ひとり旅への憧憬

気ままに、憧れを自由に。
そしてあるがままに旅の思い出を書いてみたい。
愛する山、そしてちょっとだけサッカーも♪

今年の劔岳は・・・:そして有峰口へ

2016年11月10日 02時11分16秒 | Weblog
室堂に近かったこともあり、翌朝は8時過ぎにミクリガ温泉を出発した。
この日も天候はまずまずで、8月下旬とは言え暑くなりそうだった。

室堂ターミナルでお土産を購入し、美女平行きのバスに乗車した。
車窓からは雲にかかった劔岳を垣間見ることができた。
「北方稜線縦走かぁ・・・」
ふと淋しさと悔しさがこみ上げてくるが、それでも今日は特別な日になりそうだった。


美女平駅からケーブルカーに乗り立山駅まで行く。
そこからは富山地方鉄道に乗り換えて二駅目の「有峰口駅」で下車の予定だったのだが・・・。

「エアコンの効いた車内は快適だなぁ」などとお気軽ムードだったのだが、立山駅を出発してすぐ車内放送があった。
なんと、一駅目の「本宮駅」の手前で踏切事故があったというのだ。
トラックが踏切内で横転し通行止め状態だとのこと。
30分近く電車は停車したままとなり、やむなく立山駅まで引き返すはめとなった。
「事故じゃしかたないけど、今日の予定が・・・」
とは言え、起きてしまった以上は文句を言おうが何も解決はしない。
こんな時、人それぞれの性格(人間性)が出てしまうものだ。
駅に戻るやいなや、鉄道会社の人たちにくってかかり「金を返せ!」とか「○○時までに富山まで連れて行け!」とか大声で怒鳴りちらしている人たちがいた。
気持ちは分からないでもないが、怒鳴っても何も解決はしないだろう。
何とかしなければならないことを一番分かっているのは鉄道会社の人たちだ。

自分としても焦っていなかったわけではないが、「おそらくはバスによる代行輸送になるんじゃないかな」なんてポジティブに考えていた。
考えていたら本当にそうなった(笑)。
バスが来るまでに少し時間があったため、休憩室で珈琲を飲んで過ごした。

しばらくして案内があり路線に影響のない「千垣駅」までバスで移動するとのこと。
千垣駅からは鉄道が動いているのでそこから富山方面へ行けるというのだが、ちょっと待ってくれ、自分が降りたい駅は有峰口駅であって、千垣は有峰口の一つ先になってしまうじゃないか。
じゃぁ一駅分歩いて戻れってこと?
このでかく重いザックを背負い、疲れた体で、しかもこの暑さの中を歩いて戻れってこと?
冗談じゃないよ!
そう思い、関係の方に事情を説明したがどうにうもならないらしい。
そこで、千垣駅から有峰口駅までは歩いてどれくらいかかるかを聞いた。
「そうですね、20分くらいでしょうか」と言う返事。
へっ、20分。たった20分なの?
ちょっと拍子抜けするほどの僅かな時間であったこともあり、「なら大丈夫です。歩いて戻ります」と答えた。
疲れているとはいえ、たったの20分。
登山と比べれば散歩のようなものだ。楽勝楽勝♪

公共交通機関などが突発的な事故などにより交通網が遮断されてしまった場合、そこにはそれぞれの目的とそれぞれの事情を持った不特定多数の利用者たちがいて、そのすべての人たちの事情を個別に解決できる策は絶対にあり得ない。
だから怒鳴っても怒っても無駄なのだ。
自分の場合、今回に限っては時間にゆとりもあり、ましてや20程度の徒歩で問題が解決できる。
他の大勢の人たちの事情は分からないが、「あ~怒鳴らなくて良かった」と思いながらも、怒鳴ってしまいそうだった自分を恥じた。

バスに揺られ千垣駅に到着した。
駅には鉄道会社の方がおり、携帯電話で会社の本部と連絡をとっていた。
その方に有峰口駅までのルートを確認してから歩き始めた。

アスファルトの道は照り返しが強く、すぐに大汗をかき始めた。
だが、一歩一歩の「歩」と共に、少しずつ胸にこみ上げてくる静かに湧き上がる想いがあった。
「もうすぐだ。もうすぐだ・・・。」
額から流れ出る汗は、頬を伝いやがてあごからアスファルトの道へとしたたり落ちて行く。
「もうすぐだ。もうすぐ会える。」
不思議な感情だった。
それは高校や大学時代に感じた覚えのある、懐かしくも若さ溢れる感情に似ていた。


道路から右に逸れ、橋を渡った。
おそらくは有峰口駅であろうと思える場所には列車が停車していた。
そしてよく見てみれば、そのすぐ近くにはこれから向かう目的地も見えていた。
「たぶんあそこだろう・・・」
しばし橋の上で佇み、その場所を見つめた。
事前に十分に下調べを済ませており、自信はあった。


ここが有峰口駅。

ローカル線の小さな駅だが、趣のある駅舎だった。
嘗て、駅舎のある風景の写真を撮るためだけに出かけた山陽本線「神代駅」や愛媛の「下灘駅」を思い出させてくれた。
記念の切符を買いたかったのだが、駅員は不在で・・・と言うより無人駅だった。

「さて、先ずは一言挨拶を言わなきゃ」
駅からすぐの所にあるであろう、とある店を探しに行く。
その店も事前にネットで調べてある。
ご本人が不在でなければいいのだが・・・。

学生時代に感じたあの感情は、緊張感へと変わりつつあった。