ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

ラストジャンダルム「やってしまった・・・」

2021年03月09日 21時15分20秒 | Weblog
馬の背(首)のナイフリッジを終え、先ずは一息ついた。
平面な岩が堆積しているPEAKまで歩き、そこで腰を下ろし一服。
緊張の糸を一端ほぐすが、この先もまだまだ連続した難所が続く。
だが一応の安堵感、煙草が美味い。

このポイントからはこの先のルートと目指すジャンダルムが一望できる。
「近づくとますます凄さが伝わってきますね。」
と言うN君の言葉。
「ジャンダルムは憧れるけど、憧れだけじゃ辿り着けない場所だからね。体力や技術はもちろんだけど、それなりの覚悟も必要になってくるね。」
そんな会話をしながらこれから先のルート状況について再確認をした。


2013年の夏に単独で来た時の画像。

手前の平面な岩が堆積している場所が休憩しているポイント。
ガスってはいる画像だが、平面の岩から先がストーンと切れ落ちているのがもっとも分かりやすい画像だろう。
その先に見えているドーム型の岩がジャンダルム。


2016年の画像。
ほぼ同じポイントで撮ったもの。
ガスがかかっていないこともありこの先のルートとジャンが鮮明に見てとれる。

一体どこをどうやって進めばジャンへ辿り着けるのか・・・。
一見すると到底無理と思えるが、登山道はある。
あるのだが、メンタルも試される登山道だ。


これも2016年の時の画像で、ジャンダルムのPEAKから振り返って見たルートの画像。
左の赤○が穂高岳山荘で、右の赤○が奥穂高岳山頂。
赤い線が馬の背のナイフリッジルートで、線の最後はいきなり直滑降気味になっているのがわかるだろうか。
この区間が馬の首となる。
そして緑の○が馬の背(首)を越えての休憩ポイントで、今現在自分たちが居る場所となる。

この先は、緑の線に沿って岩肌を下らなければならない。
僅かにルンゼ(溝)っぽくなっているのがルートとなるが、標高差は50m以上はあるだろうか。
斜度は見た目よりもあり、ほぼ90°に近い。
それでも馬の背やロバの耳よりも難易度は低いと思っている。
・・・が、落ちれば確実に命はない。
基本に忠実に三点支持を取り、決して焦らずマイペースで下ることが大切だ。
ましてや「下り」であればリスクは上り以上に高くなっている。
慎重に行こう。

そう分かっていたはずなのだが・・・。

下り始めてどれくらいだったろうか、はっきりとは覚えていない。
右手で岩の突起を掴みスタンスポイントまで脚を伸ばそうとした時だった。
掴んでいたはずの岩が僅かに動いた。
「あっ!」と思った瞬間にその岩が更に下方へと動き、同時に自分の体も下方へと動いた。
いや、ずれたと言った方が正確かもしれない。
体を支えている左手は指先だけで岩に引っかけていたと覚えている。(記憶が定かでない)
左手の指だけでは持たなかった。
体は岩肌に擦れながら1m程落ちていったが、ただ落ちて行くだけでは済まされなかった。
その途中、右脇下に得体の知れない鈍痛を感じた。
「ぶつけたな・・・」と瞬間的に状況を理解したが、脚がすぐ岩に着いてくれたこともあり、その場で立ち尽くし痛みが引いてくれるのを待った。

見上げてみると「あの辺りだろう」と思えるピンポイントに岩が突き出ていた。
その突き出た岩に右脇下のあばら骨をぶつけたのだろう。

ぶつけて数秒間は鈍痛だけだったが、その直後経験したことのない痛みに変わった。
決して激痛というのではなく「何なんだこの痛み方は・・・打ち身とかじゃない痛みだ。」
腕や肩を動かせば痛みを感じ、大きく息をするだけでも痛みが走った。
骨をまともに痛打したことがないので上手く表現できない。

「この先どうするか・・・」
十分に我慢できる程度の痛みだったが、問題は果たしてこの先ずっとこの程度の痛みで済んでくれるだろうかということだった。
今日の日程はまだ半分にも至っていないし、明日の上高地までの下山もある。
判断に迷った。
「いや、先ずはここを下りて安全なポイントまで行くことが先決だ。」
できるだけ右腕の動きは小さく、そして大きく深呼吸はしない。
この二点に注意しながら何とか下り終えた。


下り終えてちょっと一息。
先を行くか否か迷っている。