は立川警察署幹部8人に懲戒処分を下した。また、同日に自殺した巡査長を警視庁が殺人容疑で書類送検。立川警察署署長は処分を受け、9月21日に引責辞任となった。

 警察庁は近年『監察』を強化していて、各警察の不祥事摘発に血道をあげている。また、内部においても係長ら上司が少なくとも年2回署員に面接し、仕事や私生活上の悩みなどを聞くシステムになっている。

子どもじゃあるまいし、と吐き捨てるのは簡単だが、背景にあるのは警察がなんとしても“威信を保たなければならない”とする姿勢だろう。不祥事が起こるたびに関係者のクビは吹っ飛び、クビにならないまでも昇進の道は閉ざされてしまう。ストレスがこれほどきつい職場はめずらしいはずだ。

この巡査長が女性を射殺する直接のきっかけとなったのは「メールを上司に見せてストーカー行為をやめてもらう」と女性が話したことだっただけでも、警察内部が『小さな不祥事も命取り』なのは理解できる。監察の強化によって不祥事の数は減っても、四十代以上の警官の不祥事が頻発、凶暴化しているのは、『もうやり直せない』という絶望感のせいではないか。しんどいなあ。

その17「校長の告発」につづく。

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日本の警察 その15 また交通警察

2008-01-03 | 日本の警察

Electra_glide_poster

その14「交通警察」はこちら

それでは交通取締りの具体的方法を見ていこう。いわゆるネズミ取りの主なやり方は以下の三つ。

1.オービス

2.道路脇の典型的なネズミ取り


3.追尾式速度取締り

オービスについては前にも特集したので省くとして、道路脇でやるおなじみのネズミ取りを紹介しよう。速度測定器には、パラボラアンテナのようなレーダー式や、二カ所に光を発する機器を設置してその二点の通過時間で測定する光電式がある。

どちらの場合もあるポイントに【現認係】とよばれる係員を配置しスピードオーバーを確認し、数百メートル先の地点で待ち受ける【停止係】に車種、色の特徴を伝えて停止させる。わたしはこれで二回やられました。

追尾式の方はどうだろう。警察の規程では、パトカーも白バイも赤灯を回して一般道では100メートル、高速では300メートル走行してから検挙することになっている。とにかく追尾されているのに気づいたらすぐにスピードダウンしろ、というのが鉄則。こちらは3回ほどやられておりますわたし(T_T)。違反キップを切られても平気でばっくれる人もいるらしいが、くりかえすと逮捕されることに……え?1回ならいいのかよ。

Electra_glide_in_blue_lg_01 さて、追尾するパトカーは思いきりチューンナップされているし、白バイ(正式には「交通取締用自動二輪車」)も大排気量で吹っ飛ばしている。飛ばし屋にはあこがれの職業……のはずだけどこれがなかなか。白バイ隊に入るには署長に推薦状を書いてもらわなければならず、ハードな二週間の泊まり込み訓練を受け、それでもすぐには入隊できないルール。

晴れて白バイに乗ることになっても、午前中に2時間半、午後も2時間半、毎日ぶっ通しで乗務するのだ。おまけにバランス走行などの技術を常に磨いていなければならない(全国大会もある)。ハンパなでは太刀打ちできないのがおわかりのことと思う。

その16「巡査長の事件」につづく。

※画像は白バイ警官の悲哀を描いたニューシネマ「グライド・イン・ブルー」テリー・キャスやピーター・セテラなど、シカゴのメンバーが出演したことで有名。ラストシーンは渋かったー。

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