天候の良し悪しに関係なく、PEAKに到達すれば感動がある。
ホッとする思いがあり、「もう登らなくてもいいんだ」とも思う。
この時は確かに嬉しさがあった。
が、その嬉しさや安心感が優先し、やっておくべきことを完全に忘れてしまっていた。
せっかく持ってきた目印の布をセットし忘れてしまっていた。
くくりつけるポイントが無い場合、下山方向に向けて雪面に埋めておくという簡単なことを忘れ、ただPEAKに到達したことに満足しきってしまっていた。
幸いなことに、Iさんがトレッキングポールを下山方向に向けて倒しておいたおかげで下山そのものは方向を見失うことなくスタートすることができた。
だがこれは大いに反省すべきことである。
たとえコンパスと地図と高度計があっても、一歩間違えば方向を見失い「遭難」もあり得るからだ。
雪山ならではの経験の少なさがもたらす「つい」や「うっかり」は、心底怖い。
さて、今日はPEAKでやるべきことがたくさんある。
前回の「安達太良山」でできなかったことをやりたいのだが、モンベルおやまゆうえん店の店長さんや、アルバイトのYさんが店を去ることが分かっているだけに、ちょっとしたサプライズを考えていたのだ。
先ずはおバカなことをやってしまおう。
風はほとんどないが、強烈な寒さであることには変わりはない。
おそらくはマイナス15℃くらいかな・・・。
上半身の服を脱ぎ、急いでバラクラバ(目だし帽)をかぶる。
でもってピッケルを持って「構え~!」
「○○ちゃ~ん、はやく撮って~!」
この行為に何の意味があるのかと言えば、特に何の意味もない。
ただ、なにかおバカなことをやろうか。と言うだけのこと(笑)。
そう、唯の自己満足なのだ。
だが、そんなバカなことでも本気で考え笑って行動に移せる。
これも山仲間だからこそなのだと思っている。
(風邪をひかなかっただけ儲けものかな・・・)
数枚の写真を撮り終え、あわててアンダーシャツを着た。
たかが一枚のアンダーシャツなのになんて暖かいんだろう!
レイヤリングをしてしまっていると気付かないことだが、暖かな空気の層で体をすっぽりとくるんでくれている様だ。
ちなみにこのアンダーシャツは「モンベル・ジオラインエクスペディションシャツ」。
値段はそれなりに高いが、それだけの価値のあるものだと十分に納得できる。
おバカなことはさっさと済ませて、次にとりかかろう。
店長のKさんが「ご栄転」。
アルバイトのYさんが卒業と就職のために辞める。
「何かしてあげられないものだろうか・・・」
自分なりに考えた。
山を愛する者同士として何かないか・・・。
ふいに思いついたのが「PEAKでメッセージを送る」ことだった。
この時のために、店に行き布地を購入し、縁をミシンで縫った。
もちろんミシンなどこんな自分が使いこなせるわけがない。
基本的な使い方だけを女房に教えてもらい、何とか・・・本当に何とか縫うことができた(笑)。
いたるところ曲がったりはしたが、勘弁してほしい(笑)。
そして更なる問題は文字だった。
油性マジックで綴れば簡単なのだが、ここは毛筆にこだわった。
かといって書道の心得があるわけもない。
「まぁなんとかなるか・・・」
という安易な気持ちだったが、「真心」だけは注ぎ綴った。
この計画を喜んで賛成してくれたIさんとK島さんにも感謝だ。
唯の客に過ぎない自分をこれほどまでに暖かく迎えてくれ、励ましていただいたことへの、せめてもの感謝の気持ちを込めた。
別れることはつらい。
だからこれは、去りゆく人の為に自分ができること。