事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

ミリオンダラーベイビー Million Dollar Baby

2007-10-07 | 洋画

Milliondollarbabyphotos  役者というのはすごい商売だと思う。なんてことない人間の、なんてことない一瞬を切り取って、その人間の過去や未来を提示してみせることが可能なのだ。「ミリオンダラー・ベイビー」のヒラリー・スワンクの演技には打ちのめされた。老いたトレーナーであるクリント・イーストウッドに「女には教えない」「君は歳をとりすぎている」ひどい言葉を投げつけられながら、それでも条件反射のようにボクシングの教えを請う場面を観るがいい。彼女の31年間の人生がどれだけネガティブなものだったか、どれだけ彼女がボクシングを愛しているのかを表情だけで観客に納得させる凄みがあった。ほんとに、オレはこのシーンだけで震えがきたよ。

【ここからはネタバレなので要注意】

 女性版ロッキーなのかな、とアドレナリン大分泌させながら観ていたら、まさかこんな展開になるとは。クリント・イーストウッドが自分の選手を壊したくなくて慎重になりすぎていたり、カトリック教徒であり、毎日教会に通っている設定がここで効いてくる。この映画、後半は尊厳死を取り扱うのだ。

 いったい“いい人生”とは何だろう。人はみな百万ドルの価値を持つ子として生まれ、しかし多くはその価値を次第に減じていく過程が人生だ。その過程に、意義ある人生だったと思いたいために自らピリオドを望むヒラリー・スワンク。果たして老トレーナーはそのリクエストにこたえるか……

Milliondollarbaby  母が末期ガンに倒れ、回復の余地がないと宣告されたとき、麻薬の使用に真っ先に賛成したのは息子であるわたしだった。本人には春にはウチへ帰るぞと口先だけの夢を告げ、しかしその母親が壊れていく過程を「痛みがあるよりはマシなはず」と自分の迷いをねじ伏せて冷たく見つめ続けた。

 あのときの迷いが、観客席のわたしにまたしてもよみがえり、わたしは小さく嗚咽しながらこの映画に対峙していた。他に客がいなかったら号泣していたかもしれん。

 いい人生とはなんだろう。ひとつだけ言えるのは、この映画を観ないよりは、観た方があなたにとっていい人生が得られるはずだ。モーガン・フリーマンのナレーションのオチや、『モ・クシュラ』という言葉にトレーナーがこめた気持ちも含めて、間違いなく傑作。ぜひ。

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あなたの時給はいくらか~4時間目

2007-10-07 | 情宣「さかた」裏版

Crash  前号で特殊業務手当を特集しました。この手当の山形県のレベルはどのくらいなのか、と日教組の賃金対策部がまとめた資料をあたってみたのですが、驚きました、事実上全国一律に近いのです。総務省のシバリがここまで及んでいるとは。

 特殊業務手当に関して、ひとつ強調したいことがあります。この手当は、代替休を取ることで支給されなくなるということ。「だったら代替休なんか取らないで手当をもらった方が得だ。」と考える元気のあり余っている人もいるかもしれません。でも考えてもみて下さい。一日働いても1200円(or1700円)なんですよ。対価を考えれば、代替休の方がはるかに……。

昔、労働組合が多数集まる学習会に、遅刻して参加したことがありました。いかにもな労働運動家が講演していたのですが、ちょうど労働時間の話になり「ここには今日はいないみたいだから言いますけど、労働時間に関して、いちばんルーズなのはやっぱり学校の先生たちだな。あの人たちはなにしろ、ウチに帰ってマルつけするのが普通のことだと思ってるからなあ(笑)」と笑いをとっていたのです。一応オレも県教組なんだけど、と思いつつも、否定はできませんでした。

 限定4項目、というまことに有名なフレーズがあります。教育職員に時間外勤務を命ずることができる4つの職務。列挙すると……
1.生徒の実習に関する業務
2.学校行事に関する業務
3.教職員会議に関する業務
4.非常災害等やむを得ない場合に必要な業務

……どうしてわざわざこんなことがうたいあげられているのか、このシリーズを読んでいただければもうおわかりでしょう。教育職員の時間外勤務に、対価としての報酬を支給する意志も方法も原資も雇用者が持っていない以上、こんな歯止めでも最低限もっていない限り、労働条件上の整合性が保てないわけです。

 Crash004山形県教育委員会が「代替休養(代替休養日を含む)を指導している。教職員には原則として超勤を命じないという趣旨に沿って、健康と福祉を尊重する立場で配慮されるべきである」と県教組の要求に回答しているのは、その意味で必然です。報酬が与えられないのなら、最低代替が与えられなければ、教育職員の勤務は果てしなく長くなり、そして時給はどんどん下がっていく、こんな連鎖が繰り返されるだけです。

 
 “もし教育職員に時間外勤務手当が支給されたら”という仮定が驚きをもって迎えられたのは、労働には対価が伴うものなのだ、という当然のことがこの世界ではあまりにないがしろにされていたからでしょう。自分が頑張れば頑張るだけ子どもの向上が実感できる、時給でははかれない部分にこの職業のよろこびがある……その気持ちはわかります。けれど、職業人として提供する自分の誇りある労働に正当な値をつけてくれ、とする欲求もまた、あって然るべきではないでしょうか。
【あなたの時給はいくらか・おしまい】

画像は「クラッシュ」CRASH (’04 米)
あの年のアカデミー賞が、ゲイをあつかった「ブロークバック・マウンテン」にオスカーをやれなかった、とだけ記憶されるべきものではないことがわかる。かなりよくできた映画。ドン・チードルは名優への道まっしぐらだ。でも、どこかハートレスで頭でっかちな部分も感じられはする。「ミリオンダラー・ベイビー」で現代最高の脚本家に数えられるまでになったポール・ハギスの、一種の限界かも。
                  プア・ホワイト役のマット・ディロンが最後に泣かせる☆☆☆☆

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