らんかみち

童話から老話まで

漁師の親方にさようなら

2012年01月23日 | 釣り船とバイク
 とある地方都市の市民病院に営業に行ったときのこと、「市長が自分とこの病院に入院せんと、○赤病院に入院するってなぁどういう了見でぃ!」と、先生が憤慨されていた。
「まあ、市長の気持ちも分からんでもないがな」って先生、何だかんだを一歩譲って認めるんですかい!
 市長も県知事も人の子、藁にもすがりたいときには立場がどうのこうのと、周囲に配慮などしておれるか。だれだって癌が発覚したら癌センターにかかりたいし、大学病院のセカンドオピニオンに期待したかろう。でもそれが裏目に出ることだってある。

 漁師の親方が今日の昼過ぎに亡くなった。親方といっても一度だけ船に同乗させてもらったのみで、「HALの奴はモノにならん」と早々に見切りを付けられたと思う。あれから3年、いまだに1人で漁に行けないってことは、親方のぼくを見る目は正鵠を射ていたことになる。
 無理に頼めば漁に連れて行ってくれたとは思うが、ぐずぐずしているうちに親方が体調を崩して入院。一流病院のセカンドオピニオンに従って内視鏡による手術を選択。
「手術は成功しました、再発の恐れはありません」と、執刀医に太鼓判を押していただいたというのに予後が悪く、予定をはるかに超えて退院。

「最初の病院でいわれた通り開胸手術をしていれば……」と、後になったら悔やまれるが、術後1年で再発。抗がん剤と放射線治療を開始するも、「ワシは食道癌じゃない、肺癌じゃ!」と訴えているのに、食道と心臓に放射線を当てられて食事がとれなくなった。
 最後に病室を見舞ったとき、抗がん剤をやめて食事が喉を通るようになったら少しは回復するのではないかと希望を持っていたのに……。

 さっきお別れの水をあげに行った。がっしりした体格で丸顔だったのに、海に出て真っ黒に日焼けしていたのに、数年前の面影はすっかり消失していた。
「戒名料は……枕経、衣料、お坊さん二人だと、あ、車代もいるんじゃろかぁ?」
 目を赤くした奥さんが取り乱した感じでたたみかけてくるけど、ぼくはお寺の回しもんじゃない。とはいっても断れるもんじゃなし、ご住職にメールでたずねておいた。
 
 ブッディストの葬儀は忙しいだけじゃないく、金もかかる。クリスチャンが憤るほどの物いりなのだが、戒名料は◯◯居士で15万円というのが相場なのかどうか、お寺を指弾しているうちは悲しみを忘れているのも事実だ。
 ぼくはといえば、親方の一期一会の教えをモノにできなくて、ごめんなさい、さようなら。
 

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